「おどれの注文は、聞いたれへんなあ。嫌がることでないと、お仕置きにならへんから、な」

獣じみた仕草でウルフウッドは舌を伸ばし、ヴァッシュの眉間を舐めた。
生ぬるい感触にいっそう顔を歪めたヴァッシュは、ついで言われた言葉の意味を理解して、目を見開いた。

ヴァッシュは、行為を止めろと言っているのではない。
ただ最低限の要求として、部屋を閉ざしてふたりきりの場所でしようと、そう望んでいるだけなのに。

「お、まえなぁ・・・!いくらおまえがっ、恥知らずの破戒牧師でも、そん、な・・・・・・っ――!っ、うぁ!」

寸前のきわどい体勢と昂ぶりにうかされた頭で、それでも何とか最低限の抗弁はと、ヴァッシュは切れ切れに叱咤混じりの説得を綴ろうとしたのだ。

しかし。

「――おどれは、達ったらあかんで。ええな」

ヴァッシュのささやかな説教は、破戒牧師の声と行為とに遮られた。

「あ、っ――ひあ、あ、あっ・・・く」

剛直の先端を押し当てられていた、そこ、に。
いたぶるようにゆっくりと、ウルフウッドが入ってくる。
広げられ、いっぱいにされる。

「お仕置き、されとるんに・・・悦がってしもうたら、あかんやろ?色情狂の変態やあるまいし、なぁ――っう」

「ひ・・・・・・っっ!」

じっくりと根元まで咥え込まされ、ヴァッシュのいちばん奥に、ウルフウッドのものが届いた。
大きく広げさせられた股の内側に、男の腰が当たる。

片足を深く折られ自然と高く腰を上げた姿勢のせいで、ヴァッシュはほとんど肩で体重を支える格好になっている。
膝立ちのウルフウッドに突き下ろすように挿入されて、繋がりの深さにヴァッシュは悲鳴じみた喘ぎを垂れ流した。
頂点への到達をとどめられたままの前が、びくんびくん引き攣っている。
おかしく、なりそうだ。

「くふ、ぁ・・・!ひあ、あ、あぁ」

「は・・・おどれんなか、凄いわ。・・・きもち、ええんか?そないエエ声出しとったら、窓の外まで聞こえてまうで?」

見上げる男の顔は、ヴァッシュを奪う悦楽にうっとりと色めいて甘いのに、その唇はやっぱり意地悪く揶揄を綴る。

「どこの誰がこないにやらしい声で泣いとるんやろ、て探しにくるかもしれへんなあ」

一瞬羞恥を押しのけた挿入の衝撃のせいで喉から溢れた悲鳴を、牧師の指摘で今更ながら恥じて、ヴァッシュは細い鎖で縛られた両手をのたりと動かし、己の口を覆った。
鎖とそれにぶら下がる十字架がぶつかって、かちんと軽い音が立つ。
限界を越えて極彩色に染まっているヴァッシュの頭に、神聖な象徴のたてるかろやかなその音はまるで、ヴァッシュの不埒さを咎めているように聞こえた。

いたぶられて言葉で苛められて羞恥心を煽られて、それでもやっぱりどうしようもなく気持ちいいのはたぶん、強いられている行為の芯のところが結局は、幾度も交わした情交と違わないからだ。
求める相手に、求められている。
触れてくる指もてのひらも、そしてもっと淫らなものも、みんな結局は許して受け入れている。

――つっても幾ら何だってこれは勘弁しろよぉ畜生、と悪足掻きに近い内心の呻きを飲み下し、涙ぐんでヴァッシュは指を噛んだ。

「・・・・・・ぅ、っ――う・・・うぐ」

息が苦しい。
ただでさえ荒いでいる呼吸が、口を塞ぐことでもっと困難になる。
けれど苦悶の表情を浮かべながらも、ヴァッシュはいっしょうけんめいに自分の指を咥えて耐えた。

ふと意識を逸らせば開け放った窓のむこうからは、真っ昼間の往来が発する物音が耳に入る。
人の足音、トマの鳴き声、車のエンジン音や、交わされる会話。
混然として部屋に流れ込むそれらは、秘め事であるべき行為を交わしているこの場所と外とがつながっていることを、あからさまにヴァッシュに教える。

「指なんぞ噛むな。ワイがキスできへんやろが」

一瞬気を逸らしたことに気付いたのか、焦れた声が振ってくる。
続いてヴァッシュの唇は、咥えていた指を奪われた。
しかし、それで呼吸が楽になるわけでもない。
かわりにウルフウッドの唇と舌が、そこを蹂躙してきたからだ。
キスを求めて屈みこんできた男のせいで体勢が変わり、いっそう深まった交合にヴァッシュは反射的に悲鳴を上げそうになったが、苛んでくる相手の口付けがそれを塞いだ。

「・・・ふ、は・・・ぅ」

「―――っぁ!・・・ん、くぅ、う」

ヴァッシュは自分の口から引き剥がされた指をコートの襟に引っ掛けて握り、両腕に力をこめた。
手首の拘束を、引きちぎるためにではない。
暴れ出しかねない腕を制して、そうしないためにだった。
牧師の胸深くにいつも下げられているその十字架の鎖を、ほんの少し気を抜けば、引きちぎってしまいそうだ。
ウルフウッドの暴虐にじっと耐えてなどいられないくらい、苦しくて、もどかしくて、気持ちよくて。

口腔をさんざん犯して、飲み込みきれずにヴァッシュの唇の端を伝う唾液を舐め上げてから、牧師の唇はヴァッシュのそれを解放した。
下肢は深く突き入れられたまま、まだ動かない。
それがまた、辛かった。
受け入れているだけでも、ヴァッシュの胎内はのたうっている。
服を着たままの男の腹に、ヴァッシュの昂ぶりきったものが当たって、ざらりとしたその気持ちよさも、ひどく、辛い。

「ウル、フ、ウッドぉ。・・・も、お・・・」

もう、どうして欲しいのか。
自分でもどれから要求したいのか判らずに、ヴァッシュはそこまでで言葉を途切れさせた。

もう、止めて欲しい。
苦しくてきもちいい、固く熱いものを抜き取って、この惑乱から解放して欲しい。

もう、苛めないで欲しい。
滾りを縛めている指を解いて、そこを愛撫して、いかせて。

さっさとこの鎖をほどいてくれ。
抱き合いたいから。
抱き締めさせて。

もう窓を閉めて、部屋を閉ざして。
ふたりだけの場所で、もっと、して。

けれど、ヴァッシュの声に出さない要求のどれに対しての答えなのか、ウルフウッドは首を横に振った。
その拍子に、行為の熱に滴る汗が散って、ヴァッシュにぽつぽつと降りかかる。

「あかん、て・・・言うとるやろ。ほんま、聞き分けないなあ。は、っ」

「っ――ァ!!」

片腕をヴァッシュの顔の横の床につき、もう一方の手でヴァッシュを縛めて、ウルフウッドはぎりぎりまで腰を引いた。
ぎっちりと繋がった場所がつられそうになるのを、拘束されているそこでとどめられて、ヴァッシュの奥と前と両方が同時に、壊れてしまいそうになる。
だけどその刺激を喉から悲鳴にして溢れさせる前に、再び突き下ろされて声が詰まった。
繰り返されるその動きに、呼吸をするのがせいいっぱいで、言葉になどならない。

「自分でガマンできへんのやったら、ここ、もっときっちり縛っといた方がええか?ん?」

「ひぃ!!」

ぎゅうう、とウルフウッドの指の輪が狭まる。
充血して固くなったそこが、本当にむしりとられてしまいそうに痛くて、ぼろぼろと零れる涙でヴァッシュの眦が濡れた。

「こない、カチカチにしてしもてからに。根元くくって置いといたら、つついただけで、もげてまうかもなあ。ぶちぃ、って・・・なぁ」

耳元にウルフウッドの唇が寄せられ、荒い息といっしょに意地悪な囁きが注ぎ込まれる。
苛めっ子みたいに嬉々とした、とんでもなく不埒な脅しに怯えて、ヴァッシュは勝手に跳ねてうまく動かない躯をせいいっぱいよじり、嫌々と掠れた声でろくでなしの名前を呼んだ。

「ひ、や・・・やあ、ぁ・・・ウルフ、ッド、や、うぁ」

「厭やったら、こらえとけや。・・・っ、は・・・あ」

残酷に言い放った男は、突き下ろしては引き抜く獰猛な動きを一瞬止め、堪えるように浅く長い息を吐いた。
もう、牧師の方も限界が近いのだろう。
中をいっぱいに埋めるものが、ヴァッシュの混乱した頭にそう教える。
動きを押さえ込んでいてさえ、どくどくと息衝くそれは、ヴァッシュの胎内を疼かせ苛めた。
せめて男にすがりつけたら、少しは乱されているこわさも薄れるのに。
鎖で括られている腕が、辛い。

「――オドレがな、前ガマンしとるとな・・・ワイのん咥え込んどるとこが、ぎゅうぎゅうひくつきよるねん。なあ、自分で、判るか?」

「・・・な、い・・・。わかん、ない、も・・・!」

もう、投げ掛けられる言葉の意味を、とらえきれない。
そこまで頭が働かない。
ただ淫らなことを言われているのだけは判って、酷い男の問い掛けにヴァッシュは首を振った。

苦しい。
痛い。
噴き上げるものが溢れていかなくて、なのに容赦なく刺激を注ぎ込まれて、もう、死んじまいそうだ。
肉体だけでなく、心がめちゃくちゃに乱される。
蹂躙され、いいように弄ばれて――なのにこの自分がそれでも抗えないのは、相手が誰でもないこの男だから。

「そか」

ろくでなしの破戒牧師は、泣きじゃくりながらヴァッシュがこぼす喘ぎを笑って聞いている。
なんてひどい男だ。
涙で滲む視界の中、ウルフウッドの表情は本当に嬉しそうで、それを目にして心がほころぶ自分が悔しく、ヴァッシュは余計に泣けた。

「おどれ、ほんましゃあない奴やけど、こないしとると、なあ。・・・ワイのや、なぁ?」

床についていた腕を折り、ウルフウッドは上体を屈みこませて、ヴァッシュにまた口付けをよこした。
ぐちゃぐちゃに繋がった下肢とはうらはらに、触れ合わせるだけのキス。
ついばむようなそれは、確かに優しかった。

けれど優しいだけではない獣のような男は、柔らかい口付けが離れた途端、また大きく腰を動かした。
少しだけ引かれ、壊されるかと思うほど突き入れられる。
一時のもどかしい穏やかさの後だけに、押さえられたままの屹立と焦れる奥の両方が、声にならない悲鳴をヴァッシュの躰中に反響させた。

全身が、もう意のままにならない。
与えられる過ぎた刺激に痙攣して、跳ねる。
なか、で、ウルフウッドが。
いっぱいになって――もう、溢れる。
なのにヴァッシュの立ち上がりきったものは、意地の悪い男に掴まえられたままで、苦しくて痛くて。
手を放してさえくれれば、一緒にいけるのに。

ウルフウッドの熱い呼吸。
それを映した、中のかたい熱。
もう。

「――っ、くぅ・・・!」

「ひ、ぃ!・・・・・・っ、あ・・・っ!?」

解放を許されない苦しさと痛みに加え、熱さとまがうような刺激が手首を走り、ヴァッシュはすこしだけ正気を取り戻して、目を見開いた。
力を入れっぱなしだった両方の腕が、ぱたりと床に横たわる。
その動きにつられて、手首にまといつくものも床に落ちた。

 

「・・・あ・・・・・・」

熱い奔流に身内を濡らされた瞬間、たまりかねて身悶えたヴァッシュの腕は、自制を忘れてほそい鎖の拘束を引きちぎっていた。

 

 

 

 

 


 

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