schole〜スコレー〜
トップページ小説トワイ目次>第一章:4/7



 長かった午前の部、個人戦がようやく終了した。
 我らがチームトワイの戦績は以下の通り。
 水無さん。二回戦敗退。
 ガキ。一回戦敗退。
 俺。一回戦敗退。
 トワイ。同列三位(準決勝で邦公に負けた)。
 砂原。一回戦敗退。
 邦公。準優勝。
 邦公は俺の対戦相手だった路府高校剣道部主将に負けていた。前回の大会でも決勝で二人はぶち当たり、その時
は邦公が勝ったらしいが、今回はそう上手くはいかなかったようだ。
 しかし、まあ、三位以内に二人も入ってんなら相当良いとこいってんじゃねえか?
 俺はそう思うんだが、トワイは納得がいかないらしくご立腹だ。
「ふ、ふふん。これは何かの間違いだからな。みんな調子が最悪だったんだよ。午後の団体戦は当然のように優勝して
やるからな! わかったかみんな!」
 だそうで。
「おー!」
 またガキしか返事してねえし。もうやめにしようぜトワイ。
 砂原も帰しちまったし。四人じゃ無理だろ。
「さぁ出陣だ! 流れはこちらにある!」
 俺が止める暇もなく、早くも午後の部が始まる。
 出場校が多いのでまともに昼飯の時間を取っていたのでは今日一日で終わらないのだ。
 団体戦はAブロックからDブロックまでの四つに分かれての総当たり戦。Aブロックの勝者一校とBブロックの勝者一
校とで準決勝、残ったCとDとでも同様に準決勝を行う。さらにその勝者同士で決勝戦である。俺たちはAブロック。路
府高校はCブロックにいるので、うまくいけば決勝で邦公達と試合する事になる、とトワイが言っていた。が、うまくいくわ
けはない。
 最初の相手は中浜高校とかいうとこだ。どこだよ。
「では皆。道すがら今日の対戦順を発表する! まずは先鋒! 不在!」
「いきなりいねえのかよ!」
「四人しかいないからな。さすがに埴岡を出しても負けるだけだろう」
 埴岡さん、移動すら辛いらしいからな…………今もまだ観覧席で横になっている。
「次鋒、明里君!」
「あいよ」
「中堅、健太君! 副将、花! そして大将、ボク! よし! 完璧だ!」
「どこがだよ! つうかこのメンツ見てお前は本気で勝てると思ってるのか!?」
「無論だ」
 トワイは力強く頷く。どうやらマジらしい。
「まぁ手は打ってある。明里君が案ずる事はないよ」
 それが怖えんだよ………。
 しかし、さっきの例でわかったが、止めようにもそう簡単にはこいつは止められねえからな。あらかじめ俺も何かしとく
べきか?
 そう思いつつも、俺らは対戦相手の元へと辿りついてしまう。
 やっべえ…………トワイは自信満々に、にやにやしてやがるし。
  審判が対戦表を発表している。
 俺の相手は川口とかいうひょろ長い一年だった。
 あぁ、これなら運が良ければ勝てるかも。
 俺は胴着を着て、一歩、前へと進む。
「明里君! あいつになら勝てるぞ! きっと一撃で仕留められる! 頑張れ!」
 そういう事考えてても良いが口に出すのはやめろ。
「十和井高校、明里」
「はい」
 審判が俺の名を呼ぶ。十和井高校ね…………。
「中浜高校、川口」
「は、はい!」
 川口は相当緊張してるようだ。声が上ずっている。
…………これ、ひょっとして、ひょっとするかもしんねえな。
「互いに礼。………………始め!」
「う、りゃああああっ!!」
 俺はそう叫んで、相手の元へと突っ込んだ。





 いやー、いけるもんだな。
 俺が川口から二回連続で面を取って以来、チームトワイはつきまくりだ。
 ガキは何故か素晴らしいフットワークで判定勝ちしやがるし。水無さんも気迫勝ち。やっぱあの人高校時代、剣道部
だったらしい。トワイも相手の竹刀を避けまくって、その隙に二本取ってた。
  結局、中浜高校とは四勝一敗。その一敗も先鋒不在の不戦敗って奴だ。
 その次の試合は、俺とガキが引き分け、水無さんとトワイが勝利を収め、二勝一敗二引き分け。
 Aブロックの勝者は我らが十和井高校となった。
 続く準決勝も、俺が負け、ガキは引き分けたが、水無さんとトワイが勝利、延長戦でさらにトワイが勝利し、結果、トワ
イチーム決勝進出となった。
 信じられねえ。
「うまくいっちまったよ………」
「どうだ明里君? これがボクたちの本当の力だよ」
 胸を張るトワイ。
「いや………すげえなあ。お前が超超能力使ってる感じもなかったし。意外といけるもんなんだな」
「ふふん。そうだろう? まぁ健太君にはすばやさのたねを与えたが」
「やっぱ使ってたのかよ!?」
 あの俊敏さはそのせいだったのか………おかしいと思ったよ。
 …………はっ。そうすると、こいつの勝利も?
「お前、他には超超能力使ってねえのか?」
「ん? 使ってないぞ? ……………いや、ボクは相手の心が読めるから、それを超超能力の使用と言うのなら、まぁ
そうかもしれないな」
「……………相手の心が読める?」
 昨日のテストの時の一言は、やっぱこいつ俺の心の中覗いてやがったって事か。……この野郎。
  しかし、これは反則にあたるのだろうか…………微妙で怒るに怒れない。
 俺が感動損をしたのは確かだが。
「で、トワイ。超超能力使ったのはそんだけか?」
「あぁ。それだけだよ」
 じゃあ水無さんは全部自力って事かよ…………すげえ。個人戦で二回戦敗退してたのは何だったんだ。
 それについて、当の水無さんに尋ねてみる。
「なぁ、何で個人戦二回戦で負けちまったんだ?」
「ストレスが溜まってたからやる気出なくて………。午後はちょっと本気出そうかなって。あの子も必死で見てて可愛い
し」
 水無さんはトワイを指さす。
 トワイはククク…つって、含み笑いしてる。
 悪いが水無さんには同意できそうにない。……これが龍宮真澄の顔だっつうんなら話は別だが。
 まぁとりあえずだ。
「トワイ。先に言っとくけど、決勝ではガキに超超能力使うのやめろよ」
 こいつにはこうやって釘を刺しとくべきだろう。
「な、何故に!?」
 かなりショックを受けている。
「いや、そんな事聞いて俺が黙ってるわけねえだろ。ガキにやったのそれドーピングっつってな。反則だから普通に。ま
ぁ、お前が相手の心読むっつうのは、目を瞑っといてやるが」
「そんな……………」
 膝をつくトワイ。常に反則する事前提だったのかよ。
 決勝の相手は、どういうわけか、やはり路府高校。トワイの宣言通り、マジでうまくいっちまったわけだ。
「く………仕方ない。決勝には是が非でも埴岡に出てもらおう」
「可哀想だからやめてやれよ! しかもさっき自分で勝てるわけねえって言ってたじゃねえかよ!」
「そうだったな…………くそ、それじゃあ手詰まりじゃないか」
 まぁ、確かに。四人しかいない俺たちは、一敗した時点でもう後がない。トワイと水無さんが何とか勝つとして、俺とガ
キのどちらかは何としても引き分けには持って行かなければならないのだ。
 今まで進んできたのが嘘のようだな。
「………………対戦順を変えよう」
 ぼそりとトワイが呟く。
「どうすんだ?」
「一つずつ下にずらす。先鋒、明里君。次鋒、健太君。中堅、花。副将、ボクだ」
 確かに、一番強いであろう大将は空けといた方が良いよな。
「それで何とか………いや、待てよ? もしかして……」
 トワイの目が光る。何か思いついたらしい。どうせろくな事じゃないだろう。勘弁して欲しい。
「………ふふふ、いける。いけるぞ! 勝てる! よおし!」
「お前…………何する気だよ」
「んー? なーに、明里君の命令は守るさ」
 怖え。ぜってえ守らねえよこいつ。何考えてんだ。
 対戦相手、路府高校の元へと辿り着く。
 実質これが今日最後の試合なので、すでに他の高校は皆、観覧モードだ。注目が集まってるのがよくわかる。もう夕
方だってのに、二階の観覧席もそこそこの数が埋まっている。
「き、き、緊張するな!」
  ガキ、震えてんじゃん。本番までに落ち着いとけよ。
 正面を向く。
 ――――邦公がいる。部内最強だからな。そりゃあ団体戦メンバーにも選ばれるだろう。それに、あいつ個人戦でト
ワイにも勝ってるからな。相手の心を読む、トワイに。どんだけ強いんだよっつう話だ。
「対戦表を発表するぞ。先鋒。十和井高校、明里。路府高校、加藤」
「はい」
「はい」
 審判の声に返事をする俺。
 ……………て、加藤? 何か聞き覚えあるな。
 顔を確認してみる。
 さっきの俺の対戦相手じゃねえか! 路府高校主将の!
 あぁ、終わった………勝てるわけねえよ。あんだけ実力差がある相手に勝てるわけねえ。
 ふと、邦公と目が合う。あ、笑ってやがる。
 ――――そうか。あいつが対戦順決めたわけか。こっちの考えてる事も読んでやがったんだな。
「次鋒。十和井高校、山本内。路府高校、向居」
 たどたどしくガキが相手に礼をしている。
「中堅。十和井高校、水無。路府高校、原口」
 ガキとは対照的に、水無さんはさすが、動きが軽やかだ。
「副将、十和井高校、引田。路府高校、石田」
 トワイの相手も、また邦公か。まぁ、あっちもあっちで勝てるわけねえ。
「…………では決勝戦、十和井高校対路府高校の試合を始める。互いに礼!」
 全員がぺこりと頭を下げる。さすがにトワイもこの辺りは空気を読んでるな。
 ………さて、と、試合は俺からだからな。気合い入れねえと。
 面を付け、すっと立ち上がり、相手の方を睨む。
 いっちょ頑張るか。一本ぐらいは取ってやりてえしな。
 くぐもった面の中で、ふーっと息を吐き、心を落ち着かせる。
 闇雲にやって何とかなる相手じゃねえし。ここはひとまず慎重にいかねえと。
「先鋒。十和井高校、明里。路府高校、加藤」
「はい」
「はい」
「互いに礼。――――――始め!」
 審判の開始の合図と共に、俺はじりじりと相手に詰め寄り出す。
「………!?」
 あ? 加藤の様子がどこかおかしい。何だ?
 ぶるぶると体を震わせ、俺が近づくと加藤は後ろへ下がりだす。
 いやいや、何で逃げてるんだよおい。個人戦の時はすげえ勢いで向かってきてたじゃねえか。
 しかし、そんな過去などなかったかのように、なおも加藤は俺から離れ続ける。そしてついに、
「場外!」
 そう審判の声が響いた。
 ………反則、一本だ。これはどう考えてもおかしい。トワイが何かしてるとしか思えねえ。
 そのまま二本目も、同じく場外反則。試合終了。俺の勝ちだ。
 これどうなってんだよ。
 俺は戻りがけに、トワイの顔をじっと睨む。
 トワイ、お前本当に何もしてねえんだろうな? そう念じつつ。
『ふふん、おめでとう明里君』
 …………ん? 今、頭の中に声が直接きたような。トワイの口も全然動いてねえし。
『ボクの超超能力で思念波を送っているのさ。君の頭の中を読みつつね』
 やめてくれよ………そんで、お前、本当に何もしてねえんだよな? 加藤の様子が相当おかしかったが。超超能力と
か使ったりしてねえよな?
『あぁ、彼には君が鵺に見えていたんだ』
 やっぱ使ったのかよ!
 て、ぬえ!?
 鵺ってあれか。体中別々の動物でできてるっていう。
 お前の選定基準どうなってんだ。
『そうだよ。あの鵺だ。顔は猿。尾は蛇。体はたぬきで手足はトラの化け物さ』
 いやお前、俺がさっき超超能力使うなって言ったじゃねえか! 人の話聞いてたのか!?
『お、怒るなよ明里君。君は、健太君に超超能力を使うなと言ったじゃないか。ちゃんと健太君に超超能力は使わない
よ?』
 屁理屈こねてんじゃねえ! それがお前の考えてた秘策かよ!
『え、えーっと………そう! そうさ! 相手の彼は、君の姿を見て逃げたじゃないか。君が鵺に見えているだけで、恐
怖をおさえれば彼も君に勝てたはずだよ!? それをしなかったのは彼の気合いが足りなかったからだね! 仕方な
い!』
 トワイが俺の方を向き手をばたつかせ、そう思念波を送ってくる。危険を感じ取ったらしい。
 てめえ、後で説教してやろうか……。
 対して俺は、そう頭で念じつつトワイの顔を睨んでやった。
 少しはこれで懲りると良いけどな…………まぁそれはねえと思うが。
 で、そんな事をしてる間にもガキの試合は始まってる。
 宣言通り、トワイは超超能力を使っていないようだ。ガキの動きが今までの試合よりも格段に遅い。
「うりゃあああっ!」
 お、でも頑張ってるなガキ。トワイ除くと、俺らん中で一番やる気あるのあいつだしな。
 ばしばしとガキの竹刀が相手の竹刀とぶつかり合っている。
 …………しかし、気合いだけじゃ勝てないぐらいに、実力差は十分開いてる。
「面!」
 すぱーんと気持ちの良い音がして、相手の竹刀がガキの前頭部にぶち当たった。
 一本だ。
「うぅ……………」
 仕切り直し。再度、向き合う二人。
 ガキはやはり、開始直後に相手の元へと走っていくが、軽く避けられ、すれ違いざまに胴に一本入れられてしまった。
 これでガキの負けである。
「あ、あいがとおございまじだぁーっ!」
 ガキはそう叫び挨拶をする。何て言ってるのか全然わかんねえ。
 …………泣いてる?
 こちらへと戻ってくるが、いつになっても面を取ろうとしないので、水無さんが取ってやった。
 あ、やっぱ泣いてやがる。顔ぐちゃぐちゃじゃねえか。そんなに悔しかったのか。…………まぁ、決勝だしな。負けちま
ったがその努力と心意気は認めてやる。これからはちゃんと名前で呼んでやる事にしよう。
「…………私が、勝たないといけないね」
 ぼそりと呟き面を被る水無さん。
 おぉ、ガキ―――じゃなかった、健太の件でやる気が充電されたようだな。
 良い事だ。やっとマジになったっぽい。
「中堅。十和井高校、水無。路府高校、原口」
 審判の声が会場に響く。
「……はい」
 落ち着いた声で返事をする水無さん。
「はい」
 相手の原口も、同様に落ち着いているようだ。
「互いに礼。―――――――始め!」
 試合、開始。じりじりと水無さんに近づく原口に対し、当の水無さんはその場から動こうとしない。待ちの姿勢って奴
だ。
 そして、原口と水無さんとの距離が三歩分ほどまで近づいた瞬間――――ぱっと水無さんの姿が消えた。かのように
見えた。
 実際は水無さんが原口の向こう側へと回り込んだので、視界に入らなかっただけだった。
 そして、
「胴あり! 一本!」
 水無さんは回り込みの途中で、原口の腹に竹刀をたたき込んでいた。
 つ、強え………。こんな強かったのかよあの人。
 ――――もしかしてあの人、高校時代に全国とか行ってたのかもしんねえな。
 そして続いて、二本目。今度は原口が動かない。水無さんはそんな原口に、じりじりと近づく。先ほどとは全く逆となっ
た形だ。
 一定距離まで近づいたところで、原口が動く。たっと地面を蹴り、竹刀を振り上げた。しかし、だ。
「小手!」
 原口がその竹刀を振り下ろすよりも先に、水無さんはそんな声と共に一歩前に出て、相手の小手先に竹刀を命中さ
せていた。
「小手あり! それまで!」
 水無さんの勝利だ。マジかっこいい。
 そんな水無さんは面を取りつつ、健太の隣へと戻ってくる。健太はそんな水無さんの姿を黙って見つめていた。まぁ、
誰でもこれは格好良いと感じるって事だ。
 そして兎にも角にも、これで二勝二敗。
 全てはトワイ対邦公の結果によって決まる事になるな。
 トワイ、作戦とかは考えてるのか? このままじゃ勝てねえぞ?
『考えていると言ったら嘘になるな』
 やっぱ勝つ見込みねえのか!!
『いや勝つ見込みはある。………なぁに、ボクなら勝てるさ』
 こちらを向き、不敵にそう笑うトワイ。
 だからどっから出てくるんだっつうのその自信は。
『ふふん、まぁ見ていろ』
 そう思念波を送り、トワイは面を付け邦公と向き合う。
 トワイもトワイだが、邦公も邦公だ。薄く笑っているのが何となくわかる。自信満々じゃねえか。まぁ、その点について
は奴の超超楽観主義は関係ねえと思うが。
 ――――しかし、やっぱ剣道の試合になると邦公は特にすげえな。オーラみたいなもんを身に纏ってるような気さえす
る。
「副将。十和井高校、引田」
「はい」
 トワイは邦公が纏ってる空気を感じ取ってねえのか、一抹の不安も抱えてないように見える。負けても健太みたいに
泣くんじゃねえぞ。
「路府高校、石田」
「はい」
  静かに、優しげに、邦公はそう返事をする。
「互いに礼」
 両者、向かい合って、頭を下げる。トワイは威勢良く、対して邦公は緩やかに。
「では―――――――始め!」
 開始の合図を聞いても、二人は足を動かそうとしない。おそらく邦公もトワイに心を読まれてるって事は前回の試合で
気づいてるんだろう。だからまずは様子見。隙を窺っているんだ。
『あ、明里君。やばい。石田君の考えが読めない』
 は? 何でだよ?
『わからない………えーっと、もしかして何も考えてない? とか?』
 とか? て、俺に聞かれても困るっつうの。
 まぁ、邦公なりに心が真っ白になるよう努力してるって事か。んな無茶苦茶な事に見事、成功してるのが邦公らしい
が。
 そう考えている内に、いつの間にか邦公の身体がゆらりと動き出していた。
『ぉおお、おかしい! 何故だ! 何も考えてないのに動いてる!!』
 人間業じゃねえな邦公。
 音をたてず、ゆったりとした動きで徐々にトワイへと近づいていく。
 トワイはそんな邦公に、目で見てわかるほどにたじろいでいる。
 そして、
「胴!」
 邦公のはっきりとした声が響き、続いて、すぱーん、という音。
「胴あり! 一本!」
 さらに審判の声が続く。
 あぁ、こりゃ無理だぜトワイ。
『………………ふふふふふ、わかった、わかったぞ明里君』
 は? 何がだよ? まだ諦めてなかったのか?
『ボクは勝つと言っているだろう。今のでわかったよ。さすがの彼でも、竹刀を動かす瞬間からは、思考が読める!』
 ――――さすがに邦公も、何も考えずに竹刀を振ってるわけじゃないのか。相手のどこを攻撃するかぐらいは絶対に
考える必要あるもんな。当たり前っちゃあ当たり前だ。
『ならばボクの勝利は見えたも当然だ! 石田君が攻撃態勢に入ってからすぐに動けば良い!』
 いやいやそれ普通だよ! みんな相手の攻撃姿勢見てから避けるだろ!?
『……………………はっ。た、確かに!』
 ここにきて、トワイの相手の心を読むという能力は完全にその効力を失ったわけだ。
『まだだよ明里君! 石田君が攻撃してくるより先にボクが一本を取れば………!!』
 できるのかよお前?
『全く、明里君は反論しかしないな! 少しは明里君も作戦を考えてくれ!』
 作戦ね。そうだなあ………。
 えーっと……。
「始め!」
 あ、審判の声だ。二本目がもう始まっちまった。
『そんな事考えなくて良いよ! あ、ほら、石田君がこっちに向かってきてるって! ほらほら早く!』
 んー、まぁ、そうだな。剣道っつうのは有効打突部とか、打突部位とかしっかりしてねえと一本取ってもらえねえから
さ。あいつの考えてる事がわかった瞬間に、少しでも身体を捻ったりしてみたらどうだ? 攻撃の時は、避ける方向が
読めるんだから、今度は少しでも軌道をずらしたりとかな。お前にはできねえと思うが。
『な、なるほど………賢いぞ明里君!』
 いやそれほどでもねえよ。
  すでにトワイは邦公の間合いに入ってる。
 そろそろ、勝負時だな。
 お、邦公が動いた。今度は面を取る気か、足を一歩前に出し竹刀を僅かに上へあげた。
 そしてその瞬間、トワイもさっと後ろへ下がる。
 何だよ。意外といけてんじゃねえかトワ―――――あ。

「面!」

 邦公の声が、会場に響き渡る。
 邦公は、トワイが動くのを見て竹刀を両手から片手へと持ちかえ、自らの射程を広げていたのだ。
 こりゃ勝てねえわ。
「勝負あり!」
 審判の声が俺の耳に届く。
 試合終了だ。
「あぁあ………」
 健太の呻き声が聞こえてくるが…………………ま、とりあえず。
 団体戦成績、二勝三敗、決勝戦敗退。準優勝。
 結果としてはそう悪くないだろうよ。なぁ、トワイ?
「負けたあああああぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 うるせえ叫ぶんじゃねえよ。




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