ぴくの〜ほかんこ

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[450] 思い出の冒険の旅〜コロシアム編〜

リクト #1★2004.11/07(日)17:10
プロローグ   奇襲

「はぁ…はぁ…」
夜の森。1人の少女と1匹のポケモンが、何かと戦っている。
少女の歳は十代中頃か、それより少しいっている位。
(な、何なの…? いきなりポケモンを使って襲い掛かってくるなんて…)
見ると、ポケモンだけでなく、その少女も傷を受けている。
「あなたねぇ! ポケモンで人を攻撃するなんて、どんな根性してるのよ!?」
叫ぶと、その相手は抑揚の無い声でこう答えた。
「オレは、ターゲットと決めた者を攻撃しているだけだ」
その声に、少女は凍りつくような恐怖を感じた。
「さあ、トドメだ! バンギラス!」
「ギラァーッ!」
バンギラスはその少女のポケモン、ジュカインに攻撃を仕掛ける。もう動ける状態ではないのに。
「や…やめてっ! 私のポケモンはもう…」
少女は涙を流しながら言う。しかし、バンギラスのトレーナーは聞くはずも無い。
「泣いても無駄だ。行け、バンギラス!」
気付いた時には、ジュカインに『つばめがえし』がヒットしていた。
「ジュカイン! ジュカイン!」
ジュカインに駆け寄って呼びかけるが、どうやら気を失っているようだ。
「さて、ライボルト。お前はこの小娘に『かみなり』をお見舞いしてやれ!」
「ライッ!」
ライボルトは攻撃態勢に移る。
「えっ…?」
振り向いた時には、既に『かみなり』が放たれていた。
「きゃああっ!」

ドサッ!

「フン…口ほどにも無い奴だ」
その人物は踵を返し、自分のポケモンをボールに戻す。
「このオレに狙われたのは、不運だったと諦めるんだな。オレの名はグレイ。…トレーナーハンター、グレイだ」
その人物、グレイはそれだけ言うと、夜の森に消えた。

       To Be Continued…
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リクト #2★2004.08/29(日)16:53
第五十五話 ラルガタワーコロシアムの存在

グランは25歳だが、これは8年前の話…

ミュウツーとの激闘から、2年という歳月が経過していた。
そして、ミュウツーを止めた人物が、この町に住んでいる。
「いっけー! バシャーモ!」
この少年、グラン。17歳。
彼は15歳の時、この町を離れ、ホウエン地方、そしてナナシマを巡った。
その時彼と共に旅をした仲間達も、今は離れ離れ。
唯一、同じ町に住んでいたフィーユは、父親の仕事の都合で、旅が終わった一ヵ月後に引っ越してしまった。
あれ以来彼女とは、一度も会っていない。元気でやっているだろうか。

「ちぇっ! オレも負けちゃったよー」
「やっぱ、グランは強いよな〜」
グランは、町の子供達とポケモンバトルを楽しんでいた。
「これでもボクは、2年前は駆け出しのトレーナーだったんだけどな」
さっきの戦い終了時点で、100人抜きを達成したグランが言った。
「やっぱり、この町で一番強いのはグランだよな」
1人の子供が言った。
「…以前、ボクより強い奴がこの町にいただろ?」
「ああ、麗しき美少女、フィーユ様の事か」
この町では、フィーユは完全に町の子供達の人気者となっていた。特に男の子にとっての。
なので、フィーユを彼女として射止めた(?)グランに、少し嫉妬している者もいる。
そのフィーユが2年前に突然引っ越した事は、彼らに衝撃を与えていた。
「フィーユだって、きっとさらに強くなってこの町に帰って来ると思うんだ。だから、ボクも負けてはいられないよ」
それだけ言って、グランはバシャーモをボールに戻した。
「じゃ、ボクはこれで帰るから」

「グラン! 手紙が来てるわよ」
家に帰って来て早々、母親が言った。
「手紙…? 誰からだろう」
グランは封筒をひっくり返して裏面を見た。ポケモンリーグ本部と書いてある。
「ポケモンリーグから…? 一体何だろう」
グランは自分の部屋に行き、封筒を開けた。
「えーと、なになに? 『ラルガタワーにてポケモンバトルトーナメント開催』だって?」
ラルガタワーといえば、ポケモンバトルを行う、最先端技術を投入して建設された場所だ。
「場所は『オーレ地方』か… また随分と遠いなぁ…」
グランは、「あれ? でも待てよ」と言った。
「何でポケモンリーグから、ボク宛てに手紙が来たんだろう」

その時、部屋の電話が鳴った。
「はい」
グランは電話機を取った。
「グランか。どうだ、手紙は届いたか?」
「あのさ、父さん。それ、どういう事?」
グランが聞いた。
「我々が、ポケモンリーグ当局よりその大会会場の警備を任されたんだ。で、リーグ当局にグラン達の事を推薦した」
「なるほど。そういう事だったのか…」
「もちろん、出場するんだろう?」
「出場したいのは山々なんだけどさ、場所遠いよ」
「何処だ?」
クロト警視が聞いた。彼はミナモシティの警察で警視の位に居る。
「オーレ地方のラルガタワー」
グランが即答した。
「また随分と遠い所だな」
クロト警視は、先程グランが独り言で言った事と同じ事を言った。
「そうだ。フィーユちゃんやグロード君も推薦しておいた」
「やっぱり。父さんならやると思った」
「ラッシードは出ないのか…」
グランが呟く様に言うと、
「ラッシード君も出る」
「え?」
「彼は、ジョウトのコガネ警察の警視の息子で、私はその警視とは以前の同僚だ」
「何から何までそっくりだなぁ、ホント。外見といい、家族の職業といい…」
「では、詳しい事は、明後日家に帰ってからゆっくり」
「え、帰って来るの?」
「半年振りに休暇が貰えたからな」
「分かった。じゃあ待ってる」
グランはそう言って電話を切った。

その頃…
「フィーユは一体、どこまでトレーニングに行ったんだ」
彼女の父親は、夜森の中にいた。
昨日の夜、トレーニングに行くと言って、そのまま戻っていないのだ。
「うーん、いないな…」
彼女の父親――ポケモンの博士だ――は、少し考えた。
「そうだ。グラン君に聞いてみるか」
一旦家に戻り、受話器を取った。

その夜…
電話が鳴っている。
「…ったく、誰だよ、こんな夜中に」
グランは渋々電話を取った。
「はーい。…誰?」
「グラン君か? 夜遅くにすまない」
「ああ、博士。お久しぶりです。…って言いたいんですけど、今何時だと思ってるんです? 夜中の1時ですよ?」
「ああ。すまない…」
「で、フィーユは元気でやってます? 話したいっても、この時間じゃアイツはもう寝てるか」
「実は、昨日の夜から家に戻っていないんだ」
「はぁ!?」
その博士の言葉に、グランの眠気は一瞬で吹っ飛んだ。
「それで、何か分からないかと思って、キミの所に電話したんだが…」
「…行きます」
「ん? 何だい」
「ボクは…今からそっち行きます! 場所、どこですか!?」
「あ、そうか…引越し先言ってなかったんだっけ」
博士は、グランに場所は3の島、木の実の森だと言った。
「3の島だったのか… 分かりました。今からフーディン使って行きます」
「しかし、両親には…」
「大丈夫ですよ。上手い事言っておきますから」
「分かった。じゃあ、待っているよ」
電話が切れ、グランは静かに受話器を置いた。
「フィーユ…お前、一体どうしたんだよ…」

ラルガタワーコロシアムの存在。
そして、突然のフィーユ行方不明。
果たして、グランはどう出る!?

        To Be Continued…
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リクト #3★2004.08/29(日)16:53
第五十六話    トレーナーハンター・グレイの存在

「フーディン! 至急3の島までテレポート!」
「フ――ッ!」
グランは急いで3の島に急行する。

「待っていたよ、グラン君」
「久しぶりです…って言いたいけど、今はそれどころでは」
「ああ。ほら、あそこが『きのみのもり』だ」
「博士は、目の前に広がる広大な森を指差した。
「うひー…かなり深そうだなぁ…」
「じゃ、頑張って行ってきてくれ」
「あれ、博士は行かないんですか?」
グランが聞いた。
「正直、夜の森って怖いんだ。何が出てくるか分からないからね」
「確かに…じゃあ、ボクだけで行ってきますよ」

「さーて、周りがかなり暗いな」
グランはバシャーモを出す。
「丁度いい木の棒があった。これに火を付けて灯りにしよう。頼む、バシャーモ」
「バシャッ」
バシャーモは軽く炎を吐く。すぐに火は付いた。
「よし、行こう」

グランは森の中をくまなく探し回る。
「まったく、何処に行ったんだ、人騒がせな奴め」
グランはぶつぶつ言いながら森を行く。
そしてしばらく進み、草むらを掻き分けた時――
「なっ…フィーユ! どうした!」
地面に仰向けに倒れているフィーユを見つけた。
グランは灯りの棒を地面に思い切り突き刺し、フィーユを抱き起こした。
「オイ! しっかりしろ!」
グランは何度も何度も呼びかけた。
そして、ようやくフィーユはうっすらと目を開け、唇を小さく動かして何か言った。
何か言おうとしているというのは分かるのだが、声が小さすぎてよく聞き取れない。
「どうした。なんだ?」
グランはフィーユの口元に耳を近づけて言った。
「え…? グラン…? どうしてここに…?」
ようやく、それだけ聞き取れた。
「博士から連絡受けて、フーディンのテレポートでここまで来た」
「そう…」
「どうしたんだ。一体、何があったんだ」
「トレーナ―ハンターって名乗る人に…トレーニングの最中に…いきなり…攻撃されたの…」
少しずつ、声のトーンも戻ってきている。
「トレーナーハンター?」
グランが聞いた。
「ええ… 確か名前は…『グレイ』って言ったっけ…」
「トレーナーハンター、グレイ…」
グランは呟く様に言った。
「って、その前にお前傷だらけじゃないかよ! 早く戻って手当てした方が…と、そうだ!」
「え、なぁに?」
「傷の手当てなら、あそこに行ってみるか」
「『あそこ』って?」
フィーユが聞いた。
「付いて来れば分かる。フーディン! 頼む」

「着いたよ。ここだ」
「ここ…どこ?」
フィーユが聞く。傷のせいで上手く立っていられないので、グランの肩を借りて立っている。
「よかった。電気が付いてる。リナさんが起きてりゃいいけど」
「誰? その人って」
「ボクの…姉さんだ」
「え? グランにお姉さんがいたの?」
「もっとも、その事ボクが知ったのは2年前なんだけどさ(ナナシマ編最終話参照)」

グランは、呼び鈴を鳴らす。
「はーい。誰?」
この声。グランの姉、リナだ。
「あ、姉さん? ボクだよ。グランだ」
そう言うと、門が開いた。
「どうしたの? こんな夜中に」
「急患。ちょっと手当てしてやって。よろしく。んで、お爺ちゃん今寝てるよな?」
グランが小声でリナに聞いた。
「寝てるけど…どうして?」
「起きてたら特訓させられそうだからさ。特に『地獄の特訓十選ムゲンサイ版』はやりたくないんだ…」
「大丈夫。明け方まで起きないから」
そう言うと、リナはフィーユを見た。
「あ、ひょっとしてこの子、グランの彼女?」
「…さあ、どうでしょ」
「私、フィーユです。私は、グランが彼氏だと思ってるんですけどね… あ、痛っ!」
「大丈夫? 傷だらけよ。とにかく、中に入って」

グランとフィーユは、リナにこれまでの経緯を話した。
「トレーナーハンター…聞いた事があるわ」
「姉さん、知ってるのか?」
グランが聞くと、リナは頷き、
「ポケモントレーナーを狙って行動する、冷酷なる人物。それが、トレーナーハンターなの」
「で、無差別に狙ってくる…と」
「ううん。違うの。狙っているのは、実力があって、かつ美男美女のトレーナーだけ」
リナが言うと、
「なんだか、ヘンテコな趣味のハンターだな」
そうは言っているのだが、グランは何故自分が狙われないのかとも思っていた。
「フィーユちゃんだっけ? おそらく、可愛くて実力あったから狙われたんだと思う。その法則は、吸血鬼伝説と似た様なものね」
「吸血鬼伝説、ねぇ…」
グランが呟く様に言った。
グランの聞いた事のある吸血鬼伝説というのは、2種類ある。
彼にとっては、そんなのはどっちでもいいらしいのだが。
「でも、私を倒した後、口ほどにも無いって…」
「うん、やっつけた後には決まってそう言うらしいの」
「なんだか、気味悪いわ…」

「とりあえず、博士に連絡はしておいたから、今日はここで休んでろ」
「グランは? せっかくお姉さんの所に来たのに」
フィーユが言う。
「いや、ボク実は黙って家出てきたから、そろそろ帰んないと。それに」
「それに?」
「ここに残ってると、またお爺ちゃんに特訓させられそうだしさ」
「ふふふっ。なるほどね」
フィーユは笑って納得した。
「あ、そうだ。1つフィーユに聞いておく事が」
「え? なぁに?」
「こんな物、そっちに届いたか?」
グランはポケモンリーグ本部から届いた封筒を出して聞いた。
「ああ、それね。届いた届いた。私は出るつもりでトレーニングしてたのよ。もちろんグランも出るんでしょ?」
「うん、まぁ…出てみようかな…」
「出ようよ! ねっ?」
「そうだな…考えておくよ」
グランはそう返した。

「ホントは…もっと話したい事たくさんあるけど…とりあえずこれでお別れね」
「ああ。今度はリーグの会場で会えたら会おう」
「『会えたら』は余計よ♪」
フィーユは楽しそうに言った。
「それだれ元気なら、大丈夫そうだな。…じゃあ、姉さん。ボクはこれで。フィーユの事、頼む」
「うん、分かった。心配しないで」
グランはフーディンのテレポートで戻っていった。

「あ、忘れてた!」
突然フィーユが叫んだ。
「なに? どうしたの?」
リナが聞いた。
「ちょっと耳貸して下さい…」
そう言うとフィーユは、リナに何か耳打ちした。
「うん、うん… そうねー、それはちょっと…やり過ぎなんじゃない?」
「やっぱりそうですよね…」

その頃、グランの自宅では…
「こんなに遅く、何処ほっつき歩いてたの!」
「うわ〜、何でこんな時に限って起きてるんだよ〜」
…グランが怒られていた。
その後、3時間、夜が明けるまでみっちりと。

フィーユとの再会、そしてトレーナーハンターの存在。
やっぱり今度も激戦必至か!?

    To Be Continued…
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リクト #4★2004.08/29(日)16:54
第五十七話     来訪者

夜中に黙って外出したため、怒られてしまったグラン。
理由を説明しようとしたが、どう説明したら良いのか分からなかったため、説教を聞き流した。

「まったく…ボクは人助けしてたってのに、何でお説教なんかされるんだ」
グランは自室のベッドの上でぶつぶつ言っていた。そりゃ反論もせずに聞いてるだけじゃ親は納得してくれないだろ。
「ったく、大人ってのは」
…何をワケの分からん事を。グラン。

1人の少年がグランの家に来たのは、昼過ぎだった。
「グラン! お客さんよー!」
「客? 誰だろう」
グランは階段を下りていく。そこに立っていたのは――
「よっ。久々」
「グロードじゃないか! どうしてここに?」
グランの家に来たのは、かつてグランと共に旅をした仲間の1人、グロードだった。
「おいおい、せっかくヤマブキシティから逃げてきたってのに、なんだよその言い方」
「逃げてきたぁ!?」
グランは大声をあげた。
「そうさ。あんな町、もう戻りたくないね、絶対。たとえ頼まれても」
「…何があったんだ」

グランとグロードは、2階のグランの部屋にいた。

「いやぁ、戻ったまではいいんだけどさ、戻った途端に町の子供達から罵声の嵐。嫌気がしてきた」
「で、両親には会ったのか?」
「会った。でも、オレが外出すると決まって町の子供達の罵声が響く響く」
グロードが言った。
「で、そんなに悪く言われる理由、思い当たる事あるか?」
「ある。オレの家柄だよ」
そういえばグロードの父親は、有名な映画監督のはずだ。
「まぁ、昔からの事だったけど、やっぱり居心地悪くてさ。思い切って出てきてやったぜ」
グロードが笑って言った。
「親が心配するんじゃないのか?」
「親にはオレの意向を伝えてある。でも、言われた。戻ってきたかったら、何時でも戻って来いって」
「なるほど。だからそんなデカいバッグ持ってるのか」
グランが納得して言った。
「つーワケで、これからお前の家に暫く厄介になるぜ」
「…はぁ!?」

「母さん。グロードの奴こんな事言ってたんだけど、どうする?」
「グロード君は力仕事が得意らしいじゃないの。正直、グラン1人じゃ頼り無いし。居候許可」
「頼りないって…」
その時、グロードが2階から降りてきた。
「で、どうだ?」
「許可するってさー。部屋はボクの部屋の隣」
「どうも。暫く厄介になりますよ」
グロードはグランの母親に頭を下げた。
「いえいえ。何もお構い出来ないと思うけど」
グランはこれでいいのかと思っていた。

その夜。夕食時。
「いやぁ、美味いな」
「食欲は相変わらずだな。旅してた時もそうだった」
グランが思い出しながら言った。
「食ってると、フィーユの料理を思い出すぜ。あいつの料理の腕前はかなりのモノだからな」
「確か、引っ越した博士の一人娘だったわよね」
グランの母親が言った。
「んで、成り行き上フィーユも一緒にボク達と旅してたってワケさ」
「グランは羨ましいよな。何たってあんなに可愛い子を自分の彼女に…」
「わーっ! わーっ!」
グランは慌ててグロードの発言を遮る。しかし、一足遅かったようだ。
「いつの間にかガールフレンドが出来てたの? 母さん聞いてないわよ。何ですぐに報告してくれなかったのよ」
「あーあ、バレちまったよ。グロードが余計な事言うからだぞ」
グランはため息をついた。
「オレはそんなつもりで言ったんじゃねーんだけどなぁ」
「でも、案外いいペアかもね。不真面目なグランには真面目な子が一番」
「不真面目は余計だよ、母さん。ボクだってあの旅で成長したんだ。…多分」
グランはチェックを入れ、自分が使った食器を下げた。
「じゃ、ごっそーさま」

グランは部屋に入ると、部屋の隅にあるパソコンを起動した。
彼のパソコンは、ポケモン預かりシステムや、道具預かりシステムとも繋がっている。
「あ、メールだ」
預けてある道具を引き出そうとした時、メール着信のサインが目に入った。
「父さんからだ。なんだろう」
グランはメールを開く。そこにはこう書いてあった。
『ポケモンリーグの大まかなルールが発表されたので、重要部分をあらかじめ送る。詳しい事は明日』
どうやら、ラルガタワーのポケモンリーグルールみたいだ。
「どれどれ…どんなルールなんだろう」

1、1トレーナーにつき、手持ちは6匹とする。
「まぁ、これはもう決まりみたいなものか…」
2、バトルは、その中から3匹を使用したシングルバトル。
「シングルか…」
3、但し、決勝時はダブルバトル。
「決勝だけダブルか…ダブルバトルの経験薄いんだよなぁ」
4、会場では、出場選手を8名に絞る予選大会を行う。
「な、なんだってー!?」
5、予選大会のルールは、当日までのお楽しみ。
「ルール分からなくちゃ対策のしようが無いじゃないか…」
6、伝説使用は、一匹のみ。
「一匹だけ使えるのか…他に伝説持ってるトレーナーって居るのかな」
7、同じ道具は持たせられない。
「道具の選別もしっかりしておかなきゃな」

一通りルールを見終わり、グランは軽く息を吐いた。
「予選大会か…下手するとここで振り落とされるって事か」
グランは腕組みしてパソコンのモニターを見ていた。
「おい、何見ているんだよ」
「父さんからのメールさ」
「ああ、ポケモンリーグの事か。そういえばオレの所にも手紙が届いたな。町出る前日に」
グロードが言った。
「で、しっかりこの手紙は持ってたりするんだよな、オレって奴は」
「とは言っても、2年前はお前ポケモン3体しか居なかったじゃんか」
グランが思い出した様に言うとグロードは右手人差し指を立てて「チッチッチッ。甘いな」と言うと、
「この2年、オレがぐーたらしてたとでも思っているのか? オレはオレでポケモンを育てていたんだぜ」
「へぇ。それはすごい」
「フィーユもラッシードもポケモン鍛えてるだろうし、グズグズしてたらオレ達追い抜かれちまうぞ」
「実は夜中に会ったんだよ、フィーユと」
「は?」
グロードは一瞬理解不能になったが、すぐに、
「へぇ。夜中のデートなんて洒落ているじゃないか」
と楽しそうに言った。
「デートなんかじゃないよ。こういう事なんだ」

「ふーん。トレーナーハンターねぇ…」
グランから夜中に博士に呼び出されて3の島に行った経緯を話した。
「そのおかげで、寝不足になるし母さんには怒られるし。もう散々だったよ。今度フィーユに会ったら、その埋め合わせをしてもらおう」
「埋め合わせねぇ…何をしてもらうつもりだ?」
「まだ考えていないよ。埋め合わせしてもらう案は今思いついたんだし」
「…相変わらずだな」

突然グランの家に居候する事になったグロード。
彼もこの2年でポケモンを育てていたらしい。リーグでの対戦は実現するのか!?

    To Be Continued…
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リクト #5★2004.08/29(日)16:54
第五十八話   2人目の訪問者

「しばらくだったな、グラン」
連絡通り、グランの父、クロト警視が久しぶりに自宅に帰って来た。
「うん、しばらく」
「ども。世話になってます」
横からグロードも現れた。
彼はヤマブキシティでの子供達の罵声に耐えかね、町を出て来てグランの家に居候する事になっていた。
「しばらくだな、グロード君。元気そうじゃないか」
「まぁ、オレから元気取ったら何も残らないっスよ」
「町を出て、親は心配していないのか?」
クロト警視が聞くと、
「全然。オレの意志の固さにまいったのか、承諾してくれましたよ」
「やるものだな、キミも」

「で、父さん。リーグの詳しい事は?」
グランが聞いた。
「大体のルールは、グランに送ったメールの通りだ。伝える事はあまりない」
「…何も無いのか」
「伝える事は、開催日時だけだから」
「いつ?」
「1週間後だ。1週間後、ラルガタワーで行われる。出場選手は、選手村に宿泊する事になるんだ」
クロト警視が言った。
「選手村か… 設備はどんな感じ?」
グランが聞く。
「最先端技術を投入しているから、かなりのモノだ。詳しい事は当日に説明してくれる」
「最先端技術か…面白そうじゃねーか。な、グラン」
グロードが言うと、
「…ないな」
「何だ?」
「ボクは…出る気はあまりしないな」
グランがポツリと言った。
「どうしたんだグラン。お前がそんな事言うなんて、珍しいじゃないか」
クロト警視が意外そうに言った。
「何か、こう…嫌な予感がするんだ。グロードには話したと思うけど、トレーナーハンターにフィーユが襲われた件もあるし」
「ああ、昨日メールで言っていた事だな」
クロト警視が言った。
「ただの無差別攻撃じゃねーのかな」
「どうも違う気がするんだ。ソイツは多分、もう一度フィーユの事狙って来そうな気がしてならない」
「考えすぎじゃねーのか?」
「そうかも知れないけど、一応警戒だけはしておいた方がいいと思う」
グランがそこまで言った時、玄関の方で呼び鈴が鳴った。
「誰だろう。夜なのに」
グランは玄関に向かっていく。
「はい」
そう言ってドアを開けると、
「グランか〜。元気してたか〜い?」
「ラ、ラッシード!?」
何とそこには、クチバの港で別れたラッシードがいたのだった。
「…変わってないな。その口調直しとけって言っただろ」
「すっかり癖になっちゃってね〜」
しかし、外見は変わっている。少しオシャレになった感じだ。
「おっ、ラッシードじゃねーか。しばらく」
「何だい、キミもいたのか〜」
「グランの家に居候してんのさ。お前はどうしたんだ、突然」
そう言いながら、突然グランの家に押しかけてきたグロードが言った。
「大会が近いからさ〜、キミ達と特訓でもしようかなって思ってね〜。僕だってさらに強くなっているんだ〜」
「あ、一人称変わったな」
グランが気付いて言った。
「そうさ〜。いつまでも『ぼくちゃん』じゃカッコ悪いと思ってね〜」
「そこだけは克服できたか」
「でも、まだあまり慣れてはいないんだけどさ〜」
「ま、人間、慣れれば大丈夫だろ」
グランが言った。
「ところで、あの可愛い子…どうしてる〜?」
「…前に手紙で教えただろ。旅が終わった一ヵ月後、引っ越したって」
「あ、そっか〜」
やっぱりコイツは軽い。グランはそう思った。
「キミも出るんだろ〜? 大会」
「何だか嫌な予感がして、あまり出る気がしないんだよ」
グランは、少し困った顔をして言った。
「それ、どういう事なんだ〜い?」
「こういう事さ」

グランは、自室に行き、ラッシードにこれまでの経緯を話して聞かせた。
しかし、彼は聞いているのか聞いていないのか分からない。
「聞いてるのか?」
話している時、何度か聞いたが、彼は「聞いてるよ〜」と軽い口調。
「だから、嫌な予感がするから、ボクはあまり出る気になれないんだ」
「なら簡単じゃねーか。フィーユが狙われない様に、お前が守ってやればいいじゃん。簡単な事さ」
「言うのは簡単だけど…あのトレーナーハンター、相当ヤバそうな感じがするんだ」
グランはあまり弱気な事は言わない方だが、今回は違う。
「気にし過ぎだよ。それもリーグに出場してみれば分かるだろ」
「そうかな… やっぱり何か嫌な予感がするんだ」
「そう思うなら尚更だ。しっかりフィーユを守ってやれ」
「ぼくちゃん…違った。僕も手伝うからさ〜」
「分かった。ありがとう。…ちょっと待っててくれ」
グランはそう言うと、机の上のパソコンで何か打ち始めた。
「これで、送信と…」
「何してたんだ?」
グロードが聞くと、
「フィーユにメールを送っておいたんだ。『トレーナーハンターに十分警戒しておけ』って」
「確かに、話を聞く限りでは注意しておいた方がいいかも知れないな」
グロードは腕組みをして言った。
「あ、そういえば」
ラッシードが思い出したように言った。
「どうやらホウエン地方からは、帽子とバンダナの男女の子供が出場するみたいだよ〜」
「帽子とバンダナ…?」
グランはその言葉に反応し、
「その2人の名前、分かるか?」
と聞いた。
「確か、男の子の方が『ユウキ』で、女の子の方が『ハルカ』だったかな〜」
「あいつらだ…」
ユウキとハルカといえば、ダブルバトルでグランとフィーユを倒したホウエン地方のトレーナーだ。
彼らはダブルバトルでは負け無しらしい。
「アイツらとまた会う事になるなんてな。…今度は絶対負けない」
「お前、あまり出る気が無いって言ってたじゃねーかよ」
「え、ボクそんな事言ったっけ?」
グランが言うと、
「とぼけるなって…」
グロードが呟いた。

      To Be Continued…
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リクト #6★2004.08/29(日)16:55
第五十九話   出発! いざオーレ地方へ!

「ポケモンの体力は満タン。道具も…よし」
グランは家の外で出発前に入念に持ち物のチェックをしていた。
ラッシードがやってきて早数日。
彼らは現地で最終準備を整えるために、大会前日にオーレ地方に出発する事になっている。
「何だよ、グラン。お前、もう起きていたのか?」
グロードが家の外に出てきた。
「リーグはもうすぐなんだ。寝てなんかいられない」
グランはチェックする手を休めずに言った。
「昨日までなんか、出る気はあまり無いって言ってたじゃねーか」
グロードがすかさず突っこむ。
「まあね。でも、ボクが守らなければ、誰がフィーユを守るっていうんだ」
「お前も言う様になったじゃねえか」
グロードはグランの背中を叩いた。

出発までの6日間、グランはグロードとラッシードと共に特訓をしていた。
グランにとって、2人の新しいポケモンを見るのは初めてだった。
グロードが新しくゲットしていたのは、ヘルガー、ネンドール、エレブー。
そしてラッシードのポケモンは、あの時ハガネールしか見ていなかった。
そんな彼は、他にニョロボン、リングマ、ブーバー、キノガッサ、カイロスを持っていた。
2人のポケモン達を見て、戦って、グランはみんなよく鍛えられていると言った。
そう言われたので、グロードとラッシードはウハウハだった。
――これは楽しくなるぞ。
グランは心の底からそう思った。

「よし、これで荷物は全部かな」
グラン達は荷物を外に出し終えた。
「忘れ物無いか、確かめてくる」
グロードとラッシードは、一旦家の中に入った。
グランは空を眺めた。雲1つ無い。
――どんな戦いになるんだろう。
そんな事をうっすらと考えていた時、何かの感触がした。
…誰かが目を塞いでいる?
誰だろうと思っていたら、後ろから声が聞こえた。
「おどろいた? 私よ、私」
聞き覚えのある声。まさか…
グランは自分の目を塞いでいる手を離し、背後を見た。
「…フィーユ!?」
「そ。怪我も殆ど治ったし、一緒にリーグ行こうと思って来てみたの。この町も2年ぶりね」
「実はさ、グロードとラッシードもここに来てるんだよ」
「え? あの2人も来てるの?」
フィーユが意外そうな顔で聞いた。
「そうさ。今ボクの家の中にいるけど、そろそろ出てくるんじゃないかな」
言った途端、グロードとラッシードが家の中から出てきた。
「準備は完了だぜ、グラン。…お、フィーユじゃねーか! 久しぶりだな」
「やっほ〜。2年ぶりだね〜」
「うん。久しぶりね」
「グランから聞いたぜ。大変だったんだってな?」
「そう。いきなり攻撃されて、散々だったわよ」
「そりゃ、いくらなんでも不意打ちじゃあな…」

「そういえば、2年前よりグラン、背が伸びたじゃない。グロード君と同じくらいね」
「下手するとオレがグランに追い抜かれちまうよ」
そういえば、グランとグロードの背丈は殆ど変わらない。
「うん。ボクはこの2年間で大体7〜8センチ伸びたかな?」
「オレは5センチくらいか」
グランとグロードは少し考えながら言った。
「私も伸びた事は伸びたんだけど、それでも今は2年前のグランと同じくらいの身長なのよね」
そういえば、2年前はグランとフィーユの身長差は若干2〜3センチ位だったが、今ははっきりと身長の差が現れている。
「ところで、ラッシードはどう?」
「え〜と、僕の場合はあまり伸びてないね〜。伸びる時期がまだ来てないのかも」
「あれ? ラッシード一人称変わった?」
フィーユが驚いて聞いた。
「そうさ〜。いつまでも『ぼくちゃん』でやるワケにはいかないし、イメチェンってところかな〜」
「だけど、まだ慣れてはいないみたいなんだよ」
グランが言った。

「そろそろ行くか。船の時間に乗り遅れてしまう」
グランがバッグを肩にかけて言った。
「またこの4人が集結だな」
「今度は…どんな事が起こるのかしら」
「なんだか、ワクワクしてくるね〜」
「じゃ、みんな行こう!」

グラン達はまず隣の港町に行った。
そこからカントー、ジョウト、ホウエン、オーレ各地方への定期船が出ているのだ。
「もうすぐオーレ地方への定期船が出る。行こう!」
「あ、待ってよグラン!」
「そんなに慌てるなって」
「慌てると怪我する…痛っ!」
…言ったそばから転んでどうする、ラッシード。

オーレ地方に向かう船は、ゆっくりと海を行く。
「で、目的地にはいつ着くんだ?」
グランが聞いた。
「夜には着くらしい」
グロードが答えると、
「時間が掛かりすぎるなぁ。もっと早くいかないのか」
「こればかりは、オレ達にはどうしようもねーよ」
グロードはそう言うと、どこかへ行ってしまった。
「そういやグロードの奴は、船酔いは克服したんだっけ?」
グランはとなりで海を眺めているフィーユに聞いた。
「さあ。大丈夫なところを見ると、船酔いは平気なんじゃない?」
少し考えてフィーユは言った。
「…そういや、クチバに行く時も、こうやって海を眺めてたよな」
「うん。…懐かしいね」
その後2人は何も言わず黙って海を見ていたが、
「そうだ。海で思い出した事があるの」
と、グランの方を向いて言った。
「何だ?」
グランが聞くと、フィーユは声を潜めて1個のモンスターボールを出した。
「この中に、伝説のポケモン、カイオーガがいるの」
「え? …今、何て?」
「この中に、伝説のポケモン、カイオーガがいるって」
グランは、暫く驚きを隠せないような表情をしていたが、
「…本当なのか?」
「ええ。これは紛れも無い事実よ。私が引っ越して1年が経った時に、このポケモンと出会ったの」
「その話、聞かせてくれよ」
グランが言った。
「いいわ。あなたも船旅で退屈してそうだし」

カイオーガを所有していたフィーユ。
果たして、彼女の口から語られるその経緯とは!?

    To Be Continued…
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リクト #7★2004.08/29(日)16:55
第六十話    伝説のポケモン・カイオーガ

「私がカイオーガと出会ったのは、大体1年前。あの時私は、ポケモンの特訓で、浜辺にいたの」
「それで、何が起こったんだ?」
グランが聞く。
「それをこれから話してあげる」
そう言うと、フィーユは語り始めた。

     1年前…

「ふぅ… 海辺のトレーニングって、結構効果あるわね。トレーナー自身も鍛える事が出来るし」
そこは、日差しが強く、長時間いると簡単に日焼けも出来そうな場所だった。
「クリーム塗ってなかったら、きっと黒くなってたかも…」
フィーユは、前もって日焼け対策をしておいてよかったと思っていた。
もし日焼けしていたら、グランやグロード、ラッシードは驚くに違いない。
「みんな! そろそろ休憩にしましょ!」
フィーユは自分のポケモン達を呼んだ。
その中には、新しく入った面々もある。
今まで居たジュカイン、サーナイト、キュウコンに加え、ストライク、ハピナスが加入していた。
フィーユは丁度木陰になっているところに腰を下ろした。
そして、一枚の写真を取り出す。
それは、クチバでの別れ際に、旅の仲間達と撮った写真だった。
「みんな…元気かな…」
フィーユはぽつりと呟く。
「ストライッ!」
突然、ストライクが何かを察したかのようにフィーユを呼んだ。
このストライクは、物事に敏感なのだ。
「どうしたの? ストライク」
すると今度は、サーナイトもテレパシーで何かを感じたのか、フィーユに伝えた。
「…何ですって!? 大波が向かってくる?」
するとその大波に合わせたかの様に、いきなり大雨が降ってきた。
「なんで!? あれだけいい天気だったのに!」
突然の天気変動に、フィーユは驚いている。
また、サーナイトのテレパシーが入って来た。
「え〜!? もう大波がそこまで来てるですって!?」
サーナイトのテレパシー通り、大波はすぐそこまで来ている。
フィーユとポケモン達は全力で逃げようとする。
――だめ! 間に合わない!
そう思いながらも、全力で逃げようとするが、時既に遅し。
「きゃああっ!」

ザバ―――ン!



なに…? 私、どうなったの…?
ここは…どこ? まさか、天国?
薄れゆく意識の中でフィーユは考えていた。
すると、ぼやけた視界に見覚えのあるモノが。
「藍色の…珠…」
そのままフィーユは、意識を失った。

次に目が覚めたのは、何だか不思議な空間の中だった。
周りは水だが、息も出来るし、全然苦しくも無い。
――ここは一体どこ?
そう思った時、どこからともなく声が聞こえた。
『我を目覚めさせたのは…お前か…』
「えっ?」
『我を目覚めさせたのは…お前か…』
声のする方を見てみると、見た事もない生物がいた。
「あなたは?」
フィーユが聞く。
『我の名はカイオーガ。海の化身とも、伝説のポケモンとも呼ばれている』
「海の化身…カイオーガ…」
『その藍色の珠を持っているとはな』
フィーユが自分の横を見ると、藍色の珠が転がっていた。
『藍色の珠を持つ者には、我は力を貸す事にしている』
「あの、私はここに来たくて来たんじゃないの…」
『というと?』
カイオーガは怪訝そうに聞いた。
「ポケモン達のトレーニング中、いきなり大雨が振ってきて、その後大波にさらわれて、気がついたらここだったのよ」
『その大雨と大波は、我が引き起こしたものだ』
それを聞くと、フィーユの表情は一変した。
「そのせいで私がどれだけ迷惑したと思ってるのよ!?」
『これも、我が仕えるべき者を探すためだったのだ』
「グランならグラードンを使っているから、伝説のポケモンの使い方も…」
そこまでフィーユが言うと、
『なに、グラードンが復活しているのか?』
と驚いてカイオーガが聞いた。
「ええ。グラードンがホウエン地方で暴走したから、グランが捕獲して止めたの」
『あのグラードンを止めたとな。…そのグランとかいう者に、我も会ってみたいものだ」
「そのうち会えるわよ。多分」
『よし、それなら我はお前の力となろう。我が仕える事が出来る者は、藍色の珠を持つ者のみなのでな』
カイオーガは一方的に決めてしまったが、フィーユは内心悪い気はしなかった。
「その前に、私を地上に戻してよ」
『では、行くとするか』

フィーユはカイオーガに乗って地上に戻った。
地上に向かう道中、周りは当たり前の様に海だったのだが、フィーユの周りだけは水が来なかった。
さすがは伝説のポケモンの力だ。

『グラードンが復活しているにしては、普通の天気だな』
「だから言ったでしょう。グランがグラードンの暴走を止めたって」
『グラードンが暴走したのはいつだ』
「えーと…1年前かな?」
『それだったら、我はまだ眠っていたころだ。目覚めたのは千年ぶりというところか』
「せ、せんねん!?」
フィーユは驚きのあまり腰を抜かしそうになった。
『早くそのグランという者に会わせろ』
「そうすぐにというワケにはいかないわ。何時になったら会えるのか…分からない」
『気を待たせるな』

「…というワケ」
「なるほど。そんな事があったのか…」
グランは納得した答えた。
グラードンとカイオーガが鉢合わせしたら、一体どうなるんだろう。
それを考えると、グランはおかしくなった。
その時、グランは肩に何かが乗っかるような感覚を覚えた。
隣を見てみると、フィーユがグランの肩に頭を寄せているではないか。
「い、いきなり何だ… ん?」
よくよくフィーユの顔を見てみると、彼女は立ったまま寝ていた。
(…コイツ、立ったまま寝てやがる! なんつーバランス感覚してるんだ!?)
グランは心底呆れていたが、倒れないように支えてやってはいた。
グランはちょうど近くに来たグロードを手招きで呼んだ。
「どうしたグラン。…お、恋人同士って感じの事してるじゃんか。そうでなくちゃな」
グロードはにやにやして言った。
「違う。寝てるんだよコイツ。ボクに話を聞かせた後、立ったまま寝ちゃったんだ」
グランが言うとグロードは、
「はぁ? 立ったまま寝てるって? そんな器用な事出来るのかフィーユは」
「ボクだって初めて気がついたよ。将来大物になるぜ、コイツ」

フィーユが語ったカイオーガとの出会い。
その実力はまだ未知数。果たしてその実力や、いかに!?

     To Be Continued…
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リクト #8★2004.08/29(日)16:56
第六十一話  予選大会! チームサバイバルクイズ! 前編

「見えてきた。あれが大会開催地、ラルガシティだ」
グランが言った。まだ結構遠くだか、彼は双眼鏡で見ているのだ。
「どんな所なんだ? オレにも見せてくれよ」
そう言ってグロードはグランから双眼鏡を引ったくって見た。
文字通り、ハイテク都市そのものという感じだ。
「おー、こりゃまさしくハイテクたぜ。設備が充実してるんだろうなぁ」
「僕にも見せてくれよ〜」
「私も私も!」
ラッシードとフィーユが、双眼鏡の奪い合いを始めた。
「おいおい、ボクの双眼鏡壊さないでくれよー!」

船が港に着くと、早速選手村に向かう事にした。
「ここは交通も発達しているみたいだな。ほら、移動手段が動く歩道になってる」
グランが言った。
「動く歩道? それだったら楽ね」
フィーユは安心したように言う。すると、
「でも、それだけじゃ体が鈍るとボクは思うんだよな」
グランが腕組みして言った。
「じゃあ、どうするの?」
「普通の道路を走るのさ!」
そう言うや否や、グランは道路を猛スピードで走っていった。
「オイ、ちょっと待てグラン!」
グロードが止めるのも聞かず、既に彼は全力疾走を決行していた。

「ふぃー、到着っと」
グランが選手村広場に到着したのは、それから約10分位してからだった。
「いやー、距離からしていい運動になるなぁ。まだみんな来てないみたいだな」
グランはどこかで休憩するかと思って場所を探そうと歩き出そうとした時、
「よお。遅かったじゃんか」
グランの目の前に立っていたのは、グロード、フィーユ、ラッシードの3人だった。
自分はこの3人より早く行ったハズなのに、なぜ…
「不思議だと思ってるんだろ? 理由はコレさ」
グロードは、選手村広場の中央にあるパッドを指差した。
「これはワープパッドよ。対になっている所に瞬間移動できる仕掛けなの」
フィーユが説明する。
「それを早く言ってくれよ。これじゃ骨折り損のくたびれ儲けだ」
「言う前にキミが走っていったんだけどね〜」
ラッシードが小声で言った。
「とにかく、早く会場に行くぞ。予選が始まってしまう」
グロードが言った。

ラルガタワーコロシアムは、町のほぼ中央にある大きなタワーに作られたコロシアムだ。
タワーにも最先端技術を投入している。
「来たな、グラン」
入口では、グランの父、クロト警視が待っていた。
「父さん、もう来てたんだ。早いね」
「我々は会場警備を任されているからな」
「ところで、選手受付は?」
グランが聞く。
「ああ。中に入って、例の手紙と、ラッシード君以外はポケモン図鑑を一緒に提出すればいい」
「分かった。行ってみる」

「グラン選手のエントリー完了です」
「さて、エントリーは終わったな」
グランが呟く。
「あの、この大会には何人がエントリーしているんですか?」
グランの次にエントリーしたフィーユが聞いた。
「はい。トップクラスの実力を持つトレーナーが集う大会ですので、32人です」
「32人? たったそれっぽっちか」
グロードは不満げに言った。
「グロード。数は少なくても、出場するトレーナーはみんなかなりの実力なんだ。…油断するとやられるぞ」
「では、エントリーが終了しましたので、あちらのエレベーターで予選会場へお進みください」

「でも、予選大会って、一体何やるのかしら?」
「さあ。行ってみないと分からない」
「多分、総当りでバトルでもすんじゃねぇの? オレの考えでは」
「何でもいいんじゃな〜い?」

グラン達4人が乗ったエレベーターが止まった。どうやら着いたようだ。
周りを見ると、観客も数え切れないほど沢山いる。
するといきなり、大会スタッフらしき男が来て、
「はい、キミ達4人で1チームね」
と言って去った。
「…チーム?」
グランが怪訝そうな顔をしていると、
「何だよ、知らねーのか」
と、聞き覚えのある声が聞こえた。
声のする方に目をやると、
「お前は…ユウキ!」
ナナシマでグランとフィーユを倒したユウキが居たのだ。そういえば、彼も出場するとラッシードから聞いた。
「私も居るわよ〜」
後ろからハルカがひょっこりと顔を出した。
見ると2人共、服装に変化が見れた。2年前の服は赤が基調だったが、基調が緑になっている。
「この予選大会は、4人1組のチームで戦い、勝ち残った2チーム、合計8名で決勝トーナメントが行われる仕組みになってんのさ」
「…だからさっき、キミ達4人で1チームって言ったのね…」
「そういう事。さすが、相変わらずの美少女」
「…気安くおだてないで」

『レディース、アーンド、ジェントルメーン! 只今より第1回ポケモンリーグ・予選大会を執り行ないます!』
司会者の男が叫んだ。
『予選大会のルールは、ポケモン・クイズ大会!』
「ク、クイズ〜!?」
グランが思わず声をあげた。
『そうです! 4人1組、8チームに分かれ、最後まで残った2チームが決勝トーナメントにコマを進める事が出来るのです!』
「クイズって、どんな問題が出るんだろうな…」
『クイズの形式はサバイバル形式! 1問間違えるとその場で失格です! さあ、選手の皆さんは解答席に行って下さい!』
司会者は、解答席を示す。
『正解すると、どこかのチームを1つ失格にできます。ですから、運も重要です』
「つまり、どこのチームがどこを狙うか分からないって事か」

『出題される問題は、トレーナ―としての知識を試すためのモノです。答えが分かったら、早押しで答えて下さい』
出場者達は息を呑んだ。
『おっと、紹介が遅れました。私、今大会の司会進行を務めさせていただきます、ミスター・フルー・ターチです!』
「なんか、どっかで聞いた事あるような名前だな」
グランが呟いた。
『では、早速第1問! このホケモンバトルの大会の名前は…」

ピンポーン!

『おっと、一番端のチーム早かった! チーム・カラテ軍団だ!』
「ポケモンリーグだ。オスッ!」

ブブーッ!

「なんだとォォッ!」
チーム・カラテ軍団は、解答席ごと下へ落下していった。
『最後まで問題を聞かないからですよ。大会の名前は、ポケモンリーグですが、トレーナーが一度に持ち運べるポケモンは何匹でしょうという問題でした〜』
「引っ掛け問題かよ…」
グランが言うとフィーユがすかさず、
「これは引っ掛けの部類に入らないと私は思うんだけど。…最後まで聞かないからこうなるのよ」
『ちなみに言い忘れましたが、出題して10秒して誰も答えられなかった場合、ランダムにどこかのチームが失格になりますのでご注意を〜!』
フルー・ターチの言葉にグラン達は叫ぶ。
「「「「ええ〜!?」」」」

遂に始まったポケモンリーグ予選大会!
内容はなんとクイズ!
間違えたらそこで終わりのこの戦い、どうなる!?

               To Be Continued…
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リクト #9★2004.08/29(日)16:57
第六十二話 予選大会! チームサバイバルクイズ! 後編

『さあ、いきなりチーム・カラテ軍団が脱落し、残りは7チームです! 次の問題いきますよ〜!』
司会のフルー・ターチが叫ぶ。
『第二問! オーバーヒートを使うとがくっと下がるのは何!?』

ピンポーン!

『おっと、チーム・ホウエン早かった! 答えをどうぞ!』
チーム・ホウエンは、ユウキとハルカが居る。
「オーバーヒートでがくっと下がるのは特攻だな」
ユウキは余裕の表情で答える。
『正解でーす! では、どこかのチームを1つ失格に出来ます!』
それを聞いてグランは、まずいと思った。
――まず狙ってくるのは、おそらくボク達だ…
グランは予選落ちを覚悟した。
「チーム・メガロス! 失格になるのはお前らだ!」
ユウキが指名すると、フルー・ターチは分かりましたと言って、
『ザンネンですが、運が悪かったみたいですね。ではさよ〜なら〜』
そう言ってボタンを押す。

ポチッ☆

するとチーム・カラテ軍団と同じように落下していった。

「…どうしてボク達を狙わなかった」
グランは気になって隣の解答席にいるユウキに聞いた。
「へっ! お前らがこんなところで脱落したら、折角のお楽しみが台無しになっちまうからな」
「…」
「決勝リーグでお前を倒すのはこの俺だ!」

『さあ、第三問! 道具、回復の薬の効果は?』

ピンポーン!

『おっと、チーム・コガネが押した! 答えをどうぞ!』
「体力を全回復する!」

ブブーッ!

『ザンネンでした〜。不正解〜』
「…と同時に状態異常も回復する。体力全回復する『だけ』なのは『まんたんのくすり』」
グランは抜けていた答えを呟く。
「それを早く言えぇぇっ!」
チーム・コガネはそう言いながら落ちていった。
――これで残るは5チームか。
『まだまだ行きます、次の問題! ハイパーボールの価格は?』
「えっ? 価格の問題まで出てるの?」
フィーユが声をあげた。
『ポケモンを捕獲するボールの価格は、覚えておいた方が良いですから』

ピンポーン!

『おっと、チーム・GFGRが押した! 答えをどうぞ!』
「何? チーム・GFGRって」
フィーユが聞いた。
「おそらく、ボク達の名前の頭文字取ってチーム名にしたんだろ」
『さあ、答えをどうぞ!』
「ハイパーボールは、1個1200円」
グランが答えた。
『正解です! さあ、どこのチームを失格にしますか?』
「んじゃ…チーム・メタリックで」
『では、チーム・メタリックの皆さん、さようなら〜』

ポチッ☆

「これで残るは4チームか…」
グロードが言った。
「だんだん絞り込まれてきたわね」
「残り16人か。あと2チーム脱落するんだな」
「それが僕達じゃない事を願うばかりだね〜」
…他の出場者は緊張してるのに、緊張してないのはコイツだけである。

『次は三択クイズです。回復しない道具はどれ? 『なんでもなおし』『しろいハーブ』『たべのこし』のうちどれでしょう!』

ピンポーン!

『はい、チーム・ホウエン!』
「回復しないのは『しろいハーブ』だな。これは『下がった能力値を元に戻す』ものだ」
『正解です!』
「じゃ、チーム・フロスト。落ちな」
ユウキが言うと、フルー・ターチがボタンを押す。チーム・フロストは真っさかさま。
『さあ、残り3チームとなりました! 次の問題で決勝トーナメント出場者が決まります!』
出場者は息を呑んだ。
『問題! タイプ相性で、打撃攻撃の弱点はあるが、特殊攻撃の弱点が無いタイプが3つあります。そのうち2つを答えてください』

「打撃攻撃の弱点はあって、特殊攻撃の弱点は無いタイプ…か」
グランは考え込んでいた。
「そんなタイプ、あったっけ?」
フィーユも困っているようだ。
「どうすんだよ! 時間は10秒しか無いぜ!?」
グロードも慌てている。

ピンポーン!

『おっと、チーム・GFGRのラッシード選手が押した! 答えは!?』
「ラッシード、お前答え分かったのか!?」
「分かるわけないよ〜。でも、答えなきゃ僕達が失格になるかも知れないし」
「じゃあ…当てずっぽう?」
フィーユが聞くと、ラッシードは頷いた。
「もう駄目だ〜!」
グランが叫んだ。
「まあ、駄目だと思って間違えて潔く消えようぜ。ラッシード。早く答え言えよ」
グロードが促した。
「電気タイプと悪タイプだね〜」
「ああ〜、もう駄目だ〜」
グランが肩を落とすと、
『…正解!』
「えっ!?」
『打撃攻撃の弱点があり、特殊攻撃の弱点が無いのは、電気タイプと悪タイプ。そしてノーマルタイプです!』
「あれ、合ってたのか〜」
ラッシードは正解しても軽い。普段も軽いのだが。
『さあ、残っている2チーム、どちらを落としますか!?』
残っているのは、ユウキとハルカが属するチーム・ホウエンと、あともう1つ、チーム・ブラストだ。
「じゃあ、チーム・ブラストに落ちてもらおうかな〜」
ラッシードが言うと、
『では、チーム・ブラストの皆さん、ザンネンでした〜』
フルー・ターチがボタンを押した。

『さあ、この時点で決勝トーナメントに出場する8名が決定いたしましたぁ〜!』
「やったぜ! よくやったな、ラッシード!」
グランがラッシードの背中を叩く。
「僕だって見せ場作んないと存在忘れ去られそうだからね〜」
「次は決勝トーナメントね! 頑張っていきましょ!」

ラッシードの勘による解答で予選突破したグラン達。
いよいよ次はポケモンリーグ決勝トーナメントだ!

      To Be Continued…
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リクト #10★2004.08/29(日)16:57
第六十三話    衝撃と心の傷、そして挫折

『さあ、予選を勝ち抜いた8名のトレーナーの皆さんは、明日の決勝リーグに進みます!』
「決勝トーナメントは明日からか…調整しておかなくちゃな」

「しっかし、ラッシードの勘は鋭いな。助かったぜ」
グロードが言った。
「うん。ホントにヒヤヒヤしたわ…」
その時の気持ちがまだ抑えきれていないのか、フィーユは胸に手を当てている。
「でも、当てずっぽうで当てられるラッシードは凄いよ。ボクだったらきっと不正解だった」
「僕も信じられないよ〜。正解するなんて」

グラン達が選手村に戻ると、クロト警視がいた。
「みんな。予選通過おめでとう。早速だが、選手が生活する事になる宿舎に向かう。ついて来い」
クロト警視は先に立って歩き出す。
「次は決勝トーナメント。実戦だな」
「そうだな。やれるところまでやってみるさ。ここまで来たからにはな」
グランとグロードは明日のバトルについて話している。
「宿舎って、どんな設備があるのかしら?」
それに引き換えフィーユはというと、これから行く宿舎の設備が気になっているらしい。

「ここが、選手宿舎だ。何かあったら連絡してくれよ」
クロト警視は言い残すと、仕事に戻っていった。
宿舎の中は、左右にドアが2つずつ、部屋が合計4つあり、リビングとキッチンが一緒になっている。
部屋のドアには、それぞれ番号が書いてある。
「部屋が4つか。どこ使う?」
グランが聞いた。
「まぁ、どこ使ってもリビングとの距離は同じだから、オレとしてはどこでもいいんだけどな…」
「僕もどこだっていいや〜」
「ボクもどこだっていいよ。フィーユ。先にどこがいいか選んじゃってくれよ」
「あの、私もどこだっていいんだけど…」
結局、全員がどこでもいいという答えを出した。
「…じゃあ、くじ引きで決めよう。あみだ籤だ」
グランは紙とペンを見つけると、線を4本書き、その下に適当に番号を書いた。
番号の部分を隠す様に折り込む。
「じゃあ、みんな。適当に線を1人3本ずつ横引きしてくれ」
グランが言うと、順番にあみだに横線を入れ始めた。合計12本。
「じゃあ、どこがいい?」
「私は一番左端」
「オレは右から2番目」
「僕は左から2番目〜」
「じゃあ、ボクは一番右端…と」
決めた場所にそれぞれの名前を書くと、
「じゃあ、まずは誰からいくか」
「僕から頼むよ〜」
「よし」
グランがあみだにそって線を辿らせていく。
「ラッシードは3号室」
「次は私、お願い」
グランが再びあみだを辿る。
「はい、2号室」
「オレの部屋が決まれば、グランの部屋も決まるな」
グランは頷き、線を辿らせる。これで3度目。
「えーと、グロードは1号室だから、ボクは4号室か。何か数字からして縁起悪いけど、まあいいや」
「あれ? 隣グランじゃないんだ… ちょっと残念」
「しょうがないよ。公平に決めたんだから、文句は無しだ」

部屋も決まり、グラン達は選手村を眺める事にした。
ラッシードは眠いと言って部屋に入り込んでいる。
結局、グラン、フィーユ、グロードの3人で町を見物する事にしたのだ。
「設備が充実してるよな。部屋にはパソコンまで付いてるし」
「外もそうね。ショップとかも結構たくさんあるし」
「さすがハイテク都市って感じだよな」
3人は宿舎や町の印象を話しながら歩く。
その時、後ろから声を掛けられた。
「予選の時から気になっていたんだが… キミはもしかして…」
グラン達が振り向くと、3人と同じ年頃の少年が1人立っていた。
背丈は、グランと同じくらい。
その少年の姿を見て最初に反応したのは、フィーユ。
「ひょっとして…ウェル?」
その少年を見るフィーユの目は、懐かしさであふれていた。
「知ってるのか?」
グランが聞くと、
「ええ。私が前に住んでた町に住んでる幼馴染の人。私が今住んでる所に引っ越した後は、一度も会ってなかったんだけどね」
「今はホウエン地方に住んでる。チーム・ホウエンの1人として、大会に参加しているんだ」
「チーム・ホウエンっていったら、ボク達と一緒に予選通過したチームじゃないか」
「ところで、キミは?」
ウェルが聞いた。
「ボクはグラン。こっちはグロード」
グランが紹介すると、グロードは「よっ」と言って手をあげた。
「それにしても、キミが引っ越してからもう…5年になるな。」
「…随分経ったものね」
「で、彼氏は出来たのか? この5年で」
ウェルが聞くとグロードがすかさず、
「コイツさ」
とグランを親指で指した。
グランはちょっと驚いた顔をして、グロードの足を軽く蹴飛ばした。
「余計な事言わない」
ウェルはしばらくグランを見ていたが、
「…駄目だね」
といきなり一言。
「ど、どういう事なんだ!」
グランが反論する。
「フィーユはキミの彼女としてはふさわしくない。こういう事だ」
「な…」
グランが言葉を失っていると、さらに追い討ちをかけるように、
「フィーユ。…キミだって、まだ未練を引き摺っているんだろう? 僕には分かっている」
「…!」
その言葉に、フィーユの表情は一変した。
「それから…グランとか言ったね。僕とフィーユが5年前に付き合っていたという事実が不満なら…決勝トーナメントで僕に勝ってみせるんだね」
「く…」
そう言い残し、ウェルは町の中に消えた。

「フィーユ。…どういう事だ! あの話は本当なのか!?」
グロードはフィーユ問い詰める。
「…事実よ」
フィーユは視線をそらし、なおかつうつむいたまま答える。
その答えにグロードの怒りは頂点に達した。
「お前、グランの気持ち分かってんのか!?」
「分かってる。…分かってるけど… 私…」
「…もういい。オレは何も言わねえ。勝手にしろ!」
グロードが怒鳴っていると、グランが歩き出し、
「悪いけど…しばらく…1人にしてくれ」
その目は、衝撃の事実を聞かされ、明らかに動揺していた。それもかなり。
グランは、力無くその場から去った。

その様子を物陰から見ていたのは、ウェル。
「フッ… これで精神的に追い詰められ、明日のバトルは集中出来ないだろうな。ククク…」
不敵な笑みを浮かべ、さらに呟く。
「人間は、事実を聞かされ動揺した時には、精神力が薄れる。もし明日のバトルで僕とアイツが戦う事になれば…確実に僕の勝ちだ!」

衝撃の事実を知らされ、動揺するグラン。
決勝トーナメントを前に、彼はどう切り抜けるのであろうか!?

   To Be Continued…
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リクト #11★2004.08/29(日)16:58
第六十四話   癒えない傷

選手宿舎に戻った後のグランは、部屋に閉じこもってしまい、出てこなかった。
食事のときもグロードが呼んだのだが、力無く「いらない」と言っただけだった。
やはり、あの話が相当こたえたに違いない。
そしてフィーユは、食事も食べずにどこかへ行ってしまった。

夜中。
自室にいたグランは、部屋の外に出た。電気は消えている。
――もう寝たのか。
直感的にそう感じ取ったグランの心には、絶望という名の暗闇が渦巻いていた。
グランは本能的に外に出る。風の向くまま、気の向くまま。
どこか、落ち着ける場所に行こうと思った。もっとも、そこに行ったところで落ち着けるハズは無いのだが。

グランが向かったのは、夜の船着場の桟橋。
この時間では、船は来るハズもない。
グランは桟橋に腰掛け、1つのモンスターボールを取り出し、ポケモンを出した。
「なあ、ピカチュウ。ボクは…どうすればいいんだろう?」
このピカチュウは、大会ルールに合わせるために、ファイヤーを『あずかりシステム』に預けて新しく入れた、この2年の間に捕獲したポケモンである。
「ピーカ?」
グランの問いに、ピカチュウは困った顔をした。
「そうだよな…聞いても、分からないよな…」
「まったく…困った人ね」
突然、少女の声が聞こえ、グランは声のする方を向く。
そこにいたのは、ユウキと同じチーム・ホウエンとして予選を勝ち抜いたハルカだった。
「あの子の元カレが出てきたんだって?」
グランの隣に腰掛け、いきなりハルカが聞いた。
「ど、どうしてそれを知ってるんだ?」
「たまたま町に出てたユウキが、その様子を見てたのよ」
「まいったな…よりにもよって、いっちばん見られたくない相手に見られたか…」
グランは人差し指で頬を掻いた。
「ユウキったら、自業自得だなんて言って、ざまあみろって言ってたけど」
「あの野郎。コロシアムで戦うようだったら覚えてろ」
「ところでさ…あなたは、これでいいと思ってるの?」
ハルカが聞く。
「…決めるのはアイツ自身さ。ボクは文句は言わないよ」
「…引き止めようって思わないの?」
執拗に聞いてくるハルカに、
「うるさい!」
とつい怒鳴ってしまった。
「…」
ハルカは一瞬怯えた様な顔をした。
それに気が付いたのか、
「あ、悪い。頭に血ぃ上ってた」
「あ、いいの。で、もし私があなただったら…やれるだけの事はやってると思う。多分」
「やれるだけの…事?」
「そう。この場合、お互いポケモントレーナー。ポケモンで決着を付けるべき」
「ポケモンで決着、か…」
グランは考え込んでいたが、
「でも、最終的にどうするかはあなた次第だから、私はこれ以上何も言わないでおく」
そう言って帰ろうとするハルカにグランは、
「…なぜ、ボクにこんな事を言うんだ」
「勘違いしないで。過去に私は同じ経験をした事があるから、他人事とは思えなかっただけ」
そう言い残すと、ハルカは戻っていった。
「やれるだけの事をやる、か…」
――ボクはどうすればいいんだろう。
あれこれ考えているうちに、突然雨が降って来た。
グランは、濡れるのも構わず、ひたすら考えていた。

気付いた時には、雨はやんでいた。
降っていたのは、大体10分弱だろうか。
そういや、何だか少し頭が重い。どうしたんだろう。

宿舎に戻ると、リビングにはフィーユの姿があった。
しかし、声をかける事が出来ず、そのままグランは部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。
「ポケモンで…決…着…」



次の日。
『さあ、ポケモンリーグ決勝トーナメント開催です! 司会は引き続き私、ミスター・フルー・ターチです!』
司会者のアナウンスをよそに、グランは頭が重くなっていくのを感じた。
昨日も似た症状。風邪だろうか。
『では、対戦の組み合わせを発表します』
フルー・ターチが大スクリーンに映し出されているトーナメント表を示した。
『決勝トーナメント第一試合! フィーユ選手対ラッシード選手!』
「初戦の相手はラッシード…ナナシマで出来なかったバトルになるわね…」
フィーユがトーナメント表を見て呟いた。
『第二試合! ウェル選手対ライド選手!』
「アイツが、チーム・ホウエン第4のメンバーか…」
グロードが呟いた。
『第三試合! ユウキ選手対グロード選手!』
「相手はグランを倒した奴…全力でいかなけりゃ負けるな…」
『そして第四試合! グラン選手対ハルカ選手!」
「…」
グランは対戦の組み合わせは見ていたが、それよりも頭が重かった。
『では、試合開始は11時から! それまで各選手は控え室で待機しているように!』

午前10時。
初戦開始まであと1時間。
対戦の組み合わせが発表されたのは10分前。
グランは控え室に向かっているが、極度の頭痛のせいで意識が朦朧としていた。
「う…」
そのままグランは、通路に倒れこんだ。

その頃。その近くを通っていく人物が一人。
「あ〜、喉渇いたな〜」
飲み物を買いに控え室がら出たハルカは、角を曲がってすぐの所にグランが倒れていたので驚いた。
「きゃあ! 一体どうしたの? しっかりして!」
「どうした!?」
ハルカの悲鳴を聞いて真っ先にすっ飛んできたのは、グロード。
「分からない。私が来た時には、もう倒れてたの!」
「グラン、どうしたっ!? …酷い熱だ。医務室に連れていくぞ。手伝え!」
「え? ええ!」

癒えない傷に加え、今度は発熱。
ピンチの連続の中、いよいよ第一試合が始まろうとしている!

   To Be Continued…
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リクト #12★2004.08/29(日)16:59
第六十五話  第一試合! フィーユVSラッシード 前編

第一試合開始30分前。
次にグランが目を覚ましたのは、医務室の中だった。
「あ、気が付いた!」
ハルカの声に、グロードもベッドの近くに来た。
「…ここは、どこだ?」
グランが聞く。
「医務室よ。通路の真ん中で倒れてたんだもん。びっくりしちゃった」
「どうしたんだよお前。風邪の原因になりそうな事何かしたのか?」
グロードが聞いた。
「…夜中に出かけて、雨降ってる中で濡れながら考え事してて…その後は、何だか頭がボーッとしてて」
グランが思い出しながら言うと、
「原因はそれだな。熱測ったら、39度もあったぞ」
とグロードが言った。
「そうだ、試合…」
グランが起き上がろうとすると、
「まだ起きちゃダメ。しばらく安静にしてないと」
ハルカが再びグランをベッドに寝かせた。
「だけど…」
「お前は第四試合だけど、この熱じゃな…」
「そうだ、一応組み合わせのリスト、渡しておくわね」
「ああ…」
グランはトーナメント表を受け取った。
「第一試合は…アイツが出るのか…」
グランが寂しげな表情をしたのをグロードとハルカは見逃さなかったが、2人共理由を知っていたので声をかける事は出来なかった。
「このAブロックは、順当にいけばフィーユが勝ち残りそうだけど…」
そこまで言ってグランは言葉を切った。
「どうも嫌な予感がする… 何かが起こりそうな予感がする」
グランの言葉の意味は、グロードとハルカには今一つ分からなかったが、
「じゃあ、安静にしてろよ」
そう言ってグロードはハルカを連れて医務室から出て行った。

「でも、何でフィーユさんは見舞いに来なかったんだろ…」
「試合があるだろ。それに昨日の事もあるし、顔合わせる気になれないんだろう」
グロードは当然の事のように言った。
「それと、一つ聞きたい」
グロードはハルカの方に目線を移して言った。
「え、何?」
「まさかとは思うが、グランに気がある…とか?」
「…なんでそう思ったの?」
「あんなにグランに世話焼いてんだ。オレはそう直感した」
グロードが言うと、ハルカは首を振って、
「ううん。困ってる人を放っておけないだけ」
――ウソつけ。ホントは気があるクセに。
思えば2年前は、グロードに付きまとっていた様な感じだった。
今思い返すと懐かしい気がする。

その頃、スタジアムでは…
『さあ、第一試合を始めます! 緑サイドのトレーナーは、ラッシード選手!』
コロシアムに設置されている電光掲示板にラッシードの顔が映し出された。
『続きまして、赤サイドのトレーナーは、フィーユ選手!』
ラッシードの時と同じ様に、今度はフィーユの顔が映し出される。
『バトルはシングルバトルで行います。6匹のポケモンから3匹を使用して戦っていただきます。途中、ポケモンの交代は可能です』
フルー・ターチの説明が終わると、審判が、
「では、準備は整いましたか?」
「はい!」
「オッケーさ〜」
審判は頷くと、赤と緑、2本の旗をあげ、
「試合開始!」

カーン!

それを聞くや否や、ラッシードの目つきがナナシマでのミュウツー戦の時と同じになった。
「GO! ハガネール!」
「ネ――ル!」
「出た…二重人格ラッシード。…と、言ってる場合じゃなかったわね。お願い、キュウコン!」
「コォン!」
タイプ相性は、どちらも弱点が突けるタイプだ。
となると、素早く、尚且つ威力の高い攻撃が必要となる。
先に仕掛けたのは、先制のツメを持っているらしいハガネールを従えたラッシードだった。
「ハガネール! 『じしん』攻撃だッ!」
「あっちゃ〜…やばっ… キュウコン! 逃げ…」
「遅いゼ!」

ドガァァン!

『決まったぁーっ! ハガネールのじしん攻撃ーっ! キュウコンは立てるかぁーっ!?』
「キュウコン、戦闘不能!」
審判は緑色の旗をあげた。
フィーユは黙ってキュウコンをボールに戻す。弱点を突く前に、いきなりこっちがやられるなんて…
「…キュウコン。ゆっくり休んで。さあ、次よ!」
フィーユはボールを投げ、2匹目、ハピナスを繰り出す。
「ヘッ! 防御が薄いポケモンは、ハガネールの餌食だゼ!」
「ふふっ。…果たしてそうかしら?」
「ナメるな! ハガネール! もう一発『じしん』をお見舞いしてやれ!」
「ネ――ル!」

ドガァァン!

『おおっと! ハピナスも地震をもろに食らってしまった! 果たして大丈夫か〜!』
「ハピナス! 『カウンター』攻撃よ!」
その言葉に、ラッシードの表情は一変した。
「なんだとッ!?」

ドカッ!

ハピナスは、先ほど受けたダメージを倍返ししたのである。
地震の威力はかなりのモノだったので、その倍の威力ははかり知れない。
「ハガネール、戦闘不能!」
審判は今度は赤い旗をあげた。
「やった! どう? 相手の攻撃を利用するのも作戦のうちよ!」
『フィーユ選手のハピナスのカウンター攻撃でハガネール、ここでダウンだ〜!』
「そ・し・て、『タマゴうみ』で回復〜♪ でもって、道具、食べ残しでも少し回復よ〜♪」
「…これは一筋縄ではいきそうもないゼ…」

遂に始まった第一試合。
果たして勝利するのはフィーユか!? それともラッシードか!?

   To Be Continued…
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リクト #13★2004.08/29(日)17:00
第六十六話  第一試合! フィーユVSラッシード 後編

いよいよ始まった決勝トーナメント第一試合。
まずはフィーユとラッシードの対決。現在残りポケモンは2対2の五分である。

(このハピナスを倒すには、これでいくしかねェ!)
ラッシードは考えていた。ハピナスを倒す方法を。
そして、次のポケモンを投入する。
「GO! マルマイン!」
『ラッシード選手! 2体目はマルマインだぁーっ!』
その様子を控え室で見ていたグロードは、
「あれ? アイツ、マルマインなんて持ってたっけ?」
「なるほど。『隠し玉』ってやつだな」
ユウキが言った。
「そういえばラッシードは、この2年で色々なポケモンを育てたって言ってたな…」
グロードが思い出したように言った。
そういえばラッシードが言っていた。これからは臨機応変に戦いたいと。

「ハピナス。マルマインに『カウンター』は控えて、地道に攻めていくわよ!」
「ハピッ!」
「そんなまどろっこしい事やってられっかァ! 『だいばくはつ』を食らえッ!」
「だ、大爆発!? ハピナス! 気をつけ…」

ドォォオン!

大轟音と大量の煙で闘技場の様子は見えない。
『おーっとぉ! マルマインの捨て身の攻撃が炸裂!』
流石にハピナスもこれには耐え切れず、倒れた。もちろん爆発したマルマインも。
「ハピナス、マルマイン、共に戦闘不能!」
審判は旗を同時にあげた。
「根比べじゃ勝てないから、捨て身による相打ちを狙ったワケね…」
「今度はニョロボン! お前だッ!」
ラッシードは早々と3体目を投入した。
「ニョロッ!」
『ラッシード選手の3体目は、ニョロボンだぁーっ!』
フィーユは少し下を向き、右手人差し指を唇に当てて何やら考えていたが、
「これがあなたの初陣よ! 行って! カイオーガ!」
ボールから現れたカイオーガを見て、観客達は湧いた。
『おーっとぉ! 伝説の超古代ポケモン、カイオーガの登場だぁーっ!』
突然、バトルフィールドに雨が降り出した。
「カイオーガの特性は『あめふらし』っていってね。登場すると雨を降らせるの」
フィーユが説明する。
「ニョロボン! 相手が伝説のポケモンだからって関係無い! ばくれつパン…」
「『かみなり』攻撃!」

ドンガラピッシャ――ン!

『カイオーガの雷が炸裂! これは凄い! ニョロボン、立てません!』
「ニョロボン、戦闘不能! よって、勝者はフィーユ選手!」
審判が赤旗をあげると、フィーユはほっとしたかのように長い息をはいた。
見てみると、いつの間にラッシードは元の軽い調子バージョンに戻っていた。
「あれ〜? 僕もう負けたのか〜?」
どうやら、人格が変わっていた事に本人は気付いていないらしい。
――そうだ、そういえば…
フィーユはそのまま、どこかへ向かって走り出した。

「どう? グランの様子」
フィーユが向かった場所は、医務室。
ウェルの件があったが、心の傷に加えて熱まで出したというのだから、流石に放ってはおけないと考えたのだ。
医務室には、グロードとハルカの姿があった。
「…今、熱冷まし飲んで寝てる。試合は出られるかまだ分からないけどな」
「私の…せいなのかな…」
フィーユが呟くと、グロードがすかさず、
「当たり前だ。コイツはあの話聞かされて、ショック受けて夜中に雨に濡れて色々考えてたら、こんな酷い熱出したんだ。事の発端はお前にあるんだぞ!」
「それは分かってる。…分かってるけど… なかなか決着が付けられないのよ」
グロードはため息をつき、言った。
「まぁ…こういう事は中々決着は付けらんねーだろうけどよ。…コイツの事も、考えてやれよ」
「そういえば、グランの対戦相手はあなただったわよね、ハルカ」
「うん。…私はこのグランさんと全力で戦ってみたいから、彼の不戦敗は望んでない」
ハルカは澄んだ目でグランを見ながら言った。
その時だった。
『おーっとぉ! これは大波乱だ! ウェル選手、開始一分でストレート勝ちを収めたぁーっ!』
と、医務室に設置されているテレビから司会者の声が流れ出た。
「ス、ストレート勝ち!?」
「しかも開始1分で…?」
「そんな…この大会は実力者しかエントリーしていないハズよ!」
グロードもフィーユもハルカも驚くのも無理は無い。
「フィーユ…」
突然自分を呼ぶ声が聞こえ、フィーユは後ろを振り向いた。
「奴の次の対戦相手になるのはお前だ… アイツはただ者じゃない…いくら以前付き合っていた奴だとしても…油断するな…」
グランはそれだけ言うと、また寝てしまった。
それにしても、グランに何か言われると、殆ど毎回その気になってしまうのは何故なんだろう。
「つくづく、グランはいい奴だよなぁ。すれ違いの相手にまで気を遣ってやるなんて」
グロードがそう言うと、フィーユは黙ってしまった。
――気をつけろ、フィーユ… アイツには、何かあるぞ…
グランは、誰にも聞こえない程の声で呟いた。

医務室から控え室に向かう途中、フィーユはグランの言った言葉の意味を考えていた。
――油断するな。
ポケモンバトルでもそうだが、グランは別の意味を込めて言ったのかも知れない。
ふと、フィーユは引越し先でトレーナーハンターに襲われた事を思い出した。
――まさか、また誰かが私を狙っている!?
無意識に辺りを見回してしまった。
そうよね。まさかそんな事二度もありえないわよね。
フィーユは自分に言い聞かせた。

「そういや、次はオレの試合か」
医務室にいるグロードが言った。
「相手はユウキだったわね。かなりの強敵よ」
「それは百も承知だ。だからオレは、全力で戦う」
グロードはそう言い残し、試合の準備のために医務室を出ていった。
医務室に残されたハルカは、そろそろ自分も出ようと思い、忘れ物がないか確認した。
「…絶対、私とスタジアムでポケモンバトルしようね」
そう呟いてグランの手を軽く握ったハルカは、足早に医務室を出ていった。
ハルカが医務室から出た後、その言葉に反応するかのように、グランは親指を立てた。

その頃ラッシードは…
「そうか、負けてしまったのか…」
グランの父、クロト警視と話をしていた。
「カイオーガなんて使ってくるなんて、反則じゃないんですかね〜?」
「…伝説は一匹だけなら使用可能だから、反則にはならないな。現にグランも伝説使っているし」
「こんな事ならもっとくまなくポケモン探しておけばよかったよ〜」
ラッシードが言うと、
「ラッシード君。…今更言ってもそれは『後の祭り』だな」

ウェルの圧倒的パワーに不信感を持つグラン。
次は第三試合、グロードとユウキが激突する!

       To Be Continued…
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リクト #14☆2004.08/29(日)22:52
第六十七話   戦えグロード! 熱い心で! 前編

『さあ、序盤から波乱が起きたポケモンリーグ決勝トーナメント! 続いて第三試合を執り行ないます!』
グロードとユウキが入場してくる。
『赤サイドはグロード選手、そして緑サイドはユウキ選手です!』
――相手が相手だ。全力でやってやる!

その頃…
スタッフが、控え室のフィーユのところにやって来た。
「グラン君があなたを呼んでいます。来てください」
「え? はい」
フィーユは医務室に向かった。
――あの事、やっぱりショックだったんだ…
そんな事を考えながら、医務室にやってきた。
中に入ると、先ほどよりはいくらか調子が戻ったグランが待っていた。寝てはいない。
「熱は…大丈夫なの?」
フィーユは、グランの反応を窺いながら聞いた。起きてるのだから、ある程度は大丈夫なのだろうか。
「まぁ、さっきよりは下がったさ。熱冷ましが効いたみたいだ」
グランが至って普通の口調で答えたので、フィーユは少し安心した。
「ところで、話って…?」
「第二試合の事だ」
グランが言った。
「第二試合って…さっきのウェルの試合?」
フィーユが聞くと、
「ああ。さっきハルカが言ってた… この大会は実力あるトレーナーしか参加してないのに、ストレート勝ち、それも一分でだ。ボクから見たら物凄く不自然に思える」
「そういう事もあるんじゃない? 調子が上がらなかったとか」
フィーユは何も感じていない。
「それだけじゃない。試合の映像を見せてもらった。そうしたらどうだ。相手のポケモンは動けない、戦闘不能寸前の寸前なのに攻撃している。ここまで聞いても、何も感じないのか」
フィーユは「あっ!」と言い、
「戦い方があの時のトレーナーハンターとそっくり!」
フィーユが叫ぶと、グランは頷いた。
「でも、ウェルがトレーナーハンターだなんて思えないんだけど…」
出来ることならそんな事信じたくない。
「だけど、油断だけはするなよ。次はお前が奴と戦う事になるんだからな」
グランは、脇から体温計を取り出した。
「熱測ってたの?」
「そうさ。…お、よかった。平熱に下がってる」
「いくらなんでも早すぎじゃない?」
「ボクの治癒力をナメルんじゃない。これで試合に出れるぞ。ハルカにリベンジ出来る」
グランはもう試合の事を考えている。
「でも…無理だけはしないで。あなたに何かあったら、私…」
「ほー。ウェルの事を気にしてても、まだボクの事気にかけてくれているのか」
グランは多少皮肉気味に言った。
「それを言われると、穴があったら入りたいくらい…」
「だーいじょーぶだって。お前が万が一負けたとしたら、ボクがあのナルシス野郎と決着付けてやっから」
「あなたは、ウェルと決着は付けられない。何故なら、あなたと決勝戦で戦うのは、この私。覚悟してなさい」
「分かったよ。…決勝で会おう」
「そういえば、次はグロード君の試合だったっけ」
「ああ。アイツなら、その熱い心を武器にして戦うハズだ」

『さあ、グロード選手対ユウキ選手、試合開始!」

カ――ン!

「まずは小手調べといくぜ。行け、ケリー!」
「ミロォ〜ッ!」
ユウキはグランとフィーユとの戦いで使ったミロカロスを一番手として投入した。
『ユウキ選手の一番手はミロカロスだ! 対するグロード選手の一番手は!?』
「まずはお前だ、レアコイル!」
グロードの一番手は、過去にグランのフーディンを一撃で倒した実績を持つレアコイル。
――ミロカロスを相手にする時は、特殊攻撃倍返しに要注意、だな。
「ケリー! まずはハイドロポンプだ! 一撃で決めてやるぜ!」
「ミロォ〜ッ!」

バシュウッ!

「させるか。レアコイル。『まもる』で防御!」
「ちっ。だが連続で使うとその技は失敗しやすくなるぜ」
「それは百も承知! 今度は『でんじは』だ!」
レアコイルから、微量の電撃が放たれる。
「ミ、ミロ…」
「ちっ。麻痺しちまったか。だが…」
ユウキは何か考え付いたらしい。
「ケリー! ここは地道に攻めるぞ」
「休ませない! トライアタック!」
「打撃できたか。…なら!」
トライアタックはミロカロスにヒットした。だが、予想していたより威力は低い。
「な、なにっ!?」
――おかしい。何故だ!?
「俺のケリー、特性は『ふしぎなウロコ』だ。状態異常の時、防御力が上がる」
「くっ!」
「ハイドロポンプだ!」

バシュウッ!

『おーっと! ハイドロポンプがレアコイルにヒット! これはかなりのダメージだ〜っ!』

ガシャッ!

宙に浮かんでいたレアコイルは、ハイドロポンプに耐え切れず、地に落下。
「レアコイル、戦闘不能!」
審判は緑の旗をあげる。
「どうだ。俺のミロカロス、ケリーの実力!」
「ちっ…」
そしてグロードは、無言でレアコイルをボールに戻す。
『さあ、先手を取られたグロード選手、次のポケモンは何か!?』
「今度はコイツだ! 行け、エアームド!」
「よし、もう一発ハイドロポンプをお見舞いしてやるぜ! ケリー!」
「ミロォ〜ッ!」
ミロカロスはいきなりハイドロポンプを放ってきた。
「エアームド! 『はがねのつばさ』で突っこめ!」
「無駄だ! 俺のケリーにはそんな攻撃…」
「どうかな?」
なんと、グロードのエアームドがハイドロポンプの水流を引き裂きながら突進してきたのだ。
「なにィ!?」

バシィィッ!

『エアームド、ミロカロスに『はがねのつばさ』をヒットさせた! …おっと、これは急所に当たっている!』
「ミロカロス、戦闘不能!」
「くっ。戻れ、ケリー!」
「オレのエアームドは、水流を切り裂いて突進していく術をこの2年のうちに習得させた。ハイドロポンプ対策にな!」
「へっ…やるじゃねーか、アンタ」
「勝負はこれからだ! 覚悟しな!」

遂に始まったグロードとユウキの試合。
果たして勝者はどちらか!?
そしてグランは、持ち前の治癒力で回復。
彼の復活まで、あと僅か…

      To Be Continued…
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リクト #15☆2004.08/31(火)17:47
第六十八話  戦えグロード! 熱い心で! 後編

「俺の二番手はコイツ! スラウ!」
「ダ――ス!」
『ユウキ選手、二番手はサンダースだ!』
エアームドが苦手な電気との対決。ここは有利な地面に代えた方が良さそうかも知れない。
それを悟ったグロードは、
「戻れ、エアームド!」
『おっと、グロード選手! 一旦エアームドをボールに戻した! 代わりに登場するのは!?』
「頼むぞ、ラグラージ!」
「ラ――ジ!」
『代わって登場したのはラグラージ! サンダースの弱点となる地面タイプだ! ユウキ選手、どうするのか〜!?』
――相手もきっと代えてくる。
グロードは確信した。
しかし、その確信は予想外の形で見事に粉々に打ち砕かれた。
「スラウ! 『めざめるパワー』だ!」
サンダースは、力を球体に込めて打ち出す。
――色が緑!? まさか!
グロードが察した時にはもう遅い。『めざめるパワー』の草タイプ版が見事に決まった。
弱点4倍ダメージを食らったラグラージは耐えられない。
「ラグラージ、戦闘不能!」
「まさか…こんな事が…」
珍しくグロードが絶句した。意表を突かれたショックからだろうか。
「俺のサンダースが、弱点の地面の対策をしてこないとでも思ったか」
――完全に油断した。
グロードの残りはエアームドのみ。しかも相手は電気タイプだ。
普通に戦えば、まず自分には勝ち目が無い。
――けど!
勝ち目が無いバトルでも決して諦めない。それがグロードの信条だ。
「オレは諦めない! まだ諦めるワケにはいかない!」
グロードはボールを投げる。先程ラグラージと交代したエアームドが再び登場。
「エアームド! 思いっきり行くぞ!」
「エアッ!」
――勝ち負けじゃない。ただオレは、バトルを純粋に楽しみたい! それがオレのポケモンバトル!
その思いを技に込め、エアームドは『はがねのつばさ』を放った。
「いっけ――っ! エアームド――ッ!」
グロードにとっての、空白の時間が流れ始めた。


控え室。
そこには今さっきバトルを終えたグロードがいた。
――相手はかなり強かった。
そこへ、グランが入ってきた。
「お、熱はもう下がったのか。相変わらず凄い回復力だな、お前は」
「見てたぜ、さっきの試合。お前の気迫は、凄かった」
「ああ。…悪いな、負けちまって。2回戦でお前と戦いたかったんだけどよ」
グロードは申し訳なさそうに行った。
「実はオレ、負けた時の記憶、あまり無いんだ。いつの間にか負けてた様な感じでさ」
「あのエアームドとサンダースの攻防、凄まじかった。あんな凄い攻防、初めて見たよ、ボクは」
エアームドはあの時、サンダースの電撃を受けながらも、果敢に戦った。
「そっか。だけど、負けて悔しいって感じは不思議としねーんだ。むしろスカッとしたぜ」
そういえば、グロードの顔には悔しさは全然見られない。
「そういや、次はお前の試合だろ。こんなとこで油売ってていいのか?」
「おっと、そうだったそうだった」
グランは手をポンと叩いた。まさか今まで忘れていたワケではないだろうが。
「じゃ、オレもちょっと出払うかな」
グランとグロードが控え室から出ると、そこにはグランの対戦相手、ハルカが立っていた。
「よかった。大丈夫みたいね」
ハルカは笑顔で言った。
「ああ。この通り大丈夫だ。これで全力で戦えるってモンだ」
グランは腕をブンブン振り回しながら言った。野球をするワケでもないのに。
「お互い、悔いの残らないバトルをしましょ。でも、勝つのは私よ」
そう言ってハルカは手を差し出した。
「いや、勝つのはこのボクだ」
グランは言い、その手を握った。
「ところでお前ら、ここで油売ってていいのか? 試合時間に遅れたら、2人共失格になるんじゃねーのか?」
「「あっ!!」」
グランとハルカは同時に叫ぶ。
「え〜と、ポケモンの体力は…」
ハルカがポケモン達の確認をしようとするが、グランはハルカの手を握り、
「そんな事は『直前控え室』でやればいいだろ! 体力回復装置もあるんだし!」
そのまま猛然とダッシュしていった。
「グランさ〜ん! そんなに引っ張らないでよ〜!」
そう叫ぶハルカの声は、距離を取るにつれて次第に小さくなっていった。
「うわー、グランの奴スゲー張り切り様。よほどバトルが楽しみなんだな」
グロードは呆れながらその後ろ姿を見送った。
その直後、後ろから肩を叩かれた。
グロードが後ろを振り向くと、
「…」
誰も居ない。
変だなと思って下を向くと、
「ふふっ。ばれちゃったみたいね」
フィーユがしゃがんでいた。
「手の込んだ事を。肩叩いた後に、すぐしゃがんだんだな」
「そう。さすがね、見破るなんて。さすがイタズラの天才」
「こんな事はすぐ分かる。一応な」
グロードが言った。
「ところで、グランは?」
「今さっきハルカと一緒に行った。ハルカは引っ張られていったけど」
「ほえ? それ、どういう事?」
グロードは、先程の事をフィーユに話した。
「ふふふっ。 バトル大好きなグランのやりそうな事ね」
フィーユはグロードの話を聞いていたが、途中から笑っていた。
「でもさ、多少強引だぜ、コレは」
「大丈夫。多分ハルカはそんな事百も承知でしょ。グランに好意持ってなきゃそんな事知らないし」
「は? 何でハルカがグランに好意持ってるって言い切れるんだよ」
グロードが聞いた。まぁ、返ってくる答えは大体予想が付いてはいたのだが。
「簡単よ。グランにあれだけ優しいんだから、そんな事すぐ分かるわ。私の情報アンテナはしっかり作動中よ」
大体グロードの予想通りの答えが返ってきた。いや、大体じゃなくて、予想ピッタリ。
まさしくピッタシカンカンである。
普通なら、ハルカがグランに好意を持っていたのなら、フィーユは面白くないと思うのではないだろうか。
グロードは突っこみたくなったが、止めておいた。

その頃…
グランはスタジアムへの通路を突っ走り、ハルカは引っ張られながらもなんとか付いていっていた。
「止めて止めて止めて〜!」
ハルカの叫び声にようやく気付いたのか、グランは急ブレーキをかけた。
グランがいきなりブレーキをかけたので、ハルカは勢いあまってグランの背中にぶつかった。
「きゃあっ!」
「あ、悪い悪い。いきなりブレーキかけるべきじゃなかったか」
グランが振り向いて言った。
「無謀なブレーキは事故のもと。気をつけて」
「はいはい。さ、急いでスタジアム行くぞ」
「あ、待って!」

グロードは熱い心を込めたバトルをしたものの、ユウキに敗北。
そして、遂にグランが熱から復活! ハルカとのバトルに臨む!

  To Be Continued…
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リクト #16★2004.09/06(月)16:32
第六十九話      復活のグラン 

「グランさん…いくら何でも来るのが早すぎたんじゃない?」
ハルカが言った。
時計の針は、試合開始時間の30分前にあたる時刻を指している。
確かに少し早かったかもしれない。グランは今更ながらそう感じた。
「悪い…先走って」
「いいの。それくらいなら許せる」
ハルカは、「グランさんの場合だったら」と付けるつもりだったが、止めておいた。
そんな事言ったら、何言われるか分からないからだ。
「しかし不思議だな。2年前はボク達の事散々悪く言ってたのに、今じゃこの代わり様」
自分のポケモン達を回復マシンで回復させながらグランが言った。
ハルカはその言葉を聞いて、ドキッとした。
――うわー、この人結構勘が鋭いタイプ!?
ハルカの額からは、冷や汗が出てきた。
「まさか誰かに恋してるってワケじゃないよな〜」
――ギクギクッ!
「まぁ、いくらボクの勘は鈍いからそんな事は無いだろうけど」
グランが言うと、ハルカはホッとして息を吐いた。
こうも簡単に自分の心理が暴かれるなんて、この人の頭はどんな構造してるのかしらとハルカは思った。
「まぁ、ボクはグロードに言われてからフィーユの事好きだって気付いた程鈍感なんだけどさ」
グランは声のトーンを落として言った。
きっとその時の事を思い出しているのだろう。
「だけど…今はあんな状態だから、ちょっと気まずいんだけどさ」
さらに声のトーンを落とした。ウェルが登場した時の事を思い出したのだろうか。
固まって話そうとしないグランに気付き、ハルカは声をかけた。
「あの…グランさん?」
ハルカに声をかけられ、グランは我に返った。
「あー悪い。ちょっとあの事思い出してただけだ」
――やっぱり…ショックなんだよね。…私も分かる。

その頃…
「ウェル、どういう事!? 以前のあなたはトレーナーも攻撃するような人じゃなかったハズよ!」
フィーユがいるのは、ウェルが使用している控え室。
第二試合に関するグランの意見が気になったので、ウェルを直接問い詰める事にしたのだ。
「さあ、説明して! どういう事なのか!」
「戦いの時は非情になるのが常識なのさ。それを何故キミは分からないんだ」
ウェルから返って来た答えに、フィーユは当然反論する。
「でも…トレーナーを攻撃するなんて、私許せない!」
ウェルは軽く首を横に振り、
「僕は絶対勝たなければならない。…勝ってあのグランとかいう奴に、キミは僕のモノだという事を照明してやる」
「私はモノじゃないわ!」
「意味が違う… さしあたっては、準決勝、キミは僕にわざと負けるんだ」
「な、なんですって…?」
わざと負けるなんて、自分には出来るハズがない。
「なっ…何を考えてるの! 私がそんな事出来るワケないじゃない!」
「僕は決勝でアイツを完膚なきまで叩きのめす。立ち直れないくらいに」
「ダメ! そんな事したら、グランの心が不安定に…」
「僕には関係無い」
その言葉を聞いて、フィーユは絶句した。以前のウェルはこんな人じゃなかった。
「…私は、準決勝で全力であなたを倒す。あなたのその曲がった根性を、私が叩きなおしてあげるわ!」
「その言葉…忘れるな…」
ウェルはうって変わって冷ややかな目でフィーユを見た。
「この僕に牙を剥くとどうなるか…身をもって味わうんだな」
そう言うと、ウェルはフィーユを軽く突き飛ばした。
「きゃっ…」
「スタジアムでは、この程度で済むと思うな」
ウェルはそう言い残すと、控え室から出て行った。
――グラン。あなたの言った事…本当だったわ…

試合開始10分前。
ハルカはそわそわしているのに、逆にグランはこれ以上ない程落ち着いている。
グランは集中力を高めていた。以前自分を負かした相手と再び戦うのであるから。
「あのー、グランさん…」
ハルカは緊張を紛らわそうとグランに話し掛けたが、彼は答えない。
「グランさん、聞いてる?」
「聞こえてる。ちょっと今は話し掛けないでくれ。気が散る」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「よお。激励に来てやったぞ」
グロードが入ってきた。
「なんだなんだ? このピリピリしたムードは」
「今はグランさんに話し掛けない方がいいわ。何か集中してるらしくて」
「へー。そっか」
グロードはグランに視線を移した。
「ま、何だっていいけどよ、グラン。頑張ってくれ。準決勝に進んで、ユウキを倒すんだ」
そうこうしているうちに、試合時間になった。
「早く行った方がいい。サイド別に行くんだろ?」
グランは何も言わずに、赤サイド入口に向かった。ハルカは緑サイド入口へ。

『さあ、決勝トーナメント第1回戦も、これが最後です! まずは緑サイドのトレーナー、ハルカ選手!』
コールされると、ハルカは闘技場に進む。若干緊張した様子で。
大舞台には弱いのかもしれない。
『対する赤サイドのトレーナー、グラン選手!』
逆にグランは落ち着いた様子で闘技場へ。
以前戦った時は、その場の勢いでバトルになったため、落ち着く事にしていたのだ。
「時間無制限、入れ替えあり! バトル開始!」

カ――ン!

「まずはケイン! あなたよ!」
「タ――ン!」
『ハルカ選手の一番手はランターンだ! 対するグラン選手の一番手は!?』
グランは選んだボールを投げる。
「フーディン! 行け!」
「フ――ディン!」
『グラン選手の一番手はフーディン! 全くタイプの違ったポケモン同士のバトルだ!』
フルー・ターチの実況にも熱が入る。
「まずはフーディン! サイコキネシスで一撃を加えろ!」
「フ――ッ!」
グランのフーディンによるサイコキネシスでの先制攻撃。
ランターンの体力を半分位まで減らしたようだ。
――よし、このペースでいけば、こっちが先手を取れる!
「ケイン! スパーク!」
「タ――ン!」
ランターンは電気をまとって突進する。
フーディンに命中するが、ダメージはさほど高くはなかった。
グランはほっとしたが、フーディンには変化が。
――しまった! 麻痺った!
『おーっと! グラン選手のフーディン、麻痺してしまったーっ!』
「やった! これで行動に少なからず制限が…」
「なーんちゃって。見てみろよ」
見ると、フーディンの麻痺が取れていたのである。
「フーディンは高い素早さを生かし、高い特攻で攻撃するのが得意。だけど麻痺すると素早さが生かせない。その対策として、クラボの実を持たせておいた」
「やばっ…計算狂ったかも!」
「サイコキネシスだ!」
「フ――ッ!」

「ランターン、戦闘不能!」
「まさかクラボを持ってるなんて…計算外…」
「計算でポケモンバトルは出来ない! 何が起こるか分からない。…それがポケモンバトルだ!」

グランとハルカの試合開始!
今でもグランの実力は健在である。

     To Be Continued…
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リクト #17★2004.09/18(土)10:58
第七十話     あの人の面影

(計算でポケモンバトルは出来ない…か。そうみたいね…)
「さあ、次は何を出すんだ。早くしろよ」
グランがハッパをかける。
「次はフェイ! あなたよ!」
「フィ―――」
「エーフィか… フーディン! 『めいそう』だ!」
フーディンは集中力を高め、能力を少しアップさせる。
「それなら、それを逆に利用させてもらうわよ! フェイ!『じこあんじ』よ!」
「フィ―――!」
『おーっと! グラン選手のフーディンが使った『めいそう』の効果を、ハルカ選手のエーフィがコピーしたーっ!』
(特攻特防が上がっている状態のエーフィに対抗出来るボクのポケモンは…)
少し考えて、グランの表情が凍りついた。
とんでもない事を思い出したのだ。
――エーフィの弱点をつけるタイプのポケモンがボクの手持ちには…いない!
グランはポケモン図鑑を取り出し、自分のポケモンの技を調べ始めた。
そして、同時にフーディンに指示を出す。
「フーディン! シャドーボールだ!」
「フ――ッ!」
シャドーボールはエーフィにヒット。だが、それ程威力は無かった。
「フェイ! 今度はこっちがサイコキネシスをお見舞いしてやりなさい!」
「フィ―――!」

ハルカのエーフィは、特殊攻撃力がかなり鍛えてあったらしく、グランのフーディンは『めいそう』している状態にも関わらず、大ダメージを受けた。
(よし、もう一発シャドーボールを打ち込めばエーフィは…)
素早さはグランのフーディンが上。これならエーフィはギリギリで倒せる。
「フーディン! シャドーボー…」
「『でんこうせっか』よ!」
「な、なにっ!?」

「フーディン、戦闘不能!」
――完全に読まれた。
グランは軽く舌打ちしてフーディンをボールに戻す。
そして、早々と2匹目を繰り出そうとするが、
(ここでバシャーモを出したとしても、結局は『きしかいせい』を読まれて倒されてしまう…)
グランは今はバシャーモを出すのは控える事にした。
「いけ! ギャラドス!」
「ギャラァーッ!」
『グラン選手の2匹目はギャラドス! どんな活躍を見せてくれるのか!』
「すぐに倒してあげるわ! フェイ! サイコキネシス!」
「フィ―――!」
サイコキネシスはギャラドスにしっかりヒット。しかしギャラドスは耐える。グランの意地が通じているのだ。
「ギャラドス! 『りゅうのまい』だ!」
グランの指示で、ギャラドスは神秘的な舞いを始めた。
「この『りゅうのまい』を使った状態のボクのギャラドスの攻撃は、物凄く強力だぜ」
ハルカの表情は若干引きつっていた。
「素早さも上がっている! ギャラドス! 『おんがえし』だ!」
「ギャラァーッ!」

ズカァァン!!

「エーフィ、戦闘不能!」
「フェイ! 大丈夫!?」
「フィー…」
「お疲れ様。ゆっくり休んで」
ハルカはエーフィをボールに戻す。
――私が使えるのはあと1匹。相手は残り2体…
ハルカは自分の手持ちメンバーをざっと思い返してみた。
――素早さが上がり、攻撃力も上昇しているギャラドスが相手。
ハルカは直感的に、今の状態では勝つのは難しいと悟った。
ふと、先のグロードとユウキのバトルを思い出した。
グロードは勝てない状況の中、果敢に戦っていた。
――なら、私だって!
「最後はあなたよ! ライル!」
ハルカが出したのは、2年前にグランと戦った時に使ったノクタス。
グランにとっては、リベンジしたい相手だ。
――不思議な気分。この人と戦っていると、何かを思い出す… 懐かしい、何か…
ハルカは、自分の脳の中にしまってある記憶を掘り出し、思い出そうとしている。
絶対、似た感じをどこかで感じている。
突然、何かが脳裏を駆け巡った。
――この感じ…思い出した!
ハルカがようやく思い出した、その時だ。
「よそ見するんじゃないぜ―――っ!!」
ハルカが記憶辿りに気をとられている隙に、グランのギャラドスの『おんがえし』がヒットしていた。
「よそ見をすると、隙をつかれる。…ポケモントレーナーなら知っているハズだ」
ハルカは自分の心の緩みが敗北を招いた事を重く受け止め、大粒の涙を流す。

『勝者、グラン選手!』

「やったじゃねーかよ」
グロードがやってきて、グランの背中を叩いた。
「ああ。リベンジも果たせた。けど…」
グランは視線を落とした。
「どうしたの? また具合悪くなった?」
フィーユが聞くと、
「いや、そうじゃないんだ。ハルカの様子が、何だかおかしかった」
「どうおかしかったんだ?」
「よく分からない。これは直接本人に確かめないと」
グランはそう言うや否や、走り出した。

自販機の隣にある椅子に、ハルカは座っていた。
「どーしたよ。いつものように笑ってたほうがいいんだぜ」
聞こえてきた声に顔を上げると、ユウキが立っていた。
「ごめん。戦えなくて」
「まぁ、それはそれとして…だ。お前、今日は何か変だぜ」
「え? 私はいつも通りだけど…」
「んなわきゃねーだろ。このコロシアム来た開会式から何か変だった。…どうしたんだよ」
ユウキが聞く。
「…似ていたから…」
「はぁ?」

「さーて、ハルカはどこに行ったんだ…っと」
グランはそこでピタリと足を止めた。
ハルカがユウキと何やら話している。
盗み聞きは性に合わないが、その話の内容はハルカの心の緩みの理由だった。

「似ていたって…誰にだよ」
ユウキがもったいぶらずに言えというような口調で聞く。
「3年前の事故で…私の前から姿を消した人。ミシロタウンで、一番強いといわれていた人」
「それって確か、町にいるポケモントレーナー全員の憧れの的だったって人か? 俺は別段何も感じなかったけど」
ユウキは考えながら言った。
「そりゃ、ユウキは自己流でやってきたからでしょ。あの事故の後、みんな悲しんだでしょうね。特に私は」
「何を言っているか俺にはよく分からねーよ」
「分からないんだったら、恋の達人フィーユさんに聞いてみれば?」
「別にいいや。俺興味ねーし。じゃな」
ユウキは話を最後まで聞かずにその場を去った。
――やっぱり、グランさんにはあの人の面影が感じられる…

「そういう事…だったのか」
「グ、グランさん!? どうしてここに!?」
「そんな事はいいだろ。それより…だ」
「今の話…聞いてたんだ…」
ハルカは声を潜めて言った。
「聞いてたんじゃなくて、聞こえてたの方が近いかな。ハルカの心の緩みは、なるほどそういう事だったのか」
「ええ。何だか、面影がそっくりだったから…」
「…ボクは、その人みたいに憧れの的なんかじゃないし、まだまだ修行中の身だ。だけど…ハルカが望むなら、バトルの練習相手くらいにはなってやれる」
「ありがとう… 私、もう過ぎた事には悔んでいられないよね。あの人もそうだった。前向きだった」
「じゃ、ボクは控え室に戻るから」
グランが戻ろうとすると、
「あ、そうだ! フィーユさんに伝えておいて欲しい事が」
「ん、なんだ?」
「次の対戦相手には、充分に注意してって、伝えて」
「分かった。よく言っとくよ」
「それと、『私だっているんだから抜け駆けは許さない』って伝えておいて。じゃっ!」
グランは伝言その1は納得出来たが、伝言その2は理解出来ず。
まぁ、取りあえず伝えておくか。
グランは控え室へと向かって行った。

グランが勝利し、4人の準決勝進出者が出揃った。
準決勝ではどのようなバトルが繰り広げられるのであろうか!?

   To Be Continued…
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リクト #18★2004.09/25(土)17:56
第七十一話     トレーナーハンター、再び

決勝トーナメントも1回戦は全て終了。
勝ち抜いた者達は、束の間の休息を取っていた。

「昨日の試合は、盛り上がったよな」
グランはその光景を思い出しながら言った。
この日は、選手達の休養日となっていた。
「でも、それより…」
フィーユが視線を落とすと、グロードが、
「次の対戦相手の事だな」
と確認する様に聞いた。フィーユは黙って頷き、
「あんな人じゃなかったのに…」
少し涙目になりながら言った。
「考えられる可能性は2つあるな」
グランは手に持っている缶ジュースを一口飲んで言った。
「1つは、本当に人が変わってしまったか。そしてもう1つは…誰かがソイツの名前をかたっているって事だ」
「私の今までの経験からして、1つ目はまずあり得ない。やっぱり考えられるのは…」
「2つ目の仮説って事か」
3人で議論していると、グロードに勝ったユウキと、グランに負けたハルカがやってきた。
「そんな奴の対策練るより、お前の次の相手は俺だ。忘れるんじゃねえぞ」
「分かってるよ。五月蝿い」
…正直な話、実はグランは忘れていたのだ。
「まぁ、とにかくだ。あんな奴に負けたら、承知しないからな」
「…それは私もよく分かってる。大丈夫、私は勝ってみせるから」
「勝手にやってろ…俺は試合前に余計な体力を使いたくない。戻る」
ユウキは踵を返してもと来た道を歩く。
ユウキの姿が見えなくなってすぐに、グランは口を開いた。
「グロード。それにハルカ」
「あー?」
「なに?」
「試合前の調整をしたいんだ。…相手してくれ」
「じゃあ私、ちょっとショップで道具買い足してくるから。すぐ戻るわ」

フィーユがショップ近くの路地に差し掛かった時だ。
「…!」
何かの気配を感じる。
「ストライク!」
こういう時は、物事に敏感なストライクの出番である。
「ストライク。何か感じたらすくに教えて」
緊張が走る中、ストライクはこくりと頷く。
突然、目の前を高速で何かが通り過ぎていった。
フィーユから見て、右から左へ。
気付いた時には、ストライクの姿は無かった。
もう何が何だか分からない。フィーユは路地裏を見た。
なんと、ストライクは薄暗い路地裏の行き止まりにあたる壁に叩きつけられていたのだ。
考えられるのは、先程の高速の移動。
おそらく何かが攻撃を仕掛けたのだろう。
…と、そんな事を考えている場合ではない。
フィーユはストライクの元へ急ぐ。
路地裏は昼だというのに薄暗く、何か出てきそうな感じがしてならない。
「ストライク、大丈夫?」
フィーユはすぐにストライクをボールに戻した。
早く体力を回復させてやらなければならない。
戻るために振り返ろうとすると、カツン、と何かの音がした。
「まさか、こうも簡単に筋書き通りにいくとはな…」
「…!」
後ろから、声が。
フィーユは、視線だけを少し後ろへ向ける。
「な…なぜここに…」
「知れた事か。お前はこのオレに歯向かった」
「やっぱりあなたは…ウェルじゃない!」
「今更気付いても…遅い!」
その人物は、変装用マスクを外す。
「ト…トレーナーハンター、グレイ… 一体なぜ…」
「お前の過去を引き立てるために、オレが一芝居買った」
「じゃあ…本物のウェルは…」
「今頃呑気にテレビか何か見てるだろうよ。あの話もお前に合わせて適当に話していただけだ」
フィーユは振り向き、
「そんな事…許されると思ってるの!?」
「これがオレのやり方だ。…そしてお前は準決勝に出る事は出来ない。何故なら…」
「…?」
「ここでオレに倒されるんだからな!」
グレイは、あの時のポケモン、バンギラスとライボルトを繰り出す。
「ジュカイン! キュウコン! お願い!」
フィーユも負けじとポケモンを繰り出す。準決勝の前哨戦といったところか。
「一瞬で片付けてやる… バンギラスは『いわなだれ』ライボルトは『かみなり』をお見舞いしてやれ!」
「ギラァーッ!」
「ラーイッ!」
バンギラスの『いわなだれ』が頭上から。その岩にライボルトの『かみなり』の電気をまとわせて打ち込む。
2つのタイプの同時攻撃。これは強烈である。
電気岩は容赦無くフィーユと、そして彼女のポケモンに襲い掛かる。
「きゃああっ!」
その悲鳴の少し後、倒れる音が三度裏路地に響く。
「フン…」
グレイはポケモン達をボールに戻し、姿を消した。

その頃…
「おい、ちょっと遅すぎやしないか?」
最初に切り出したのは、グロード。
フィーユが出掛けていてから、既に2時間。
今グラン達がいる場所からショップまでは、歩いて約10分程。
2時間は長すぎる。
「もしかして、何かあったんじゃないの?」
ハルカも心配そうである。
「よし、手分けして探しに行こう。グロードはコロシアムの方を、ハルカは船着場の方を頼む」

「えーと、確かショップの方に向かっていったんだったよな…」
グランは探しに行く前、父親のクロト警視に連絡し、捜索を手伝ってもらう事にした。
ショップが近くなり、裏路地が目に止まった。
「まさかな…だけど…」
グランはバシャーモを出す。
「何があるか分からない。援護を頼む」
グランは注意深く路地裏に入る。
道幅は普通だが、薄暗い。
本当にこんな所にいるのだろうか。
「ハズレか。もうすぐ行き止ま… ん?」
グランは注意深く先を見た。
何かが倒れている。
ポケモンが2匹、そして、髪の長い少女。
みんな傷だらけだった。
「フィーユ! それにジュカインにキュウコンまで!」
グランとバシャーモは、1人と2匹の側に。
グランがフィーユを抱き起こす。
「おい、一体、何があった!」
しかし、応じない。
「ちっ、気を失ってるみたいだ。そっちはどうだ、バシャーモ!」
バシャーモはキュウコンの様子を見ていたが、「駄目だ、こっちも2匹とも気を失っている」といった感じで首を振った。
グランはポケギアでクロト警視を呼び出す。
「父さん…見つかった。…救急隊も連れて来て」
それだけ言って、電話を切った。
――誰が…誰が一体こんな事を…
「悪い…護れなくて…」
キュウコンの隣に座って下を向いているバシャーモも、きっとグランと同じ気持ちなのだろう。
仲間を、大事な仲間を護れなかった。
グランは、フィーユを護るように抱きしめていた。
「ゴメン…護れなくて…本当にゴメン…」
自然と涙が溢れ出てくる。自分の力不足が、この様な結果を招いてしまったのだから。
バシャーモは右隣にいるジュカインの左肩に手を置き、左腕でキュウコンの頭を自身の左肩に抱き寄せる。
バシャーモも本当は泣きたい状況だろうが、涙を堪えていた。
表通りの方から、自分の名を呼ぶ仲間の声が聞こえて来た。

   To Be Continued…
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リクト #19☆2004.09/28(火)20:59
第七十二話    果たせなかった約束

「約束したのに…必ず決勝で会うって…」
ラルガシティの病院の待合所。
グランはそこで何度もこの言葉を呟いていた。
準決勝当日の朝。
試合を前にして、フィーユが襲撃に遭い、この病院に運ばれたのだ。
準決勝では、グランもユウキとの試合を控えている。
グロードがやってきた。
「どうだ? フィーユの様子は」
「まだ分からない…何も言われていないんだ」
「そうか…」
グロードはグランの隣の椅子に座る。
「そういや、約束してたんだったな。決勝戦で会おうって」
「…ああ」
会話が続かない。グロードも何と言っていいのか、言葉が見つからないのだ。
「何ともないといいけどな」
「…ああ」
…やっぱり会話が続かない。
「ここにいたか」
何時の間に来たのか、クロト警視が立っていた。
「今のフィーユちゃんの状態なんだが、大丈夫そうだが試合はまず無理だろうという診断だった」
「それ、マジですか?」
グロードが驚いて聞く。
「…残念ながら事実だ」
「そういやお前、試合あるんじゃねーのか?」
グロードが言った。
「そうだな。朝からあるんだろう? なるべく早く行った方がいい」
「…そうだ、試合だ。早く行かないと…」
グランは病院を出ようとする。
「そうだ…試合中、フィーユの事、頼む」
「大丈夫だ。お前は試合に集中しろ。…必ず勝ってこい」
「行ってくる」

『えー、準決勝第一試合として予定されていました、フィーユ選手とウェル選手の試合ですが、不慮の事故でフィーユ選手が出場不可、つまり棄権となりました』
司会のアナウンスに、場内騒然。
『よって、ウェル選手の不戦勝とします』
場内はざわついていたが、グランはウェルの不敵な笑みを見逃さなかった。
――まさかとは思っていたが、やっぱり奴か…
『準決勝は第二試合のみ行います! グラン選手対ユウキ選手の試合です!」
ウェルはそのままコロシアムの外へ。
グランはその後ろ姿に睨むような視線をやった。
――待ってろ、フィーユ…お前の仇は、決勝戦で絶対にボクが取ってやるからな…

「まさか、またお前と戦う事になるとはな、弱腰」
対峙してすぐに、ユウキが言った。
「弱腰って言うな。ボクは同じ相手には二度と負けたくない」
「そう言っていられるのも今のうちだぜ」
ユウキはにやりと笑った。
「その台詞、そっくりそのままお前に返してやる」
グランも負けじと言い返す。
「なんだと、コノ!」
「やるか!?」
このまま放っておいたら、壮絶な毒舌合戦になるのは間違いない。気をつけろ!
それはそうと司会者よ。止めなくていいのか?
『さ、さあ、試合に移りましょう』
毒舌合戦はその言葉が発せられるまで止まらなかった。その時間、実に30分。
予定されていたフィーユとウェルの試合時間をまるまる使ってしまったのである。
しかしこの毒舌合戦、観客には大ウケしていたのだから、世の中っちゅーモンは分からないのだ。
何故そう言い切れるんだという質問は控えていただきたい。
「ま、今回も俺の勝ちだろうげどな。相手をしてやる」
「なんだと、この野郎!」
せっかく試合開始になると思ったら、この有様。これではいつまで経っても試合を始められるワケがないのは言うまでもない事だ。
第二次壮絶毒舌合戦の幕開けは避けられない状況だ。
これではポケモンバトルどころではないのでは?
しかし、やっぱり観客にはウケているのだから、世の中っちゅーモンは(以下略)
『いい加減にしてください。このまま続けると、両者とも失格にしますよ!』
司会者絶叫。
流石にこれにはグランもユウキも反応。すぐにバトルの体制に入る。
こんなところで失格にされたら、にっくきウェルが優勝になってしまう。
それだけは絶対嫌だ。
ちなみに、両者とも失格にしますよと司会者が叫んだ回数は5回である。
『では、試合を開始します。両者、準備はよろしいですか?』
「ちょっと待ったー!」
そう叫びながらコロシアムに入ってきたのは、グロード。
「どうした?」
グランが走って行く。
「預かり物だ。ほらよ」
グロードが渡した物を見ると、普段フィーユが首から下げているペンダントだった。
「ついさっき意識が戻ったんだ。それでさお前が試合に向かったって知って、これをお守りとしてお前に預けてくれって頼まれた」
「そっか。意識戻ったか」
グランはそれを暫く見ていたが、迷いもせずにそれを首から下げた。
「じゃあ、オレは戻る。絶対勝てよ」
グロードはグランの背中を1回叩いて戻っていった。
――ありがとう。2人とも。お前らの気持ち、無駄にしないから。

ある事に気付いたのは、グランがコロシアムに戻ろうとした時だった。
ペンダントの下の部分が、開閉式になっていた。
開くと、数回折りたたまれた紙が入っていた。
それを開く。
それには、こんなメッセージが書かれていた。

   頑張れ、グラン!
   自分を信じて!

この筆跡、おそらくフィーユ。
「自分を信じる、か…」
グランは、その紙を元に戻した。
ここまでしてもらったからには、この試合、決して負けられない。
戦うハズだった仲間のために。そして、自分自身のために。
決勝で、仲間の無念を晴らしたい。
そのためには、まずはユウキとの戦いに勝たねばならない。
正直言って、勝てるかどうかは分からない。
だが、自分を、そしてポケモン達を信じれば、きっと良い結果が生まれるだろう。
「いくぞ! 勝負だ!」

    To Be Continued…
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リクト #20☆2004.10/12(火)18:48
第七十三話    リベンジバトル! グランVSユウキ

『さあ、グラン選手とユウキ選手の試合…』
「司会者。黙ってろ」
ユウキがトゲのある一言。
『いや、実況は必要かと』
「これは真剣勝負。余計な実況は要らねー」
ユウキはいかにも投げやりな口調で言った。
「…実況、控えてもらえませんか」
意外にもグランも同意見。
――これはボクにとってのリベンジバトル! 集中したいんだ…

「おう、渡してきたぜ」
「うん、ありがと。…渡した時、どんな様子だった?」
届け物を渡して戻ってきたグロードに、フィーユが聞いた。
彼女は、準決勝で戦うハズだったウェル――グレイの変装だった――に襲撃を受け、棄権するハメになり、負傷して治療を受けている。
そしてベッドの側の床では、キュウコンが眠っている。他のポケモンはボールの中。
「渡した時か? …大事そうに握り締めてたぜ。その後、首に下げてたな」
「あの中に入ってた私のメッセージ…気付いてた?」
「気付いたみたいだな。なんだか、『力がみなぎってくる』って感じの表情だったぜ」
「そう…よかった。安心したら、また眠く…」
「おいおい、グランの試合見なくていいのか? 中継されてんだぜ?」
グロードが言う。
「大丈夫よ… 仲間の力を貰ったグランは、誰よりも強い…」
そう呟くと、フィーユは眠り始めた。
「仲間の力、か…」
グロードも呟く。

ノックの音が聞こえた。
開いた扉の前にいたのは、ハルカだった。
「お、どうした。フィーユの見舞いか?」
「ええ、まあ」
「…とかいうのは口実で、テレビでグランの試合見るためだろ?」
グロードはズバリ言った。
「えへへ…分かっちゃった?」
「オレをナメるんじゃないぞ。こういう事には敏感。それがオレなんだからな」
「やっぱり、私の場合はすぐ行動とかに表れてるのよね…」
「まぁ、ポーカーフェイスを保つのも難しいモンだぜ」
そういえば、グロードの顔色等はあまり変わっていない。彼はポーカーフェイスの持ち主らしい。
しかし、今後はどうなるかは定かではないのだが。
「でも…私、ユウキを応援すればいいのか、グランさんを応援すればいいのか、分からない…」
「自分の仲間を応援するか、自分が想いを寄せる人を応援するか…これはかなり難題だな」
「グロードさん… 私、どうすればいいんだろう…」
ハルカの表情からして、彼女は真剣に悩んでいるようだ。
『いけっ、スラウ!』
テレビでは既に中継が始まっている。ユウキがポケモンを繰り出したのだ。
「そういう事は自分で決めろ。…お、試合が始まったみたいだぜ…お、ユウキはサンダース…オレのラグラージを倒したヤツだな」
グロードは決勝トーナメントでユウキと戦い、敗北している。
意表をついたサンダースの「めざめるパワー草」が、ラグラージに炸裂したのだ。
「気をつけろ、グラン… 間違ってもサイドンなんか出すんじゃねーぞ…」
グロードは、祈る様な気持ちでグランの最初のポケモンを気にする。
そして、グランの最初のポケモンは…

「いけっ、サイドン!」
電気は地面に弱い。
その相性を考え、バカ正直にサイドンを繰り出したのだ。コイツはグロードの試合の事を覚えてないのか。
もちろん、ユウキはにやにやしている。
「バカか弱腰! 俺のスラウが使う『あの技』を忘れたか!」
「あの技…って。…ゲッ! まさか!」
「スラウ! 『めざめるパワー』だ!」
「サイドン! よけ…」
しかし、間に合わない。
サンダースの『めざめるパワー』がサイドンに直撃。これではラグラージの二の舞である。
「サイドン、戦闘不能!」
「うわったー…忘れてたー… コイツに『めざめるパワー』の草タイプあったのが…」

「あのバカ…オレの試合の事覚えてねーのか…」
グロードは頭を抱えた。
「でも変ね。いつものグランさんなら、こんな事無いと思ったのに」
「もう少し落ち着けっての、あの野郎…」

「次は…そうだな、お前だ、ピカチュウ!」
「ピッカァ!」
「ピカチュウか… スラウ、速攻で倒してやれ」
「出来るものならやってみろ! 『こうそくいどう』だ!」
「ピッカ!」
ピカチュウは、サンダースの周りをグルグル回り始めた。
とてつもなく早い。サンダースが戸惑っている。
「何をしている、スラウ! 落ち着いて狙え!」
しかし、落ちないピカチュウのスピードは、次第にサンダースを弱らせていく。
あまりに早いので、目を回してしまいそうだ。
「サン…ダ…」
遂にサンダースは、目を回してしまった。
「今だピカチュウ! 『10まんボルト』だ!」
「ピ〜カ〜…チュウ――ッ!」
「スラウ! 耐えろ! 耐えるんだっ!」
しかし、ユウキの叫びも虚しく、サンダースは倒れる。
「通常の『10まんボルト』では、こんな威力はあり得ないハズ…」
「『でんきだま』だ。ピカチュウに持たせると、特攻が2倍になるのさ」
「ピーカッ」
ピカチュウも頷く。
「サンダース、戦闘不能!」

「随分鍛えてあるな、あのピカチュウ」
「ええ。可愛くて強いわね。私も頑張らなきゃ…」
「ポケモン育成の前に、頑張る事、あるんじゃねーか?」
グロードが言った。そして続ける。
「想いを伝える事だ。大会終わったら、伝えてみろよ。アイツが何て言うかは知らないけどな」
「無理だって事は分かってる…分かってるけど…」
ハルカは、眠っているフィーユの方に視線を向けて、続けた。
「けど…やってみないと、分からないんだよね…」
「ま、それもそうだな」
「でも、私はこんな性格だから…」
「緊張しやすいってか」

「次はケリー! お前だ!」
「ミロォッ!」
――あの時のミロカロスか。
「いくらソイツが特攻が高いとはいえ、ケリーは『ミラーコート』を持ってる。うかつに手は出せねーだろ」
ユウキのヤツ、そこを計算して出している。
『ミラーコート』を警戒して、『でんこうせっか』等の打撃攻撃を出させ、その間に攻め落とすつもりなのだろう。
しかしグランの行動は、それを覆す。
「ピカチュウ! 『ミラーコート』を恐れるな!」
「ピッカァ!」
グランは、ユウキの予想に反し、ピカチュウに電撃を使わせたのだ。
「ケリー! 『ミラーコート』の準備を…なにッ!?」
『おーっと! ユウキ選手のミロカロス、ピカチュウの一撃であっさりダウ〜ン!』
「だから実況はいらねーって言っただろうが!」
ユウキが怒鳴る。
「ミロカロス、戦闘不能!」
「よっしゃ! よくやった、ピカチュウ!」
「ピカッ♪」
あの時倒せなかった、ユウキのミロカロス。
しかし今日、遂に2年越しのリベンジを果たしたのだ。
「よくも…よくもやってくれたな…」
ユウキが低い声で言う。
「負け惜しみか? 見苦しいな」
「まだ勝負は終わっちゃいない… 見せてやる! 俺の切り札を!」
「き、切り札だと…?」

果たして、ユウキの切り札ポケモンとは!?

    To Be Continued…
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リクト #21☆2004.10/19(火)00:00
第七十四話    ユウキの切り札

「見せてやる! 俺の切り札を!」
ユウキはボールを構える。
「いけるか? ピカチュウ」
「ピッカ!」
ピカチュウは前へ進み出る。
「これが俺の切り札…レベラ!」
「グロォーッ!」
「メ、メタグロスだと!?」

病院でテレビを見ていたグロードも、グランと同様、かなり驚いた。
「メタグロスか…かなりの強敵だぞ」
グロードは腕を組んで言った。すると、
「メタグロスの脅威は、その攻撃力の高さね。生半可な耐久力だと、一撃で倒されるわよ」
ハルカが解説する。
「まさに切り札…ってワケか」

「さ、どう対抗するつもりだ?」
「もちろん攻撃するんだ! いけ、ピカチュウ!」
ピカチュウは先ほどと同じ様に、電撃を放つ。
高い特攻を持ち、『でんきだま』を持たせている。かなりのダメージを受ける。…ハズだった。
メタグロスには、全然疲れの色が見えていなかった。
「無駄無駄。メタグロスにはそんな攻撃効かないぜ」
「なっ…なぜだ!?」

病室でテレビを見ていたグロードは、その理由を理解していた。
「そういう事か…」
グロードが呟く。
「どういう事?」
ハルカが聞くと、グロードが答える。
「あの4本の足をアース代わりにして、電撃を地面に吸収させていたんだ。これは強敵だぞ」

「こんどはこっちの番だ! いけ、レベラ! 『じしん』攻撃!」
「グロォーッ!」
「くっ…」
「ピ…ピカッ!?」
ピカチュウがバランスを崩す。その隙にメタグロスの『シャドーボール』炸裂!
ピカチュウはかなり遠くまですっ飛ばされた。
「ピカチュウ、戦闘不能!」
「戻れ、ピカチュウ!」
グランはピカチュウをボールに戻す。これで戦況は振り出しに戻った。
グランもユウキも残りポケモンはあと一匹のみ。次で勝敗が決まるのだ。
そして、ユウキのメタグロスに対し、グランの最後のポケモン。
グランの心には、どのポケモンを使用するか、そんな迷いは微塵も無い。
今まで苦楽を共にし、一緒に成長してきた、彼の一番のパートナー。
そのポケモンの名は…そう、バシャーモ。
「いけ、バシャーモ!」
「バシャァーッ!」
ボールから登場したバシャーモ。いつにも増して気合い十分である。
理由は、グランと同じだ。相手は一度自分が負けているトレーナーだから。
「2年前と同じポケモン…か」

「これで、2人共残るは一匹ずつになったワケだな」
グロードが言うと、
「だけど、バシャーモとは相性悪いのよね、メタグロスは。これは、グランさんの勝ちかな」
ハルカが答える。
「それはどうかな。ユウキだってバカじゃあない。作戦あるんだろう、きっと。ヘタすると、やられるのはグランの方になる」

「行け! 『かえんほうしゃ』だ!」
「それならこっちは『ひかりのかべ』だ!」
グランのバシャーモが放った『かえんほうしゃ』をユウキのメタグロスが『ひかりのかべ』でダメージを軽減する。
「ダメだ… 『ひかりのかべ』の効果で全然効いていない」
「もう終わりか? なら、すぐラクにしてやる! 『じしん』だ!」

「まずいな… 『かえんほうしゃ』のダメージが軽減されたとなると、相当キツい展開だぞ」
グロードが、こりゃまずい事になったな、と呟く。
「でも、バシャーモには打撃技が…」
ハルカが言うと、グロードは首を振り、
「いや、メタグロスは防御力も高い。効果が抜群な「じしん」にも耐える事だってあるんだ」
「って事は、まさか…」
「ああ。今のままじゃ、グランに勝ち目は無いって事だ」

「さてと、さっさと決めてやるか」
ユウキは、早くも勝ち誇った顔をしている。
『ひかりのかべ』で特殊攻撃の威力を減らされ、しかも相手は防御の高いメタグロス。
いくら相性が良いといっても、これは不利な状況だ。
しかも相手は「じしん」持ち。
メタグロスの攻撃力でこれを食らったら、一溜まりも無い。
「これで終わりだ! 『じしん』を食らえ!」
「グロォーッ!」
対してグランのバシャーモは、何も出来ない。いや、何もしていない。
これは、ただ手が出せないだけだったのか。それとも、あえて手を「出さなかった」のか。
この時のグランは、後者だった。
そう。わざと手を出さなかったのである。
そして、その理由は、メタグロスが『じしん』を放つ寸前、バシャーモに技を呟いていたのだ。
呟いた技の名は…
「バシャーモ。…『カウンター』だ」
バシャーモは、メタグロスの『じしん』をすんでの所で耐える。
「耐えたか…だが、次でお前は終わりだ!」
「どうかな。終わりなのはそっちだ! 『カウンター』だ!」
間髪入れずに、『じしん』で受けたダメージをメタグロスに倍返し。
体力満タンの状態から「ひんし」状態寸前まで体力を減らされたのだから、この状態での倍返しはとてつもない威力だ。
なので、当然メタグロスはダウンしてしまう。
「メタグロス、戦闘不能!」
この瞬間、2年越しのリベンジが成就出来たのだ。
「クッ… バ、バカな… この俺が…」
ユウキは膝を付き、地面を拳で殴りつけた。
『ユウキ選手を破り、ウェル選手に続いて決勝に進出したのは、グラン選手!』
グランは、拳を高く空に突き上げた。

試合を終えたグランは、控え室にも戻らずにある場所に向かった。
「よ。勝ったな。リベンジ成功したじゃねーか」
そう。病院である。来た時に出迎えたのは、グロード。
フィーユに、勝利の報告をしに行ったのだ。
グランが病室に入ると、フィーユとハルカが待っていた。
「お疲れ様。勝ったみたいね」
「なんだよ、試合見てなかったのか?」
グランが呆れて聞くと、
「お前の勝ちを信じていたみたいだぜ」
と、グロードが代わりに答えた。
「ところで、ユウキはあの後どうした?」
グランは、今度はハルカに聞く。
「ええ… よっぽど悔しかったらしくて、さっさとホウエン地方に帰っちゃった」
「そういや、ラッシードのヤツも最近見ないな」
グランが思い出したように言うと、
「アイツなら、とっくの昔にジョウトに戻ったよ。武者修行始めるんだと」
グロードが答えた。
「なんだよ。帰るなら一言言えばいいのに」
グランが言うと、
「でも、何となく分かるわ。1回戦、あっさり私に負けちゃったし」
その時の事を思い出しながらフィーユが言った。
「そりゃね…いきなりカイオーガ出したら驚くって」
その時、見た事のある人物が。
「えーと、ここでいいのかな?」
「あっ、お前は!」
部屋に入ってきたのは、なんとウェル。
「このヤロ! よくも手の込んだ真似を…!」
グランが今にも掴みかかろうとした時、
「落ち着いてくれ。…誤解だ」
以外にも丁寧な口調で言った。
「実は、この大会で僕のニセモノが出場しているって話を聞いてね。真相を確かめに来たんだ」
「って事は…ホンモノのウェルか…?」
「そう。はじめまして、グラン君。そして…グロード君」
「いや、グランでいい」
「オレも呼び捨てでいいぜ」
グランとグロードが言うと彼は、分かった、そうさせてもらうよと言った。
「ところで、そのニセモノの正体だけど…」
グランは本題に入る事にした。
「ああ。僕はこの町に来る時、色々と調べてみたんだ。ニセモノの使っているポケモンとかをね」
ウェルは、そこで一呼吸置いた。
「その結果、僕になりすましている人物は…警察が指名手配している人物だと分かった」
その言葉に、グラン達は驚く。正体はグレイだという事は分かっていたが、指名手配されていると聞いたのは初めてだった。
「それなら、徹底的にやっつけてから警察に捕まえてもらおう。まだボクにはヤツとの決勝戦が残っているんだからな」
「頼む。このままでは僕は濡れ衣を着せられたままになってしまう」
「任せな。いくら昔フィーユとなんたらかんたらだったとしても、ボクは困ってる人を見逃せないタイプだからな」
「ははは。なんたらかんたらを使ってぼかしたね。フィーユから聞いてるよ。グランはとても優しい人だって」
「ニセモノと正反対の事言ってるよ…」
「それだけ、ホンモノは見る目が違うって事さ」
グロードが言うと、そんなものかな、とウェルが言った。
「多分僕なんかより、キミの方がフィーユと合いそうだ。彼女の元カレとして、フィーユの事、頼むよ」
「ああ。絶対に失望させないさ。だけど、ホントにボクなんかで大丈夫かな…」
「グラン。もっと自分に自信持った方がいい。ポケモンバトルの時みたいに」
「バトルには自信持ちたいけど、他の事、それこそ恋は自信ないな」

ホンモノのウェル登場により、グレイの変装が観客達にバレるのは時間の問題となった…
もちろん、ニセモノ(グレイ)は、この事は知らない。

   To Be continud…
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リクト #22☆2004.10/27(水)15:20
第七十五話     決勝への思い

「ま、そんなワケで、決勝まで進めたのさ」
話を聞き終わったのは、ついさっき来たばかりの「ホンモノ」のウェル。
彼は、グランに話を聞きたいと言ったら、延々3時間も自慢話が含まれた長話を聞かされたのだ。
「はぁ。流石に3時間も連続して話すと喉が渇く」
グランがぼやく。
「でも、グランさん。飽きずに聞いてたウェルさんも別の意味で凄いと思うけど…」
ハルカが言った。
「ははっ。僕は話すより、聞く方が好きなんだよ」
ウェルは苦笑した。
「聞き上手は話上手って言うけどな」
グロードも言う。
突然グラン達の前に姿を現したウェルは、グレイが変装していたウェルとは性格が正反対。
誰にでも好かれそうなタイプの人物だった。
聞けば、彼はグランの父、クロト警視から連絡を受けてここまで来たとか。
そして、今のグランがすべき事は、全力をもってグレイを倒す事である。

「そろそろ行こうかな。明日に備えて、少しは休んでおかないと」
そう言ってグランが立ち上がる。
「え? もう帰っちゃうの?」
意外そうな顔でフィーユが聞いた。
「あのなぁ… ボクはここのところバトルばっかりで疲れてるんだよ… だから選手村戻って、少し寝ておきたいんだよ」
確かによく見てみると、今のグランは少し疲れているように見える。
「そう… それなら仕方ないわね。疲労で決勝出られないってなったら、笑い話にもならないわ」
「確かに」
フィーユが言うと、グランを除く全員が同意した。
「少なくとも、ボクはいくら疲れてても出る。だけど、疲れてると判断力鈍るから、少しは寝たい」
「じゃあさっさと戻って寝ろーい!」
ぼやくグランの発言を、グロードがバッサリと斬った。
「へいへい… わっかりましたよーっと…」
やっぱり眠そうな顔をして病室を出ようとするグランだが、
「待って」
フィーユに呼び止められた。
「あ? 何だ?」
「決勝で、この子使ってほしいの。…私の気持ちも、一緒に戦わせて」
そう言って、彼女はモンスターボールを1個投げてよこした。
「大丈夫なのかよ。ボクの言う事聞かないだろ」
「それが大丈夫なのよ。ボールから出してみて。理由がなんとなく分かるから」
「…」
言われるままに、軽くボールを放る。
「コン?」
中から出てきたのは、キュウコン。
「で、このキュウコンがなんでボクの言う事聞くって断言出来るんだよ」
グランは、まだ答えが掴めない状態だ。
「分かってないわねー。自分の手持ちをよく考えてみなさいよ」
「ボクの手持ち…」
グランは、自分の現在の手持ちを思い返してみた。
フーディン… サイドン… ギャラドス… ピカチュウ… グラードン… そして…
「まさか…な」
グランは、そのポケモンを出す。
『なんだよ、まだバトルじゃないじゃねーか。どうなってんだオイ』
…と言いたそうな顔して登場したのは、バシャーモ。
そのバシャーモの姿を認めるや否や、キュウコンは猛然とダッシュ。
その気配に気付いたのは、タイミング的には遅かった。
バシャーモの反応した速さと、キュウコンがダッシュ開始したタイミングは、キュウコンの方が早かった。
結局バシャーモは、キュウコンが飛びついてきても止める事が出来ず、後ろに倒れた。
「あ、キュウコン! 何やってるのよ!」
「バシャーモ! 平気か!?」
バシャーモは『びっくりさせるなオイ』と言いたそうな顔で、キュウコンを一瞥した。
対してキュウコンは『すみませんすみません』と言わんばかりにぺこぺこ頭を下げている。
「な、なるほど。そういう事だったか」
グランは納得した様子でバシャーモをボールに戻した。
「コォン…」
キュウコンは、これでバシャーモに完全に嫌われたと思ったのだろう。
ちなみに、グレイに襲撃を受けて気絶している時に、グランのバシャーモがキュウコンの頭を抱き寄せた事は知らない。
襲撃を受けて、フィーユもジュカインもキュウコンを気を失っていたのだから無理もない。
「それに、それだけじゃないわ。グラードンがいたでしょ? グラードンの力で、炎ポケモンはパワーアップ出来る」
そういえば、グラードンの「とくせい」は、炎タイプの技の威力が上がる晴れにする「ひでり」だったハズだ。
「なるほどな。特性の効果で、バシャーモもキュウコンも技の威力が上がる。晴れを生かせるな」
グロードが言った。
「それなら… 晴れを生かせるポケモンを使って戦った方がいいな。だけどグラン。キミがグラードンを持っているだなんて、本当か?」
「ああ。まぁ、成り行き上そうなったワケで」
「あの時も、私の事、命懸けで守ってくれたものね…」
その時の様子を思い出しながら、フィーユが言う。
「4対4だから、あと一匹決めておかないといけないな。何がいいかな…」
「どうせなら、オレのポケモンも貸してやろうか? オレだって、あのグレイの野郎は絶対許せねー」
グロードの言葉に、グランは何か考えていたが、
「ありがとう。気持ちだけもらっておく」
グロードは少しガッカリしたが、あの目、グランには何か考えがある事を直感的に感じた。
「じゃあ、ボクはそろそろ戻るから。…暫くキュウコン、借りとく」
そう言い残し、グランは部屋を出た。

選手宿舎に戻ったグランは、病室で話した通り、眠り始めた。
疲れていたのだろう。すぐに眠れた。
しかし、そのうち起きなければ。食事抜きにならないようにしなければならない。

「…い! おい!」
聞きなれた声。多分…グロード。
「早く起きてよ、グランさん!」
確かこの声は…ハルカか…
「駄目だ。起きねーな。寝たふりなのか、寝ぼけてるのか」
「大丈夫。私にいい考えがあるの」
「いい考え? なんだよ」
「まぁ、見てて」
そう言うと、ハルカはグランに顔を近づけ、
「ほら、早く起きないと、試合時間に遅れちゃうぞ♪」
と言って、すぐさま顔を離した。
そうしないと、グランが飛び起きた時に顔面をぶつけてしまう可能性があるからだ。
「そんなので効果あるワケねーだろーがよ」
グロードが言った。しかし。
「え、マジ!?」
グランは飛び起きた。
…引っ掛かった。コイツ、いとも簡単に引っ掛かった。
「冗談よ。目は覚めた?」
無邪気な顔して、ハルカが言う。
「なんだよ、冗談かよ… ヒヤッとしたな…」
それは紛れも無く、グランの本音だった。実際決勝戦の日に寝坊したら、元も子も無い。
「もう少し寝ていたかったんだけどな…」
「キリがねーよ。ほら、さっさとメシ行くぞ」
食事に行くと聞いた途端、グランは猛然とダッシュ。彼は食い意地が結構張っている。
呼びに来たハズが、逆に置いてけぼりを食らったグロードとハルカは、苦笑した。
「ところでお前、結構大胆なマネするじゃん。あんなに顔近づけてさ。どうなるかとハラハラしたぜ…」
「私、まだ諦めてないから…ね。フィーユさんには…ちょっと悪い事しちゃったかな…」

「いやー、美味かったな」
グランはご機嫌である。
「そうだね。味付けが絶妙だった」
レストランでおち合ったウェルも言う。
「ああ。もう少し食っておけばよかったって、今になってちょい後悔したぜ」
グロードは、グランに負けず劣らず食い意地が張っている。
「腹八分目。食べ過ぎると腹痛起こすわよ」
ハルカが言う。
「だけど、フィーユは可哀想だよな… 病院で食う事になっちまってさ」
「それもこれも、あのグレイのせいだ。ボクが次のバトルで叩きのめしてやる」
グロードが言うと、グランはそう答えた。
「僕のニセモノを、懲らしめてやってくれ」
「任せとけ。グレイはボクが倒してやるよ」
グランは、ウェルの背中を叩いた。
その時、どこから聞こえてくるのか、何かの音が聞こえた。
「何の音だ?」
グロードが聞く。
「これは…多分、横笛。フルートじゃないかな」
グランが答える。
そして、耳をすましてみると、聞こえてくる方向は…
「…悪い。先に帰っていてくれ」
それだけ言うと、グランは走ってどこかに行ってしまった。
「どこ行くんだろ、グランのヤツ」
残されたグロード、ウェル、ハルカは、別に不思議とは思わなかった。

   To Be Continued…
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リクト #23☆2004.11/07(日)17:21
第七十六話    復活参戦? 伝説のファイヤー再び

「やっぱり…ここからだったか」
グランが居るのは、その音色が聞こえている場所。
そして…
「え…? グラン!?」
フルートを吹いていたのは、フィーユ。
「…見つかっちゃったね…」
「結構…上手じゃないか」
確かに、聞こえて来た音は、滑らかで、なおかつ穏やかだった。
「これ、私の趣味の1つ。なるべく黙っておこうと思ったんだけど…」
「いや、ボクとしては、なんで黙っていたいのかが気になるんだけど」
「そ、そんな事どうでもいいじゃない!」
フィーユは珍しくムキになっている。
「そう言うんなら、ボクは何も聞かない。邪魔して悪かったな。続けてくれよ。それと…早く病院に戻れよ。入院中の身なんだから」
当然の事のようにグランは言った。
「ちょっと…待って」
戻ろうとするグランをフィーユが呼び止めた。
「何だ? 用があるなら早く言ってくれ」
「…話あるんだけど、ちょっといいかな?」
「別にいいけど。どうせヒマだし」(←作者注・そう言うか普通)

2人は、病院の近くの広場にあるベンチに座っていた。
「で、何だよ、話って」
「あのさ…私、謝らなきゃと思って…」
「謝るって、何を?」
「…短い期間だったとはいえ、グランの気持ちを裏切るような事になって…」
この後何を言われるのか気になりながらフィーユは言った。
しかし、グランの返事は予想と全く逆だった。
「なんだ。そんな事ずっと気にしてたのか?」
「えっ…?」
「だけど、流石に最初は驚いたな。だけどさ、アイツがニセモノだと知った時には、『そういう理由じゃ仕方無いだろうな』って思った」
「…ごめん」
「だから、こんな事したグレイの事を、ボクは絶対に許さない。決勝戦で倒す」
夜空を見上げて、グランが言った。
「絶対勝てるよ。…グランなら」
「ああ。サンキュ」
2人は暫く夜空を眺めていた。
「あ、そうだ」
不意に、グランが声をあげた。
「何?」
怪訝そうにフィーユが聞く。
「ちょっと、目を閉じてくれないか」
「え? うん」
フィーユは言われた通りにする。
「で、何か押し付けてるような感触がしたら、心の中で3つ数えて、目を開ける。OK?」
目を閉じた状態で、フィーユは頷いた。
そしてグランは、自分の人差し指をフィーユの額に当て、自分も目を閉じる。

…。

「ねぇ、もう目、開けていいの?」
「ああ」
「ところで、今のは?」
フィーユが聞いた。
「ボクがまだ小さい頃、父さんが教えてくれたんだ。嫌な事とかがあった時、こうすると心が落ち着くって。一種の『おまじない』みたいなモノかな」
グランが説明する。
「ところでコレ…効くの?」
「知らない。効く時もあるし、効かない時もある。ボクみたいに気紛れなんだよ。じゃ、ボクはもう戻るから」
「え、うん… 明日には退院出来るから、試合、見に行けると思う」
「そっか。来られるのか。じゃな」
そう言い残して、グランは走り去っていった。
(…何を期待してたのかな… 私…)

次の日…
「グラン。お前次の試合に出すポケモン、決めたのか?」
グロードが聞く。
「うーん、3体は決めたんだけど… 残り1体がどうにも… と、そうだ!」
グランはすぐさま、パソコンを起動し、『あずかりシステム』を出した。
「よし、コイツをこっちに転送だ!」
そして、転送が開始される。
「…よし、転送完了!」
そう言うと、グランは外に出て、ボールの中に収納されているポケモンを出す。
「ファイヤー。久しぶりだな」
『何が久しぶりだ。私は暫く何もしていないから、体が鈍って仕方が無い』
「そう言うと思った。だから暫く振りで呼んだ」
グランが言うと、ファイヤーの表情が変わった。
『ほう』
「ポケモンリーグの決勝戦。ダブルバトルにボクは出る」
『フッ。私の復活試合にふさわしい舞台ではないか』
「但し、どのポケモンを出すかはまだハッキリと決めていない」
グランの言葉に、ファイヤーは危うくずっこける所だった。
『私を出場させるために呼んだのではないのか、貴様!?』
「いや。ちょっと呼んでみただけ」
『ふざけるな』
「ハイハイ…ルールに触れるから出さない」
グランは駄目だこりゃといった表情で言った。
その後、ファイヤーが憤慨したのは言うまでも無い。

『さあ、遂にきました決勝戦! 果たして栄光の座に輝くのはウェル選手か!? それともグラン選手か!?』
「ちょっと待ったーっ!」
司会者のアナウンスに続いて響いたのは、1人の少年の声。
そう。『ホンモノの』ウェルだ。
もちろん真っ先に驚いたのは『ニセモノの』ウェル。
『ホンモノの』ウェルは、グランの対戦相手を指差し、叫ぶ。
「ソイツは、僕のニセモノだ!」
ウェルの言葉に、会場内がざわめき始めた。
「さあ、もう言い逃れは出来ないぜ。…グレイさんよぉ」
グランが言った。
『ニセモノの』ウェルはくっくっと笑った。
「まさかホンモノが出て来るとはなァ。流石のオレでも予想してなかったぜ」
そう言って、変装用マスクを取った。
会場はその光景に驚いた客でざわめいている。
「よし、突入!」
警察が行動に移そうとすると、ウェルが左腕で制した。
「突入は、もう少し待って下さい。彼…グランは、本気でグレイを倒そうとしているんです」

『と、ちょっと待って下さい。グレイさんとやらは、ウェル選手という事で登録されていますので、この場合は失格という事に…』
「失格にする必要はありません。…ボクが倒しますから」
「フン。そんな事を言っていられるのも今のうちだ。お前もあの小娘と同じ様な目に遭わせてやる!」
「出来るものならやってみな! そう簡単にボクは倒されはしない!」

     To Be Continued…
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リクト #24☆2004.11/08(月)10:08
第七十七話     仲間の思いを胸に 前編

『で、では、決勝戦・ダブルバトル、グレイ選手VSグラン選手、試合開始!』
「さて、奴と同じ目に遭わせてやろう… バンギラス! ライボルト!」
フィーユが襲撃された時にグレイが使っていたポケモンだ。
「よーし。じゃあボクは… 行け! グラードンとフーディン!」
グラードンとバンギラスの特性は、天気を変えるものだ。優先されたのは、グラードンの方だった。
『よーやっと俺様の初陣か。長かったじゃねーか』
グラードンは体をほぐす様に軽く動いた。
しかし、960キロもの巨体が動くのだから、衝撃はある。
「わああ! 暴れるならバトルで暴れてくれ!」
グランが止めに入る。下手をすると、コロシアム崩壊である。
『ふむ。それもそうだな』
簡単に納得するグラードン。納得するのが早いのだ。
すると、ボールの中から憤慨の声が聞こえて来た。
『約束が違う。何故私を出さないのだ」
確かにファイヤーを一緒に出せば地面技が効かないし、特性の効果で炎の威力が上がる。
「いや、伝説は1匹だけってルールだからさ。今回は我慢してくれ。なっ?」
しかし、そう言って納得するファイヤーではないのだ。

「よし、グラードンは相手の様子見、フーディンはライボルトに攻撃だ! 『サイコキネシス』!」
「甘いな、小僧。バンギラスは『いわなだれ』ライボルトは『かみなり』だ!」
グランはあの現場に居合わせたワケではない。「いわなだれ」と「かみなり」の合体技。電気を帯びた岩だ。
グラードンは「まもる」を使っているのでダメージは受けないが、フーディンは物理攻撃に弱いという弱点を突かれている。
「フーディン! まだいけるか!?」
『流石に岩と電気の同時攻撃はキツイが… まずは指示通りライボルトを倒す、と言っている』
フーディンの言いたい事をグラードンが通訳した。
「サイコキネシス」でライボルトを攻撃。
「よし! いい感じだ!」
グランは思わず声をあげた。ライボルトを一撃で倒したのだ。これで合成技は使えない。
「ライボルト、戦闘不能!」
――よし、このペースで一気に倒してやる!

「フン。使えない奴だ」
グレイは、倒れたライボルトをボールに戻す事はしなかった。これでは、ポケモンを道具としか見ていない状態である。
「オイ、ボールに戻してやるくらいしたらどうなんだよ!」
「何故オレがそんな事をする。使えんモノは必要無いのだ」
「お前は…お前はポケモントレーナー失格だ!」
「オレはトレーナーではない。あくまでも『トレーナーハンター』なのだ」
グレイは当たり前の事のような口調で言った。
「ふ…ふざけるなぁーっ!」
「よそ見をしていていいのか? お前のグラードンとフーディン、既に倒れてるぜ」
「な、なにっ!?」
言われて、まさかと思って見ると、確かに倒れていた。あーだこーだ言い合っている間に、卑劣にもグレイはグランのポケモンに攻撃していたのだ。
「グラードン、フーディン、戦闘不能!」
「グラードン! フーディン!」
『ぐ… 油断すんじゃねーコンニャロー』
「これがお前の弱点。カッとなると周りが見えなくなる」
確かにその通りである。グランは、どうやって自分の弱点を知ったのか気になった。
「さて、次はアブソルだ」
「アブルッ!」
「アブソル…攻撃力が高いポケモンか…」
相手のポケモンは、残り3体。対するグランは残り2体。
残された道は、この2匹で挽回するしかないのだ。
――ポケモンを道具としか見ない奴なんかに、ボクは負けるワケにはいかない!
そう言って残りの2体を同時に出そうとした時、後ろから声があがった。
「グラン! テメ、負けたりしたら承知しねーぞ!」
「あなたを倒すのはこの私よ! こんな所で負けてていいの!?」
「グランさん! あなたはポケモンを道具としか見ない人なんかに負ける人じゃない!」
振り向くと、グロード、フィーユ、ハルカが立っていた。
「みんな…」
「オイ、ニセモノ! もうお前は警察さん達に包囲されてんぞ! 捕まる前に、大人しくグランに倒されろ!」
グロードが怒鳴った。
「フン。こんな所で捕まってたまるか。アブソル! 邪魔者に『シャドーボール』をお見舞いしてやれ」
アブソルは、グランの後ろにいるグロード達にシャドーボールを放った。3連発。
「よけるぞ! フィーユ! ハルカ!」
グロードが叫び、3人は、シャドーボールをしっかり避ける。
「悪いがオレ達は戻るつもりはない。だけど、戦いを邪魔する事だってしない。グランにあって、お前に無いモノを見せに来ただけだ」

「さて、仲間も応援に来てくれた事だし、そろそろいこうかな。…全開モードで」
グランは、ボールを2つ手にとる。
「ボクはポケモンを信じる! 行け! バシャーモとキュウコン!」
投げながらも、グランは少し不安になった。
キュウコンは自分のポケモンではない。「おや」でない自分の言う事を聞いてくれるのだろうか。
そしてもう1つ心配なのが、またバシャーモにちょっかいを出さないかどうかだ。
グランが考えていた通り、普段は登場時に叫ぶバシャーモだが、今回はちょっと性格的に苦手なキュウコンと共に戦うのだから、心配になっていた。
バシャーモは、恐る恐る横目でキュウコンを見た。しかし、バシャーモに気付いてはいるものの、何もしてこない。
やはり、まずあの敵を倒さなければいけないと感じているのだろう。
2匹の会話はこんな会話だった。

「…珍しいな。飛びつかないとは」
「まずは私のご主人様を傷つけたあの人を倒すのが先です。でも、アブソルは何とかなるにしても、バンギラスは相性的に…」
「…バンギラスはオレが何とかする。チャンスは必ず訪れる。グランの指示通りに動こう。いいな?」
「はい! 分かりました!」

「アブソル! バシャーモに『すてみタックル』だ」
「させるか! キュウコン、『オーバーヒート』で迎え撃て!」
キュウコンは軽く頷き、炎を体にまといながらアブソルに突っ込む。
2匹は闘技場中央でぶつかり合い、激しく押し合っている。
『おっと! 『オーバーヒート』と『すてみタックル』のぶつかり合いだぁーっ!』
「フン。オレのアブソルの攻撃力は並大抵のモノではないぞ」
「こっちだって! 晴れ状態で技の威力が上がっているんだ!」

押し合いは、そのまま続き、このままでは決着が付かない。
「このままじゃ、なかなか決着が付かない… 何か打開策は…」
グランは久々にポケモン図鑑を取り出し、戦闘中のポケモンの状態を調べ始める。
「キュウコン… 持ち物は『しろいハーブ』で、特性は『もらいび』か…」
グランは、それを見て、
「そうだ! バシャーモ! キュウコンに『かえんほうしゃ』だ!」
グランの指示を聞き、驚いたのはバシャーモ。『何故味方を攻撃する』と言いたそうだ。
その様子を感じ取ったグランは、
「いいから! 攻撃すれば分かる!」
バシャーモは、指示通りにキュウコンに攻撃する。
『おっと、ここでグラン選手のバシャーモ、味方のキュウコンに攻撃した! どういうつもりなのか!?」
「これでキュウコンの炎技の威力がさらにアップだ! キュウコン、いっけぇーっ! アブソルを押し返せ!」
「コォ――ン!」

ズガッ! ズザザッ!

押し返されたアブソルは、立ち上がろうとするが、すぐに倒れる。
「アブソル、戦闘不能!」
「何をやっている!」
そしてグレイは、例のごとくポケモンをボールに戻さない。
「だーかーらー! ボールに戻してやれって言ってるだろ! 聞こえないのかよ!?」
グレイは、聞こえないフリをしている。
「次! オニドリル!」
「キュウコン! 『しろいハーブ』で下がった能力を戻して、もう一発『オーバーヒート』だ!」
グランは、オニドリルを指差して言った。
キュウコンはまた頷き、今度はオニドリルに一撃!
オニドリルは出て来て早々、虚しく倒れる。
「これで流れは、完全にボクの方に傾いたな」
「どうかな。オレには、完璧に育て上げたバンギラスが居る」
「完璧なポケモンなんていない。負け惜しみは見苦しいぞ」
「フン。…見せてやる。オレ流の戦いを!」

     To Be Continued…
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リクト #25☆2004.11/08(月)11:36
第七十八話    仲間の思いを胸に 後編

「オレのバンギラスは、今まで使ったポケモン達とは比べ物にならない程強い」
「ほー。じゃあ見せてもらおーじゃん。その実力」
「バンギラス! バシャーモに『いわなだれ』だ」
「無駄だね! バシャーモ! 回避だ!」
グランが指示する。
「…と見せかけてキュウコンに攻撃!」
「しまった! 先走った!」
無数の岩から成る『いわなだれ』がキュウコンを直撃…しなかった。

注・以下セリフはポケモン語。

キュウコンは攻撃を受けると思い、固く目を閉じていた。
しかし、何も衝撃を感じない。自分に向かってきたハズなのに。
恐る恐る目を開ける。
「怪我は…無いか…」
「!」
目を開けたキュウコンの目の前に飛び込んできたのは、バシャーモ。
『でんこうせっか』で移動し、技の直撃を受けないようにキュウコンを守っていたのだ。
「私は大丈夫です。でも…!」
「オレの事は気にするな… このくらい何とも無い。早く相手に反撃を!」
「あ、ハイ!」
そして、盾になっていたバシャーモの隣に出ようとした時…
「!?」
キュウコンが気付いた時、一発の技が飛び込んできた。『はかいこうせん』だった。
不意を突かれ、キュウコンは遠くまで吹き飛ばされた。
「なっ… キュウコンッ!」
バシャーモは、血の気が引くのを感じた。
そして、すっと立ち上がり、横目で鋭くバンギラスを睨みつけた。

注・以上セリフはポケモン語。

グランは、この光景に唖然としていた。
「ひ、卑怯だぞ! 出かけを狙うなんて!」
「隙を狙っただけだ。何が悪い」
グレイは、そんな事知った事ではないといった口調だ。
「キュウコン、戦闘不能!」

グランは、後ろを向いたかと思うと、空のボールをフィーユに投げてよこした。
「…キュウコンをボールに戻してやってくれ」
「あ、うん…」
そしてグランは、自分のリュックからゴーグルを出して付け、そして、2年前にフィーユから贈られた帽子を被る。
「…バシャーモ。ボクはグレイの様な奴を許さない。ポケモンを道具の様に扱う奴を!」
すると、頭の中に声が聞こえた。
『オレもアイツは許せねえ。無防備なポケモンに攻撃を浴びせる事など!』
――えっ…!? これは、バシャーモの思考…?
グランはバシャーモの方を見た。バシャーモは目だけ振り向き、頷く。
「バンギラス! もう一発『はかいこうせん』だ!」
技が放たれる。何もしなければ、このまま敗北は確実である。
『はかいこうせん』はバシャーモに直撃…したが、ダメージは無い。
炎のオーラが、攻撃を防いでいた。
しかし、バシャーモも先程の『いわなだれ』のダメージは大きい。『こらえる』で何とか踏みとどまったのだ。
「ちっ。だが、もうお前にはオレのバンギラスに勝つ術は残されていない!」
「…どうかな? …バシャーモ! お前の全開パワーを見せてやれ!」
彼のバシャーモが最も得意とする戦法が発動する。
「カムラのみ」を使用しての『きしかいせい』だ。
しかし、今回のは一段と違う。炎をまとった状態だ。
「倒れていった仲間達の思いをこの一撃に全て乗せる! いっけぇーっ! バシャーモ! 『きしかいせい』だ!」
指示を受け、技を発動させる。その時、バシャーモの姿が消えた。
「なっ… どこだ! どこに消えた!」
グレイとバンギラスが辺りを見回す。
「ここだぁーっ!」
グランが上空を指差す。猛スピードでバンギラスに向かって落ちてくる。
「う、上だとっ!? バカなっ!」

ズガシャァ――ン!

『きしかいせい』を見事に決め、バシャーモはカッコよく着地した。
バンギラスは、効果抜群4倍ダメージをしっかり急所に受け、地に倒れ伏した。
「バンギラス、戦闘不能!」
『決まったぁーっ! この激しい戦いを制し、優勝の座を勝ち取ったのは、グラン選手だぁーっ!」
「くっ、覚えてろ! いつか復讐してや…」
グレイはそこまで言って、自分の正面に立っている人物達を見た。
「グレイ。トレーナー襲撃容疑で逮捕する!」

ガチャッ!

「くっ… 今日はツイてねぇ… 覚えてろ、このガキ!」
「さっさと歩け! 容疑者!」
警察官の1人が、グレイの尻を蹴飛ばした。
「とりあえずこれで、一件落着かな」
闘技場の真ん中で、グランが呟いた。

「くそー。それにしても納得いかない。優勝賞品期待してたのに、優勝カップと賞状だけかよ…」
表彰式を終え、控え室に戻ったグランは文句を言っていた。
「いいんじゃない? 記念になるんだし」
フィーユが言った。
「フィーユの言う通りだ。こんなモノ、滅多やたらに貰えるモンじゃないぜ」
グロードも言う。
「でも、試合の最後の方で帽子とゴーグルしてたけど、何か意味あるの?」
ハルカが聞いた。
「ああ、アレか。集中したい時に使うんだけどな」
「そういえばバシャーモ、あれほどキュウコン避けてたのに、今日はしっかり守ってたよな。やっぱりトレーナーに似るモノなんだな」
グロードがしみじみと言った。
「それは無い。似てない」
グランがキッパリと言った。
「似てるわよ。だって、いつも私の事守ってくれてるじゃない」
フィーユが反論する。
「似てない」
「似てるよ」
「似てない!」
「似てる!」
「ほらほら、ケンカするなよ、お2人さん」
ウェルがたしなめた。
「ま、いいや。とにかく長居は無用だから、早く出ようぜ」
グロードが言った。

「今まで、ここで激しい戦いが行われていたなんて、想像も付かないな…」
グランが1人でタワーを見上げていた。他の者達は、先に選手宿舎に戻っている。
すると、後ろから肩を叩かれた。
「まだ、残ってたんだ…」
「フィーユか…」
「そういえば、ハルカが言ってたよ。『グランさん、私の気持ちに気付いてないのかな…』って」
「気持ちかー。最近になって、やっとソレ系の気持ちが分かる様になってきたかな」
「遅いくらいだよ… 私なんて、10歳くらいで見抜ける様になったのよ?」
「早すぎる。ボクにしてはそれは早すぎる」
グランが言った。
「ねえ… これからもずっと…一緒にいたいよね」
「そう…だな。出来る事なら、ボクもそれを望みたい」
「…やっぱり少しずつ分かってきたわね。グラン」
「まだまだだよ。ポケモンも、恋も」
グランはフィーユを見つめて言った。
「どっちにしても、これからもっと精進したいな」
「私だって、まだあなたに勝った事無いから、精進しなきゃね…」
「まだ一度しか戦った事なかったよな。2年前だったか…」
グランはその時の様子を思い出しながら言った。
「まぁ、お互い頑張ろう」
グランはフィーユの肩に手を置いて言った。
「そうね。他の人達に遅れは取れないものね」
2人は暫く見つめ合い、そして声をあげて笑い始めた。
新たなる決意を胸に。

      思い出の冒険の旅コロシアム編 完
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ぴくの〜ほかんこ