schole〜スコレー〜
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 そんなこんなで本日のテストも全て終わり、ようやく帰宅の時間だ。
「ふふふ、明里君、テストの出来はどうだい?」
「んな事聞くなよ。お前はどうなんだよ? お前馬鹿そうだし、大丈夫なのか?」
「おそらく満点近いだろうな」
 ふふんと自信ありげに胸を張るトワイ。
「………何でお前はそう意味もなく自信ありげなんだ」
 学外の人間であるトワイが急にテストなんてやって解けるわけねえのに。
「途中で通野さんの答案とすり替えたからな。タイムストップして」
「お前最低じゃねえか!!」
 とりあえずトワイをぶん殴る。
 テスト中に通野が狼狽えてたのはそのせいか。
「うわっ! 痛いじゃないか明里君! 女の子を殴る人間の方が最低だぞ!?」
「お前、今男だろ」
「あ、そうだった」
 納得すんじゃねえよ。
「しかし、大丈夫だ。彼女にはボクの答案がある」
「…………いや、だからお前ができてねえから通野のと取り替えたんだろ?」
「まぁね」
「駄目じゃねえか!」
 ―――――まあ、答案用紙回収する時に盗み見した感じでは、通野のは全部埋まってたからまだ良いが。途中から
持ち直せたんだろう。今日、暗記物ばっかだったし。
 でもトワイはぶん殴る。
「痛いじゃないか明里君!」
「少しは反省しろよてめえ。つうか何でこんな事した。全く意味ないだろお前は引田じゃないんだし」
「ふふふ、ボクはこれから知性派少年として売り出していく予定だからね」
「本物の引田は信じられないほど馬鹿だぜ? 昨日までのテストで取り返しがつかない事になってると思うけどな」
「駄目じゃないか!」
「だから言ってるだろうが!」
 そんなやり取りをしながらも俺は帰路を進んでいる。今日は邦公も部活だからな。明日は剣道の大会だし大変だろ
う。つうか何より俺はこいつからさっさと離れたいし。
「おーい、夏太郎ー」
 噂をすれば影。邦公登場だ。
「ああ、邦公。お前部活に行かなくても良いのか?」
「いやー、昨日の女の子が現れたって聞いてさ。そこの引田君に」
 邦公がトワイを指さす。
 そんな当のトワイは意地の悪そうな笑みを浮かべてやがるし。
「いや邦公こいつがトワイだっつうの! それ以前に引田が昨日の件知ってるって事に少しは疑問を持てよ!」
「え!? どこからどう見ても引田君じゃないか! 変装でもしてたり!?」
「超超能力でやったんだってよ…………」
「ふふん。じゃあちょっと設定を変えてみようか」
 トワイがそう不敵に笑うと、
「……………あ、昨日の女の子だ!」
 俺には何の変化も感じなかったが、どうやら邦公にもちゃんとトワイに見えるようになったらしい。
「すごい……………すごいなあ」
 邦公は素直に関心してる。
「お前良いから早く部活行けよ。明日、大会なんだろ? やばいんじゃないのかよ」
 何でもできる邦公は、当然剣道もできる。主将ではないようだが、実際はウチの剣道部で最強らしい。
「ああ、確かに。少しまずいかな」
「そう思うんなら行けよ!」
「……んー、わかったよ。トワイさんはこれからもここの学校に通うの?」
「ボクの気が向いたらな」
 ――――――どうせ最初からそのつもりだったんだろう。本物の引田も転校させちまった事だし。つうか、今現在、引
田は二人存在する事になってんのか。その辺裏ではどうなってんだろうか。
「ぜひそうしてね。それじゃ」
 ぶんぶんと豪快に手を振り、剣道場の方へと邦公は走っていく。
「……彼は剣道部なのか」
「ん? ああ、そうだけど?」
「……………………ふふふふふふ」
 トワイが笑っている。
 何かする気だ。何かする気だ。明日何かする気だ。
 これは確実に阻止しておかねば。
「おい、お前」
「さあ帰ろう明里君! 今日は早く帰って寝ておくべきだよ明里君!」
「もしかして明日は俺も巻き込むつもりなのか!?」
「ん? 何がだい?」
 とぼけてやがる。
 マジ話通じねえよこいつ…………人間と会話してる気がしねえ。
 トワイは俺の追求など気にも留めていないのか、ぶつぶつと下を向いて呟き始めた。何と言っているのかはわからな
い。頭の中で計画を練ってるんだとは思うが。
「…………そういえばお前、どこに住んでるんだ? この近くなのか?」
 突然、ウチの高校に侵入してきたってのにもう寝床を確保してるという事はあるまい。ああ、そこはまたお得意の超超
能力とやらで何とかしてるのか?
「ん? ……ああ。割とこの近くだぞ」
 あ、やっぱ確保してるんだ………。
 もうすでに俺ん家も近い。
 ―――つう事は、俺ん家の近くにこいつ住んでるって事かよ。嫌だな。
「…………………………………」
 まだ付いてくる。
 どんだけ家近いんだよ。
 曲がり角を左に進む。そのまま一直線に歩き続け、五分ほどして赤い屋根、俺ん家が見えてくる。
 トワイはまだ付いてくる。
「おいトワイ。お前ん家どこなんだよ。まだ着かねえのか?」
「もうすぐ着く。あれがボクの家だ」
 トワイが前方を指さす。
 赤い屋根。
「それは俺ん家だよ!」
「今日からはボクの家だよ!」
「居座る気かよ!」
「違うよ! 住む気だよ!」
「意味同じだよ!」
「あらー、真澄ちゃんお帰りなさい」
 玄関から母が現れた。
 真澄って誰だ。俺の名前は夏太郎だぞ。間違えてんじゃねえぞ。
「真澄ただいま戻りました。改めまして、今日からお世話になりまーす」
 トワイが母の言葉に返事をする。
 お前が真澄かよ。
 ………やばい…………すでに母が取り込まれている。
「あ、夏太郎。帰ったんなら早く真澄ちゃんのお引っ越しの手伝いしたげなさい」
 まだ頭の中が整理できてないから無理だよ。
「良いんですよー。私一人で何とかなります。夏太郎君のお手は借りなくてもー」
 こいつはこいつで猫被ってやがるし………。
「おいちょっと母さん。とりあえず俺の言う事を」
「あんたの話は良いから。真澄ちゃんの荷物を部屋まで持ってったげなさい」
 何でそんなに真澄ちゃんを庇うんですか母さん。
 …………こうなったらもう俺が何を言っても無駄だろう。諦めよう。
「トワイ。お前の部屋どこだよ」
「………………? 私の名前は真澄ですよ? トワイって誰?」
 ややこしいんだよこの野郎……。
「……真澄、お前の部屋どこ?」
「一階の和室ですよー」
 はいはい和室ね………。
 俺はトワイの手から我らが路府高校特注バッグを奪い取る。
「きゃっ! 夏太郎君怖いっ!」
「こら夏太郎!」
 母に殴られる俺。理不尽だ。





 結局、俺も引っ越し作業を手伝う羽目になったが、トワイの荷物は小さなリュックサック一つだけだったので、意外と
早い時間に終わる事ができた。
 すぐに俺はトワイに話しかける。
「で、お前、今度はどうやったんだ?」
「え? 超超能力を使ってだけど?」
「だからそういう事を聞いてんじゃねえよ! 学べよ!」
「ふむ。ならば具体的に何を聞きたいのか、明里君が示すべきだな」
「…………それじゃあ。お前、俺ん家ではどういう設定になってんだよ。引田とは別人だろ?」
 引田の下の名前は真澄ではないし、何をどう間違えても引田はちゃん付けで呼ばれるほど可愛くない。
「ああ。名は龍宮真澄。腰までもある長ーい黒髪和風美少女だ」 
「それはお前には荷が重すぎるんじゃねえか? つうか何故設定を変えた」
「女はたくさんの顔を持っているものなのさ。他にも六つぐらい使い分けているよ」
「引き出し広いな。てことは何か? 俺の母親にはお前がその、龍宮真澄に見えてると?」
「そうなるね。見る?」
「いや良い」
「はい、ぱっぱっ」
「うおお!」
 一瞬、トワイの顔が別人に変わった。ていうかホントに美少女だった。最初から本気出せよ。
「よし、それじゃ、落ち着いたところで、ボクはやる事があるから少し外出するよ」
「あ? どこ行くんだ?」
「女の子の外出先を聞くなんて失礼ですね!」
 トワイは顔を真澄のものへと変化させ、そう言い放ちやがる。
 あ、この顔だと何か怒りが湧いてこないな。
「それじゃあな。明里君」
 そう言って、再びトワイは顔を自らのものへと戻し立ち上がる。
「いやちょっと待てって!」
 しかし俺の呼び声も虚しく、トワイは何の返答も示さず、そのまま部屋の外へと出て行った。
 …………俺、手玉に取られてねえ?




「ただいまー」
 玄関からトワイの声が聞こえてきた。
 あれから三時間は経ってる。もう夕飯の時間だぞ。
「おかえりー真澄ちゃん」
 母の声も聞こえてくる。位置からして、たぶん台所にいるな。
 そろそろ俺の腹も減ってきたし。一階に降りるか。
 しかし、そうやって立ち上がろうとしたのも束の間。ばたんと扉を開け、トワイが俺の部屋へと入ってくる。
「んだよ、ノックぐらいしろよ」
「明日の日程が決まった!」
 あ、やっぱ何かするのか………。嫌だな。
「…………それは俺も参加しないといけないのか?」
「当たり前だろう。ペナルティ増やされたいのかい?」
 だから何のペナルティだよ。
「ふむ。では早速だが明里君にはワープをしてもらう」
「………………は?」
「ワープだよワープ! ほら明里君、ワープ!」
「できるわけねえだろ!」
「仕方ないな。はいワープ」
 昨日と同様、そんなトワイの声を聞いた途端、辺りがふっと真っ暗になった。
 自分の体が宙に浮いている感覚。
 ついでに何の音も聞こえない。
「俺の意志は関係なしかよ………」
 ぼそりと呟く自らの言葉だけが虚しく耳に届く。
 やがて、光が視界に映り、どしん、と衝撃。
 ………………今度はどこだ?
「お、明里君」
「あぁ、埴岡さん」
 目の前には、昨日の冴えない新人サラリーマンの顔があった。
 後ろには水無さんや生意気なガキの姿も。邦公はいない。
 辺りを見渡すと、すぐにここがどこなのかわかった。昨日と同じ場所。あの、ボロい廃墟だ。
「あのー、もしかしてさ、これ、昨日の続きだったりするんかね?」
 疲れた顔で埴岡さんが言葉を発す。
「…………おそらくそうだと思うよ」
「はぁー…………ようやく家に帰れるかと思ったのに」
 あー、そっか。この人、昨日は出張で東京に向かう途中だって言ってたな。今から名古屋に戻るとこだったって事か。
可哀想に。
「君。その様子だと何か事情知ってるみたいだけど。詳しく話して」
 そう水無さんが詰問してくる。
 喋るからやめてくれ。怖いから。
「…………昨日の女。トワイがさ、俺の高校に来たんだよ。で、今日から俺ん家に住む事にするんだと」
「全然答えになってねえよ」
「うるせえガキ黙ってろ」
「早く続きを」
 水無さんの催促に、俺は言葉を続ける。
「あぁ。で、昨日俺の横に邦公って奴いただろ? あいつが明日剣道の大会に出るんだよ。それをトワイが聞きやがっ
て。まあ、つまりは昨日みたいに俺らを巻き込んで何かする気なんだよ」
「きゅ、休日が潰れる…………」
 埴岡さんが頭を抱えている。
「それ、どうにかならない?」
「さあ。俺には無理。今日一日で散々思い知った」
「レポートが終わらない…………」
 水無さんも頭を抱える。
「お、おおおおおぉ! もしかして、昨日みたいに超能力使ったりするのか!? 俺もそういう事できるのか!?」
 ガキは興奮してる。お前ちょっと黙ってろ。
 しかし、さてとどうするか。俺はどうだって良いが、いやできる事なら遠慮したいが、埴岡さんと水無さんはマジできつ
そうだ。何とかして二人は参加しない方向に持ってってやらないと可哀想だろう。さすがに。
「質問に答えよう!」
 トワイ登場である。昨日のようにコートを羽織っている。こいつの基本スタイルはこの姿のようだ。
「出たよ………」
 水無さんがぼそりと呟く。これ相当きてるな。ホント何とかしないと。
 全員の顔を見回した後、トワイが口を開いた。
「明日、我々は石田君が出場する剣道大会に参加する事になった! 個人戦、団体戦。両方出場する! 文句はない
ね!?」
 ………すでにこの程度では驚かなくなった自分が嫌だ。
 その他三名はやっぱ相当驚いてるようだが。あぁ、このギャップがさらに嫌だ。
「異議なし!」
 反射的にガキが手を挙げる。
「異議あり」
「異議あり」
 少し遅れて水無さんと埴岡さんが手を挙げる。そりゃそうだ。
「まぁまぁ、不満は後で。話は最後まで聞いていただこうかな」
 お前が答えを促したんだろうが!
「えー、団体戦は五人で行うそうだから、人数はちょうど良いよね。先鋒から順に、明里夏太郎、山本内健太、水無花、
埴岡慎次、ボクだ。個人戦はAブロックに水無花。Bブロックに山本内健太。Cブロックに明里夏太郎。Dブロックにボ
ク。Eブロックに埴岡慎次を配置した。ちなみにFブロックには石田君がいるから、うまくいけば全てのブロックを我々が
支配する事になる」
「決してうまくはいかねえよ!」
「話は最後まで聞くんだ明里君。そう、このままではうまくはいかない。我々は素人なのだから。当然だ。しかしそこでボ
クは考えた! どうすれば我々は勝利を収める事ができるのか、と!」
「その心は?」
「頑張って練習しよう!」
「アホか!」
  俺はトワイをぶん殴った。
「話は最後まで聞くんだ明里君! そして女の子をそう殴るもんじゃない!」
「いや聞いただろ!? 頑張って練習してどうにかなるレベルじゃないだろ!?」
「…………ふふん、しかしだ。さらにボクは考えた。彼らは常日頃から剣道に打ち込んでいる。ボクらが一晩で勝てるよ
うになるわけがない、と!」
「だからそう言ってるじゃねえか…………」
 もう嫌だ………本気で話が通じねえ。
「いやいや、違うんだ。一晩練習してどうにもならないのならもっと練習すれば良い。具体的には一日ぐらい! というわ
けでこの部屋の時間の進みを遅くしてみた。ちなみに当社比、三分の一」
 三分の一っていうと………今午後六時だから、明日の朝、午前六時までは十二時間×三で三六時間か。睡眠時間
を八時間とし、飯とか食う時間を四時間取るとして、確かに二四時間にはなるな。
 て真面目に計算してんじゃねえよ俺。
 普通に考えて一晩が一日になったところで何も変わらねえだろ。
「私、忙しいんだけど。明日そんな事したくないんだけど」
 水無さんが手を挙げる。
「な、何故!?」
「いや、レポートやらなきゃいけないし」
 至極当然な理由だ。
「それならここでやれば良いさ。レポートする時間分、もっと時間の進行遅くするから」
 トワイがふふんと笑う。
「あ、それなら許可」
 良いんだ!? 適当だな水無さん!
 しかし埴岡さんは……………。
 埴岡さんの方を見てみる。
 偶然、目が合った。…………あ、これはすでに諦めてる目だ。瞳で全てを語っている。
 良いんだよ明里君、僕には休日なんて必要ないのさ、そう言っている。
「練習に必要な道具は全て揃っているからね。ほら、各自、好きに持って行って使え」
 トワイが指を鳴らすと、空中からどさどさと剣道の面やら胴着やらが現れた。
「これ、どっから持ってきた? 何か年季入ってるけど」
「路府高校剣道場からお借りした」
「あいつら明日大会だっつうの!」
「それはボクらもじゃないか明里君! …………あ、いやいや大丈夫だから怒らないで。明日の朝までに元に戻してお
けば無問題!」
 確かに………それはそうかもしれないが。
「では練習始め! 死ぬ気で打ち込むように! 明日は勝ちに行くんだからな! そこんとこ忘れちゃ駄目だぞ!」
 ――――――そんなこんなで、練習開始。
 長くだるい一日(?)が始まる。




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