schole〜スコレー〜
「さて、そんじゃ、やってくれトワイ」
ホールの階段下まで行った所で、俺はトワイにそう声をかけた。
「ん? タイムスリップか? どうすれば良い?」
「えっとだな…………………………ん? あれ?」
えーっと、どうすれば良いんだ? 俺たちはここに十分前に来た。ほんで、そっからもうそろそろ十分経っちまうだろ
う。えっと、過去に行けば良いのか? 未来に行けば良いのか?
「………………………あ」
邦公が声を出す。
「どうした? 邦公」
「まずいかもしれない…………もしかしたら僕達戻れないかも」
「………………は? 何だって?」
今すっげえ不吉な事を聞いた気が。
「いや、だから、僕たちは帰れない、かもしれないんだよ夏太郎」
「お、おいおいおいおい………どういう事だよ邦公。帰れない? 俺たちが未来にか?」
邦公、何を言いやがる。勘弁してくれよ。つうかお前が動揺してると不安になるだろ。
「えっと、すでに未来って言い方はおかしいね。もう最初の時点よりも時間的には後なんだから。うあぁ………でも本当
に帰れないとなると、こうなったのは言い出しっぺの僕のせいだ……」
うおおぉ、珍しい。邦公が後悔をしている。そんなにやばいのかよ。マジか。
「と、とにかくだ。説明してくれ。どういう事だ?」
「じゃあとりあえず、僕の考えてる事を説明するよ。――――まず、僕達はタイムスリップをして過去に戻った。それは
良いよね?」
「おう」
「でも、そこで僕らは過去のトワイさんと夏太郎に会ってしまった。この時点ですでに過去は変わってしまったんだ」
「おう。それが目的だしな。で?」
「過去が変わったという事は、その未来も変わるという事なんだよ。つまりね、今、僕たちがいるこの時空は、以前僕た
ちがいた時空とは別の物って事になるんだ。僕の考えによると、だけどね」
「明里君。石田君が別の惑星の言語で話している」
「お前はもう少し理解力を高めろトワイ。しかし、俺もまだわからねえよ邦公。もっと俺たちにもわかるように言ってくれ」
「うーん、それじゃあトワイさん。紙とペンってどうにかならない?」
「なるぞ」
トワイが指を弾くと、突然、ホワイトボードとマジックが空中に出現する。こういう時便利だなこいつの力は。
「ありがとうトワイさん。これ借りるよ。でね、夏太郎………時空って言葉はわかる? パラレルワールドとか、そういう
の」
「わかるぞ」
「ここに、一つの時空が存在してるとするよ。僕たちが以前いた時空だ。そこのトワイさんが優勝旗を壊しちゃったか
ら、僕たちはその時空の過去にきた。それもわかる?」
「おう、わかるぞ」
邦公がホワイトボードに棒線を引き、それに時空A、優勝旗を破壊、などと書き込む。
「そんで?」
「僕たちはその時空で過去を変えてしまった。さっきあの二人に会ってね。そしてその結果、過去を変えた時点でその
時空は二つに分裂しちゃったんだと思うんだ。あ、いや、分裂っていうか、変化? ま、簡単に言うと、平行する二つの 時空ができたって事だね」
続けて、邦公はもう一つ棒線(時空B)を引き、先ほどの棒線からそれへと矢印を繋げる。
「い、言いたい事はわかる」
……………少しずつ、やばさを理解してきた。
「で、もうこの時空は別の物になっちゃったわけだから。過去に行っても元の時空には戻れないから意味ないし。未来
に行ったら行ったで、そこにも僕らがもう一人存在してる事になる。つまり、この時空の中を移動してる事にしかならな いんだよ。本当に僕たちが戻らなきゃいけないのは平行する別の時空なのに。えっと、だから、わ
かるよね? 夏太郎。僕のこの考えが正しければ、僕たちは元の時空には絶対に戻れないんだ。あぁ、過去に行って、
この時空で優勝旗の破壊を発生させたとしても無駄だよ。そんな事したら、むしろ僕らが三人になってもっとあべこべに なっちゃうね」
「…………………………………」
俺の思考中にも、邦公はホワイトボード上に何やら書き込みをしている。
それを眺め幾分か考えると、ようやく俺は邦公の考えへと至る事ができた。
…………あぁ、たぶん、邦公のこの考えは正しいな。間違ってるっつう奴がいるんなら、俺らはどうやって元の時空に
帰れば良いのかそいつに教えて欲しいぐらいだ。
無論、俺にはそんな事できねえ。
――――――よし、やばいぞ。
「明里君。明里君。ボク、彼の話が全然わからないんだが」
ほんっと物わかり悪いなこいつ。
「つまり…………俺たちは元いた世界にはもう帰れないって事だよ」
「おおぅ。わ、わかりやすいぞ明里君! ていうかそれはまずくないかい!?」
「まずいから困ってんだろうがよ!!」
俺はトワイをそう怒鳴りつけ、溜まりに溜まったストレスを発散させる。
うわー………今までの比じゃねえぐらいに大ピンチだ。
に、二重の意味で帰りてえ………。
ひとまず、行く所もないので先ほどの俺たちと合流する事にした。
今度は俺とトワイだけじゃない。水無さんや健太、それに埴岡さんもいる。まぁ、埴岡さんは椅子で寝てるんだが。
「お、何だまたかよ俺。それと未来トワイ。何か用か? もう閉会式始まっちまうんだけど」
「………元の世界に帰れなくなった。どうにかしてくれ」
「はぁ?」
まーこうなるわな………。
「邦公。こいつらに説明してやってくれ」
「わかったよ夏太郎。えっと、まずね………」
邦公が四人に説明をしている間、俺は考える。
どうすれば俺は元いた世界に戻る事ができる? とりあえず、未来に行くのはなしだ。逆に何の解決にもならねえ。と
なると、過去に戻ってなんかするしかねえんだ。どうする? ……全てなかった事にはできないのか? 俺がこの時空 に来たっつう事実さえ消しちまうような………あー、くそ、それはどう考えても無理だな。他の時空で起こった事には首 の突っ込みようがない。じゃあ、何だ。邦公は優勝旗の破壊を起こしても意味はないって言ってたけど、それ以前に、 別時空からこの時空に来た俺たちをこの時空の俺たちと会わせず、そのまま元の時空に戻らせたらどうだろう? 俺 たちの存在を気づかれずに? おぉ、それなら何とかいきそうじゃねえか…………て、駄目だ。そいつら帰しても、俺ら はここに残ったままだ。いや? もうちょっと考えてみるか? 二組が接触しなければトワイは優勝旗をぶっ壊すだろう から。したら、元の時空と結局は同じになるんじゃねえのか? おお、いけそうだ。
「邦公。閃いた。過去に戻って、こいつらと俺らの接触自体をなかった事にしよう」
俺は全員への説明を終えたらしい邦公にそう話しかける。
「あー、そうすれば、この僕らも過去に行くから、結局、僕らは一組だけになるって事?」
「そうだ!」
たまには俺も役に立つだろう邦公。
「駄目だよ………さっきの考えでいくと、ここはすでに元とは別の時空って事になるんだよ? おそらくその場合、過去
に現れた僕らはこの時空の僕らって事になるんだ。そこでまた平行に時空が分裂するわけだね。そうすると、この時空 の僕らはまたすぐに戻って来ちゃうよ? 僕らの行いによって自分たちとは接触せずに、ね。えっと、わかる? だから 結局僕らは二組になるよね?」
即行で反論された。
「………………………………………………なるほど」
そしてその反論を少し考えて理解。もう駄目だ! やっぱ俺駄目だ!!
「やっちゃったもんは仕方ないんだし、事実は事実として受け入れてこっちの世界で暮らしたら?」
「いやそう簡単に言うけどね別時空の水無さん? 俺らとしてはすっげえ生きていくの辛いですよ? 同じ人間が二人も
いたらどうなると思ってるんだ………」
きっと、毎日を怯えて暮らさなければならないだろう。
うわ、嫌だ………。
………邦公は、俺の横で、まぁそれもいっか、とか言ってる。お前そこまで楽観主義だったのかよ。
ちなみに、健太は話を理解していないようで、こっちの時空のトワイは何かすっげえ愉快そうにしてる。お前も関係し
てんだからもうちっと困った顔をしろよ。
まぁ、こっちの時空の俺は、ちゃんと落ち込んでるようだが。
「なぁ俺…………どうするよ?」
そいつがちょうど声をかけてきた。
「どうしようもねえよ…………マジでこっちで生きてく事にするしかねえのかな?」
「…………一応、覚悟はしとこうぜ、お互い」
「そうだな…………」
俺らは二人してため息をつく。
「あー、ショックでけえー……」
正直、こんな事になるんなら、優勝旗を壊した事、素直に謝っときゃ良かった。少しでも良い方を取ろうとするからこん
な事になんだよ…………。あぁ、過去をやり直してえ。
「なぁなぁ明里君」
ちょいちょいと元いた世界の方のトワイが俺の肩をつついてくる。
「んだよ………今落ち込んでんだよ………俺に構うんじゃねえよ」
「何か長くなりそうだから花達に遅くなるって言ってきて良いかい?」
「水無さんここにいるだろうが………」
「いや、違う違う。ボクたちの方の花に。いやー、閉会式とかで困ってそうだしね?」
…………………………………今何つったよこいつ?
「おい。トワイ、もう一回今の言葉言ってみろ」
「いやだから。ボクたちの方の花に…………………あ、やば」
「今やばっつったか!? なあおい!? トワイ! てめえもしかして!!」
「えーっと……………………ふ、ふふ、ふふふふふ」
「ふふふふふふ」
「な、何だよ」
俺の言葉に少しずつ笑い出すトワイ。&こっちの時空のトワイ。
そして、
「「ははは! ばれてしまっては仕方ない! ボク、別時空にも移動できるんだよね!!」」
そう言いやがった。
「「先に言え!」」
俺×2はトワイ×2をぶん殴る。
「痛いなあ!? だ、だってあまりにも君たちの反応が面白かったから!!」
「そうそう! すごい面白かったよね未来ボク!? いやー、あの落ち込みようはレアだったよ! 笑いをこらえるのに必死
だったね!」
「「楽しんでんじゃねえよ!」」
再び、俺×2はトワイ×2をぶん殴る。
「痛い! さ、さすがにやるすぎじゃないか明里君!?」
「そ、そうだぞ明里君! やめたまえ!」
「てめえら………これまでずっと連携取ってやがったわけだ」
「そういやぁ、人の心の中読めるって言ってたもんなぁ? そりゃあ二人いりゃあ口に出さなくても意思伝達は可能だろ
うよ」
怯えるトワイ×2に怒る俺×2。
さすがにそろそろ我慢の限界だ。
「「てめえら………今日帰ったら覚えとけよ……………夜通し説教だからな」」
「「え、えー………」」
こうして俺は、ストレスをまるまる一晩かけて発散する事を決意したのだった。
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