極道用語の基礎知識

 か行

稼業 【かぎょう】
 テキヤの商売やなりわい。
稼業人 【かぎょうにん】
 テキヤのこと。
ガサ 【がさ】
 捜査すること意味する警察隠語。「さがす」→「さが」→「がさ」と転じたもの。
ガサ入れ 【がさいれ】
 家宅捜索のこと。
回状 【かいじょう】
 回し文。昔は本当に回状を持った人間が各地を回ったが、明治以降は郵便で済まされるようになった。
カスリ 【かすり】
 上前のこと。上納金。
カッパ 【かっぱ】
 刑務所内の男色関係における男役。水辺に棲むと言われる妖怪・河童は人間を溺れさせ、尻子玉(肛門内にあると想像された架空の臓器)を抜き取るとされていた。男色の気がある囚人は河童のように人の尻を付け狙うことからカッパと呼ばれるようになった。
カバチを垂れる 【かばちをたれる】
 文句や屁理屈をいうこと。
 漫画『カバチタレ』や、矢沢永吉のアルバム『KAVACH』もこの語に由来する。
「おうおう、どうとでも云いないや、いよいよ動きがつかんけん電話でカバチたれるしかありゃせんのじゃろが、おう、クソ馬鹿たれ」 広能昌三
ガラス割り 【がらすわり】
 やくざの抗争におけるポピュラーな攻撃方法で、俗に“カチコミ”と称される。殺傷を目的とはせず、抗争相手の事務所の玄関に入っている代紋入りのガラスを割りに行く行為を指す。箱乗りした車から拳銃を発砲するのがポピュラー。
 抗争調停機関は発達した関東では、揉め事が起こったらとりあえずガラス割りで時間を稼ぐ。そのうちに顔役が抗争を調停しに来るするので、攻撃したことでこちらの面子も立つし、相手も人員的被害は受けていないので調停を飲む。ガラス割りをしたボンクラは男が上がるし、警察は自主してもらえるので捜査の手間が省け、八方丸く収まる。
 森田幸吉が「広島の喧嘩はガラスの割りあいじゃない。パン、と拳銃の音がしたら誰かが死んじょる」と述べたように、政治的駆け引きではなく本気で相手事務所に銃弾を打ち込む広島やくざは周囲に恐れられた。
 近年は銃刀法違反に加え、平成7年に親切された発射罪により、たとえ殺傷を目的としていなくとも量刑が重くなったことからあまり流行らなくなった。
枯れ木も山の賑わい 【かれきもやまのにぎわい】
 つまらないものでも、ないよりはましであるという意味。
「枯れ木も山のにぎわいじゃのぅ、このままじゃ枯れ木に山が食い潰されるわい」武田明
カリエス 【かりえす】
 脊椎カリエスのこと。結核菌が脊椎に転移し、骨を溶かしさまざまな障害や激痛を引き起こす。正岡子規がこの病気のために寝たきりとなったことが有名。
「わしゃカリエスで腰が立てんのじゃ、院長に訊いてみぃ」山守義雄
顔に電気がつく 【かおにでんきがつく】
 顔が赤くなること。

 き行

キュウチュウねこをかむ 【きゅうちゅうねこをかむ】
 「窮鼠猫をも噛む」と同義。
兄弟 【きょうだい】
 やくざ社会における擬制的血縁関係の一種。同じ組の者同士は紐帯を深めるためたり上下関係を明確にするため、他の組織の者とは友誼や組織の格や個人的な損得勘定によって関係を結ぶ。兄弟といっても兄貴分と弟分には格の差が生じることがあり、「五分の兄弟(ごぶのきょうだい)」「五厘下りの兄弟(ごりんくだりのきょうだい)」「四分六の兄弟(しぶろくのきょうだい)」「七三の兄弟(しちさんのきょうだい)」「二分八の兄弟(にぶはちのきょうだい)」などの種類に分かれ、後のものほどその格差が大きい。
 作中で「兄貴!」と呼びかけていても兄弟と呼ばれる間柄にはいくつかの種類があり、下の例に示すように1以外は厳密には兄弟ではない。
(1)兄弟盃を交わした間柄。本来の意味ではこの関係だけが兄弟である。
  ex.若杉寛と広能昌三、坂井鉄也と上田透、新開宇市と有田俊雄(以上仁義なき戦い)、打本昇と広能昌三・松永弘・武田明・江田省一(代理戦争)、大友勝利と市岡輝吉(完結篇)
(2)ノレン兄弟(暖簾兄弟。ノレン分けの兄弟)。同じ親分から盃を下ろされた子分同士はそれぞれが兄弟ということになる。直接兄弟盃を交わしたわけではないので、お互いの仲は険悪なこともある。
  ex.山守組結成時の坂井鉄也・広能昌三・新開宇市・神原精一・矢野修司・槇原政吉・山方新一
(3)廻り兄弟(まわりきょうだい)。自分の兄弟の兄弟は自分にとっても兄弟だ、という発想。AとBが兄弟かつBとCが兄弟の場合、AはCにとっても兄弟ということになる。
  ex.大松義寛と荒谷政之・加納良三(最後の博徒)
(4)年長者や有力者への敬称。
  ex.倉元猛が西条勝治に対して 【代理戦争】
侠客 【きょうかく】
 任侠に溢れた男の中の男のこと。任侠とは強気を挫き弱気を助ける精神のため別にやくざである必要はなく、不文律の連帯組織を持っている職業──テキヤ・町火消し・鳶・漁師・沖仲仕・車夫・鉱夫・石工・杜氏・女衒・芸者など──も侠客である。
侠気 【きょうき】
 義侠心、正義感といった任侠の精神のこと。おとこぎ。
斬り込み 【きりこみ】
 やくざ同士の首の取り合いのこと。間違い、出入り、殴り込みとは異なり、相手の殺傷を目的としている。明治以前のやくざの世界では抗争が起こっても相手を殺害することが稀だったためにこのような言葉が使われていた。
金筋 【きんすじ】
 筋金入りの極道ということ。

 く行

グレン隊 【ぐれんたい】
 関東大震災以降に出現し、戦後に威勢を誇ったテキヤでも博徒でもない不良集団。戦後は復員兵が闇市の支配権や復興後の縄張りを巡り、全国各地で博徒・テキヤ・三国人と抗争を繰り広げた。終戦後の混乱が収まると組織を持たない愚連隊は徐々に既存のやくざ社会へと吸収され消えていったが、本来のやくざとは筋目の異なる愚連隊を吸収したことから博徒・テキヤの暴力団化が始まったと言える。
 グレン隊は既存の親分から盃を下ろされていないためやくざではない。そのため愚連隊のままで終わった安藤昇や安部譲二は警視庁の前科者リストではやくざとして扱われてはいない。同様に万年東一は大日本一誠会を組織したから右翼である。漢字で「愚連隊」と当てるのは「ぐれる」から来ているとも、「当時何にでも“連隊”をつけるのが流行したから」ともいわれている。
 やくざのように掟や組織に縛られない自由なアウトローとして愚連隊は今でも人気があり、安藤昇、万年東一、加納貢、花形敬などは伝説的存在としてしばしば創作物の題材になっている。
 映画『仁義なき戦い』の登場人物では、打本昇、早川英男などの打本組関係者が愚連隊出身で、打本が村岡親分の舎弟になった際に正式なやくざになっている。
組 【くみ】
 やくざ組織のもっとも普遍的な名称。慣習的に初代の親分の名前を冠することが多い。例:山守組─山守義雄組長、広能組─初代組長・広能昌三
 実際に存在する例では、戦後日本最大のやくざ組織である山口組が初代組長である山口春吉の名前からつけられている。
 昔からやくざ社会は箔付けのために武家組織から名称を借りることが多いが、この“組”という名称も元々は、江戸幕府の百人組、伊賀組、槍組、鉄砲組、御先手組、やくざの元祖とも言える旗本奴の白柄組、六法組、神祇組などに見られるような武家の組織単位である“組”に由来している。
クロスオーバー 【くろすおーばー】
 映画・小説・アニメ・ゲームなどの分野において、作品間の壁を越えて登場人物や設定が他の作品に登場すること。
『極道VSまむし』(1974年)─『まむしの兄弟シリーズ』のまむしの兄弟ことゴロ政と勝次が、『極道』シリーズの島村清吉が率いる島村組の地元・大阪釜ヶ崎へとやってくる
『極道VS不良番長』(1974年)─釜ヶ崎を後にして岐阜で商売に励む島村清吉と、清吉一家と地元暴力団の対立を金儲けに利用しようとする『不良番長』シリーズ・カポネ団の激突
『直撃地獄拳 大逆転』(1974年)─網走刑務所へと送られた主人公たちの前に、『網走番外地』のレギュラーキャラクター・八人殺しの鬼寅親分が現れる
『堕靡泥の星 美少女狩り』(1979年)─ヒッチハイクを『トラック野郎』シリーズの星桃次郎が主人公の父親をヒッチハイクで乗せる
『地獄』(1999年)─『ポルノ時代劇 亡八武士道』(1973年)で死亡し地獄に堕ちた明日死能が主人公を助け獄卒を斬る

 け行

撃針 【げきしん】
 銃の撃発装置の部品。雷管を打撃し、発射薬を発火させる。
「撃針がイカレとるげじゃけん、みとってくれ」 広能昌三
ケツをかく 【けつをかく】
 そそのかすこと。
「おどりゃ武田にけつかかれてよ跡目に欲あるけんそれでもよかろうがよ。こっちはそう単純にはいかんのじゃ」 松永弘
ケツを割る 【けつをわる】
 逃亡すること。
原爆 【げんばく】
 原子爆弾。ここでは1945年8月6日にアメリカ合衆国が広島市へ投下した原爆のこと。東京大空襲の八倍のエネルギーにより市外を焼き払い、衝撃波や放射能、火災によりの十数万人におよぶ被害者を出した。二次被爆、胎内被爆より戦後も多くの人々が苦しめられた。
 広島の大親分であった渡辺長次郎が原爆で亡くなったことがその後の仁義なき戦いの原因ともなった。また二代目共政会会長・服部武の持病である貧血症は被爆のためであるという説もある。
原爆スラム 【げんばくすらむ】
 広島市基町一体に存在した木造密集住宅地のこと。原爆により家財を失った人々がバラック小屋を建てて住み始め、引揚者などが流れ込みスラム化した。被爆者、低所得者、朝鮮人労働者が多く住んだことから社会問題となった。
原爆ドーム 【げんばくどーむ】
 広島原爆の象徴とされる建造物。旧名・広島県物産陳列館。1945年8月6日の原爆投下の際、上空が爆発地点だったため衝撃波が窓から抜けて建物が残存した。1996年には世界遺産 【文化遺産】に登録された。
 仁義なき戦いではオープニングやエンディングで広島の象徴として登場する。

 こ行

後見人 【こうけんにん】
 世間一般での後見人と同じ。
呉越同舟 【ごえつどうしゅう】
 仲の悪い者同士が一緒に行動すること。出典は「孫子」九地篇。
「やめい、やめい。呉越同舟じゃ」 武田明
極道 【ごくどう】
 暴力団と呼ばれるのを嫌ったやくざが生み出した自称。 道 【博徒は任侠道、テキヤは神農道】を極めるという意味で、「極道息子」のような否定的ニュアンスは含まれていない。
「ま、お前等同士で決めい。いうとくがよ、子が親に金をだししぶる極道がどこにおるんなら」 山守義雄
「わし、マーケットでこみおうたやつ等、らみんなブチ殺しちゃろう思うちょりますけん、極道にさしてつかぁさい、たのんます」 山中正治
ここら
 このあたり、この辺。
「こんなもここらで男にならにゃぁ、もう舞台は回って来んど」 川田英光
木っ葉喰らわす 【こっぱくらわす】
 こてんぱてんにするという意味。
ゴンゾウ 【ごんぞう】
 沖仲仕の蔑称。明治以降、港湾・土木事業の発展とともに、沖仲仕や土方の勢力が盛んになりった。中には勝手に賭博を開帳したり、賭場を荒らすなどして既存の博徒と衝突することが多かったことから博徒が喧嘩の「ごろ」から嘲ってつけた呼び名。
こんな
 あなた、おまえ、の意味。
「こんなと飲んだら死んだもんにすまんけえのぉ」 広能昌三