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◇◆ 彼が盗んだもの 双子座の男 ◇◆
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いいえ私は、ふたご座の男……
私が行くまで、笑ってればいいわ…… あなたは実習のつもりでも、家庭科室まで奪いにゆく 思い込んだら、いのちっ! いのちっ! いのちがけよぉ〜! って、標的発見!(ロックオン!) 二時間目終了のチャイムが鳴り、うたた寝から目覚めれば、既にゴエモンの姿なし。 なんだかブーブー言っているワトソンと、ちょっと可愛らしい会話を楽しんでいるところに、 フラフラと音もなく現れた次元が言い出した。 「と、とてつもなく、嫌な予感がする……」 そして既に持病の薬と化した、錠剤の胃薬を口に放り投げ、噛み砕いた途端に叫ぶ。 「うっわ、苦っ!」 そりゃ、糖衣を噛んだら苦いだろ…… それでも心優しき俺は、やつれ果てた次元に、最大級の慰めの言葉をかけてやった。 「太田さんの大活躍だね」 「ルパンくん、『い』が抜けてます」 「そう? じゃ、大分さんの大活躍だね♪」 「いやだから、前に付けても……」 恩を仇で返すというのは、こういうことを言うんだ。 せっかくかけてやった俺の優しき言葉に、目を吊り上げて怒る次元。 「ワトソン、こんな双子座の男や、あんな蠍座の男に、構うことはない!」 そして何やら、そんな次元に同調するワトソン。 「あ、そうでした。彼らが今日のトップだったのを忘れてましたよ」 けれど、その言葉で唐突に思い出した。 「あっ、俺も忘れてたっ! 青汁マドレーヌ!」 慌てて技術室を飛び出して、絶対に先を行くであろう蠍座の男を追いかける。 「ゴエちゃんたら、なによもう。誘ってくれてもいいのにさ!」 プリプリと文句を言いながら双子座の男を熱唱し、断固たる決意の元、家庭科室までキンちゃん走り。 そしてやっぱり先に到着していた蠍座の男が、ラブリー文子と何やら話しているのを発見! ここは、本日最大の難関だ。 キーワードは青汁。これをどう使うかによって、勝敗が左右される。 だから、ゴエモンに中指を突きたててキーキー猿真似をする文子を見下げ、ゴエモンの肩に腕を置きながら用意周到に切り出した。 「それ、めっちゃくちゃマズそうね……」 俺は青汁を飲んだことがない。けれど飲んだ後は、きっとこんな感じだ! オスカーまっしぐらな名演技を披露すれば、文子から放たれる、予想通りの批評。 「なんだと? だったら食ってみろ!」 よっしゃーっ! マドレーヌちゃんゲッチュー!(アヤパンサンキュー!) 「ルルルルルパン、やっぱり返して?」 変な垂れ目になった文子が俺にそう懇願するけれど、今さっきの夢のおかげで、文子の顔がまともに見られない。 さっきの夢で、お、俺は、お、俺は……(ごちそうさま) だから文子から目を反らしたまま返答する。 「そそそそそれは、無理だなもう」 「真似すんなっ! って、なんで赤くなってるのさ?」 クニュっとした唇を半開きにして、俺の顔を下から覗き込む文子。(そ、その顔は……) 「ねぇ、なんで赤くなってるの!」 プニっとしたほっぺを、ちょっと膨らましちゃったりして。(そ、その顔も……) これ以上は危険だ。鼻血注意報が発令される…… 「だって、文子が大胆なんだもん……牛柄がハラっと取れて……」 「はぁっ?」 「文子、今日、一緒に帰ろうね♪」 「やなこった!」 もう、照れちゃって可愛い♪ (えぇ、俺が) 結局、あんたが悪いと中島に窘められた文子は、未練タラタラで教室に戻っていった。 そこで中島からブツをせしめたゴエモンと肩を組み、ツーステップで廊下を歩き出す。 「あらゴエちゃん、左足からスタートでしょ?」 「いやだルパちゃん、右足からよ」 けれど、互いにゲットしたマドレーヌを振り回しながら、足並み揃ったところでゴエモンが切り出した。 「てかルパン、久恵から聞いたんだけど、悪魔のブツはヤベーらしいぞ」 「俺は文子のがあるから、もういらない♪」 「いや、そうじゃなくてよ、魔女がなんか混入したらしいのよ」 そこで登校時に放たれた、魔女の呪いを思い出す。 「ま、まさか、ウシガエルの内臓をすりつぶ……」 「ピーーーッ! それ以上は無理っ!」 ツーステップを止めて驚愕しながら囁けば、放送禁止用語編集音並みに、甲高い音を発して俺を止めるゴエモンの声。 オ、オレとしたことが…… 「そ、そうね、ゴエちゃん、よい子のさくはぴでは無理よね!」 「えぇそうね、ルパちゃん、よい子のさくはぴだもの!」 「じゃ、じゃあ、とりあえず、いっとく?」 「そ、そうね、いっとく?」 「ずぁいほぉ〜!」(※最高!) 「ふぁ〜ふぃあわふぇ!」(※あぁ〜幸せ!) 気を取り直して仕切りなおし、マドレーヌを頬張り肩を組みながら、教室までの道のりを進む。 けれど教室に足を踏み入れた直後、ゴエモンが俺の腕を肘でつつく。 正気に戻って、ゴエモンが顎で指す方向を見渡せば、机の上の物体を見下ろしながら鎮座する男が二人。 ワ、ワトソン、椅子に正座って…… とにかく、悪魔と魔女と本物の匂いが辺り一面を覆っている。 この最悪なミステリーゾーンに関わったら、この世の終わりに違いない。 だからジリジリと音を立てず、ゴエモンと共に後ずさる。 けれど、うな垂れていたわりに、視界の隅で俺たちを捕らえていた次元が、 ほしふる腕輪を装備しちゃってるほど素早く俺たちの退路を塞いで 「無視して逃げるとは、いい度胸じゃねーか?」 そう言いながら、次の攻撃に備えて身構えた。 「戦う? 逃げる? それとも装備する?」 まるで機械のような声で、ゴエモンが俺に囁くから 「いのちだいじにぃ〜っ!」 そう叫んで、戦闘開始。(とりあえずベホマっとけ!) ところが、そんな喧々囂々と戦い続けるトライアングルゾーンに 「はい、ちょっとすみませんね。あ、すみません」 片手を差し出しながら野次馬のようにワトソンが割り込んできて、 少し広がった三角形の中心までたどりつくと、表情をコロっと変えて言い出した。 「た、た、助けてください……」 うっわ 嘘くせぇ…… オレと同じく、ミステリーゾーンに関わることを避け続けていたはずのゴエモンが、勢いで口火を切った。 そしてそれに勢い付いた俺が続き、次元とワトソンが加わりグルグル回るアフォ会話。 「ワトソン、お前のアレは、うまそーじゃねーか!」 「そーだ! ワトソンは文子と手を繋いでない!」 「関係ねーだろっ! しつけーよ!」 「えぇ、繋いでないので、助けてください!」 「でもアレは、うまそーじゃねーか!」 「そーだ! 文子の手は、うまそーだ!」 「し、しつこくはないけど、関係はねーよ!」 「えぇ、関係ないけれど、助けてください!」 いつか誰かが止めるだろう。 そう思ってはいても、それが人間じゃなければ話が違う。 その声が直接脳に響き渡ったとき、四人が四人、瞬間にして固まった。 『遠慮などせず、食べれば良いものを……』 こ、この声はどこか……(しつっこい?) 全身の毛穴を粟立てながら、おそるおそる振り返れば、目をギラギラと輝かせた姉さんの仁王立ち。 そしてその目は、揺るぐことなくワトソンに向けられていた―― た、食べたら絶対殺される…… 「ま、まさか、お、お前、そ、それ……」 自分も魔女に呪われていることを忘れ、目先の恐怖に囚われた次元が、ワトソンのブツを指差しながら言い出した。 「えぇ、メイドイン本物です……」 ゴクっと唾を飲み干してから、ワトソンがそれに答える。 「それはアレだ、冥途イン本物」 ゴ、ゴエちゃん、それは漢字で見えないセリフには不適切…… 「で、でも、な、なんでリアルフジコが、お前にブツをよこすのよ?」 もっともらしい意見を次元が述べれば、地の底から響く声。 『哀れな生き物が、どうやら私に喧嘩を売っているらしいな……』 そ、そして、俺たちの全機能は、またもや停止した―― |
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