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「ん…」

ミスラに意識の断絶はなかった。

無重力状態の番犬の中で、モナと騎士の少女をかばい、キルソロを胸でうけて胸骨が潰れる。それでも着地の衝撃、転がるあいだ、止まった瞬間、全部その眼で捉えていた。

「モナ、キル…無事か?」
「ん…ぐぅ…ふがふが」
「きゅう…」

呼吸も脈拍も乱れがない、気を失っているだけだろうか。むしろ急なのは、呪いが進行している騎士の少女。ぬこぬこしているあいだに、毒々しい悪魔の血管が全身を覆ってしまっている。

「ああくそ…こうなったら…」

四の五のいってはいられない。萎えることのない剛物を少女に向け、一心不乱にしごきあげる。

びゅく、びゅる……。
びゅー、びゅくびゅく……。
びゅ、びゅく…。

またたく間に白濁に溶け始める少女。しかしいくらか顔色はよくなったものの、依然として苦悶の表情が残る。

「そうか…鎧の下…」

重厚な殻を剥ぎとると、中からでてきたのは意外にも細い身体のラインだった。
感心している間もない。呪いの血管が、丁度岩をどけられた日陰の虫たちのように跳ね回り暴れまわる。

「ああ…ふ、服の下にも…、いやいやさすがに…ああでもこんなとこにも…うあああ…違うんだ違うんだぁぁぁ…」

仕方がないので。

仕方がないので。



もにゅん。



もにゅん、もにゅもぷ…にゅぷねぷ…にゅぷにゅぷ…

服の上からもみしだくことになったしだいである。

「ん…あっ」

甘い心臓を搾ったような声を聞き、ミスラの頭はいつものようにおかしくなる。おかしいおかしい、少女の苦悶は続いている。まだ呪いが?どこにどこに?塗れるところは塗ったのに…ぬるぬるぬるぬる…少女は悶える…こうなったらもう…ずるずるずるずる…

「うむむ…いかんのコレは…」
「…も……もな……?」
「甘く見ておった…根が心の臓まで…これでは…」
「…ぅぅ…」
「直接注ぐしかないのう…ミスラ?どうしたのじゃミスラ…ほれ」

いつもの発作。もう聞いてなかった。


――――――。

精液まみれの、眠り込んだ少女。半裸と半裸で。あらわになった肌を、ぬるぬるのまま抱きかかえる。摩擦がないから、両腕の中からするりと抜けようとする肢体。つるつると光るおでこ。黒髪のはえぎわは、こびりついた精液が少しだけ乾きはじめている。
ミスラは浮力の大きい夢の海でぷかぷかとただよっている。こんこんと湧き上がる変態性欲の泉に溺れている。少女たちもそうしているように見える。飲んでも飲んでもお腹にたまらない愛液。初めて空気に触れた少女のソコは、大きく深海からため息を吐く。
ミスラは3人の少女を一つの塊にする。肌と瞳と淡いピンク、あとは髪と陰毛の色だけが残り、そのどれもが、白く濁った精液によって輪郭を不確かにしている。ミスラのちんこは気持ちよくはまり込む場所を探し、一時休み、休んでは精を吐きだす。
モナの果肉を指で開く。くちびるを押し当てる。くちびるの裏のを押し当てる。柔らかい毛が鼻にこすれる。その毛の根元を舌でなぶる。味の変わる場所がある。水分を失ってベタベタするところがある。そんなところはすぐに、だ液と愛液の津波の下に沈んでなくなる。
キルソロのぬるぬるする肛門に鼻の頭を押付ける。すぐにうわくちびるが会陰に触れ、したくちびるがシワの数を数える。舌の進入を拒む肉。ミスラの尿道は、モナメテオのノドの奥で破裂する。嗚咽と、幸福を搾りだしたような涙声。
名前も知らない少女の膣は、丁度ノドの奥の肉に似て、生まれたばかりの肉のように、抵抗する力もない弾力でふるふるとしがみつく。
ぬるま湯が、プリンのように固まったその肉の、奥の奥にたどり着くと、また一つめくれあがった肉が亀頭の先端ふさぎ、ふるえながら尿道のヘリを刺激する。何度も何度も射精し、達するうちにもやが晴れ、霧のむこうの少女は、眼を開いてミスラを見ていた。

――――――。

じゅぱん、じゅぱん、じゅぱん、じゅぷ…

「は!?…オレは何を…」

ちゅぶぶ…ぢゅ…ちゅぷん、ちゅぷ…じゅぷ。

「……ふぁ…ぇ?ぅぁ…なに…いや…」
「ち…ちがうんだこれはこれはこれは…」
「ぁ…やだ…なに、なんだ…お前は…痛っぁ!!」
「話せば分かる…!まず話を…」
「こ…ぁ、痛ッ…動くな…痛い!!」
「ああ…ごめんごめんごめん…」

びゅく、…びゅる

「ぁぅ、…や、ぁ…ひぁ…」
「あ…」
「いや…」
「その…」
「いやぁぁぁぁあああ!!!」

吹き飛ばされたミスラは狭い戦車の中で乱反射し、奇跡的にも意識を失った。まぁ、全部ミスラが悪い。


・・・・・・。


「気がついたかえミスラ?」
「…ん…ここは…」

あたりは暗い岩肌。黒でなく、わずかに青い。その青みで、人影が確認できる程度の明かりがもたらされている。
辺りにはモナ、その横ですやすや寝息をたてるキルソロ。

「ふむ、…ずいぶんと入り組んだところに落ちたようじゃぞ」
「あの子は…騎士の…」
「ふぉふぉ、肌を洗っておるわ。…お主が念入りに練りこんだからのう。ホレ、ワシもまだにおうわい」
「いやあれは…」

言い訳の仕様もない。あの形の良いおっぱいを思いだすと、コリもせず血流が流れ込む。いい加減ウンザリするほど健康な身体。

「あやまってこないと…」
「事情は説明してある。放っておくのが一番じゃぞ」
「でもなぁ…」
「どうせ嫌でもあの娘と睦みあわなければならなくなるのじゃ」
「…どういうこと?」
「あれは特殊じゃて。あの呪いは…そうじゃの、例えば目当ての宿主に食べられるのを待っておる寄生虫の様なものじゃ。念願かなって、今一番のりにのっておる。」
「消せなかったってこと…クリスの力でも」
「ふむ…やっかいじゃのう…やっかいじゃ。お主のだけでも手一杯というに、黒の心臓…魔族…パーティーはバラバラ…宝剣は探さねばならぬ…」
「そうだ魔族…!あれ?モナにいったっけ…」
「ふぉふぉ、キルソロに聞いたぞえ、…ほんにやっかいじゃのう…」

老練の少女は深々とため息をつく。その息の向こうに、騎士の少女が顔をだした。鎧はない、濡れた髪でミスラに気づき、ものすごい眼で睨みつける。

「ふぉふぉ、火でも起こそうかの、まずはメシじゃ。おおいヨフネや」

暗がりで何かが動く。シラカワ・ヨフネ、モグラの中でずーっと寝てた女の子。彼女も上層の崩落に巻き込まれ、番犬の近くに落下したのだった。

「あらーミスラはん、おはようさん」

夢から抜けだしてきたような少女は、ふらふらしながらミスラの前を通り過ぎる。すべるように、体重を感じさせないその足は、いつだって素足。浮世離れとはまさしく彼女のためにある言葉だ。

「ゆうげの用意をしたいのじゃて」
「はいな」

少女が白の襦袢をヒラリと振ると、またたく間に新鮮な魚貝、野菜がボトボトと零れ落ちるのであった。
彼女こそは歩く収納ダンス。夢に物質を保存し、取りだせる力。その夢の空間は睡眠時間分しか維持できない、それゆえ、彼女の睡眠は義務でもあるのだ。



調理のにおいにつられて、キルソロももぞもぞと起きだした。相変わらずミスラにつっかかり、ぶすぶすと文句をたれる。それでも、真向かいの騎士の少女に比べたらやさしいものだ。結局夕食の間、騎士の顔から眉間のしわがとれることはなかったのだから。

「ミスラさん…」
「ん?」
「ついてます…ごはん」
「ん、ああ…」
「もう…!!しっかりしてください…まったく…!」

キルソロはゴチャゴチャいいながら、ミスラのほっぺたについたゴハン粒を指でとると、虫でも潰したかのように汚がる。
改めてみるにこの小娘は、イライラしながらミスラと腕を組んで離さなかったり、野菜も食べてくださいといいながらつねったり、いちいち難解。


ちなみに騎士の名前はマルキアデス、それも、モナメテオ伝いに聞いた話。


・・・・・・。


真夜中。遺跡探索は4日目にはいった。

「急ごうかの。休憩は交代じゃ。お主もくるじゃろう?」

モナメテオがもっていた湯飲みをひっくり返すと、アツアツのお茶が湯気を上げて雲になった。この雲、なんと乗降可能である。

「いや…私はいい」
「うむ?なぜじゃ?」
「友を…遺跡の奥に残してきている。世話になったな」
「友…他にも仲間がおるのか」

マルキアデスは黒々と悪魔を模した兜を被ると、そのまま立ち去ろうとする。人を寄せつけぬ剣のようなオーラ。それでもまぁ、黙ってみてるわけにもいかないミスラは…

「ま…待てよ…」

と少女の肩に触れる。

「私に触るな!!」

一閃、ミスラの手から消えた少女は、下段からきらめく剣閃を残し、ミスラの眉間に切っ先を押付ける。丁度自分の苛立ちを他人にも刻みつけるように。

「恥を知れケダモノ…!本来ならとっくに切り捨てているところだ…」
「うぐ…」

現在絶好調のミスラをもってしても、その太刀筋を追いかける事ができなかった。体躯に比べて大振りの剣を、身体全体で振り切ってなおその鋭さ。

まっさきに怒りをあらわにしたのはキルソロだったが、これはヨフネがキャッチ。



「じゃがのうお主…お主の身体は浄化しきっておらぬのじゃぞ」
「これ以上汚れることがあるか!!」

切っ先が、また少しめりこむ。

「こんなゲスに身体を許すことは二度とない…例えキサマが私の死体にまたがっても…朽ちゆく身体で貴様の首を締めてやる…!!」

兜の悪魔に、そのまま睨まれているようにも思う。意思や殺意で人をどうこうできるなら、とっくに切り刻まれていることだろう。実際ミスラは随分ヘコんだ。

「お主がおもっとる以上に長くはもたんぞその身体」
「ならばこそ……こんなところで時間を潰しているヒマはない」

その言葉が終わるか終わらないかで、少女は剣を納めて歩きだしてしまった。

「お…追いかけなきゃ」
「まていミスラ」
「だって…」
「時間がないのはわしらとて同じこと、お主自分が爆発するという自覚がないのか自覚が」
「だからってほっとけないだろ…いくのはオレ一人でいい、モナは皆を探してくれれば…すぐに追いつくよ、絶対…」
「ミスラよ…」

ピシャリ、と張り手。

普段はもふもふと、ひねもすまぶたを閉じて、寝てるのか起きてるのかよくわからない彼女の目が開いている。細胞の継ぎ目にまで入り込まんとするその眼。その力。

「も…な…?」
「三貴神というのはのミスラ…」

ミスラはヒザから崩れる。世界がたわむ。

「巨大な自然現象が集約したようなものじゃ…嵐…落雷…地震…人間など地の底でもがくアリに過ぎん…」

頭痛、吐き気、眩暈。世界がぐるぐるぐるぐる。止めてほしいのに止まらなくて、限度を知らないその力は、ミスラが許可をする前に胃液をぶちまける。世界は止まらない。ミスラを置いてグルグルグルグル。

「お主の全細胞に魔術的な負荷をかけた。そうじゃの、今のお主はアリ。せめて巣穴からでれたのなら、再び人の子になることもできようぞ」

げろげろげろげろ、嘔吐は止まらず、体中が発汗、熱をもち、毛穴が針で刺されたように痛い。表皮の全てがめくられてペンチでねじられるように電気が走り、ハリネズミがグルーミングでもしているのか、内臓にブツブツと穴が開いていく。

「生きるのじゃぞミスラ。まぁ巣穴からどのように這い上がるかはお主の自由じゃ」
「げっ…ぼ」

モナのお茶雲は見る間に高度を上げていく。残されたのはミスラ一人。血を吐き、重力のリンチにあいながら、彼がたどったのは騎士の足跡だった。


・・・・・・。


「どういういことですか!!」
「ふむ?どうしたキルソロよ。ミスラが心配かの?」
「ち…ちがいます!……あんなヤツ…。」
「ふぉふぉ…少しばかり試したというかの、レベルアップ用のバネをしこんでやったのじゃ、強力なヤツをの。あの状態でお使いをこなし、ワシ等に追いつく…これぐらいのできぬようではどの道全滅じゃのう。じゃができれば…」
「もういいです!ここで降ります!お世話になりました!!」
「ヨフネや」
「はいな」
「うにゃ!や、離して!!」

「まぁ聞くのじゃキルソロ。ワシとてやらずにすめばやりとうないこと…じゃが今はやれることは全てやるべき時…お主の上司が迫っておるからの」

「…じょ、上司なんかじゃ…あのお方は…」
「ふぉふぉ…いっそのこと三貴神も骨抜きにしてくれたら楽なんじゃがのう…お主みたいに」
「な…なにいってるんですか!…誰があんなレイプ魔…」

「なんやしらへんけど、こんなかいらしい子ぉに心配されるなんて、ミスラはんも幸せやねぇ」
「だ…だからちがう…!!ちがうちがうちがーう!!」



その頃ミスラはといえば、崖から転げ落ちて脾臓が潰れていた。モナの仕掛けた魔力の枷は、魔力で持って対抗しなければ即座に体中がひき潰される。痛みの激流。嫌でも、身体の中を走る力の流れを意識することになった。

「……。」

本来のミスラが持ち合わせた、水たまりのようなちっぽけな魔力。その横でみるみる太る、小惑星。

「で…でっけぇ…げほ」

ミスラの横を、てくてくと歩いていく影が2つあった。ちっこいミスラと、それを追いかけるクマのぬいぐるみ。クマは手にツルハシをもって、えいさとばかりにちびミスラの頭にぶち込む。

「あだだだ…」

気がつけば、方々で似たような虐殺が繰り返されている。ちびミスラをふんずけ、ゲシゲシ笑うクマ。するとどうか、小惑星から次々と人影が現れ、クマの前に立ちはだかる。ちょっとちっこいが、それはクリスの形をしていた。

「うう…クリス?」

ちびクリスはゲンコツでクマを殴る。クマは泣きながら逃げていく。戦況は一変した…かに見えたのだが。

「あだだだだだ!!!」

あろうことかちびクリスは、クマを追いかけながらちびミスラを踏みつぶしてしまった。よく見れば、あちこちで似たようなことが頻発している。かばった拍子に抱き潰し、クマと一緒にふきとばす、どのちびクリスも半泣きだった。

これではいかん。

ミスラは意識を集中し、ちびミスラに集合をかける。お前等情けなくないのか。

「クリスにばっか迷惑かけて…」

ちびミスラはぶーぶーと帰れコールを始めた。しらねーよバカめんどくせーよバカ…しゃしゃりでてくんなよできそこない…と、主もあきれ果てたその時である。
一人のちびが群れを割って前に進んだ。その手に、怪我をしたちびクリスを連れて…



オレはやるぞ



そのちびは笑われた。こづかれ、突き飛ばされ、泥にまみれた。

「このやろ…」

そこへクマの群れが襲い掛かる。ちびミスラの群れはパニックに陥り、ザクザクと叫び声をあげながら殺されていく。歯向かったのは、泥にまみれたちび一人。



オレがやってやる



ちびはまた笑われた。バカかアイツ、頭おかしいんじゃねぇの。

ちびはクマの群れに立ち向かう。案の定、ちびはリンチされ、ツルハシで内臓を穴だらけにされ、ボコボコにへこんだ頭蓋骨にうんこをされ、ぐずぐずになって死んだ。腹を抱えて笑うちびミスラの群れ、だがしかし



オレもだ!!



また一人、新たに現れたちびのミスラが躍りでた。そのちびは目玉を吹き飛ばされながらもクマの耳に噛み付く。戦場に衝撃が走る。小さいが、確かな波。



オレもやるぞ!!オレもだ!!



ちびミスラの群れから、次々と無謀な勇者達が飛びだした。
砕かれ、踏みつぶされ、かかとでぐりぐりされながら、しがみつき、もがいた。
ついにクマの一匹が倒れ、二匹目が倒れる、群れがひるむ。

「なんだ…」

勇者達の群れは勝どきをあげていた。めんどくさがっていた連中も、しぶしぶと武器をとる。クマは続々と援軍を送っている。だがもう、やられるだけのミスラではなった。

「なんとかなるもんだな…」

ミスラは、ゲロを吐きつつも立ち上がる。ちびクリスが笑いながら喜んでいる。はしゃぎすぎて、なにも履いてない果肉がチラッと見え、少しだけ元気がでた。


・・・・・・。


「なぜきた…キサマ…」
「手伝う…げほ…うげっぇぇ」

マルキアデスに追いつけたのは不思議という他ない。視界の端にちびクリスが見えた気がして、その影をとぼとぼ追いかけていたらマルキアデスの尻に抱きついてしまった。

「殺してやりたいところだが…なんですでに瀕死なんだお前…」
「げろ、げほ、…やらなきゃいけないことが山ほどあるんだ…だから早く済ませよう」
「寄るな気色悪い…うっ…」

かくいう彼女も死にかけだった。心臓を押さえて呻く。

「茶番だな…はは」
「げほ、げほ、…あれ?…もしかして初めて笑ったな」
「笑わずにいられるか…くはは、くだらん」
「はは…げほ」
「お前は…ははは、それ、ふは、…なにをおったててるんだ…はははは」
「ああ、いや…これは…げほ、調子が戻ってきたっていうか…」
「ふはははは…」
「ははは…」
「あはははは」
「はは…」
「あっははははは!!!」
「は…」

「何がおかしい」

「うぐ…」

少女が兜を脱ぐ。ゼンゼン笑ってない。

「そこから一歩でも動けば本当に殺す」
「やめとけよもう…お互い時間の無駄だそんなの…」
「黙れ、舌からえぐるぞ」
「あー…もう、わかった、わかったからコレで許してくれ…」

というとミスラ、両手をあげ、ひざを突き、かつてカリンザに教えてもらった、東方月国に伝わる最大限の謝意のポーズ、土下座のまま…



地面に頭を打ちつけて脳漿をぶちまいた。



これが治る。治ってしまう。丁度モナメテオのスパルタ教育のせいで、頭痛が止まらなくてイライラしていたのだ。ミスラには見える。ちっこいクリスがオタオタしながら肉片のパズルを組み立てていくところ。

まったくの余談だが、めんたまのままちびクリスのローブの中を覗いたら、股間を押さえながら舌をだしてベーっとやった。そのほほえましさはまぁいいとして…

「な…あ…?な…」

マルキアデスは腰が抜けてしまった。なんたるムチャ。なんたるバカ。

「お前…なんだそれは…?グールか…」
「うごえぐあご…えべれべ」
「いや…くるな…」
「えぼ…げほ、げほ、さぁいぐそぼう…げほげほ、後でいくらでも殺されてやるから…」
「や…」
「あ…」

マルキアデスの抜けた腰の下。広がる染み、黒い染み。

「あああ…よしわかった、いうな、なにもいうな、とりあえず先に進もう…な?な?」
「ふ…う…ぐぐぐ…」

人間、最初に決めておいた一線を現実が余裕ですり抜けると、その瞬間からいろんなものがどうでもよくなるものだ。
彼女は吹っ切れた。まともに考えようとする事がバカバカしくなった。バカバカしいからとりあえずこいつを受け入れよう。深く考えるのはひどく億劫。切れてしまえば少しは楽だ。
鎧の下にはいているハーフパンツの裾が、ペタペタとフトモモに張付くの鬱陶しいとか、尿のにおいが鎧の中からあがってくるとかもう知らない。

「ミルチアだ」
「へ?」
「マルキアデスは一族の名だ…」
「そっか…よろしくミルチア…」

ミスラの手にはゲロと脳漿、ミルチアの手にはしっこ。お相子だとばかりに交ぜ込み合い、がっつりと手を結んだ。


・・・・・・。


「今から数千年前の話だ…人間がまだ、そこそこの栄華に酔いしれていた時代。人間は分際もわきまえず好き勝手に想像力を膨らませた。あらゆる饗宴、拷問、呪詛…例えば政敵の子を、先祖代々呪いが遺伝するようなおぞましい儀式に捧げる…そういうことを平気でやった…」

ミルチアとミスラは肩を組んで、足を引きずりながら歩く。荒い息。汗とドロのにおい。尿は置いといて。

「私の母も、母の母も、そのまた母も…皆生まれながらにして呪われてきたんだ」
「じゃぁ…その心臓は…」
「ずっとおとなしくしてたんだがな…子供だましのトラップを喰って飛び起きてしまったらしい…」
「……。」

ひょこひょこと襲ってくるモンスターを張り倒す。2人で話しながらだと、痛みや吐き気もずいぶんごまかせた。

「断ち切らなければならないんだ…だから少しでも年代の古い遺跡を見つけたらすぐにでも飛び込んでいった…ヒントが少なくてな…我々の祖先の…」
「……。」
「そんな時一人の商人に声をかけられた…興味深い文明がある、その文明は処女の心臓に種を植え付け、その少女が将来に産むであろう子供たちのエネルギーを吸って魔法の花を栽培したという…」
「ちょっとだけ…似てるかな」
「ああ…」
「ソレが…」
「ここだ」

眼前に広がる、黒い鉱石の遺跡。深いヒダが織り込まれ、まさしく、毒々しい魔界の花を思わせる。

7層文明、第2層。

「正確には2.5層だ。3層からしかこれん」
「ああ、そうなのか…」
「お前に意味があるかどうか分からんが…」
「ん?」
「ここはな、迷うぞ」
「なにが?」

ミルチアはかがみこんで、地面の鉱石をコツコツやる。

「全部麻薬だ」
「な…」
「いやらしい夢とか見る」
「なな…」
「正直お前も夢なんじゃないかと思ってる」
「な、なにいってんだよ」

よく見れば、女性の裸像がそこかしこにある。どれもこれも、股間に花が咲いて、造ったやつの頭の具合がうかがいしれる。なんかベタベタしてるし。

「と、ところでさ」
「なんだ…」
「ヒントはあったのこの遺跡」
「え?」
「ヒント」
「よく…きこえない」

ミルチアの顔が近づく。妙にあだっぽいくちびる。少し焦げ茶の混じった髪が、ほっぺたに張付いている。

「葉っぱ…」
「ちょ…ミルチア?」
「この葉っぱをかじってないと駄目なんだ…お前は大丈夫か…?」
「いや、いまさら…」

少女が口を開けて舌をだし、だ液でくちゃくちゃになった緑色の葉っぱを見せる。どうみても乙女のやることではないのだが、偏頭痛でよどんだ脳に、ハッカ系の息は心地よい。

襲ってきたモンスターをミルチアが叩き潰す。2人は遺跡の中へ、光はない。
ないのだが、不思議なことに、お互いの身体だけが鮮明に浮かび上がっていた。



「シャマニ…商人は私にキャラバンの護衛を依頼した。いや、私の主人にだな…順番が逆になってしまうが…」
「うん…」
「歌姫リリィ、滅びた国の王女でな…あの子は、流れ者の私を拾い、命を助けてくれた…。不思議な歌を歌うんだ…私の心臓も彼女の声のおかげで今日までもったといってもいい…あぐ…」
「だ、大丈夫か?」
「…ちが…これはお前が…」

彼女が抑えているのは、股間。

「あ…その…ごめん」
「と、とにかく!リリィは私なんかのためにキャラバンに同行することに決めたんだ…おい、いやらしい顔をするな!いい話なんだぞ!!」

歌姫リリィはミルチアの忠節を知っている。ミルチアが自分を置いては遺跡に向かわないだろうということ。それゆえ彼女は、自分には直接利益のないこの遺跡に、自ら望んでおもむいたように振舞ったのだ。
キャラバン隊と分かれた一行は遺跡内遺跡に到着。魔物に襲われ、ミルチアは葉っぱを吐きだしてしまい、幻覚の霧の中第3層まで迷いでてしまった。そのまま、彼女いわく子供だましのトラップを踏んで呪いが発動、そこをティコネットが見つけたのだ。



「ついたぞ」

一面の、花畑。

「ここは…」

光が部屋を包んでいた。色とりどりの花弁、蔓草。中でも目を引くのは、赤。

「魔物を喰ってるんだ…いいかミスラ」
「ん?」
「コレから襲ってくるヤツ…ためらわずに吹き飛ばせ」
「え…?」

巨大な影法師が広がる。ミルチアがミスラを弾かなければ、2人して飲まれていただろう、蜜の塊。

「な…なんだこれ…」

脳を貫く甘いにおい、見る間に、服が溶けていく。もうもうと上がる白い煙、床も壁も、まとめて溶けているのだ。

(やばい系の煙か…これ)

ミルチアを探して周囲を見回す、煙の中には無数の影、囲まれていた。

(こいつら…!!)

裸像。

無数に林立していた女の裸像が、意思を宿したように動いている。それも皆、明確な殺意をもって。
ミスラは息を呑む。自分を殺しにくる裸像の顔が、皆ミルチアのソレだったからだ。

(そういうことか…!)

身体はまだ思うように動かない。一撃受け、二撃受け、三撃目をつかんで反撃。金属音のなる間接を軋ませながらふりかぶり、集団を弾き飛ばす。
幻覚か、現実か、裸像の肌は肉のように柔らかく、そのにおいは、とろけたミルクのように甘い。

「ミルチア無事か!!」

際限のない暴力の時間。モナメテオの言葉が頭をよぎる。確かにここはアリの巣。密にたかる群れ群れ群れ…

「!?」

その時、肌色の塊から一つの影が躍りでて、手刀でもってミスラのわき腹を貫いた。血しぶきが、美しい裸身を朱に染める。

「この…」

ミスラは右腕を振り上げる。逃がすつもりはない。左手は自身を貫く狂気の腕をがっちり掴み、満身の力でもって殺戮破壊者の…



もにゅもん。



おっぱいをもんだ。

「うひゃぁぁあ!!」
「オレだってミルチア…」
「ミ…ミスラか…」

それからは一方的だった。協力したタッグに、裸像の群れはスナック菓子のように飛び散り、幻惑の花は根こそぎ踏みつぶされた。ああ無残。

煙が晴れ、空間の粒子が安定し始めた頃、部屋の中心にはぐったりとした2人の姿が残るだけであった。

「無事か…ミルチア…」
「ぅぅ…ちょっと…疲れたかな…」
「うん…」
「武具が溶けてしまったな…こんな攻撃は知らなかった、スマン…」
「肉以外はいらないってことか…ヤな花だな」
「……ミスラ?」
「ん?」
「…やはりお前は幻覚にかからなかったんだな。こっちは大変だったんだぞ、大量のお前が…」
「いや、かかってたよ…っていうか幻覚とはちょっと違う感じだったな。ミルチアがいっぱいだった」
「だってお前…じゃぁなんで私が私だとわかった?」
「それはほら…その…」
「ん?」
「あいつら皆甘ったるいにおいだったからその…」
「その…?」
「……。」
「……。」
「……。」
「…おい」
「へ?」



「私がオシッコくさいっていいたいのかお前は!!!!!」



「違う違う違う違う!!!…いや、そうだけどその…まった!落ち着いて…その」
「なんだ…」
「いやその…なんかで隠したほうが…」

仁王立ちのミルチアは、素っ裸。

「う…うるさいなぁ…!一回見たんだろ全部…!」
「そうだけど…ほら…」
「……まぁいい」
「ん?」
「おあいこにしてやる」
「なにが?」

ミルチアの、艶々した膝頭が地面につく。強靭な戦闘力からは想像できないほどに白く、長い指が、地面をする。白刃のような爪はミスラの血を吸ってなお美しい。その爪が、傷跡を探すようにミスラのわき腹に触れる。

「私はな」
「うん」
「お前なら死んでも大丈夫だろうと思って、一切手加減しなかった。楽しかったぞ、200回くらいお前を殺してやった。うん、だからもう殺さないでおいてやる」
「うおーい…」
「ふふ…」
「何がおかしいのさ」
「おかしいよ…すごく」
「ミルチア…」
「まだ傷…残ってる…」
「ん?どこ…」
「見えない?」
「残ってないよ」
「ホラ…これ」
「え?」


ちゅぷ…


その瞬間だけは、ミスラを縛り上げている魔力の枷が全部止まって、単純に肌を走る少女の舌だけを感じることができた。


・・・・・・。



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