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◇◆ 彼が盗んだもの へたくそ ◇◆
 くそっ。桜庭のやつ! 文子が帰っちゃったらどうする気?
苛々しながら階段を一気に駆け下りる。
 学活が終わり、掃除がはじまって 逃げようと思ったところで桜庭に捕まった。
「ルパン? これ、オレの机に置いてきてくれよ。んで、これが理科室の鍵な」
最初に放り投げられたのが鍵。次に投げられたのも鍵。
顔面寸前で受け取れば、1個はどう見ても車のキー。
 これって職権乱用じゃないですか?
「お前、掃除を逃げようとしただろ? そのくらいやれよ」
ポッコリ膨らむオレの腹を軽く殴りながら 物分りのいい教師を気取る桜庭。
「や、やめて! あたしの赤ちゃんが!」
わざとらしく腹を守り叫べば 桜庭の罵声。
「アホ言ってないで行け!」
 なんで腹に鞄が入ってることを気づかれたんだ……

 今週 文子は掃除当番じゃない。だけど福島が当番だから、きっとどこかで待っているだろう。
そうは解っているものの、昼休み辺りからおかしくなった文子の言動が気にかかる。
何を聞いても上の空だし、チョッカイだしても上の空だし。
 あんなのオレの文子じゃないっ! (でも可愛いけど)
周りを見回す余裕もないまま 昇降口前を左に曲がり、職員室の前を急ぎ足で通り過ぎる。
一体文子は何を悩んでいるのだろう? あれかな? これかな?
思い当たる節が多すぎて絞りきれないから 余計に苛々する。
けれど 校長室の前を通り過ぎる辺りで はたと気が付いた。
 翔也のメルアドをゲットできなかったからか!
そう気づいてしまったらもう 全てが腹立たしい。
大体あいつは、翔也が好きだと言いながら なんでオレと Kiss なんて出来るんだ?(無理やりだけど)
いや、昨日なんか あいつから飛びついてきたんだぞ?(嬉しいけど)
そりゃオレだって、文子のファーストキスをいただけたと解ったらボルテージが上がったよ?(当然だ)
だけどあんな Kiss をしておいて、オレの食いかけのパンが食べられないってことは
結局のところ、 『 オレ=嫌い 』 ってことにならないかい?(普通なら喜ぶはず)

 拷問の様な考えが浮かび、悶々としながら理科室の鍵をポケットから取り出して
古びた南京錠に悪戦苦闘し、ようやく開錠できたところに なぜか文子が突っ込んできた。
 お前の前世は、絶対イノシシだよね?
ぶつかった反動で 後ろ向きに倒れていく文子を抱きとめて 爆発寸前の心の叫びを放つ。
「なにしてんの ふ〜みこちゃん?」
けれど そんなオレの気持ちなど知ったこっちゃないとばかりに文子がいきなり言い出した。
「ねぇ、教えてルパン! 私って へたくそなの?」
オレの制服にしがみつきながら、ほとんど半べそ状態で見上げる文子。(可愛すぎ)
 そんなことで悩んでたのかよ……
緊張と苛々で固くなっていた体の力が急激に抜けて、電車の時と変わらぬ立ち位置に
朝の Kiss の光景がよみがえり 恐ろしいほど顔が熱い。

 とにかくこの場を離れようと試みて、文子を突き放し 何も答えないまま理科室へと入り込む。
けれど 何も答えないオレに苛立った文子が、当たり前のごとく後を追ってきて
「ねぇ? 答えてくれないってことは やっぱり私 へたくそなの?」
さっきの可愛い顔はどこへやら 『 なまはげ 』 みたいな顔で喚いている。
 もう、お前は般若を超えたな……
しつこい蝿を追っぱらう様に手を振りながら 準備室へと歩き進み、目的の鍵を桜庭の机に置く。
文子は結局そこまでついてきて、怒りにまかせて準備室のドアを蹴り閉め叫ぶ。
「私はキスキスの実の能力者だから、へたくそだと困るの!」
 こ、こいつ…… また訳のわからんことを……
口をひくつかせながら 長い溜息をわざとらしくついた後、珍しく本気モードで文子に言った。
「へたくそだとなんで困るんだよ? 誰かに嫌われるのか?」
いつもと違うオレの口調に驚いて一瞬固まった文子が
親に怒られた子供の様に 上を向いて泣きながらようやく放った言葉は

「ル、ルパンに 嫌われちゃうじゃんっ!」

 神様? 僕は今、文子の口から一体 何を聞いたのでしょう?
僕の推理が正しければ、彼女は今、僕を好きだと言いましたよね?(きっとそうに決まってる)

 文子の腕を取り 自分の方へと引き寄せ抱きしめる。
顎を文子の頭に置いて、オレの胸に顔を埋める文子の髪を指ですくいながら
子供をあやす様に耳元で ゴメン と何度も囁きながら揺れる。
震えが少しずつおさまって、ようやく顔を上げた文子の頬に残る涙の跡を Kiss で拭い
唇に 触れるか触れないかのギリギリの Kiss を繰り返す。
文子の唇が徐々に開いてきて ただそこだけが震え始め、懇願する様な瞳でオレを見つめるから
そこでオレの理性は途絶え 狂った様な Kiss を繰り返した。
 何もかもがもどかしくて、そこにあった机に文子を無理やり押し倒し
柔らかい髪に指を差し込み さらに貪欲に唇をむさぼり続ける。
手で触れる頬よりも滑らかな文子の唇に酔いしれて 虜になった下唇を挟み続ければ
「ル、ルパン?」
小さな文子の囁き声で ようやくオレは我に返った。

 やべぇ。 完全に理性が吹っ飛んでたよオレ……
どんどん強引な Kiss になっていっちゃってるよね?
 でもやめられそうにないけど。

「ふ〜みこちゃん やっぱり へたくそ。だからもっとたくさん練習しなくちゃね♪」
机に背中を預けたまま 腫れぼったい唇を噛みながら文子が答えた。
「う、うん……」

 あぁ 15年間 生きてて良かったオレ……
天女の羽衣をまとい、浮上しちゃってますからオレ……
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photo by ©かぼんや