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◇◆ Mythology 1 ◇◆
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全知全能を司る神族の王『ラノン』は、穏やかなる天界での日々に辟易していた。
そこで創世の神『ネシス』に、新しき星を生み出す様命じると、ネシスは快くそれを引き受け、世に小さな真っ白い星を生み出した。 ラノンはその星の辿る未来を、天界から眺めようと考えていたけれど、その小さき真っ白な星にたまらぬ魅力を感じ、 終に自らその星に舞い降りて、連れ立った四人の精霊にそれぞれの役割を与えた。 火の精『チーノ』が星のマグマを噴火させ、風の精『レッソ』がマグマを冷やす。 そしてその冷えたマグマを地の精『アート』が大地に創り変え、水の精『コア』は大地の隙間に海を創った。 さらにアートは大地に山々や木々、草花を生み出し、大地を讃えたコアが湖や河を創る。 そしてレッソが季節を操り、チーノは世界に明かりを灯した。 こうして美しき星と姿を変えたこの世界を、ラノンは『バール』と名付けると、バールの大地を四つに分けて、 その地に精霊の名を宿す国を創り上げ、それぞれの国を四人の神に統べさせた。 北の大地は、風の精 『レッソ』 の白の国と、力と戦いの神である 『クレス』を。 南の大地は、水の精 『コア』 の青の国と、冥界の神である 『フィン』を。 東の大地は、火の精 『チーノ』 の赤の国と、予言の神である 『アポロ』を。 西の大地は、地の精 『アート』 の緑の国と、魔力の神である 『ディーネ』を。 さらに自らは、バールの大地中央に聳える山の頂に神殿を構え、 愛する妻『レイア』、そして末娘『ベラ』と共に、その神殿に住まうことにした―― ラノンとレイアの間には六人の子がおり、上の五人の子は既に独立し、崇拝伝説を持つ神として崇められていた。 けれど末娘ベラだけは、虹を司る非力な少女神であり、他の兄弟ほどの力を持ち合わせてはいなかった。 それでも、ベラが天空にかける虹を見て、誰もが心を癒される。 故にラノンもまた、そんな末娘を溺愛した。 ある日、龍族の若き王『ピューボロス』は、小さな星を取り巻く七色の光に目を止め、その星に足を踏み入れた。 そして光の正体が虹だと悟ったピューボロスは、微笑みながら虹に腰を掛け、小さな大地を見下ろした。 すると、美しい星の小さな大地の真ん中で、天空を見上げる少女が一人居ることに気がつき、 好奇心に駆られたピューボロスは虹を滑り降り、少女の前へと舞い降りた。 「この虹は、君が創ったのか?」と、ピューボロスが尋ねると少女は小さく肯いた。 そして「虹に腰を掛ける気分は、どのようなものなのか?」と、今度は少女がピューボロスに問う。 そこでピューボロスは龍の形に姿を変えて、少女を背に乗せると空高く舞い上がり、 虹の袂まで少女を連れ立った。 こうして出逢ったピューボロスとベラは、一瞬にして互いに強く惹かれ合う。 「私に逢いたくなったら、この天空に虹を掛けてくれ。さすればすぐに、君の元へと飛んでくる」 そんなピューボロスの言葉に従って、ベラは毎日のようにバールの天空に虹を掛けた。 そして二人は、虹の袂で恋に落ちた―― 頻繁に天空へ掛かる虹を、不審に思った白の国のクレスは、その原因を突き止めようと動く。 そして虹の袂で寄り添う、ベラと龍族を見つけて驚愕する。 他族との交わりは、決して禁じられたものではない。 現に人間族と神族の間にも、沢山の子が生まれている。 けれど龍族は古くから神族を脅かす存在であり、その龍族の王と神族が恋に落ちるなど、誰もが予期せぬことであった。 そこでクレスは、これを知れば怒り狂うであろうラノンに、悟られることのないよう二人を引き離そうと考え、 その協力を緑の国のディーネへ求めた。 ディーネはベラを心底可愛がっていたため、クレスの話に驚きながらも、ベラの幸せのためならと、 二人を引き離すことに反対した。 けれど、予言の神である赤の国のアポロが、不可解なバール崩壊の予言を告げると、心を痛めながらも、 ベラとピューボロスを引き離すことを承諾する。 一方、赤の国のアポロには、バールの未来が見えていた。 だからこそ、冥界の神である青の国のフィンに、その全てを話し聴かせ、互いに策を練った。 そして二人は、もし自分たちが止められぬ事態が起きた場合を想定し、 各国の幼き子孫を攫って生きたまま冥界へ連れ立ち、バールの崩壊と再生を、幼き子孫たちへと語り続けた。 こうして悲劇の幕は上がり、バール崩壊の時が刻々と近づいていた―― |
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