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◇◆ 彼が盗んだもの 罰ゲーム ◇◆
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そこに文子がいるのに、ちっとも触れない。
「ダメだもう。 充電が切れる……」 携帯を持ったままつぶやけば、隣からオレの携帯を覗き込む女子が不思議そうに言った。 「え? まだ満タンあるじゃん?」 オレはこの女子を知っている。(多分) 確か、大とか中とか小とか そんな漢字に 文子と同じ 『 島 』 がつくはず。(更に多分) そして文子といつも一緒にいるクラスの女子なはず。(これは確実) こんなことを言ったら申し訳ないけれど、どうしても へのへのもへじ に見えるから仕方がない。 なのになんでオレは、この 『 への子ちゃん 』 と一緒にボーリングなんぞしているのだろう…… クジなんて考えたやつの顔が見てみたいよ まったく! 念力でも送るかのごとく高梨を見れば、 『 もへじちゃん 』 の方と 楽しげに笑っている。 更にパワーアップした念力で高梨を見れば、一瞬 ビクっと体を震わせてから オレの方へと振り返った。 「バカお前、これも作戦のうちだって!」 オレの耳元でそう囁いた後、両人差し指をオレに向けて背中を反らす。 お前はラッパーじゃなく、帽子の似合う次元だろ? ピストルを持てよ。 納得がいかないまま 隣のレーンでゲームをしている文子を窺えば スコアボードのタッチパネルを眺めながら、憂鬱そうにうつむき 唇を少し突き出している。 やべぇ。 マジで充電切れそう…… 実は昔から、オレは文子のあの表情に とてつもなく弱い。 あの表情を見たいがために チョッカイを出し続けていると言っても過言じゃない。 プニっとした頬を更にプニっとさせて、クリっとした目を少し細めた具合が最高。(に可愛い) なおかつ そこにプニュっとした唇が ちょっと突き出しちゃったりしたら申し分なし。(最上級) この表情をどうやったら引き出せるのか、日夜研究を続けたオレは立派だ。(もはや科学者) けれど人はそれを 『 ふみふみ病 』 と呼ぶ―― 「ルパン? ルパンの番なんだけど、今 ふみふみ病の発作中?」 無理に文子から視線を剥がして 逆を向けば、呆れ顔の へのへのもへじ。 「あ、ごめん。への子ちゃん」 少々 鬱陶し気に返答すれば、みるみる変化する怒り顔で への子ちゃんが叫んだ。 「私は な・か・し・ま・ひ・さ・え・ですっ! 何度言ったら覚えるのかね このふみふみ病!」 なんだ 中っくらいのへの子ちゃんだったのか。 とりあえず、適当にボールを投げれば 本日4回目のスペア獲得。 への子ちゃんと両手を叩き合いながら チラっと文子のレーンを見ると、肝心の文子がどこにもいない。 慌てて場内をくまなく目で追い、自販機の前でなにやらワトソンと話す文子を見つけた。 「オレ、ちょっと飲み物を買ってくる♪」 この補充機会を逃したら、本当に充電切れになる予感。ここぞとばかりに文子の元へと急ぐ。 なのに オレよりも先に文子に話しかける男の声。 「あれ? 文子? 何してんの こんなところで?」 声のする方向を睨みつければ 恐ろしく派手なシャツを着て、恐ろしく どうでもいい女を両脇に連れた翔也が 驚きの目で文子を見下ろしていた。 微生物柄 真紫色のアロハ仕立てなシャツってどうよ? そりゃ確かにね? フリル付きブラウスで 『 アンドォレ〜 』 て叫ばれるよりはマシよ? だけど いくらプリンスでも、そっちのプリンスに行っちゃダメだろぉ? メビウスを見てしまった人間の様に、石になった文子へと近づき 頭をなでる。 いつもなら すぐ様 振り向き牙をむく文子が、なぜか今は動かない。 静電気が起きるほど 執拗に髪をなで続ければ、ようやく我に返った文子が振り向いた。 「やっぱり おまえかっ!」 その顔、とってもナイスです♪ 「ルパンまで 何してんの こんなところで?」 わざとらしい驚きの顔を浮かべた翔也が、ヘンテコな銀色の腕輪をつけた手で髪をかきあげる。 お前こそ何してんだ? 紫色のニクイやつ。 仕方がないから相手をしてやろうと 深い溜息をついた後 「ボーリング場で、ドッチボールをしていたら変だろぉ?」 とりあえず、当たり前な答えを翔也に返せば 妙な翔也の苦笑い。 もういい加減 この場を切り上げたいと思い始めたとき、運よく場内放送が流れ始めた。 「ボーリングをお待ちの 『 石橋様 』 準備ができましたので、カウンターまでお越しください」 自分の名前が呼ばれたことに気が付いて 「じゃ、またな!」 やっぱりどう見ても変な腕輪をジャラジャラ鳴らしながら敬礼すると、受付に向かい去って行った。 えぇ。出来れば一生のさよならを…… なのに、隣のレーンってどうよ? 5分も経たないうちに また翔也が現れ 爽やかには程遠い服で 爽やかに挨拶をする。 「やぁ! みんな来てたんだ!」 両手で髪をかきあげ、そのまま手を首で止めて上を向く。 どっかのエロモデルみたいだね。 急に静かになった周りを見渡すと 翔也の私服に免疫のなかった6人が、6体のお地蔵さんになっている。 最初に意識を取り戻したのは、意外にもワトソンで、にこやかな顔で翔也に握手を求めながら毒を吐いた。 「絶対に、誰もが敬遠する様な服を 着こなす石橋くんに乾杯! グフ」 翔也の時が止まり、その言葉で 皆が息を吹き返す。 そんな傍若無人なワトソンくんに乾杯! とにかく全てがオーバーリアクションな翔也の生き様。 私服になると こうも人格が変わるのか? と疑いたくなるほどの有様が続き クラスメイトだということを周りに知られたくないと 皆がほとほと疲れ始めた頃 突然ブラックライトが点灯し、辺り一面が薄暗くなった。 「1時間に1度のラッキーチャンス! ストライクゲームへようこそ!」 マイクを持った店員が、レーンの真ん中に立って騒いでいる。 「挑戦者は、これから1投目を投げる方ですっ!」 頭上のモニターを確認すると 25番 ふみりん 26番 ルパン 27番 ショーヤ の名前。 ふみりんってお前…… (似合ってるけど) 挑戦者たちが それぞれのレーン前に並び、ギャラリーの声援と野次がこだまする中 「おいルパン ちょっとこれで賭けしない?」 右側のレーンから妙に自信たっぷりな翔也が言い出した。 片眉を上げて翔也を見れば 「負けたほうが全部のゲーム代を支払うってのはどう? お互いがストライクなら賭けは無効」 ウインクするなよ 気持ち悪い。 後ろを振り向き肩をすくめると、合わせたかのごとく 6人同時に親指をつき立てた。 親指の意味を履き違えた翔也が 飛び切りの微笑を見せ 「ありがとう みんな!」 レーンというステージから ファンに送る投げキッスを放った。 妙な角度でその Kiss を避けた後 「そういえば、文子はどうするの? ちゃんと賭けの仲間に入れてあげなきゃ可哀想でしょ?」 椅子の背もたれに寄りかかり、いかにも偉そうな態度で福島が言う。 何を言い出すんだとばかりに 目を大きく見開いて、福島を睨みつける文子。 「文子の場合は、ガーターを出したら 罰ゲームってことで♪」 福島の隣で、同じ様にふんぞり返る高梨が有無を言わさず決定する。 開いた口の塞がらない文子を尻目に、勝負は幕を切った。 「それでは皆さんいいですか? レディ〜〜〜〜っ GOっ!!」 店員の合図で、一斉にボールが投げられる―― 見事ドンピシャど真ん中! やっぱオレって本番に強い男? 愕然と膝を床に落とし、両手で頭を抱える翔也のレーンを見れば、両端 残しの8本倒し。 そんな翔也の目の前で、両手を高々と挙げ ガッツポーズを決め吠える。 周りからの指笛と歓声を浴びて 高鳴る鼓動。 気分は エイドリア〜〜〜ン! なのにエイドリアンはどこにもいない。我に返って文子のスコアを見れば 『 G 』 の文字。 翔也の様にその場にへたり込み、ボールを抱きしめ うつむいていた―― なんだかんだと抵抗する翔也にゲーム代を押し付けて、大騒ぎしながら移動する。 けれど 隣接されたゲームコーナーに差し掛かったとき、福島がいきなり言い出した。 「文子 罰ゲームね♪」 意味が解らず 唖然とする文子を、数台あるプリクラ機の前まで引きずっていく。 「コスプレをして、プリクラを撮る罰ゲームだから♪」 可愛らしく言ってはいるが、顔は全く笑っていない。(ほぼ脅し) 「え? 自分で服を選んでもいいの?」 福島の意図に気づかず、目を輝かせ喜ぶ文子。(意外に無謀) 「いいえ。これを着てもらいます」 ハンガーにかかった衣装を1枚引き抜き 高々と掲げる。(ライオンキング?) 「そして、ルパンご主人様の言うことを聞くのです!」 黒地に白のエプロンが付いた 世に言う 『 メイド服 』 を文子に押し付けた後 ご主人様のオレを指差した。(マジですか!) 「いやだそんなの! 服はともかくとして、なんで私がルパンのメイドにならなきゃいけないの!」 文子が両足をジタバタさせて駄々をこね始める。 ところが、隣のプリクラ機から ワトソンの顔だけが突如現れ 「久島さんはガーターをだしましたよね? 石橋くんは、ちゃんと約束を守りましたよね?」 なぜか異常なほどの念を押すと、また突然 ワトソンの顔が中へと消えた。 ワトソン? チラッと見えたお前のその服は…… セーラーム…… 結局、ワトソンに念を押され 後に引けなくなった文子がブツクサ文句を言いながら メイド服に着替えて現れた。 「ねぇ、どうしてもルパンと一緒に撮らなきゃダメ?」 最後の悪あがきをする文子を無視してプリクラ機の中へ押し込むと オレに向かって親指を立てて 『 行け 』 のポーズを取る福島。 福島さん、とても男らしいですね? 最初こそ ブスッたれていた文子の顔が徐々に笑顔に変わり、なんだかんだと言いながらも 無事 撮影終了。 「もうこれで罰ゲームは終わりだよね?」 なにやら画面に書き込みながら、満面の笑顔で文子が言った。 「ん? なんで?」 首を傾け文子に問えば、書き込んでいた手を止め オレと同じ様に首を傾けると 「いや、 Kiss しろとか言い出すんじゃないかと思ってさ♪」 軽い口調で そう言い終えた後、 失言に気づき 慌てて両手で口を押さえ 後ずさる。 当然のことながら、こんなおいしい発言を聞き逃してはあげられない。 「ほほぉ? ふ〜みこちゃんは、そんなことを考えていたんだ」 獲物を狙う狼の様に、ジリジリと文子を追い詰める。 後ろの壁までぶつかり、逃げ場のなくなった文子が 真っ赤になりながら首を何度も横に振る。 「だって罰ゲームでしょ? ご主人様は誰?」 髪に手を差し入れ 親指で耳をそっとなぞる。 文子の体がピクンと反応し 一瞬だけ目を閉じる。 「Kiss してよ」 息を吹きかける様に 親指でなぞり続ける耳元に囁けば またピクンと体が揺れて 口を手で塞いだまま オレをゆっくりと見上げた。 唇を覆う 邪魔な文子の手を掴み、強引にオレの首へと導き 文子の腰に手を回し 引き寄せて、ピッタリとくっついたまま もう1度囁く。 「文子 Kiss して。命令」 大きな瞳が しばらくゆらゆらと彷徨い オレの気持ちを探るように揺れた後 ようやく静かに目が閉じられて そっと柔らかい唇を押し当ててきた。 文子の両頬を手で押さえ、唇をかすめながら囁く。 「目を開けて。命令」 長い睫毛を震わせながら文子が言われた通りに目を開く。 見つめ合ったまま Kiss をして 唇を重ねては離し、また見つめ合う。 恥ずかしさから 目を閉じようとする文子の下唇を優しく噛めば 閉じかけた目を開いて 潤んだ瞳でオレだけを見つめている。 わざと唇の端に Kiss をし続けると、溜息の様な吐息が文子から漏れて 肩にしがみついていた文子の手が離れ、オレの髪に差し込まれた。 「お前ら、とっくにプリントアウトされてるんですけど!」 カーテンの向こうから 高梨の呆れ声。 えぇ? もう出来ちゃったの? これからがいいところだったのに…… でもま、いいか? 充電完了! 更にメイド服の ぷにぷにほっぺ プリクラゲット! 翔也くん? 本当に君は最高だ♪ |
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