schole〜スコレー〜
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 第一章


「昨日のは結局何だったんだ?」
 家に帰り、落ち着いた頭でよく考えてわかった。
 あいつ、本物の超能力者じゃん、と。
 よく俺ら生きて帰れたな、と。
「うーん、でも面白かったよね。もう一度あの子来てくれないかなぁ?」
「お前ホントすっげえプラス思考だよな。俺はあんなんとは二度と関わりたくねえよ」
 まあ、確かに、子供の頃は魔法やら超能力やらに憧れたりした。しかし、俺はもう高校生だぞ? 実際にそんなもん
があっても怖いだけだ。あのガキみたいに、はしゃいだりはしねえ。
「そうかなあ? あのトワイって女の子、悪い人間じゃなさそうだったよ?」
「思い切り悪いだろ! 殺し合いとか言ってたぞあの女! ……あいつのせいで今日のテストも散々だろうしな」
「昨日、勉強しなかったの?」
「あんな事があった後で、落ち着いて机になんか向かってられねえよ………」
「いやー、でも夏太郎。たぶん何とかなるよ」
「ならねえよ……自分基準に考えてんじゃねえよ……」
 こいつはこれだから困る。自分の楽観主義を他人にも押しつけるのだ。僕は大丈夫だからきっと夏太郎も大丈夫だ
よー、みたいな。んなわけねえだろ。今までの経験から学べ。俺とお前の成績の差を知れ。
「それじゃ、夏太郎」
「ああ、邦公」
 邦公と俺は別のクラスだ。俺はC組。邦公はA組。ちなみに、A、B組は国公立大学専門コース。C、D組はその他大
学コース。E組は落ちこぼれコースって分け方になってる。このクラスの違いだけでわかるな。俺と邦公の成績の差って
奴が。
 教室の扉を開ける。
 いつもは騒がしい教室が今日は随分と静かだ。
 ま、二学期期末テスト最終日だしな。成績が芳しくない連中にとっては、今日が最後のチャンスだ。今日を逃すと冬休
みも逃しかねない。………俺もその中の一人だが。
「おお、おはよう明里。歴史いけそうか?」
「おはよう砂原。いけるわけねえだろ。わかってるくせに聞くんじゃねえ」
「わかってるから聞くんじゃねえか」
「お前地獄に堕ちろ」
 俺の席は窓際の列の前から五番目、後ろから二番目だ。
  その席に着き、カバンを机に引っかける。
 さあ……最後の悪あがきでもするか。
「おはよう明里君」
 右横から声をかけられる。
「ああ、おは――――――」
 
 昨日の金髪女が制服を着て俺の隣に座っていた。

「ちょ………ちょちょちょちょちょちょちょちょ」
「どうかしたのか? 明里君?」
「そこはお前の席じゃないだろ!」
  言いたい事は山ほどあるがまずはそこから。
「ボクの席だよ?」
「いや引田の席だよ! お前、引田をどこにやったんだよ!!」
「ははは何を言ってるのかな明里君は。ボクが引田じゃないか」
「はぁ!?」
 トワイは引田とは全然違う顔をしてるし、ていうかそれ以前に引田は男だ。ふざけんじゃねえ。
  そんな事を考えていると、トワイが俺の耳に口を近づけてくる。
「良いのかい? 皆見てるよ。ふふふふふ」
「いや、ふふふふふって……………」
 ―――――あ、確かにみんな見てる。しかもガン見だ。通常時ならこんな事にはならないが、今日はテスト最終日だし
な………。
「何でもねえ。何でもないからほら、勉強続けて」
「………………………?」
 俺のそんな言葉に、砂原達は納得していないようだったが、黙って机にかじりつき勉強を再開した。
 しかし、頭の上に疑問符浮かべたいのは俺の方だ。
「………おい、おい、トワイ」
 とりあえず、俺は小声で金髪女にそう話しかける。
「嬉しいな。ボクの名前覚えてくれてたのか」
「つうかやっぱトワイじゃねえかてめえ。何が引田だ」
「本物の引田君は親の都合で転校しました」
「親の都合って何だよ………!」
「急に引田吾郎巡査部長が転勤になって。その都合で彼も、ね。いやー、あれは本当に急だったなあ!」
「それお前が何かしたんじゃん!」
 俺は席を立ち、トワイにそう怒鳴る。教室がざわめき立つので、すぐにまた座り直すが。
「全く、うるさいなあ明里君は。………ボクは見てただけだよ。いや超超能力は使ったけどね」
「使ってんじゃん!」
「はははボクのうっかりさん」
 こいつぶち殴ってやろうか。
「…………で、クラス全員、お前の存在を気にも留めないのはどうしてだ?」
「ボクの超超能力のおかげさ。彼らにはボクが引田君に見えている」
「お前何でもありだな」
 ……正直、信じられねえ。こんな存在、ありえない。超能力なんてレベルはとうに越えてんじゃねえか。これはもう魔法
の領域だ。………あー、だから超超能力とか言ってんのか。
「簡単に言うけどね明里君。これでも苦労してるんだよ。こういうのは少しでも気を抜いたら負けだからね。脱力すると
すぐに気づかれちゃうんだ」
「じゃあ俺が全力でお前をくすぐってやろうか」
「ふふふ、ボクを甘く見るなよ明里君。昨日は不覚を取ったけどね。次からはああはいかない。ボクの半径五メートル以
内に近づいた時点で君の脳みそはボカン、だ」
「すでに一メートルも離れてねえよ!」
 俺がそう叫んだところで、教室中に予鈴が鳴り響いた。
 …………あ、テスト。
「や、べえ。やべえやべえやべえ。勉強しねえと………!!」
「ん? あれあれ? おーやおや。明里君、もしかして今日は期末テストだったりするのかな?」
「そうだよ! ていうか教室の雰囲気でわかれ!」
「なるほどなるほど。ターイムストーップ」
「あ?」
 瞬間、全ての音がビタリと聞こえなくなった。
「あ?」
 音だけじゃない。教室の中、全ての動きが止まっている。全員、机にまるかじりだ。砂原だけは鼻ほじってやがる。こ
いつ勉強してたんじゃなかったのか。
 ―――――ていうか、タイムストップって、マジで?
「トワイ、これ…………………」
「うん。時を止めてみました」
 もしかして、俺に勉強する時間を与えるために?
 うお、マジか。
「お、おおおおぉっ! 偉いぞトワイ! すっげえ! 見直した!」
「ははははは。褒めろ褒めろ。そして時は動き出す」
 ふっと空間に力みたいな物が走り、再度、砂原達は動き出した。
「………………あれ?」
「やーいやーい引っかかったな明里君。今のは冗談だ」
「何が冗談なんだよ! 俺に勉強する時間をよこすのがか!?」
「まぁそれもあるな」
 うぜえええええええ!!
 そして俺にとどめを刺すかのように、ガラリと扉を開けて担任が現れる。
「おーい、静かにしろー、朝のHR始めるぞー。もう勉強は終わりだからな。教科書しまえよー」
「はい! しまいます!」
 トワイがビッと右手をあげている。
「お、今日は朝から元気だな引田。それに比べて明里、何だそのツラは。テストが悪いのはわかるがもう少しまともな表
情しろ」
 悪いなんてまだ決まってねえよ………。
「あ、なあ明里君。このクラスで一番頭良いのって誰だ?」
 トワイがまたも俺の耳元に口を近づけてくる。
「それなら通野じゃないか? 俺の後ろに座ってる」
「ほほう」
 俺の言葉を聞くやいなや、じろじろと通野を眺め出す。
「な、何? 引田君」
 ちなみに、通野は女。眼鏡をかけてるし、思い切りガリ勉の中のガリ勉みたいなイメージだ。俺の頭の中で。
「いーや、何でもないから、安心してテストに臨みたまえ」
「う、うん」
 通野がトワイに軽く引いてる。そりゃそうだろ。引田だけに。って、つまんねえよ死ね俺。
「センスないな明里君」
 トワイがぼそりと呟く。
 ………………………………………ん?
「おいもしかして今てめえ俺の頭の中覗いたのか?」
「んじゃテスト始めるからなー。筆記用具だけ出して他は全部鞄の中しまえよー。そんで鞄はロッカーに入れてこーい」
 トワイの返答を得る前に、そんな担任の声が教室内に響く。
 はい俺終了ー。




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