schole〜スコレー〜
四章
今太の精神は想像通りそれほど強くないようで、一瞬にしてコロにまた体を乗っ取られた。
ついでに俺もタマから肉体を奪い返す。
『千秋! おい! もう一度わしと代われ! 主も何やらコロの宿主と知り合いのようじゃが、とりあえずわしもこやつに
は訊かねばならぬ事が……!!』
うるさいなタマ、それは俺がやっといてやるぜ。俺の交渉術を舐めるなよ。みんなの欲望を全て叶えてやるぜ。
『欲望て』
「コロ。今太がどうとかは別に興味ないから放っといてだ。タマが訊きたいそうだ。今まではお前、こいつに手加減した
事はなかったそうだが、今回はどういう心境の変化なんだ? それを聞かない限り俺らもどうしようもないぜ」
「…………………」
「おいおい勝負に負けたんだから今週一杯は俺の命令に全て従うのが筋ってもんだろ」
『それは言い過ぎじゃろう』
だってそうすればとりあえずは俺の欲望が満たされるじゃん。
『主はなんという……』
「…………どうしても喋らねばならんのか」
「おうよ! まぁ喋る事喋ったらあとはじっとしてるだけで良いぜ! 三十分もしたら終わってるから!」
俺の情熱的な想いを受け止める覚悟が出来たのか、コロはため息をついた後にゆっくりと口を開いた。
「……元々、貴様に勝つつもりはなかった。俺は負ける気で今日ここに来たんだ」
「そりゃまたどうして」
「俺は好きこのんで奴らの仲間になっているわけではない。指示に従わねば仲間が殺されるなどと言われてな。それ
に、俺の頭には爆弾が埋め込まれているらしい」
ほほうなるほど。
タマ。タマ。お前コロは戦闘狂だから裏切ったとか言ってたよな? 目測誤ってんぞ。どうした幼なじみ。
『わしとて間違う時もあるわ』
常に間違ってるじゃねえか。
「しかし黙って奴らの指示に従う俺ではない。だから、せめてもの抵抗として、ここでは負けるつもりでいた」
「…………あー、えーっと、もしかして今もこの会話は聞かれてたりするのか?」
「あぁ。耳に盗聴器を仕込まれている」
「という事はお前が研究所の場所をばらした途端に」
「俺の首は吹き飛ぶだろう。まぁ、俺たちの仲間はそう簡単に殺されないだろうが。奴らにとっては貴重な研究材料だし
な」
ふむ―――――なかなか面倒臭い事になってきたな。すんなり研究所の場所も聞き出せないし、ついでに今太も関
わってると。おいタマどうする? お前は何か考えあるか?
『……………今、頭をひねっておる所じゃからちょいと待て』
全くタマはいつも通り役に立たないな。駄目ロリだな。もしかしてドジっ子属性とかついてたり?
しょうがないから俺が何とかしてやろう。
―――タマ。普段のお前ならこういう時どういう行動に出る? コロもお前らの仲間も助けるの前提でだぞ。
『や、それは―――――このままコロを見逃すじゃろうな』
成程。じゃあそれでいこう。
『え』
ん、んー。
「コロ………このままここから去れ」
「ん? タマ、か?」
「そうじゃ」
違うけど。
「主もわしらの仲間も救う方法は今のところ存在せん。コロ、主は研究所へと戻れ。これからもわしらは敵同士じゃ」
そう言いつつも俺は地面に落ちた竹刀を拾い、袋へとしまう。………隙にその中からメモ帳とシャーペンを取り出す。
「おぉ?」
馬鹿、不思議そうな顔すんなよコロ。空気読め。
俺はなるべく目立たないように、さらさらと紙に文字を書きつつ、言葉を続ける。
「ほれ。早くこの空き地から立ち去れ」
「ぬ………」
全く。ホントわからねぇ奴だなこいつは。
ふんぬー!
「ぅぐ……っ!?」
俺はさっきのタマズ必殺技を再使用。コロの目を力一杯睨みつける。
左目ににゅりっとした感覚を覚え、それと同時にコロの体が停止した。
さらに俺はコロにすたすたと歩み寄り、右手にメモ帳の切れ端を握らせる。
…………んー。
ついでにほっぺにチュー。
「ぎゃあああああああああっ!!」
うおうっ!
凄い早さでタマに体の支配権を奪われた!
奇声をあげながら唐突に前転を始めるタマ。
俺にしては珍しく口は遠慮してやったのにこれかよ。
「ふおおうぉおおおおお………っ!」
体の拘束が解け、時間差でコロもなにやら頭を抱えて呻き始めた。
何こいつら。
まぁ、かくいう俺もこれで三日はネタに困らないわけだけども。
「あっれー? 君らこんなとこで何しとんの?」
…………ぉおおおおこの声!!
俺と今太にしかわからないがこの声は確かに!
体の主導権を得て、ばっと背後を振り返る。
「や。その浴衣かわええね」
そこにいたのは茶髪ポニテチビ女。
やっぱ冬子だ!!
見ると、コロの方も、いつの間にか今太と入れ替わっているようである。そりゃ、あいつもびっくりするよな。
「君の前転上手やったよ! ほんで君ら何しとんの? あ、その前にとりあえず名前、名前なんていうの? あたしは恩
田冬子ゆうんやけど」
とりあえず、黙っているのはまずい。逆に怪しまれる。
「ちあ……………タマだよ……っ!」
「チャタマちゃん? 変な名前やね。そっちの子は?」
冬子はコロ(今太)の方を指さす。
「こん……………コロですっ!」
「コンコロ君? こっちも変な名前やね」
危ない! ぎりぎりだ!
「と、冬子さんこそこんな所で何をしてるんですかっ!?」
お、良いぞ今太! 攻めろ! 攻め続ければ冬子は馬鹿だからきっとそのうち質問を忘れて帰るぜ!
「買い物の帰りに通りがかっただけだぜ☆」
「何の買い物なのっ?」
「夕飯の買い物だぜ☆ カレーやけどー。チャタマちゃんも食べる?」
「遠慮しておくよっ!」
「……びゃあああああああああああ断られたぁぁあああっ!」
泣いたっ!? こいつホントめんどくせえ!!
『ち、千秋。何じゃ、こ奴は』
おう復活したかタマ。
こいつは俺の十年来の幼なじみだよ。いやもっとか。かれこれもう十三年ぐらいになるかな。
『難儀な友人を持ったのぉ……』
よく言われる。でもそっちにいる今太も相当ひどいぜ?
『難儀じゃな……』
よく言われる。
さて、フォローに回ろう。こういう時のこいつの取り扱いはよく知ってる。
「えーっと、お姉ちゃんのカレーがおいしすぎて私のほっぺが落ちちゃうから食べれないんだよっ!? ごめんねっ!」
「あ、そうなん? それならしゃあないわー」
『…………千秋。わしはこ奴の変わり身の早さが怖いんじゃが』
それは初心者が陥りやすい罠だ。こいつの場合、特に裏はないから安心して良いぞ。
『奥が深いな……』
だから浅いんだって。
「うひゃーあかんあかんっ! もう五時やん! 私早く帰ってカレー作らなあかんねんな!」
携帯電話のサブディスプレイを確認し冬子はそう叫んだ。
「ばいばいお姉ちゃん」
「ばいばいチャタマちゃんコンコロくん! ほなな!」
不安だった割には呆気なく、買い物袋を両手につり下げ、そのまま冬子はたったと住宅地の方へと消えていった。
『台風のような女じゃな』
なかなか的を射た事を言うなタマ。八十点だぜ。
『どうすれば百点だったんじゃ?』
そうだな…………女心と秋の空を絵に描いたような奴とか言ってれば百点だったぜ。
『ほほう成程の』
ちなみにそれを考えついたのは今太だ。あの馬鹿たまに冴えてるんだよ。
『もしかして実は頭が良かったり?』
はははあいつにかぎってそれはねぇよ。
………………て、いつの間にかコロいなくね?
どれだけ見渡しても空き地内には俺しか残っていない。
恥ずかしくなって逃げたなコロめ……。
『………主が余計な話を始めるからじゃぞ。とにかく、ここにおっても無意味じゃな。わしらも帰るぞ。全く、今日の勝利
は何ももたらさなかったのう』
ん? そうでもないぜ? 俺ちゃんとあいつにメモ渡したから。
『――――そういえばそうじゃったな。あれにはなんと書いたんじゃ?』
今太達が研究所の場所を言えないのは盗聴されてるからなんだろ? だったら別にあいつの携帯で俺にメールしてく
れりゃ良いじゃん。オールオッケー。文明の利器すごいね!
みたいな事を書いたんだ。
『もしかしたらコロの体には隠しカメラも設置されておるかもしれんぞ?』
それならそれで対応のしようはいくらでもあるぜ。まさかそのカメラが全ての方向を監視できるわけないだろ。死角を
使ってボタン押せば良い。
それも書いといた。
『主が文字を書いておるところを見られたかも?』
――――なるべくそうはならないようにしたつもりだけど。警戒はされてるかもな。
『不安じゃのう…………』
気にしても仕方ないさ。楽にいこうぜ楽に。手は打てるだけ打ったしな。現状じゃ、これ以外にやりようはないんだし。
『かもしれぬな。ならば主の言葉に従うかの』
よし。それじゃしばらくは今太からの連絡待ちって事で。あー疲れた。こんだけ疲れると性欲もなくなってくるよなー。
『………主。あ奴が何故コロの宿主になっておったのか疑問はないのか?』
んー、あるっちゃあるけど。あいつの事だし大した理由じゃないだろうぜ? 考えるのが面倒なぐらいに。あ。そういや
今太の奴、今日の朝、事故で右腕骨折したっつってたな。あれ実は右手首なくなってたんだな。成程成程。あいつにし ては頭が良い。
『本当に気にしとらんのじゃな……あ奴泣くぞ』
良いんだよ。コロの性格からして、今太が嫌々宿主になったってわけでもないだろ。
『………いや、実の所わしが気になっておるんじゃが。こういう事ははっきりしておきたい性質でな』
わぁ全くタマは可愛いなぁっ! 舐め舐めしたいぜ。ああ、今は俺がタマなんだから自分の体舐めれば良いのか。
『だからと言って舐めるなよ!?』
腕をまくり上げたところでタマからストップがかかる。反応早いな。
それじゃタマの命令に従ってやるか。直接今太にメールで訊いてやるよ。それで満足だろ?
『す、すまんな』
ぴ、ぽ、ぴ、ぽ、ぴ。お前なんで宿主になったの? と。
送信ー。
『携帯電話の文字を打つのが速いところは今時の女子高生っぽいのう』
年寄り臭い事言うなよ。これだからタマは。
あ、返信ー。
えーっと、なになに? …………あー。
『どういう事じゃ? これは』
タマには説明してなかったっけか? コロと同じで、今太も俺に惚れてるんだよ。だからだろうな。
『お、そ、そうなのか。な、何とまあ物好きな』
おい何引いてんだ。
…………とにかく、メールの本文には、こう書かれていた。
【萩本さんがショタっ子カモンと言ったからです】
帰宅。
姉弟達を力一杯抱きしめた後、自室へ戻り布団に倒れ込む。
あ、も、今日はあれだ。ホント性的な事をする気力がねぇ。
『それはなによりじゃ』
………まぁ昨日散々いじったから良いんだけどな。
『――――――な、なんじゃとっ!? 今なんと!?』
だって疲れて寝るっていう俺の言葉を簡単に信じるんだもんお前。騙しやすいったらありゃしねえ。おかげで長時間に
わたって楽しむ事ができました。ありがとうタマ。
『だ、だから今日は主の性欲が抑え気味じゃったのか。う、よ、汚された………もう嫁にいけん』
あ、別に破ってないから大丈夫だぜ? タマの純潔は守ってますよ?
『そういう問題じゃない………』
難しい年頃なんだなタマは。
『うるさい…………』
タマの事は放っておいて、今太からは案外早く情報を得られた。家に戻る道すがらずっとメールのやり取りをしていた
のだ。
研究所の場所も知る事ができたし、いくつかの内部事情もわかった。
なんでも研究所の所長が別の人間に代わったとか。タマの仲間達は地下一階にまとめて捕まってるとか。その研究
所も大きな組織の一施設にすぎなくて、日本全国にはもっと多くの研究所があるとか。他にも細々とした情報がいろい ろ。
たくさん研究所があるってのは気がかりっちゃ気がかり、都合が良いっちゃ都合が良い。
が、とりあえずこれだけわかってれば、そのうち隙ができた時にでも攻めこめば作戦しだいでタマの仲間は助け出せ
るだろう。
見込みはある。
『そんなものないわ……』
もー。タマは暗いなぁ。そんなんじゃ幸せの青い鳥もどこかへ飛んでいってしまうぜ?
お、今太からメールだ。
ほらほらタマまた情報が増えるぜ? 明日に向かって一歩前進だぜ?
俺は受信フォルダを開き、メールの本文に目を通す。
【冬子が研究所にさらわれました】
…………え? ちょ。
『…………どうした千秋?』
いやいや。何か冬子があいつらに攫われたとか……てかそんな簡単に暴力的な事するような連中じゃなかったんじゃ
ないのか!?
『―――――――先程の台風女、か。確かに以前の奴らはそんな行動を起こす連中ではなかった。わしの仲間は捕ま
っておるがな。じゃが、今は所長が交代したんじゃろう? それに合わせて研究所の方針も変わったという事じゃろうな ………。これ以上人質はとられはせんと踏んでおったが、わしの読みもそう上手くはいかんものじゃ』
……あー、次から次へとホント面倒臭いなっ!! 何かもうだるくなってきたよ俺は!
『さてどうする? 主の友人じゃ。主が決めろ。わしに決断する権利はない』
――――あのさー、俺そんなに友達見捨てるような薄情な奴に見える?
こうなっちゃもたもた待ち体勢とってもいられねえさ。勝算は低くなるが背に腹はかえられねえ。
早速で悪いが、研究所に乗り込むぞ。
『性欲を満たす以外のために主が働くところを初めて目にした気がする』
たまには格好良いとこも魅せないとな。タマもそのうち俺に惚れさせる気だから。
『それはないけどの』
言ってろよ。――――装☆着!
俺はタマを握り、左目へと押し込んだ。
手が縮み足が縮み胸がへこみタマへ変身する俺。
浴衣に着替え、竹刀もないよりはあった方がマシだろうって事で背中に縛る。
あ、そうだそうだタマ。研究所の場所覚えてるか?
『当然じゃ。主は覚えとらんのか……ついさっきメールで読んだばかりじゃろう。いちいち携帯電話を確認するのも面倒
じゃし、道はわしがナビゲートする。安心しておれ』
かたじけねー。あ、徒歩で十分いける距離だったよな?
『うむ』
まぁそんならお茶と携帯だけ持ってけば良いか。
『遠足気分じゃな主……』
まだ就寝には程遠い時間なので、家族に見つからないようそろりそろりと歩き水筒に麦茶をつめる。
さらに、俺はそれをホルダーに入れ、幼稚園児の頃に遊園地で買った肩下げ紐を取りつけた。紐を首に通すと、ひん
やりとした感覚が腰の辺りに当たる。
今の俺の姿、滅茶苦茶可愛いんだろうなぁ……。よし鏡見てこよう。
『そんな場合ではないんじゃ』
文句が多いぜ仔猫ちゃん。
『いや主が決めたんじゃろう。油を売っておらずに早く救出に向かえ』
しゃあねえなぁ。じゃあ行くか。
俺は玄関で妹の靴をちょろまかし履く。コロとの闘いで俺の下駄はボロボロになっちまったしな。ごめんね我が妹よ。
十倍返しするから。あぁ、しかしこれが妹の靴か…………なんて芳醇な香りはぁはぁべろべろ。
『やめい! こんな所を当の妹に見られでもしたらどうする!?』
まずい事態に陥る。俺はそれも辞さない覚悟だが?
『主は先に覚悟した事を忘れたのか!?』
……おぉ、そうだった! 急がないと。
『どうして家から出るだけでこれほど疲れねばならんのじゃわしは……』
大丈夫。こっからは俺マジモードに入るから。
『それは頼もしいの』
嘘じゃねえぞ。いくぜ。ふー、はーっ!
俺は勢いよくドアノブをひねり、玄関から外へと出た。
気合いは充電完了だ。
よしタマ。まずはどっちに進めば良い?
『左じゃ。ひとまずは商店街へ向かえ』
おっけー。
と、俺が門から一歩前に出ると。
その脇に、コロがあぐらをかいていた。
「……おいおいお前こんなとこで何してんだ」
これこそまずいだろ。俺とコロは表面的には敵同士だ。あまり簡単に顔を合わせるわけにはいかない。
「貴様一人では危険だろう。組織を裏切る事にした」
おい何言ってんだこいつは。
「いやだって頭の中に爆弾が」
「重々承知の上だ。今この瞬間に爆破されても俺は一向に構わない」
「死ぬ気かよ」
「死にたくはないがな。ま、俺が裏切ったところですぐに仲間は殺されはせぬ。死ぬ可能性があるのは俺だけだ。安心
しろ。できるだけ俺とは距離を取っておけよ」
……はー、全く。
『千秋! コロの口を塞げ! こやつに裏切らせるな!』
もう遅いっての。こんだけ喋ればこいつが寝返ったのなんかとっくに連中にばれてる。
『コロ………』
しかし、まぁ、タマ。そう嘆かなくても良さそうだぜ?
『……何故そう言い切れる?』
それを今からコロにも説明してやるから、大人しく聞いてな。
俺はコロに顔を近づけ、口を開く。
「おいコロ。お前は死なねぇよ」
「…………何?」
「あのさ、お前の頭の中に爆弾が仕込まれてるってのは、研究所の連中から聞いたんだろ?」
「あぁ」
「じゃあそれは嘘っぱちだ。お前の頭に爆弾なんか入ってないんだよ。さっきからけっこうべらべら喋ってるのに、いまだ
に爆発してないんだからな。本当に爆弾が仕掛けられてるとして、今爆破しないメリットなんて奴らにはない。だってそう だろ? お前を服従させるのが目的だったのにその意味がなくなっちまったんだし」
「確かに……そうだな。では俺は死なずとも良いのか?」
「もち――――たく本当に爆弾仕掛けられてたらやばかったぜ? 間違いなくお前死んでたよ。無茶すんなよな。お前
だけの体じゃないんだから」
「…………そうだな。この体は俺の物ではない。一時的に朝野今太から借りているだけだ」
「え? あー、そういう意味で捉えるんだ。まぁ良いけどさ。ところで今太も死ぬ覚悟だったわけ?」
「あぁ。さすがに俺一人の判断で無茶はせぬ」
「お前がこんな事するのはタマに惚れてるからだろ? 今太は何? まさかあいつも俺に惚れてるからとかそういう理
由?」
「そのようだな」
「はー」
ここまでくるとあいつも頭がおかしいとしか思えないな……俺も引くのを通り越して少し感動してきたぜ。
『何故に奴は主にそれほどまでに惚れておるのじゃ……?』
知らねーって。あいつが俺に惚れた切っ掛けは知ってるけどさ。
『それは気になるの。教えろ』
大した話じゃないぜ? 教えても良いけど。
『教えろ』
…………ま、徒歩じゃあ長い道のりだし。その間に喋ってやるよ。
よしそんじゃとりあえずは。
「派手に行くぜコロ! 研究所に出発だ!」
「応」
俺は口元を緩め、左方向へと足を踏み出した。
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