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◇◆ 幼馴染の定義 1 ◇◆
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■ 文子のちょっと(だけ)シリアスバージョン
海東が、息苦しさにTシャツの襟を掴んだまま、眉間にシワを寄せながら眠っていた。 額には大量の汗が噴出し、首筋にも汗の流れた跡が幾筋にも残っている。 枕元に濡れたタオルが小さく畳まれたまま落ちているのを見つけ、そのタオルでそっと額の汗を拭ってみた。 首筋の汗も拭おうとタオルを移動させると、海東から長い溜息がこぼれ出て、 頭をそらして首を伸ばし、ここも拭いてくれと懇願するように動く。 その仕草にたまらなくときめいて、なぜか微笑みながら、ご希望通りの場所にタオルを当てる。 「ふみ……」 突然、海東の口からこぼれた言葉。 目を覚ましたのかと驚き固まって、そのままの状態で海東の様子を探る。 けれど、浅く立てられていた息がゆっくり深いものへと移り変わり 「な、なんだ 寝言か。 焦っちゃったよ」 そう自分に向かってつぶやいてみる。 海東の寝顔を見ながら、ふと考えた。 冗談など言わずに、いつも輝く笑顔を放つ王子様。 おとぎばなしのお姫様が、恋に落ちる王子様。 私は、そんな王子様に恋焦がれ続けていた。 翔也を好きになったのも、そんな自分の理想像に全てが当てはまっていた気がしたからだ。 けれど、海東は全く違う。何一つ、自分の理想には当てはまっていない。 爽やかには程遠い、大口を開けての豪快な笑い。 更に、冗談と嫌味ばかりを真顔で言い放つ、お姫様と王子様の恋路を引き裂く悪役がピッタリだ。 なのに、こうして何も言わずに眠る顔は意外にも綺麗で、女の私でもドキっとする。 切れ長の目に、高い鼻。そして、私を惑わせ続ける少し厚みのある唇…… その唇を少しだけ開き、目を閉じ眠る姿が『 キスして 』と甘く囁いている気がして、 誘惑に負けた私は、ゴクリと唾を飲み込んだ後、そっとその唇に人差し指で触れた。 海東が起きてしまうのではないかと、用心深く様子を窺う。 けれど立てられた寝息は相変わらず深く規則的で、ホッとする反面、更なる欲求を駆り立てた。 また人差し指で、今度は下唇をなぞる。すると海東が鼻にシワを寄せ、呻きながら顔を背ける。 そんな海東の仕草に、動くおもちゃを初めて見た子供のように好奇心が湧き上がり、 いつもの仕返しだとばかりに悪戯半分で唇を重ねた。 ところが背後から魔の手が伸びて、勢いよく私の背中に巻きつき 「ひっかかったな ふ〜みこちゃん♪」 閉じられていたはずの瞳を見開き、ニタニタ笑いを浮かべながら海東が言い放った。 し、しまった! 罠だったのか〜っ! フルパワーで脱出を試みたけれど、ビクともしない頑丈な腕。 逆により引き寄せられて、鼻の頭がくっついた。 誰もいない家の、ベッドの上で二人きり…… もしかして、やばい状況? なんて思わなくて済むのは、下からホザクこいつのお陰。 「文子ちゃん、今アタシの唇を奪ったわね? 夜這いをするつもり!」 さっきのシリアスムードはどこへやら。 図星を言い当てられて頬がカッと熱くなり、恥ずかしさを隠すように活舌良く吐き捨てる。 「ち・が・い・ま・すっ!」 片眉だけをピクピク動かしながら 「とかなんとか言っちゃって♪ ま、そういうことにしてやるよ」 そう言った後、舌を出して横に振る。 その舌の動きが憎らしいほどの苛立ちを誘い、抱き合ったままでおかしなバトルを展開。 鼻がひん曲がるほど押し付けあって『 鼻相撲 』に勤しみ、 空いた手で海東の両目を指で押し広げ、瞬きをさせない拷問を強いる。 耐え切れなくなった海東が、背中に回していた手を わき腹に滑らし、 カンフーアクションも真っ青な叫び声と共に、私のわき腹をくすぐり始めた。 体を仰け反らして笑い転げながら、ギブアップを要求し続け、 何度も念を押された後、ようやく解かれた体で、今度は不意をつき四の字固めを繰り広げる。 海東が卑怯だと私を罵る中、ギリギリと間接を締め上げれば 「文子、お、俺、インフルエンザなんだけど……」 弱々しくつぶやく海東の声で、ようやく我に返った。 そうだった。こいつ、四十度の熱を出してたんだっけ…… 仰向けに横たわり、目を閉じて浅い呼吸を繰り返す海東。 弾かれたようにベッドから飛び降りて、海東の額に光る汗をタオルで拭う。 「ご、ごめんね、ルパン……」 あんまり悪びれていないけれど、とりあえず甘ったるい声でわざとらしく謝れば 「文子の誠意が感じられない……」 喘ぎながらも、海東が疑惑の目を私に向けてつぶやいた。 ちっ。バレたか! 「しかも、お見舞いに来たくせに、スウェットだし、手ぶらってどういうこと?」 更に疑惑の目を、究極まで細めて私に向ける。 「いや、これには深い事情がですね? 実は、コンビニ……」 突然、海東の手がそっと私の頬に伸び、頼りなさ気な微笑を見せながら 「理由は聞きたくないや。来てくれた。それだけでいい……」 そう言って目を閉じた。 海東らしかぬ言動に、何かを鷲掴みにされたようなショックが体を走る。 頬に触れている海東の手に自分の手を重ねて、少しだけ握り締めれば 「ごめん。オレ、今 弱々モードだ」 目を閉じたまま、聞き取れないほどの小さな声で海東がまたつぶやいた。 自分の中で湧き上がる感情の正体が解らないまま、衝動的にベッド横たわる海東の胸に頭を乗せる。 頬に置かれた手が髪へと移動し、大きな手で優しく頭をなで続けられ、 その心地よさに 私も目を閉じた ―― ねぇ、この気持ちは何なの? どなたかヘルプミー! |
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