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◇◆ Barista 4 ◇◆
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アイちゃんが、どこからともなく金色の液体が詰まった小瓶を取り出して、
はちみつみたいにトロリとしたそれを、自分の指に垂らしながら私に問いかけた。
「鈴ちゃん、これ覚えてる? 前も使ったよね」 語尾にハートマークが付いちゃうほど可愛らしくアイちゃんは言うけれど、私にはサッパリ記憶がない。 だけど、うつろな目でその小瓶を見つめる私に、アイちゃんが余計混乱してしまうような言葉を投げる。 「二度も使うなんて、鈴ちゃんは奇特な人だよね」 「アイちゃん……それはなに?」 いまだ浅い息を何度もつきながら、声になるかならないかほどの小さな言葉で質問するけれど 「痛くなくなる、おまじないだよ? じゃ、鈴ちゃん、冷たかったら言ってね」 まるで、『痛かったら言ってくださいね』と、毎回必ず言う歯医者さんみたいな言い方で、アイちゃんが軽く答える。 そしてその言葉とともに、アイちゃんの指が私の中にツプっと差し込まれた。 「ひゃぁぁっ!」 ヒヤッとした液体の感触に、燃えるように熱くなった私の身体が心底驚いて身を捩ろうとするけれど、 いつの間にかアイちゃんの肩に両足を乗せちゃっているから、全く身動きがとれずに叫び声だけが空しく響く。 けれどアイちゃんは、何事もなかったかのように顔を上げると、とっても淡々と告げた。 「あ、冷たかった? でもすぐ終わるから、我慢してね」 歯医者さんも、いつもそうだ。 痛いから痛いと言っても、もう少しで終わるから我慢しようねって言うんだ。 そしてもう一つ、分かっていることがある。 歯医者さんもアイちゃんも、終わるまでは絶対に帰してくれないんだ―― 指が歯ブラシで、液体が歯磨き粉であるかのように、アイちゃんが私の中に丹念に液体を擦り付ける。 そのたびに、ビクンビクンと身体が反応してしまうけれど、二つ並んだ枕の片方を引き寄せ顔に押し付けて、 叫び声だけは上げずに我慢した。 けれどアイちゃんが私の顔に乗っかる枕を取り除き、液体のついた指を拭いながら明るく言い放つ。 「よし、これでオッケー。効果は実証済みだけど、とりあえず一回はイッとこうね」 なにがオッケーなのかも全くわからないのに、一人で勝手に納得して、一人で勝手に自己完結するアイちゃん。 「行くってどこに……?」 そうやって問う私の言葉など、シレっと無視して笑顔で流す。 スポンジに水を浸したように、塗りたくられた液体が、私の中にジワジワと染み込んでくる。 これまで以上に、火傷しちゃうほど内側から燃え上がる私の身体。 そんな私の中にアイちゃんがまた指を差し入れて、迷うことなく、おへその少し下辺りを内側からピンポイントで擦る。 「あっっ…いやっ…あ、そ、そこ…いやっ!」 弾かれるほどの快感に耐え切れず、それから逃れようともがくけれど、身を捩ることができないようにアイちゃんが私の肩を押さえつけ、 そしてそっと耳元で囁いた。 「嫌じゃないでしょ。鈴ちゃんは、ここが一番感じるところでしょ」 私の何もかもを、知り尽くしたようなアイちゃんの指の動き。 そこを擦られるたびに激しく仰け反りながら、いやだいやだを繰り返す私に、アイちゃんの舌が更なる刺激を加え始めた。 聴くだけで恥ずかしくなる淫らな水音と、わざと音を立てて中心の突起に吸い付くアイちゃんの唇と舌。 「あっっ…だめっ…やっ…あぁっ!」 クチュクチュと一箇所だけを擦り続ける指と、ペロペロと下から上に舐め上げる舌の動きに、 狂いそうなほど心臓がドクンドクン早まって、急な上り坂を一気に駆け上がる。 なのに上りきった坂道の先は深い崖だから、思わず躊躇して立ち止まれば、なんの躊躇いもなく私の背中をアイちゃんが押した。 「ああっっ…いやっ…だめっ…あっ…ああっ…いやぁぁぁっ!」 頭が真っ白だというのは、こういうことを言うんだ。 グッタリと力尽き、小さく痙攣を繰り返す私の前に、笑顔のアイちゃんがニョキっと現れて 「イッちゃった? でも、本物はこんなもんじゃないよ。もっと気持ちがいいからね」 心底嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言うと、私の唇を覆うように優しいキスをする。 「ん…んふっ……」 力尽きちゃったはずなのに、アイちゃんのキスにまた身体の芯が燃えはじめ、アイちゃんにされるがままに身を任せ続けてしまう私。 「あれを塗っても、壁を破るまではどうしても痛いからね」 いつの間にか私と同じように裸になっていたアイちゃんが、またもや訳の分からないことを囁きながら、 力の抜けた私の足を持ち上げ開き、身体をそんな私の足の間に滑り込ませる。 壁を破る? すごく痛そうな響きに妙な不安が押し寄せるけれど、そんな私の思考はすぐに消え失せた。 太くて固い何かが、さっきまでアイちゃんの指に翻弄されていた場所の入り口で上下に動くから、これはなんだと聞こうとして口を開く。 「ア、アイちゃん?」 だけどアイちゃんは私に最後まで言わせてくれず、出逢った時から変わらない、のんびり加減で可愛らしく言った。 「一度最後まで咥えちゃえば大丈夫だから、安心してね」 咥える? そう思った瞬間、上下に動いていたはずの太いものが、私の中を貫いた。 「んぐああああっっ!」 皮膚をちぎられるような強烈な痛みに喚き声を上げて、どうにかその痛みから逃げようと必死で暴れるけれど、 背中から肩に回されたアイちゃんの両手が、逃げる私の身体を引き摺り下ろす。 「いいっ…痛ああああいっ! あぁぁぁっ!」 こぶしを振り上げてアイちゃんの身体を殴るけれど、太くて固い何かは、止まることなくめり込んでくる。 余りの痛さに大きく目を見開けば、私の痛みなどわかりもしないアイちゃんが、歪む私の顔とは対照的に綺麗な微笑を見せるから、 なんだか無性に腹が立った私は、力任せにアイちゃんの肩へ噛み付いた。 口の中に鉄の味が広がって、アイちゃんの肩から血が滲み出す。 なのにアイちゃんの微笑みは深くなるばかりで、痛がるどころか可笑しそうに私の耳元でつぶやいた。 「今度もまた、左肩なんだね」 依然としてアイちゃんに噛み付きながらふと見れば、私が噛んでいる場所の少し上に、薄っすらと残る小さな傷跡があった。 慌てて口を、正確には歯を、アイちゃんの肩から外して見上げるけれど、その一瞬を逃さずに、止めていた動きをアイちゃんが再開する。 「ぐうぅっっ…っつ!」 きっと、メリメリって音を立てているに違いない。 だんご虫のように丸まって、この痛みが去るのをやり過ごしたいけれど、アイちゃんの身体が邪魔で丸まれない。 こんな痛みが後十秒でも続いたら、私は失神するんじゃなかろうか? そんなことをグルグルと考え続けて、もうダメだと思ったとき、アイちゃんの動きがピタッと止んだ。 「はい到着。鈴ちゃんは僕の全部を、咥え込みました」 痛烈な痛みがそれと同時に治まって、ジワジワと広がる鈍痛だけが残る。 身体は考えていたよりも丈夫にできていて、あれだけの激痛を味わった後では、こんな鈍痛など『へ』でもない。 浅く短い呼吸を繰り返しながらおなかに手を滑らせて、痛かった場所をさすり上げたとき、アイちゃんが言った咥えるの意味がようやく解った。 おなかの中に確かに感じる。私の身体は、アイちゃんを咥え込んでいるんだ…… アイちゃんの言葉は本当で、全ての痛みが嘘のように引いていった。 けれどアイちゃんの腰がゆっくりと動き出すと、今度は痛みとは違う強烈な何かが襲い掛かかってくる。 「んぁっ!」 しっとりと濡れ始めるアイちゃんの身体が私の身体に重なって、太くて固いアイちゃんの棒が、私の中の全部を一気に擦るから、 本能的にアイちゃんの背中に腕を回して、しがみついたまま何度も襲い掛かる波を乗り越えた。 「あっ…うっ…いっ…あっ…」 アイちゃんの腰と私のお尻がぶつかり合って、規則正しい音が部屋に響き、 その音に合わせるように私の口からこぼれるアイウエオ。 そんなアイちゃんの奏でるリズムが少しずつ速まって、私の声も速さを増していく。 「鈴ちゃんの中、すごく気持ちいいよ……」 「アっ…アイっ…いっ…あっ…」 アイちゃんの囁きに返事をしようと頑張るけれど、言葉など思いつかないほどの快楽が突き抜ける。 「ぁんっ! あぁぁっ!」 少し上体を逸らしたアイちゃんが、指で擦られたときイッちゃった場所を、抜いたり挿したりしながら突き上げるから 「ああっ…いやっ…あっ…ああっ…いっ…いくっ…」 思わず飛び出す、イクって言葉。 「いいよ。いっぱいイッて鈴ちゃん」 アイちゃんが動きを止めることなく、少しだけ上ずった声で囁いた。 その掠れた声が、さらに私を高みへと押し上げて、生まれて初めての感情と感覚と快感に堪えきれなくなった私は、 花火のように高く打ち上げられ、そして爆発した。 「あっ…いっちゃ…いっちゃ…あぁっ…アアぁぁぁっっ!」 じゅる……。 「鈴ちゃん、鈴ちゃん?」 自分がヨダレをすすり上げる音と、近くから聞こえるアイちゃんの声で目を覚ました。 慌てて飛び起きれば、そこはベッドではなくココアを飲んでいたお店の中で、 カウンターに突っ伏して寝ていた私は、その反動で椅子から落ちそうになった。 「あれ、あ、あたし……」 頭が混乱したまま自分を見下ろすと、ここに来た時と同じように、しっかり着込んだままの制服が目に映る。 「大丈夫? 本当に気持ちよさそうに寝てたから、起こすのが可哀想になっちゃって……」 そんな言葉とともに、本気で心配しているアイちゃんの顔が、呆然とする私の顔を覗きこんだ。 ゆ、夢だったのか…… なんて恥ずかしい夢を、見てしまったんだろう私。 ま、まさか、現実に声を出して、絶叫しちゃってたなんてことはないよね? こんな恥ずかしい夢を見ていたことが、アイちゃんにバレちゃったらどうしよう…… けれど、どうやらアイちゃんにはバレていないようで、本当に心配しているような優しい声で話しかけてきた。 「もう真っ暗だから、家まで送っていこうか?」 それでもやっぱり、夢の内容をアイちゃんに見られちゃったような気がして 「だ、大丈夫! ひ、一人で帰れますから」 そう言って勢いよくスツールから飛び降りたものの、寝ていて痺れちゃったのか、足がガクガクしてうまく立ち上がれない。 さらに、妙な違和感のある足の間。なんにもないのに、何かを挟んでいるような変な感じ。 だけどそれもこれも、寝相が悪かったせいだと考えて、ロボットみたいにギクシャクと歩きながらドアに向かう。 「鈴ちゃん、鞄!」 アイちゃんにそう呼び止められて、手ぶらで歩いていることにようやく気がついた。 しかも、飲み物のお金も支払っていないから、振り向き様に大きな声を張り上げた。 「あ、ココア代!」 けれど、私の鞄を手にしながら追いかけてきたアイちゃんが 「定休日だから、お金はいらないよ。お金よりも、もっと貴重なものを貰ったしね」 最後まで訳の分からない言葉をつぶやきながら、私の背中をドアの外へと促した。 支払う、いらないよ、といった数回のやり取りの後、結局納得のいかないまま私の方が折れて、仕方なく家までの道を歩き出す。 けれど数十歩ほど歩いて、冷たい空気を大きく吸い込んだとき、口の中にゴロゴロする何かを見つけた。 舌の裏にへばりついたその何かを舌先ですくい上げれば、口の中に広がる甘くほろ苦い味。 「あれ? これってたしか……」 そこまで考え付いて振り返れば、ドアの前に佇み私を見送るアイちゃんが、そっと口だけ動かした。 「あとでまた、夢で逢おうね」 |
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