「リクエスト、ないんか?せっかくワイが訊いとるんに」

ピアスごと耳朶を噛みながら、聖職者である筈の男がヴァッシュをなぶる。
どうせ止めろという要請には、ちっとも聞く耳を持たないくせに。

「なあ、言えや」

「あ・・・あ、ぁ・・・」

強いる言葉と一緒に吐き出される息は荒く、ウルフウッドも表情ほどには余裕がないのだと、確かに語っていた。

しかし、それをいい気味だと思う余裕は到底こちらの方にもなくて、義手の指を噛みながら、ヴァッシュは熔ける下腹の痛みと疼きを堪えた。
コートとアンダーを身に付けたままの上半身だって、滲んで流れる汗が気持ち悪いほど熱い。

昂ぶりきって震えているものは、牧師の指に根元を縛められたままで、ひどく切なく苦しかった。
先程指でなぶられた奥が、物欲しげにひくついているのが自分で判る。
あさましいどちらのその場所も、日の光と牧師の視線に晒されているのだ。
椅子が時折ぎしりと呻くのが、腰掛けているヴァッシュの体の無言の喘ぎを移しているようで、窓辺で足を開かされ弄られている羞恥に拍車をかけた。
喚き散らしたくなるほど――たまらなかった。

「っ。・・・・・・う・・・う」

恥ずかしい。
止めて欲しい。
もう、放して。

拘束を解いて。
もっと甘く触れて。
それから、窓を閉めた部屋とその腕の中に囲い込んで、して欲しい。

恥ずかしい。
苦しい。
きもちいい。
もう達きたい。

――こんないやらしい事を考えている、あさましくて情けない自分を、罵ってぶん殴りたい。
それから、自分をこんなにする男のことも。
大きく開かされている足を引き寄せ、足下の不埒な牧師を思い切り蹴り飛ばしてやれたら、さぞかし胸がすくだろうに。
だけど、ウルフウッドの手からとうに解放されているヴァッシュの脚はちっとも力が入らなくて、床に踵を落としたまま時折ひきつるだけだ。

「ふ・・・う、ぐ・・・・・・」

ぐちゃぐちゃと入り混じった叫びを吐き出したくなる己の口をいっそう強く塞ぐために、ヴァッシュは手首を拘束する細い鎖を軋ませて、指を深く咥えた。
飲み込みきれない唾液が顎をつたい首筋から胸元に流れて、どうにも気持ちが悪いけれど、てのひらで押さえるくらいじゃどうにもならない。
きっと、何をしているか誰にも判るような声を、大きく上げてしまう。
舌に感じる手袋の不味さは、喘ぎを塞き止めるのと同時に、少しだけヴァッシュの気を散らしてくれた。

――なのにひどい男は、ヴァッシュの努力をそしらぬ顔で無駄にする。

「どないに苛めて欲しいて、訊いとるやろが。なんも、ご希望あらへんのかい」

「―――っ!!」

丁寧なんだか乱暴なんだか判断しがたい口調で訊いてきながら、牧師の指がぎゅうっときつく、ヴァッシュ自身の根元を締め上げた。
同時に、剥き出しの脚を辿っていたもう一方の手が、ヴァッシュの濡れた先端をぐちりと擦り上げる。
痛みの範疇にまで強められた刺激は強烈に過ぎて、こってりとした悲鳴がヴァッシュの喉奥に詰まった。

「あ、はッ!・・・は・・・・・・っ、は・・・ぁ、ひ・・・」

呼吸までも一瞬止まって、ヴァッシュは口を塞いでいた不自由な手を喉に当て、必死に息を吸った。
深く息を吸い、吐いて、どうにか痙攣する己の躰を宥めようと試みては見るが、やはりそれも傍若無人な牧師のせいで功を奏さない。

「せやったら、ワイがどないにでも、苛めてええんやな?」

ウルフウッドは勝手にそう決めてしまうと、うやうやしげなほどの仕草でヴァッシュのそれに口づけを落としてきた。
恥ずかしさに支えられた悔しさで、整いきらない呼吸をせいいっぱい制し、ヴァッシュは途切れ途切れながらも文句を口にした。

「ばか、っ・・・・・・やだ、もっ・・・!」

苛めっ子の、変態の、エロオヤジの、ろくでなし。
もう、いやだ。
こんなんじゃなくて、もっと。
――もっと。

「う・・・・・・ぁ・・・」

塞き止められたまま先端を甘噛みされて、息がつまる。
股間に喰らいついたケダモノの黒髪を、うまく動かせない指先でどうにか引っ張り、ヴァッシュは途切れる呼吸と声を必死で喉奥から押し出した。
涙も勝手に溢れるけれど、これはもう、不可抗力だ。

「・・・も、苛めんなよぉ・・・!」

掠れた声と力の入らない指と、どちらが効いたものか、ウルフウッドは顔を上げた。
もはや愛撫が苦痛でしかない屹立が男の愛咬から許されて、ヴァッシュは少しだけ安堵する。

滲んだ明るい視界の中、見上げてくるウルフウッドの顔は、ヴァッシュの表情を目にして歪んだ。
意地悪で面白そうな笑顔から何かに耐えるような色に変わった牧師の面は真剣そうに見えて、もう勘弁してくれるのだろうかと、ヴァッシュはぐすりと鼻を鳴らしたのだが。

ヴァッシュの耳には許しの言葉ではなく、舌打ちの音が届いた。

「――悪い子な上に、阿呆やなぁ」

苛立たしげな呟きが続けてウルフウッドの口から零れ、股間の拘束はそのままに牧師のもう一方の手が、椅子に掛けたヴァッシュの腰に回る。
そして、強引に抱き寄せられた。

「そないなこと言われたら、もっと苛めとうなるに決まっとるわ、ボケ」

「・・・っ、あ!!」

腰を抱かれ、ヴァッシュは椅子の上からぐいと引き倒された。
屹立を縛める指は外されることなく、体勢の変化に伴い与えられる刺激と痛みに、押さえきれずヴァッシュの唇から短い悲鳴が漏れ出る。
本来の用途を外れた使用を強要されていた椅子が、ヴァッシュと一緒に足をすべらせて、がたんと音を立て床に転がった。

だがヴァッシュの身体は床のかわりに、男の頑丈な体躯が受け止めた。

「・・・・・・」

強い腕の中、鼻腔に馴染んだ煙草くさいウルフウッドの体臭が、こんな時だというのに一瞬の安堵をヴァッシュにもたらす。
けれどそれは本当に一瞬のことで、くるりと体勢が入れ替わり、ヴァッシュの背は固い床に押さえつけられてしまった。
手荒な動きに、呼吸ひとつ分息が詰まった。

「―――!」

「もっときっちりお仕置きしてから、て思うたのにな。あかんわ」

なにやらぶつぶつと抜かすウルフウッド牧師の下肢から、かちゃりとベルトのバックルを外す音がする。

「おどれが、可愛げのあること抜かすからやで。クソ」

「あ・・・・・・」

無防備な足を片方大きく広げられ、折り曲げさせられる。
膝がコートを着たままの胸につくほど押しひしがれて、自然とヴァッシュの腰が床から浮いた。

そして、両足のはざまでびくびくと喘いでいるそこに、固く熱い先端が押し付けられた。

「いっぺん、達かせえ」

ほんの数歩で寝台があるというのに床の上で挑んでくるろくでなしは、反論を許さない強引な宣言を、すぐ間近からヴァッシュに落とした。
強い日差しに対して逆光になっているせいでウルフウッドの表情は余計に獰猛で、ヴァッシュは喰われかかっている草食の獣みたいに、抵抗にならない身じろぎと細い呻きを相手にぶつけた。

「ま、ど・・・。・・・せめて、窓、閉めろ・・・っ」

すでに流されかけている声をひそめて、ヴァッシュは自分にのしかかる男に要求を出した。

ここまでいたぶられ、高められた躰だ。
行為自体を拒む気は、もうない。
お仕置きと理由をつけられているのは気にいらないけれど、それに対する文句も何もかも、とりあえず後だ。
けれど、いくらなんでも、これだけは。

「も、床でも・・・手、しばったままでも、いいから。窓、閉めろよ。・・・・・・そ、したら・・・」

それ以上は言葉にはせず、ヴァッシュはぎゅうっと眉を寄せ唇を噛んだ。
きつく目を瞑っても、普段日に触れない肌に与えられる日光の熱が、自分のとらされている体勢をヴァッシュに知らしめる。

牧師が覆い被さって隠している部分以外、ヴァッシュの姿は窓の外にさらされている。
通行人や近くの建物の人間には、角度から考えてさすがに見られることはないだろうが、こんないやらしい行為を、空にも太陽にも、晒しているのだ。
黒いスーツを着込んだままのウルフウッドの肩越し、窓の向こうに明るい青い空が見えて、ヴァッシュをいたたまれなくさせる。

なのに――ここまで譲歩した、あまりにも当然の筈の要求に対してさえも、破戒牧師は無情だった。

「・・・お仕置きなんやで?阿呆」

 

 

 

 


 

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