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◇◆ Harp 2 ◇◆
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バンバンが私の手を引いて、見慣れたカプチーノ城とは趣の違う、豪華な長い回廊を歩いていく。
そして映画館のドアみたいな、サテンのキルティングが張られた分厚いドアをそっと開けて、その部屋の中に私を促した。 優しい香りと、小さな花柄のファブリックに包まれた部屋。 女の子なら一度は夢見るような、白い家具と薄ピンク色に統一された、お姫様の部屋。 そんな部屋の真ん中に、たくさんの花に囲まれた大きなガラスケースが置かれている。 まるで白雪姫のように、ガラスの棺の中で、指を組み穏やかに横たわる女性。 その女性を見た瞬間、大きく息を飲み込んだ。 私はこの女性も知っている。大好きな、大好きな、優しく美しい私の親友…… 「ハープ……」 そう囁きながら、思わずガラスに両手をついて、ハープの顔を覗きこんだ。 息をしているようには思えない。それでも頬は、優しいピンク色に染まっている。 「し、死んじゃってるの……?」 恐る恐るバンバンを見上げて言葉を吐くと、悲しそうに微笑んだバンバンが一度だけ首を横に振る。 「いや違うよ。眠っているんだ」 「な、なんで……?」 「宝物が帰ってくるのを、待っているのさ……」 ハープの宝物。私はその宝物を、マンガの世界で何だと想像しただろう? ネックレスだ。マキアートの姫に代々伝わる、大きなルビーのネックレスだ。 けれど眠るハープの首には、そのルビー色のネックレスが輝いている。 ハープの宝物は、これじゃないの? キラキラと輝くそのネックレスを穴が開くほど見つめていると、不意に頭の中に映像が流れ始めた―― 「ベル見て、つい最近発見したのよ。ほら、ここのルビーの部分が取り外せるの」 いつものようにハープの部屋のベッドの上で、お菓子を散らかしながら話し込んでいた。 するとハープが、首に下げたネックレスを取り外し、真ん中の大きなルビー部分をパカっと開いて私に見せる。 「うわすごい! ロケットになっていたのね?」 まるで世紀の大発見みたいにキャーキャーと喜ぶと、話はそれだけじゃ終わらないとばかりに、ハープが言い出した。 「これは代々マキアートに受け継がれてきたものだから、お母様やお祖母様に聞いてみたの。でも、誰も知らなかったのよ。 だからすごく気になっちゃって、古い文献を調べてみたの」 ハープは枕の下から分厚い本を取り出すと、クリーム色のページをパラパラとめくり 「ほらここを見て、古代文字で書かれていたから、解読するのに時間がかかってしまったんだけど、ここに愛する人の肖像画を入れて 肌身離さず持っていれば、その相手と結ばれることができるだろうって書いてあるの!」 絵文字のような文字が羅列された部分を指差し、感極まった口調でそう叫んだ。 私にはその文字が読めなかったけれど、頭の良いハープがそう断言するのだから本当なのだろう。 だから自分のことのように喜んで、ベッドの上をピョンピョン跳ねた。 「すごい! 魔法のネックレスよ!」 そんな小躍りしまくる私を見上げ、恥ずかしそうに頬を染めたハープが、コソっとつぶやいた。 「そ、それでベル、お願いが……」 その先の言葉など聞かなくても判る。だから飛び跳ねることをやめて、偉そうに仁王立ちをしながらハープに告げた。 「分かってるわ。アルの肖像画を、お城からくすねてくればいいのでしょ?」 ハープが満面の笑みを浮かべて立ち上がる。 そして互いの両手を合わせ、ギシギシとベッドを軋ませながら飛び跳ね続けた―― 「鈴? どうしたの?」 その声で我に返ると、バンバンが私の肩に手を置いて、不思議そうな顔で私を覗き込んでいる。 今の映像は妄想なのか、記憶なのか、そんなことすらわかっていないのに、ネックレスを指差しながら放たれる、 私の確信めいた言葉。 「このルビーの中に、アルの肖像画が埋め込まれているのよね!」 けれど、小躍りしそうなほど嬉しそうに言う私とは反対に、バンバンの表情は曇ったままだ。 そしておでこに薄い皺を何本も寄せて、バンバンがボソッとつぶやいた。 「半分正解で半分外れ。あの日、ハープはネックレスの肖像画がなくなっていることに気がついたんだ……」 「なくなった?」 その言葉に驚いて咄嗟に聞き返すけれど、小さく深い溜息を零しながら、バンバンが思い口調で私に告げる。 「ハープにとって、このネックレスの魔法だけが唯一の望みだった。でも、それが消えてしまったから……」 そうだ。だからハープは泣きながら赤い液体を…… 突然、心臓が早鐘を打ち始めた。 ドキドキなんてものじゃない。あまりにも早くドクドクと動くから、 上手に呼吸ができなくなって、陸に上がった魚のように口をパクパクさせながら胸を掻き毟る。 「鈴? ど、どうしたの? 鈴っ!」 バンバンの叫び声が聴こえるけれど、それに返答できるほどの余裕などどこにもない。 息が吸い込めない。息が吐き出せない。ただ口をパクパクするだけで、目を閉じることもできなくなった。 だめだ私、夢の中で死んじゃうんだ…… これでもかってなほど大きく目を見開いているのに、どんどん霞んでいく視界。 キーンという金属っぽい耳鳴りが頭の中を貫いて、意識が飛ぶ寸前に聴こえる怒鳴り声。 「バールで無理をさせるな! ベルの身体が壊れるだろうがっ!」 あの声はエースだ。朦朧としながらも、その声の主が誰だか分かる私は偉い。 そして、そんなことを考えられる私はもっと凄い。 けれどそれと同時に、バンバンが声を張り上げた。 「な、なんでこんなに早く、あなたがマキアートにこれるんだ!」 「それは、俺も夢の中にいるからだ」 そう言い放つエースが、私に近づいてくるのが分かる。 そして胸を掻き毟る私の手を強く握り締めて、エースが怒ったように命令した。 「戻れベル、夢から覚めるんだ!」 私だって戻りたい。でも、そんな器用な真似ができるのなら、ここまで苦しんだりしない。 だから、言うことを利かない私にエースが舌打ちをうつ。 その瞬間、私の前から跡形もなくエースが消えた。 待ってエース……お願い、助けて―― 「鈴ちゃん? 鈴ちゃん、起きて」 アイちゃんに揺さぶられて、強制的に夢から覚めた。 けれど夢だと分かっていても息苦しさは現実でも続き、未だ瀕死の鯉みたいに口をパクパクさせる私に、アイちゃんがそっと囁いた。 「大丈夫だよ。もう大丈夫」 息が吸える。息が吐ける。 助かったんだとようやく悟ったものの、ショック状態はまだ続き、 自分が裸だということなどスッカリ忘れて、思わず涙ぐみながらアイちゃんの胸の中に飛び込んだ。 「怖い夢を見ちゃったの?」 子どもをあやすように背中を撫でながら、大丈夫という言葉を何度も繰り返すアイちゃんの声が、肌を通して直に伝わってくる。 だからたまらず、夢の中の出来事をアイちゃんに向かって吐き出した。 「宝物がなくなっちゃったハープが、眠り姫になっちゃったの」 「ん?」 「ハープを目覚めさせるのには、きっとアルの肖像画が必要なの。だから私、探さなきゃ……」 きっと寝ぼけていると思われたに違いない。 けれどアイちゃんは、そんな私の話に付き合ってくれた。 そして私の髪を指で紐解きながら、優しい笑顔を浮かべて言い放つ。 「しばらく夢の世界に行くのは禁止だよ。鈴ちゃんの心臓が壊れちゃうよ?」 「でも、でも、私、探さなきゃ……」 わざと声に出した、『フー』という溜息をアイちゃんがついて、それと同時に私に覆いかぶさった。 「ダメって言ってるでしょ?」 ちょっと怒ったように頬を膨らませながらそう言うと、そのまま自分の唇を私の口に押し付ける。 「…んっ…ア、アイちゃ……あふっ…」 突然のアイちゃんの行動に驚きながらも、身体はしっかりとその甘いキスに喜んでいて、 キスと同じくらい甘い声が、私の口から漏れ出した。 「っんっ!」 アイちゃんが、キスをしながら私の中心を弄り、敏感な蕾を指の腹でそっと撫で回す。 余韻の残っている私の身体は、あの快感をまた味わいたくて、既にトロトロと蜜を出し始めていた。 そんな私から溢れる蜜を、アイちゃんの指が確かめるようにすくい上げ、 ピチョピチョって音を立てながら、入り口を指で焦らし叩く。 「バールは禁止。返事は?」 「で、でも……あっ…んっ」 焦らされた身体が、もっと欲しいとキューキュー鳴いているのに、アイちゃんは入り口の周りを指でなぞるだけ。 吐き出される言葉とは裏腹に、身体は勝手にモゾモゾと動き、懇願の舞いを踊り始める。 突然、アイちゃんの指の動きがピタっと止まり、素晴らしく美しい営業スマイルを浮かべて言い出した。 「じゃ、鈴ちゃんがイッちゃったら負けね?」 そんな賭けは、賭けじゃない。どう考えたって、私の方が分が悪い。 だから反論を唱えようと口を開いたところで、アイちゃんの固い棒が、一気に私の中へ沈められた。 「そ、そんなのズル…ぐぅぁっんっ!」 ヒダの一枚一枚を、まるでギターの弦を弾くように、アイちゃんのくびれが擦り続ける。 「あぁっ…ズ、ズルっ…ああっ…あっ…ズルっ…アイ…んんっ!」 パンパンと突き上げられるリズムに乗って、懸命に懇願するけれど、あれだけ焦らされた後の、この気持ちよさには耐えられない。 「イかなければ、勝ちなんだから頑張ってね」 勝ち誇った顔で私を見下ろしながら、可愛らしく言い出すアイちゃんに、卑怯だと罵り声を浴びせようとした瞬間、 あのどうにもならないほど気持ちがいい場所を、アイちゃんが抉るように突き上げた。 「んっ! やっ、ダメぇっ!」 「ああっ! やっ…やめ…いやっ…やめっ…」 必死で爆発を食い止めようともがくけれど、我慢すればするほど気持ち良さが高まっていく。 なのに余裕シャクシャクのアイちゃんが、更なる追い討ちを放った。 「鈴ちゃんの中がヒクヒクしてるよ? もうイッちゃうな?」 その言葉の恥ずかしさに身体がキュッと反応した途端、我慢していた心が解き放たれ、天高くはじけ飛ぶ。 「ちがっ…やっ…あっ…ダメ、や、やめっ…ああああーっ!」 私のおでこに長いキスをした後、極上のキュラキュラ笑みを浮かべるアイちゃんが言った。 「はい、イッちゃったから、鈴ちゃんの負けね?」 「ちがっ!」 「違うぅ? こんなにキュンキュン締め付けているのに?」 そのアイちゃんの言い方が、これまたすごく恥ずかしくて、思わず目を反らし固まる私。 そんな私を愉快そうに見下ろしてから、またおでこにキスをすると、今度は少し心配そうな声でアイちゃんが囁いた。 「とにかく、鈴ちゃんは負けたんだから、バールは禁止ね」 「は、はい……」 恥ずかしさに負けて、思わずおりこうな返事をしてしまったけれど、 『バール』って一体なんでしょう? アイちゃんのナゾナゾは難しすぎて、どうも分からないや…… |
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