IndexMainNovelKarenusu フォントサイズ変更   L M D S



◇◆ 彼が盗んだもの 罰ゲーム ◇◆
 土曜日の布団の中 天気も最高なのに、起きる気力無し。なのに……

『ジャジャンジャジャン♪ ふ〜みこちゃん メールだよぉ☆』

妙な音声の着信音で飛び起きた。
慌てて枕元にある携帯を見れば 『 着信 オレ 』
 来る…… きっと来る…… って、誰?

『ルパンの着信音、気に入った? とりあえず今から迎えに行く♪』
 また あいつか……

 ここ数週間、寝ても覚めてもあいつの顔ばかり見ている気がする。
更に理科室の一件では、とんでもない発言をしちゃった様な?
だからとて、何が変わった訳でもなく 相変わらず あいつにからかわれ生きている。
これだってそうだ! 大体、いつの間に私の携帯を盗み
いつの間に登録し、いつの間に着信音までダウンロードしたんだ!
でも そう本気で怒っているのに、なんで私は慌てて着替えているのだろう……
しかも、数着の服をベットに広げ 悩んでいるのはなぜ?
こうしてまた 悶々とした日々を過ごす 今日この頃 ――

 そうこうしている間にチャイムの音。
「あらノリちゃん♪ そうだ、今日 ママ 家に居る? この間のファミレスでね……」
応対に出た母の笑い声が聞こえてくる。
 幼馴染の定義 第26章 『 双方の親同士の仲が良い 』
由香がこの間、シレっとしながら私に見せた 題して 『 人間観察定義ノート 』 の一説。
第37章まで続くこの定義に こくごとく当てはまる私と海東。それを見て、久恵と恵子が大爆笑。
40章までは書き記したいと、なぜか私を見ながら意気込んでいた由香。
 由香さん? 意外と暇人なんだね。

 階段の3段目からジャンプして見事着地に成功。
「文子っ! あんたいい加減にしなさいよっ!」
両手を広げ 怒鳴る母を見事なフェイントで交わし 靴をつっかけ外に飛び出す。
「ノリちゃん! このバカお願いねぇ!」
後ろから叫び続ける母に 親指を立てて合図している海東の腕を取り、引きずりながら表通りへと進んだ。
 周りを少し見渡して、誰も知り合いがいないとわかると そこからはバトルタイム。
「なんで私のメアドを ルパンが知っているわけ?」
足を肩幅に開く基本姿勢に加え 腕を組んで斜めに見上げれば、しかめっ面の海東が全く関係ないことを言い出した。
「ふみこちゃん? 階段の手すりを滑って降りるのは危険だって 先生 言ったでしょ!」
 滑ってません! 誰が先生だよ?
片手を腰に当て、もう片方の手は私を指差したまま 女言葉で話は続く。
「今日という今日は もう先生 許しませんよ! 罰を与えます!」 
 だからさ、先生って誰だよ?

 なんだかんだと言いくるめられ、未だに続く 引率教師の物真似にうんざりしながら 2駅先のホームに降りた。
乗り換えの人の波で 一瞬 海東を見失い、焦る私の手に伸びる腕。
「ふみこちゃん! だから先生 言ったでしょ!」
繋いだ手を大きく上下に振りながら海東が苛々しながら言い放つ。
「い、以後 気をつけます……」
その勢いに負け、とりあえず謝ってみた。(不本意だけど)
大きな手で包み込まれた私の右手。
ゴツゴツとした感触に驚きながらも、そこからはずっと離れることなく手を繋いだまま道を歩く。
ところが改札口で、見覚えのある後姿の団体を発見。
嫌な予感にその場で立ち止まり、右側を見上げれば 目が明後日の方向へ泳ぐ海東の顔。
 なんで休日までルパン一味と一緒に過ごさねばならないんだっ!
私の心の叫びが聞こえたかのごとく、とても素敵なタイミングで次元がこっちを向いた。
それにつられて ゴエモンもこっちに振り向く。その視線が真っ先に繋がれた手へと移動して
片方の口端をゆっくりと持ち上げながら、私たちに近づいてきた。
「休日まで大変だね パパ」
たまらないツッコミを入れてもらった芸人のごとく 目を輝かせた海東が受け答える。
「えぇ、もう大変! やんちゃだから手がつけられなくて……」
なんの話をしているのか気づくまで数十秒。
けれど2人の視線がその間中 私に向けられていることでようやく悟り
海東と繋いでいた手を 大げさに振りほどき、ドラキュラも真っ青な牙を剥き出し2人を睨む。
「「おぉ〜 こわっ!」」
そんなハモル2人に向かって 眼鏡のフレームを指で押し上げながらワトソンが言い出した。
「まぁ、手のかかる子ほど可愛いって言うじゃないですか。 あ! 福島さんたちも来ましたよ!」
 どういう意味だよ ワトソンくん? てか、今 福島って言ったよね?
ワトソンが指差す方向を見れば 北口の改札から 由香と久恵と恵子が階段を下りてくる。
訳がわからないまま その場に立ち尽くせば、頭の上から響く声。

「青少年のつどい 清く正しいボーリング大会へ ようこそ♪」

 ついた先のボーリング場で、次元がいきなり言い出した。
「ここは何事も公平に、オレの作ってきたクジでペアを決めましょう!」
 次元が作った時点で、公平さを欠いている気がするのは私だけ?
絶対に、こざかしい仕掛けがあって 確実に、ルパンとペアにされると思っていたけれど
引き抜いた 薄っぺらい紙に書かれていたのは 『 五右衛門 』 の文字。
逆にルパンは久恵と組んでいて、次元と恵子。そして由香とワトソンのチーム分けが成立。
「女が1投目。 男が2投目。 10フレまでの合計スコアで争います♪」
みんなにレンタルシューズを配りながら 颯爽とルールを説明する次元。
 あんた本当にマメだよね。
各々がペア分けに はしゃぐ中、憂鬱そうな男が1人……
「く、久島さん、ぼ、僕 失敗したら福島さんに殺されそうな気がしてならないんですけど……」
緊張の極限に達して 震えるワトソン。
「大丈夫だよ! 遊びなんだし、そんなことで怒ったりしないって!」
ワトソンの肩を叩き、笑顔で応える私の背後から聞こえる 身の毛もよだつ二重唱。
「「お前のセイで負けた日には どうなるかわかってるよね?」」
振り向けば、由香とゴエモンが私たちを見下ろしていた。
 ひぃ〜〜

「文子お前、4つ穴のボール使えよ! お前には 8ポンドなんか無理だって!」
「文子! ピンに当てるな! いいか? よ〜く狙ってガーターに入れろ!」
海東と同じ様な意地悪を、同じ様な口調で言っているだけなのに
海東と同じ様に聞こえないのはなぜだろう。
既に逆らう気力も失せて、凹みつつあるゴエモンとのペア試合に疲れ果て
「ちょっと飲み物を買ってくるね♪」
と言い残して席を離れ、自動販売機の前でつぶやく私。
「それは、石川くんの言葉には 『 本気 』 が入っていて、海東くんには入っていないからですよ」
隣の自販で精力ドリンクのボタンを押しながら、ゲッソリやつれたワトソンが言った。
 私よりひどい状態だね? ワトソンくん。
「決して相手を傷つけない物言いをする。 それが海東くんの凄いところですよね」
ドリンクを拾い上げながら、珍しく柔らかくワトソンが微笑んだ。
 ワトソンに言われて初めて はた と考える。そういえば、昔からそうかも知れない。
本気じゃないって解るから、言い返しても喧嘩にならないんだ。
ボトルのキャップをひねり、生薬臭いドリンクを一気飲みした後 ワトソンが続ける。
「特に久島さんに対しては、彼なりの特別扱いをしていると思いますよ?」
「そうかなぁ? からかわれるばかりで、特別扱いなんてされている気がしないけど……」
そう言って、紙コップの氷をガリガリ噛みながら レーンの向こうの海東を見た。
スペアを決めたのだろう。楽しそうに、久恵と両手を合わせて飛び跳ねている。
「逆に僕は、海東くんが他の女子をからかっているところを見たことがありませんけどね」
ボトルをゴミ箱に捨て、それだけ言い終えるとワトソンはレーンに戻っていった。
 背中までの高さの壁に寄りかかり、自販を見つめながら考える。
からかう=特別という方程式はあり得ないだろ?(普通はもっと特別だ)
大体 好きだなんて言われたことないし。(私も言ってないけど)
なのに何度も Kiss している私たちって一体…… (なんか変だ!)
眉間のシワが限界まで深くなろうとしているとき、いきなり誰かが私を呼んだ。

「あれ? 文子? 何してんの こんなところで?」

目だけで右側を見れば
恐ろしく派手なシャツを着て、恐ろしく綺麗な女性を両脇に連れた翔也が
驚きの目で私を見下ろしていた。

 翔也の私服って…… すごっ!
 後半へ続く 
← BACK NEXT →
IndexMainNovelKarenusu
photo by ©かぼんや