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◇◆ 彼が盗んだもの 背伸び ◇◆
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変だぞ私……
あの日から海東が気になって仕方がないだなんて。 しかも、もうすぐあいつの誕生日だなと考えている私って…… 「で? さっきから男物のフレグランスを嗅ぎまくって何してるのかな?」 由香に耳元で囁かれ、ハッと我に返り 慌ててボトルのふたを閉めた。 本当にヤバイぞ私。無意識にあいつの匂いを探してるじゃん! 学校の帰り道、いつもの4人組で寄った駅ビルの雑貨やさん。 携帯のストラップを見ていたはずなのに、気づけば青いボトルを手にしていた。 意味ありげに私を見下ろしながら笑う由香が、わざとらしくボトルを私から奪い取り 閉めたばかりのふたを開けてその匂いを嗅いだ。 「これは、ルパンの香りだねぇ?」 私の目の前でボトルを振り子の様に揺らし、意地悪そうに微笑み続ける。 由香の言葉が胸に引っかかる。香りの違いが分かるほどあいつとくっついたの? 何か ものすごく不安になって 「なんで? なんで由香がルパンの香りを知っているの?」 そう由香に詰め寄れば、引っかかったな! とばかりに目を輝かせて言った。 「ほほぉ? では、なぜ文子はルパンの香りを知っているのかね?」 し、しまった! 誘導尋問だった! 図書室での出来事を全て白状させられた私は、それだけでも恥ずかしいのに 逆にあのとき、由香も久恵までもがルパン一味のグルだったことを知らされて 顔から火が出るほど真っ赤になった。 あのときまで、海東を男として見ていなかった私。 だけど、後ろから力強く抱きしめられたときの感覚と あいつの香りとKissの味…… 夢とか憧れとか そういったものの全てが大きな音をたてて崩れたけれど 代わりに違う何かが目覚めた気分だった。 なのに、あんな大事件を起こしたくせして 当の本人は何事もなかったかのごとく 未だ私に 【膝カックン】 をするって 一体全体どういうことだっ! 次の日の教室で、珍しく翔也が私に話しかけてきた。 「文子! 携帯のメアド教えてよ♪」 歯がキランと光りそうな 輝くプリンス笑顔で爽やかに言い放つ。 ちょっと前までなら、3回まわってワン! と吠えてもいいくらいに喜んだだろう。 なのに、何をとち狂ったのか この私の口から出た言葉は 「なんで?」 驚いちゃったのは 即答で教えてくれるだろうと思っていた翔也のほうで 目を丸くして私を見下ろしている。 ウゲッ 何を言ったんだ この口は! ところが、なぜか突然その場にワトソンくんが現れて 「石橋君、この基礎解析がどうしても解けないんだけれど、君なら解るかな?」 数学の本を片手にそう言うと、無理やり翔也を引っ張り連れ去った。 妙な視線を感じて後ろを振り向けば ルパンとルパン一味が わざとらしい目線でわざとらしく口笛を吹いている。 なんだ あいつら? 鼻にしわを寄せながら振り返ると、由香が体を震わせながら笑っていて 「あ〜ぁ、出ちゃったよ ルパンの 『 ふみふみ病 』 が」 それだけ言うと しつこく体を揺らして笑いながら前を向いた。 ふみふみ病? なんだそれ? 結局その日は、久恵と恵子は部活。由香は委員会とやらで 珍しく1人で下校することになり 今日は誰にも邪魔されずに買い物ができるかな? なんて考えて 昨日訪れた雑貨やさんへ小走りに直行。 昨日は気が付かなかったけど、『 ルパン 』 のストラップを発見し 1人ほくそ笑む。 でもその隣に、細かなビーズのばら売りコーナーが設置されていて 『 彼とおそろ♪ 手作りストラップ☆ 』 だなんて書いてあるのを見つけ ゆうに1分はそのPOPを眺め睨んだ後、危険物を触るかのごとく 『 L 』 と彫られたビーズのパーツを手に取った。 ハートのパーツや星のパーツ。アルファベットのパーツとそれらを組み合わせ つなぎ合わせれば出来てしまう簡単な手作りストラップ。 これなら私にも作れそう? 何色にしようかな? こうかな? あ、これじゃ変だな…… 人差し指を軽く くわえながら ブツクサつぶやく私の肩を叩く人。 やばい! 由香に見つかったか? 目にもとまらぬ早業で 手にしていたアルファベットパーツを元の場所に戻して振り向けば 誰? こいつ。 全く知らない顔の 全く知らない制服を着た男子が1人。 「風早高だよね? ちょっと前から電車で見かける様になって ずっと気になってたんだ」 ふ〜ん。だってよ 由香? と隣を見たけど誰もいない。 あ、今日は由香と一緒じゃなかったんだった。じゃ、この人は誰に言ってるの? 由香はスラリとした長身の美形ちゃん。だから一緒に町を歩けばこんな話は日常茶飯事で 軽くあしらいながらやり過ごす由香を いつもカッコイイと思っていたけれど そばに由香がいない今、150cmそこそこの ちまちま女に何の用があるのか分からない。 あ! もしかして、由香に紹介しろとか言うやつ? パーフェクトな解答がピコンと閃き、手鼓を打ちながら笑顔でその男子に応える。 「ごめんね! 今日、彼女と一緒じゃないんだよ。けど、本人に直接言ったほうがいいよ?」 そう言った後の微妙な沈黙。余計なことを言ってしまったかも? 首を斜めに傾けその男子の顔を覗き込めば 眉間にしわを寄せた戸惑い顔。 「えっと、彼女って誰? 俺は君に……」 そこまで彼が言いかけたとき、なぜか突然その場にゴエモンが現れて 「お? お前、吉岡だろ? 超ひさしぶり! オレ! オレオレ! 石川よ!」 いやに馴れ馴れしく肩を抱き、 俺は吉岡じゃないと叫ぶ男子を 無理やり引っ張り連れ去った。 妙な視線を感じて左側を見れば ルパンとルパン一味が わざとらしい目線でわざとらしく口笛を吹いている。 またかよ おまえら? てかワトソンくん? あなたの口笛 音出てないよ? 次元とワトソンがどこかに消えて、残った1人が右のこめかみをヒクつかせ 「ふ〜みこちゃん はじめてのおつかい?」 嫌味ったらしく言いながら近づいてきた。 バカにするな! ちっちゃくても幼稚園児じゃないんだぞ! 完全無視を決め込んで、店の奥へ足を進めても しっかりちゃっかり後をついてくる。 「つ、ついてこないでよ!」 小声で喚いてみても効果なし。逆に一番奥の壁を指差し のうのうと言い放つ。 「だってオレんちこっちだもん」 おまえの家は店内か! ところが、海東の指差す方向を見てビックリ。 ずっと探していた ヒヨコ柄の目覚まし時計が棚の上にあるじゃないですか! あんなところに置くなよ。売る気がないのか店主さん? もう海東のなんかそっちのけで、スキップしながら棚に近づき手を伸ばす。 と、とどかない…… これでもかと背伸びをしても届かない。 辺りを見回し、脚立を探したけれど見当たらない。 ちょっとジャンプしてみたけど、触れるものの取れやしない。 店員さんを呼びに行けば、運悪く全員が誰かの対応中。 仕方がないから もう1度だけ挑戦してみようと意気込み、棚の前に戻れば な、ない! 私の目覚まし時計がなくなっている! 慌ててレジに向かい、店員さんに聞いてみる。 「あそこにあったヒヨコの時計なんですけど!」 私の指差す方向を見ないまま 営業スマイルで店員さんが答える。 「あぁ、それなら たった今、背の高い高校生の男の子が買っていきましたよ」 なんだって! あそこらへんに男子なんか居たか? い、いた…… またあいつか! 「おまえの家は知っている」 どこかのマンガのごとく淡々とつぶやきながら 地の果てまでも追っかけてやる! と走り出す。 けれど意外にもあっけなく、ルパンの後姿発見。制服の裾をつかまえ叫んだ言葉は 「ルパン! 御用だ!」 あれ? これじゃ私 銭形のとっつぁん? 「なんのことでしょうか?」 しらじらしく 雑貨やさんのロゴが入った袋を、お面の様に顔に当てながら海東が振り返る。 なにか言い返してやろうと思ったはずなのに、袋に隠されていない唇だけが強調されて そこに視線がくぎ付けになった。 嫌でも図書室での出来事を思い出し、海東の香りが漂うほどそばに居て 衝動的ななにかがこみ上げてくる。 Kissしたい…… 「ふ、ふみこ お、おまえ今なんて言っ……」 海東に最後まで言わせなかった。絶対に届かないと分かっていたから 両手を伸ばして海東の首に巻きつけ 強引に頭を下げさせる。 つま先ギリギリまで背伸びして ほとんど海東にぶら下がりながら 欲しくてたまらなかった唇を味わった…… 袋を持ったまま広がっていた海東の腕が あのときみたいにようやく私の腰に回されて 力強く抱きしめてくれる腕のぬくもりと 優しい香りとKissの味…… とろけそうになりながら 夢中で背伸びをしたまましがみつき ようやく唇を離せば ゆっくりとまぶたを開ける海東と目が合った。 あれ? 一体、私は何をしでかしたの? こんなつもりじゃなかったのに…… 両腕が名残惜しんで海東を離さないまま 必死でいい訳を考える。 驚きで目を見張ったままの海東に ようやく考え付いたセリフを震える声でつぶやいた…… 「目覚まし時計の代金です……」 未だ固まる海東の手から 目当ての袋を奪い取り 軍隊からスカウトがきちゃいそうなほど綺麗な回れ右をして 一目散にその場から逃げ帰った。 どうしよう。なにやってんだ私。 |
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