schole〜スコレー〜
二章
清々しい目覚め。朝が来た!
結局、タマの見張りにより体を弄る事は断念したが、チャンスはいくらでもある。何も初日にしなくても良いんだ。週一
ぐらいでできれば良いんだ。キャラの割に抜けた所のあるタマの事だ。どうせ隙はできるだろう。
『隙など……作るものか』
お、タマ。おはよう! 朝だぜ! もっと精力満天に喋れよ。ガラガラになってやがるぞ声。だがまぁ俺はそんな声の
お前も―――――好きだぜ!
『主は何故にそれほど元気が有り余っておるのじゃ………こちらは寝不足じゃというに』
目玉でも睡眠欲はあるのか?
『人間だった頃の名残じゃな。日に五時間ほどは睡眠を取らなければ辛い。食欲はなくなっとるし、せめて睡眠でストレ
スを解消せなならんのじゃ』
あれ? 性欲は?
『仮にもわしの体は十歳じゃぞ……まぁ良い。昨晩は主の見張りで徹夜じゃったからな……。主が学校に行っとる間、
わしは眠らせてもらう』
ほう………なるほど目玉も大変だ。しかしそれは良い事を聞いたな。安心しろ。お前の体は俺がじっくりと可愛がって
やる。
『それがいかんというに! ――――あ、無理。無理じゃわ。わしは寝る。学校が終わったら起こすように。良いな?』
了解!
『不安じゃ…………ぐぅ』
おぉ、もう寝たのか。早いな。
さて、では早速――――――――
「あっちゃあああああんっ!!」
―――――この声は。
俺はカーテンを開け、玄関前を覗く。
そこにいたのは小さなポニーテールをこさえ、小さなピアスをつけ、ついでに背も小さな少女。いや、少女と言っても年
齢的に俺のストライクゾーンからは大幅に外れてしまっているのだが。とにかく、その顔を見る限り、彼女は長年連れそ ってきた俺の幼なじみである。
「ぁうあああっ! どうしたんその眼帯!? 怪我!? 怪我なん!? でもあっちゃんが生ぎでで良がっだばぁあああ
あ!」
朝っぱらからそんなに大声で泣くな。すごい顔になってんぞ。
「おーい俺まだ起きたばっかだから台所ででも待ってろよ」
窓を開けてそう言い放ち、すぐにまたぴしゃりと閉める。
はぁ、今回は諦めるか………。運が悪いな。この調子では本格的に行為に至れるのはいつになる事やら。まぁ、焦っ
てしても面白くないし快感も半減だ。そのうちたっぷりと時間を確保して、じわじわと開発してってやるぜ。
俺はクローゼットから制服を引っ張り出し、鏡の前に立って着替える。
――――しゃあ! 今日も俺は超格好良いぜ!
こんなにカッコイイのに何でちびっ子達は俺の元に集まってきてくんねえのかな……。けっこう頑張ってるのにな。
とにかく、幼なじみを待たせているので、いつもよりは多少いい加減に髪型を正し部屋を出る。
台所。
「あっぢゃぁああああんっ! その眼帯何ぃいいいっ!? びゃあああぁぁんっ!」
こいつマジ泣きだ…………!
えー、彼女をそろそろ紹介しようか。
名前は恩田冬子。関西生まれというわけではないが、関西弁を使う。しかもなんちゃって関西弁。ご覧の通り、かなり
涙もろい。反面、切り替えも早い。数分後にはおそらく爆笑してるはずだ。所有属性は、まぁ、ポニーテール、女子高 生、チビ、貧乳、ピアス、関西弁、ぐらいか? あぁ、あと兄がいるので、プラス妹属性。こ、こいつ、女子高生じゃなくて 女子小学生とかだったらすげえ萌える! かつての俺は何をしてたんだ! 手ー出しとけよ! くそ! くやしい!
あ、そうだ。前々から思ってたが、妹属性って、そいつが本当に自分自身の妹じゃないとあまり意味ないよな。人様の
妹? ハッ! だから何? 俺にも妹いるんスけど? 勝負する? みたいな。
少なくとも俺はこいつにはときめかないし。つうかそれ以前に育ちすぎだし。背が低くてもな。やっぱ高校生までとなる
と、体型とかも変わっちまうし。
「あっちゃあああん……黙っとらんで答えてぇえええ……っ」
「いやいや、だから泣くなって。目の事は通学路で適当に説明してやるから俺が飯食うまで待ってろ」
「ひっく………でも、もう、時間………」
冬子が指さす先には時計。その針が示す時間を読むと。
「おぉ。もう八時か。ほんなら飯は歩きながら食おう」
朝のホームルームは八時四十分から始まる。あまりもたもたとしてられない。俺の担任は古くさい考えの持ち主だか
らな。全く遅刻ぐらい許せよ。俺の性癖なんて奴が知ったらと思うとホント恐ろしい…………!!
「はい………あっちゃんの鞄」
「おう、悪いな」
こいつ、いつの間に用意してたんだ。つうか鞄は俺の部屋に置いてあったはずだが……あぁ、そっか。妹か弟が俺の
寝てる隙にもってきやがったな。まぁ余裕で許すけどな!
と、飯は………お、ちゃんとこっちも妹が用意してくれてる。俺が寝坊する事も予想しておにぎり。机の上に置いてあ
る。か、かわいい! 血が繋がってなかったら二日に一回は抱きしめてちゅーして体を弄くりまわしてるのに! まぁとり あえず、こんなに愛しい妹がいるんなら他人の妹なんぞは必要ないという事だ。二兎を追う者は一兎をも得ず! だ! ぜ!
「さぁ早く行くで!」
冬子が俺の腕を元気よく引っ張る。満面の笑みで。
怖い怖い。変貌しすぎだよ。もうちょっと少しずつ変われ。こう、グラディエーション的に。
冬子がすごい力で袖を引くので、咄嗟に俺はおにぎりを手に取り、よろめきながらその後へと続いた。
そして、玄関で靴を履き、外へと出る。
「おはよう千秋さん! 結婚してください!」
髪の毛を短く刈り上げたあまり人相のよろしくない男子高校生がそこには立っていた。しかも俺に愛の告白までして
やがるし。まぁこれもいつもの事だが。
とりあえず俺は、
「うぜえきめえ帰れ」
そう返しておく。
こいつの名は朝野今太。冬子に次ぐ、もう一人の俺の幼なじみ。特徴を端的に言えば暑苦しい。近寄らないで欲し
い。その癖、馴れ馴れしい。何が嫌って、こいつに影響されて、俺も『結婚してくれ』と口走るようになってしまった事だ。 そりゃあ日常的に愛の告白されてりゃ影響されるっての………。ぶっちゃけ男に好かれても何も嬉しくない。むしろ気 持ち悪いっつうの。当たり前だよ! 男なんて地球に存在する価値もねえ! こいつもこいつで頭がおかしいんじゃない のか。あ、男は無理っつってもショタは別ですよ? どんどん来いよ! 全部受け止めてやるぜ! ヒュウ! あぁ、そ んで、一応述べておくならば、こいつの所有属性は、熱血、馬鹿、強面、の癖して童顔(言葉では言い表しにくい)、あ、 あと無駄に敬語……えーっと、他にないな。萌える部分ねぇー! たとえこいつが小学生だとしてもそこまで萌えねぇ! 全く可哀想な存在である。
そんな可哀想な存在である今太に俺はさらに追撃。
「俺、ショタっ子じゃないと愛せないから。諦めて巣に帰れ」
「千秋さん! その黒い奴は何なんですか!? 眼帯!? イメチェン!? も、もしかして事故の怪我がまだ………」
「おいおい言葉のキャッチボールしようぜ!? ていうかお前の投げてる球それボーリングで使う奴だよ!」
「僕は! 千秋さんのためなら何だってしようと思っているのです!」
「そういう宣言良いっつうの! 熱いしきもいって言ってるだろ!? そして、何だってするというのなら俺に金を献上し
てくれ! その金でロリ漫画でも買うから……!」
「あは! あははははは!」
冬子は今太の方を指さし狂ったように爆笑。
おうあ………改めて客観視するとよくわかるな。ちびっ子が寄ってくるわけがない。左には年中爆笑or号泣女。右に
は強面熱血男である。こりゃねえわ。ちびっ子どん引きだよ。
――――つまりあれだ。腐れ縁ぶった切らないと男の子女の子は俺の元には現れないって事だ。うへー世知辛い
ぜ!
「はい、というわけで俺は左目を事故で失ったのでした」
通学途中、俺はおにぎりを完食した後、タマの事を一切伏せたままで、左目をなくした経緯を二人へと語った。
車にはねられた辺りで冬子の涙腺は限界を突破したようで、再度、号泣をし始めてしまった。と思ったら、今太の馬鹿
も泣いてやがるし!
「あっぢゃんがばびぼおおおおぉぉぉ!!」
「何て言ってんだかわからねえ! もっと頑張れ!」
「ち、ちあ、千秋さん! ぼ、僕は、僕は! うぅううう………っ!」
「うるせえぇ! つうか別に俺はそんなに気にしてねえから良いんだよ! は! 片目ないとか超格好良いぜ!!」
俺ん家から高校までは一本道。曲がり角は一度もない。かといって、距離が結構離れているので、我が家から高校
が見えるかといったらそういうわけではない。しかもその一本道がきついきつい。上り坂になっているので自転車通学 などをしたら死んでしまう。それに徒歩なら妄想も捗るしな。
「千秋さん! 僕は決めました! 僕、これからは千秋さんのためだけに生きます! 僕が千秋さんの左目になります
よ!」
「あはははは! じゃあ私は右腕になるZE☆」
今太は相変わらずだが、冬子はすでに復活してやがる。こいつもしかして二重人格なんじゃね? 怖いわー。
「今太、俺は放課後に体力を残しとかなきゃならねえんだ。そこを頭に入れといてくれ」
もちろん、タマの体を楽しむためにだが。…………あぁ、もしかしたらタマが敵と戦えとか言い出すかもしれないから、
それのためにも。やる事が多すぎて学校行ってる場合じゃないな俺!
「ですが萩本さん。僕は萩本さんの事が好きなのですよ」
「だから言葉のキャッチボールをしようぜって! ボーリングの球でデッドボールとかしたら俺死ぬよ!?」
昔はこいつも俺に対して敬語を使ってはなかったんだけどな。こんな口調になったのはいつからだったか………あ
ぁ、あれだ。中二の時、初めて俺がこいつに告白されてからだ。あの頃は心底こいつがキモかったが、今では俺もある 程度慣れちまった。まぁ、自分の性癖の事もあるし、あまりこいつを否定できるような立場でもないが。
しかし、それはそれ。これはこれである。
「とりあえず今太、一つ言っとくぞ。俺はお前と付き合うなんて事は未来永劫ない。俺が好きなのはちっちゃな子供達な
んだよ! 俺に相手して欲しかったら十年前に戻ってやり直してこい。もしくは死んで生まれ変われ。わかるか? 誕生 から小学校卒業までを延々とループし続けろって事だよ。毛が生えてしまったお前に興味はない!」
「剃れば良いんですか!?」
「お前もうちょっと俺のメッセージ正しく受け取ってくんねえかな!? 大事なのはそこじゃねえんだよ! 要約するとつ
まりお前に用はねえって事だ! バニッシュユー! ショタっ子カモン!」
「………………う、ぉおうおうおぉおおおっ!!」
俺の言葉を聞いて頭に手を抱えた後、今太は男泣きをしてどこかへ走り去っていった。いつもいつも何なんだあいつ
は。
「あっちゃん、ちょっと酷いんちゃうの?」
「今日に限った事じゃないだろ。毎日同じ様な事あいつに言ってるし俺。その度にあいつ次の日には元通りになっちま
ってるじゃねえか。どういう神経してるんだあいつは!」
「それもそやねぇ。でもあっちゃん、たまには相手すればええのに。もう付き合ってみたらええんちゃう?」
「ねぇよ。お前も頭おかしいだろ。大体、一般的に考えて惚れるんなら俺じゃなくてお前じゃね? あいつもあいつでお前
に失礼だろ」
「キュン! 今の台詞……ちょっとキュンと来たわあっちゃん……」
「だからってお前も俺に惚れるんじゃねえぞ。マジで。俺の格好良さはお前らのためにあるんじゃねえ。ロリっ子やショタ
っ子のためにあるんだ。そこは履き違えるな。オレ、コドモ、スキ。デモ、オトナ、キライ。OK?」
「……私、今太よりあっちゃんの方がおかしいように思うねん」
「お前も大概だけどな。その口調いい加減直せ」
ちなみに、今太と違ってこいつのなんちゃって関西弁は高校に入学してから身に付いた物だ。理由はえーっと、『皆に
愛される女を目指す!』だったか? わけわかんねぇ。
「しかしあいつ、これ以上俺につきまとうようになったら留年するんじゃねえのか。授業中はずっと寝てやがるし」
「あっちゃんも授業中は抜け殻やん」
「俺は良いんだよ。内容はわかってるしテストの点も取れてるから。完璧超人俺。それに、俺は授業中抜け殻になって
んじゃねえ。深い深い思考の海へダイブしてるだけだ」
「思考の海? 何考えとるのん?」
「例えばだな。前回はショタっ子の女体化は許容できるかという議題について考えていた。いや、いけない事もないんだ
が、ショタにはショタの、ロリにはロリの良さがあるわけよ。だから、ショタはショタとして楽しみたいわけ。男の子だから こそ湧き上がる物ってのもあるわけ。大体、男の子なんだからち○こついてた方が良いんだよ。舐めたいんだよ。何で わざわざ取っちまうんだ。もっと言えば、ロリショタとかあるじゃん? 某格闘ゲームの賞金稼ぎくんで火が点いた。あれ も俺好きじゃないんだ。だったらロリで良いじゃん、みたいな。ふた○りとの違いはどれほどあるの。みたいな。もちろん 違いがわからないわけじゃないから、そこは勘違いしないで欲しいんだけど。ただ、身体的な違いはあまり見られな」
「自制せよ!」
俺は冬子に思い切り頭をはたかれた。
聞かれたから答えたのに。納得いかねえ。
端から見れば抜け殻にも見えていたであろう時間も終了。
つまり! 放課後! だ!
よしよし………タマはまだ目覚めていないようだな。では、さっさと家に帰って部屋に篭もって、と。
冬子にはすでに断りを入れてある(今太の馬鹿は学校をサボりやがった)。今日は一人で帰宅だ。よって突っ走って
帰る事も可能……! タマはこんな俺の策略には気づいていないはずだ。こいつ抜けてるからな。
『誰が抜けとると……?』
うおお! タマ! 何故目覚めた!?
『そんなにでかい思念送られれば誰だって起きるわ。あー、よく寝た』
もっと寝てろよ……。
『うるさいのー。で、授業は終わったのか? ここはまだ学校のようじゃが』
あぁ、終わったよ。これから帰るとこだ。だから体いじり倒そうと思ってたのにっ! くそっ! 数学の時間もどこから攻
めてくかとか考えてたんだぜ!?
『主は授業中に何をしとるんじゃ……』
まぁ、九割方が妄想だな。他には例えば女装少年について考えていたぞ。今朝冬子に言った事にも似てるが、女装
少年が女装する事を受け入れてそのまま女の子と同じ反応をしていたらそれはふた○りとあまり変わらないんじゃない かと思うんだよ。いや、細かな違いはあるからそこを楽しむ事もできる。そういう嗜好も俺は理解しているつもりだ。しか し! しかし俺が好きなのは無理矢理男の子に女装をさせて、なおかつその子が嫌がっているのを楽しみつつも徐々 に攻めて……あ、もちろん下着も女物だぜ? トランクスなんて穿いてたら楽しみが半減して
『少し自制せい! 主は普段からそのような思考ばかりしておるのか!? わしにはイメージ映像までびしばし伝わって
くるのだから今後は控えて欲しいのじゃが!?』
あ、良いな。おかずいらずじゃんタマ。
『性欲はないと言うとるに! ………もう良い。とっとと行動に移るぞ』
あれ? 何? 体使わせてくれるの?
『別の目的にじゃがな』
…………敵かー。面倒臭えなぁ。てかさ、思ったんだけど敵ってどこにいるの? あっちから来るわけ? こっちから
行くわけ? 県外に出るとか言わねえよな? 俺、妹に小遣いやらなきゃいけないから金ないんだよ。
『安心せい。おそらくは向こうから来てくれるはずじゃ。わしがあそこにいたのも、組織の研究員が運搬中に落としたか
らじゃしの。奴らの施設も近くにあるはずじゃ』
組織? 敵はどっかの組織なのか? おいおい、俺ただの高校生だぜ。あんまり凶悪な事に巻き込まないでくれよ。
『詳しくは割愛するがの。わしのような存在が実は他にも多くおるんじゃ。奴らは今、ある組織に捕まっておる。研究目
的らしい。それを助けるためにわしは行動しておるわけじゃな。心配せずとも、武力組織ではない。あくまで戦いはこち らから仕掛けるのじゃ』
それなら実際に俺が戦う敵は? ただの人か?
『じゃと思うが…………もしかするとすでにわしらの仲間の誰かが奴らへと取り込まれておる可能性も、なくはない』
何だ、お前の仲間ってのはそんなにさくさく裏切るような連中なのかよ。
『そういうわけではない。奴らのやり口が優れておるのじゃ』
あれか? 洗脳とかそういう。
『詳しくは知らんがおそらくその類じゃろう。主も気をつけろよ。では、ひとまず家へ戻ってわしの姿に変化するぞ』
おっけー。初めからそのつもりだぜ。むっはー!
『心配じゃ……』
午後五時十五分。
俺は駅前の商店街を闊歩していた。
タマの姿で。浴衣を着て。髪もヘアピンでかわいくまとめて。
みなさーん! 俺はこんなにも可愛いですよ! ほら! もっと見て! 和服幼女ですよー! 滅多にこんなの見れま
せんよー!
『主、ここに来た目的を覚えておるか?』
敵をおびき寄せるんだろ。わかってるって。だから目立つように浴衣着てんじゃん。うへへへへ誰かに写真取りまくっ
て欲しいなぁ。後で弟にでも頼もう。
『はぁ…………どうしてわしはこのような奴に体の主導権を握られておるのじゃろう』
らーらーらー♪
「お嬢ちゃん。一人でここまで来たの? お父さんかお母さんはいないのかな?」
お。サラリーマン風の男が俺に声をかけてきた。
なるほど………早速、俺の色香に惑わされてしまったわけか。だけどそれ、典型的な不審者の声のかけ方だぜ。今
時の子供はそう簡単には騙されない。
「いるよ! 今ね! このお店の中でお買い物してるの!」
俺は近くのスーパーの方を指さす。
『主…………何じゃその話し方は』
このロリコン親父追っ払うんだよ。子供っぽくな! 少しは萌えビーム発してやらねえとこいつ可哀想じゃん。
『主の脳の方が哀れじゃわ』
なにおー。
「あ、そ、そっかぁ………それなら良いんだけどね」
俺たちが内側でそんなやり取りをしている間に、当のサラリーマンは鼻息を荒くしつつもそう言い残し、早々と去って
いった。
…………野郎、あの反応はやっぱ親切心で声をかけたわけじゃなかったんだな。いやはや、怖い時代になったもん
だぜ。
『主も同類じゃろうに』
うるせぇなあ…………で、ホントに勝手に敵は近寄ってくるのか?
『もちろんじゃ。一つ問題があるとすれば、敵の姿がわからんという事だけじゃな』
それはけっこう大きい問題だと思うが?
『大丈夫じゃ。わしが一見すれば察する、はずじゃ』
段々わかってきたけどお前って案外適当だよな。作戦を考えてから行動に移せよ。
『今後、考慮しよう』
全く………。
しかし、幼女の姿ってのは便利だな。いや、俺の趣味がどうこうというのではなく、周囲の人間全てが俺を気遣ってく
れる。あ、婆さん、みかんはいらねえから。おばさん、家までは一人で帰れるから。いちいち話しかけてくる奴らにそう答 えなければならないのは煩わしいと言えば煩わしいが。
「おい、そこの。タマ」
あん? 何か凛々しい声が聞こえたぞ? 今までの人々と違い、喧嘩を売っているかのような口調である。
「タマ。聞いているのだろう。タマ」
声の主はスーパーの中にいるようだ。
そちらを見やると、どうやらその人物であろう少年が立っていた。タマとはさほど年齢は離れていないようだ。髪は短
く、申し訳程度に後頭部で一つにまとめている。服装はラフだが、それは表情とは欠片も一致していない。愚直、生真 面目、真摯、そんなような言葉がよく似合う顔だ。俺とは正反対の位置に立つ人物だろう。
まぁそんな事よりも―――――
「君! 名前は何て言うのかな!? 私と良いことしない!?」
俺の今の体を使えば、ショタもロリも同時に両方を楽しむ事が可能………!! これは神が俺に与えたもうた人生に
一度きりのチャンスなんだ!!
『こ、コロ…………』
あん? コロ? いつもの突っ込みはどうしたよタマ。
『…………主。こやつはわしの仲間じゃ。名をコロという。小太郎、略してコロじゃ。しかし、今ここにおるという事は、奴
らの元から脱出をしたか、はたまた………』
敵へ寝返ったか。ていう理屈になるな。
「貴様…………タマではないのか?」
コロ、という名のショタっ子は俺にそう問いかける。
「え……あ、あぁ、タマだぜ? 超タマ」
「タマはそのような話し方ではないのだが」
こいつも、可愛らしい声と名前してやがる癖に妙に年寄り臭い喋りだな。まぁそこが逆に萌えたりもするんだけど。
「や、俺、元の体の持ち主。タマの意識は今俺の中にしかないよ」
「何と…………裏返ったというのか。貴様どのような手を使った」
おおう。俺が体を操れるってのはそんなにありえねえのか。全く、ホント日々の妄想の賜物だぜ。
「ククク、教えて欲しけりゃ俺の質問に先に答えるんだ」
「…………言ってみろ」
「お前、俺たちの敵か味方かどっちだ?」
「貴様がタマの仲間だというのなら、俺は貴様の敵という事になるな」
なるほど、裏切ったわけね。
タマ。こいつ、そんなわけなんだけど。どうするよ? つうかやっぱお前の味方簡単に裏切ってるっぽいじゃん。信用で
きねぇなー。
『こやつだけは例外じゃ。性格が性格じゃからな。このような話し方で箔をつけておるが、本質はただの戦闘狂じゃわ。
言うなればまぁ体育会系のアホじゃな』
そういう言い方をされると危機感が薄れるからやめてもらえるか。
『すまん』
さて、ということは、俺はこのかわい子ちゃんと戦わなきゃならねえのか。気が進まないな。傷をつけたくない。………
しかし、やらなきゃならねえ。
「そんならかかってこいよ。えーっと、コロ。痛くはしないぜ。俺に任せてればな。すぐに意識を飛ばしてやる」
『主はそのような言い方しかできんのか』
しょうがねえだろ。普段妄想しかしてねえんだよ。
「ふむ。タマとは裏返らんというわけか。俺は構わんのだがな。貴様はそれで良いのか? 命を落とす事になっても知ら
んぞ?」
「大丈夫。俺は強いんだぜ」
「………自信家だな」
おい。おい。タマ。ちょっとこいつの弱点教えてくれよ。仲間だったんならそのぐらい知ってるんだろ?
『主……偉そうな口叩いておいて、結局それか。まぁ良い。一つ言っておくが、わしらの仲間は皆、普通の人間にはない
特殊能力を備えておるぞ』
え? 何それファンタジー? ずるくね?
『そしてまぁ当然じゃが、一応、わしの体にもそれは備わっておる』
おぉ! 何だ! やればできるじゃねえかタマ! で、つまりつまり? お前の持ってる特殊能力を駆使すれば勝てる
って事か?
『いや、恐らくそれでも無理じゃろうな。実はコロはな、わしの仲間の中でも一番の実力者じゃ。伊達に喧嘩を売り歩い
ておるわけではない。主ではおそらくひとたまりもないじゃろう。五秒も経たぬ内に決闘終了じゃ。………まさか奴が真 っ先に懐柔されるとはな。面倒な事になった』
お、おい、どうすんだよ!? 勝てっこないんじゃやるだけ無駄だろ! しかもあいつ滅茶苦茶こっち睨んできてる
ぞ!? 逃げる隙もできやしねえ!
『ふ………千秋よ。案ずるな。そろそろ主の問いに答えるとしようではないか。実はな、奴にも弱点は存在する』
そこを突けば勝てるってんだな!?
『――――――奴の弱点はな。馬鹿な所じゃ。どんな人間の言葉にもころっと騙される。コロだけにな』
長年生きてるだけあってギャグも親父化してるぜタマ。
『うるさいのう………あー、つまりじゃな。所詮、馬鹿。奴はわしらの言う事も簡単に信じてくれるのじゃ。あの戦闘狂に
肉弾戦で勝つ事は容易ではないが、頭脳戦ならば、な? わかるよな? 今のところは、じゃ』
……………えーっと、だから、つまり、俺がやらなきゃいけないのは。
「おい、コロ」
「何だ」
「さすがに、こんな商店街のど真ん中で戦うなんて言わないよな? どっか別の場所に移動しようぜ。近くに良い場所が
ある」
「ふむ、なるほど貴様の言う通りだ。それでは案内してもらえるか」
「あぁ。と言っても道程は大したものじゃない。この商店街を南に真っ直ぐ行くだけだ。そこに小さな空き地がある。土管
が三つ並んでるから、それを目印にしてくれ。コロは先に行ってろよ。俺はちょっと準備しなきゃいけない事があるか ら、それが終わったら行くよ」
「了解した」
「必ず行くからな。ちゃんと待っててくれよ」
「了解した」
俺の言葉に二度頷くと、コロは尊大に身を翻し、人混みの中へと消えていった。
…………あぁ、ホントだ………簡単に騙されやがったあいつ。
『だから言ったであろ? ふふふ、奴め。恐らくこのまま明日の朝まで待ち続けるだろうぞ』
お前ひどいなぁ………。つうか、あいつはそれだけ待たないと騙された事に気づかないのか?
『ふん。間違いはない。わしが何年奴と付き合ってきたと思うとる。奴とは六歳の時から顔を知り合うとるんじゃぞ』
俺にとっての、冬子と今太って事な。
『誰じゃそれは?』
や、今度機会があれば紹介するよ。そいつらも結構馬鹿な連中だぜ。
『ふむ、期待しよう。――――しかし、奴が動いておるという事は、宿主を見つけたという事じゃぞ。その人間は組織に
囚われておるのか、もしくは、コロと同じく自らの意志で組織についておるのか。そこは明らかにしておかんとな』
ん? おいおい一人だけ理解してんじゃねえぞ。俺にも説明しろ。何を言ってるんだ?
『わしが主の肉体を借りねば姿を現せんように、コロも普通の人間の肉体を借りておらねばおかしいのじゃ。わしの仲
間は例外なくそういうものじゃと思え』
ほうほう、てことは、何だ。あいつも本体は目玉なのか?
『いや、奴は違う。わしと同じような存在と言っても、それぞれ仲間達は違う形をしておるからな。わしが左目であるよう
に、耳もおるし、指もおるし、歯もおるし、髪の毛などもおる』
はぁん、なるほどな。つうかお前の仲間総じてグロいな。
『悪かったの………あぁ、それと、宿主は男じゃぞ』
ん? どうしてそう言い切れるんだ?
『教えてなかったが、宿主との性別は一致しておらねばならんのじゃよ。コロ然り、わし然り、な』
ほほう、成程。
『ん、ま、とにかくじゃ。当面は宿主の特定と、コロ攻略の作戦会議じゃな。あの馬鹿が相手なら策もかなり有効じゃろ
う』
そりゃそうだな。あいつに策を見破る頭があるとは思えない。………と、でも、宿主の方の頭が良かったらどうすん
だ? そういう可能性もあるだろ。
『…………ふむ、そこまでは考えてなかったな。ま、何とかなるじゃろう!』
うわ適当だなー…………。ま、良いか。とりあえず、先に宿主を見つけて、そっからだ。もし宿主も頭悪ければ、それ
はそれで問題ない。悪くなかったら…………まぁ、頭が良い相手にも通用する作戦考えようぜ。
『じゃな。時間はそう短くない。できるだけ多くの場合に対応できるような策を用意しておこう』
よし、決まりだ。さて、帰ってそろそろ部屋に戻っているであろう妹に小遣い一万円やらなきゃな。この体でも遊ばなき
ゃならないし。
『それは義務ではないし、わしが許さんぞ』
残念だ。別に減るもんじゃないし構わないだろうに。
俺はそうタマに文句を言って、商店街から自宅のある東方向へと歩き出した。
一日目、なんとか終了である。
――――――あ、そうだ。そろそろ俺の自己紹介もしとかなきゃな。
えー、名前、萩本千秋。性癖に問題、つまりロリとショタ以外は興味なし。女ならギリギリ中学生までOK。先日、左目
を無くし眼帯スタイル。容姿端麗。カラスの羽のように黒く固い髪の毛は胸の下辺りまで伸びている。自分で言うのもな んだが、性格はあまり宜しくない。数年前、中学生の頃までは正義感に満ち溢れてたんだけど、今では大してそういう のは残っていない。駄目人間だ。学校の成績は悪くないがな。所有属性は略。あ、ちなみに趣味は妄想。
…………ふむ。まぁそれぐらいか。
最後に、今太の名誉のために付け加えるならば、えっと、なんだ。
―――――――性別、女、かな。
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