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「あぐ…テンネさん」
「ふふ、好きなようにだしてくださいねミスラ君」
びゅぐ…ぎゅる、びゅ
たゆんたゆんのおっぱいに、直接手伝われるように精液がこぼれでる。
ぐったりと、なまっちろい美女や少女の死屍累々。全員が全員のぼせきり、だらしなく筋を弛緩させ、一部貞操を頑なに固辞していたフラミア・ラミアミアなどもいつの間にか犯しぬかれて失禁している。
そんな肉欲の泥沼の中で休息する少女達に比べ、ミスラの頭は晴れやかだった。
「分かりますかミスラ君」
「え…?」
「力が調和をとりもどしつつあります。クリステスラを通じてあなたの中に宿った諸々の魂が、この子達の中に帰ったのです。本来あるべき場所、随分と待たせてしまった……私が不甲斐ないばかりに」
「テンネさん…?」
「アナタには知らなければならないことがたくさんあるのよミスラ君。ありすぎてありすぎて、どこから話していいかわからないくらい…この世界のこと、アナタのこと」
「オレの…?」
「ここからでたらきっと話しますね。ここにいるみんなが知らなければならないこと、私たちの出会いは偶然なんかじゃないのよ」
「……。」
「ごめんなさい、いまはまだやるべきことがありますね。――君、これだけは覚えておいて。私達の敗北の唯一の条件はあなたを失うこと、アナタを失うことがあったら、他の誰が生き残っても何の意味もないの」
「テンネさん…?アナタは一体…」
「全ては…ようやく結実の陽の目を見た果実のようなものなのね」
突然の落涙。これまで何事にも動じる気配のなかった天眼の軍師が、堰を切ったように涙を流す。
その手は頼りなげに振るえ、行方をくらました我が子を探す母のよう。ミスラはその手を掴み返すと、今はもう物を写さぬ涙の出所を、しっかりと見つめ返す。
ミスラの心は平常をとり戻していた。
もう、これまでのような楽園モードのちんこを勃てるだけがとりえの絞ったら精子がでるスポンジみたいなアホではないのだ。
「テンネさん、よく分からないけどオレ……大丈夫だよ、死んだりなんかしない。そりゃ、こんだけ迷惑かけたけど…だからこそ、これ以上皆にしんどい思いはさせない」
「……あら」
「死んだりなんかしないよ、もちろん皆だってそうだ、誰一人、テンネさんが失うことなんてない」
「……ふふ、ホントのミスラ君は頼りになるんですね」
しばしの抱擁、体温が、ゆっくりと互いに伝わる。
人のありがたみ、温かみ。ミスラは悔恨する。
まったく自分はどうかしていた、女の子を気持ちが良くて都合がいいだけの便利なお人形さんとでも思ったのか、それがまたわけもわからずチヤホヤされるから調子に乗ってえっちらおっちら。
これでは祖国にいた頃と変わらない。やさぐれて開き直って、いや、ヘタしたらもっと悪い。
蹂躙暴虐、穴と見るやありうべからざる異形の肉欲を全て吐きだし、突きだし、へらへら笑って、こんなもの邪教の偶像紳そのものではないか。精液雑巾ではないか。
むにもん。
「うぐ」
だがそこはミスラ、いくら冷静になってみても元々がたいして中身の詰まってないエロガキである。
周囲ではなぎ倒すように犯しぬいた少女達が湯気を噴いており、視界はたゆんたゆんのおっぱいに閉ざされており、いいにおいがしており、えぐったらしい精液のにおいが充満しており……
「あら?」
「あ、ご、ぁ、ちが、…ごめんなさい」
懲りないちんこが顔上げる。
「ふふ、そうですね、皆が起きないうちに…もう一回だけなら、ね?」
「テンネさん!オレはもう…!!!」
ちなみに魔族の長はもうその辺まできている。
・・・・・・。
「エルサ!ザラク!トロピア!ナキリコ!!」
戦場に一片の妖精現れリ。
土偶の魔人をひき潰したモグラ戦車から、颯爽と飛びだしたるは美しき四肢の人影。
羽のように透明な肌を備え、それ自体最上の価値をもつ金糸の束がキラキラと宙を舞う。白銀の切っ先は百にも別れて空を切り、あらゆる存在がその美しさに見惚れながら命を失う。
宝剣奪還作戦責任者、エルフ騎士エルサ、遅れに遅れた責任を果たさんと、そこまで殺さんでもいいのにというくらい土偶の群れを吹き飛ばす。
「無事かティコ!ヨフネ!!」
「エルサ…」
「エルサはーん、ウチもう眠…くー」
「こ、コラ、ヨフネ…あんっ!何を枕にしてるんだ…!!」
安堵するのはまだ早い。ヒザを折るミルチア、エルエンに、弱いものを見つけた土偶がいじめよういじめようと鬱憤晴らしに襲い掛かる、その横から
「くたばるがいいネ!!」
「ミスラちゃーん、どこー?」
ずっこーん
ザラク・ニーの神の八つ当たりみたいな膝蹴りと、トロピア・ストランテの後先考えないモグラ戦車の全弾発射が、土偶の津波を砂場に変える。足場がぶっ壊れるとか関係ない、全然関係ない。人間パワーの絨毯爆撃。
「うはー、なんですかありゃぁ……」
形勢絶対有利と見るやシャマニがノコノコ、モナとクリスは相手もせずに封印解除を再開する。
「…痛っ!!」
「クリス…!!」
クリスが頭を抑えてうずくまる。割れたこめかみから流れた血が、一瞬にして少女の髪を朱に染める。
「クリスさん…!大丈夫ですか?」
「ナキリコ!!まったくお主がおらんことがどれほど辛かったか!!!」
天然の、エロス大好き僧侶、ナキリコ・ニルバナ。彼女の容姿を形容するなら、その性格をまったく逆に反転して形容すればよい。すなわち、決してオナニーばっかりふけってシーツを汚したりなんかしない淑女の格好。
ドクロメイスでちょこっと殴ればあら不思議、疲労困憊の大魔術師並びに伝説の宝剣少女、そんなもん、まるで何事もなかったかのように全回復である。
「あそこの騎士さんも味方でしょうか…?回復したほうが…」
「おうおう頼むぞナキリコ!!さぁクリス!ガリガリゆくぞ!!!」
「……うん!」
古の大魔術師モナメテオ。ミスラのちんこなんかに気をとられて膨大な魔力を無駄に費やしたが、今その封印を解いて真の力を発揮する……
本来の彼女の姿、異形、キツネ耳。しっぽ。×9。
「ぬはははは!!!なんじゃなんじゃこんな封印、クソガキの初等教育じゃ!!」
莫大な魔力の泉が、遥か地表へと続く大空洞の、スミからスミを照らしだす。小さな日輪の誕生、そんなことするから、見なくてもいいものを見ることになる。
轟音。爆音。炸裂音。
頭上を見上げた少女はあまさず、事体の理解に永遠とも思える数瞬を費やす。その幅を広げたのは、恐怖。エルフが叫んだ。
「全員フルパワーで撃ち落せ!次のことなど考えるな!!!」
自由落下する魔物の雨100%、土砂降り。
魔族の軍が、進撃を開始した。目標は宝剣、クリステスラ。
・・・・・・。
「あ、雨。忘れてた」
「え?ちょ、テンネさんそんなに締めたら…」
びゅぎゅるびゅる。
「ごめんなさいねミスラ君。あれ?あれ?ぱんつぱんつ」
天才軍師のあわてよう。頭をぶつけて転げ周り、運悪く足をほりだしていた一号を踏みつぶす。
「ふおぅああぁああ」
「あっ、あっ、ごめんなさいね、ちがうわ、皆起きて、戦闘、戦闘態勢……」
オタオタする軍師は、なんかもう投げたのか、天を仰いだ。
その瞬間、戦車の結界並びに装甲を紙きれのように引きちぎる魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物
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「わあぁっぁぁぁああ!!!!」
「な、な、なんでいこりゃぁああ!!!」
「ロト!!ムナク!!起きて、起っきろぉお!!!」
「ふぇ?ふぇ!!?」
「お嬢様!!こちらに!!!」
「ふぁっぁぁタツカゲぇぇぇええ!!!!」
戦々恐々。
エモノをもっていない戦闘要員、逃げ惑う非戦闘員、魔術師が一番中途半端で、状況がわけわかめだからうかつに魔法もぶっ放せない。
「きゃぅ!!」
ミスラの視界に、コカがまろぶのが見えた。彼女は歩けない。
「コカ!!!」
「みすらさーん!!」
あからさまに弱いものから狙うふざけた魔物、ミスラは飛びつき、少女を抱き様跳ね飛ばされる。追撃は、ミスラに走馬灯の回転時間すら与えない、その時、皮膚にはっついたにかわを無理矢理はがす時の音がして、誰かが叫んだ。
「結界が破れるぞ!!」
ミスラははっしとコカを抱く。誰かに首根っこを掴まれてわけもわからず放りだされる。
衝撃の後、顔を上げたミスラは遺跡の地面に倒れていて、目の前には穴だらけのちっぽけな戦車があった。
「ムナク!ベノ!!足元崩して!ドラス!6層まで滑降準備!!ロトはその他の全員格納して反撃そなえて!!キャラバンは放棄!!!」
「師匠!格納の時間なんてありませんよ!!」
雨は容赦なく降り注ぎ、雨は容赦なく積もっていく。ムナクとベノは魔物の穿った穴を利用して、地面を下に下にと掘り進める。
簡単に7層文明などといってみても、文明と文明を区切る壁は厚いし硬い。そのうえ魔力で補強してあるときては、すぐにハイ穴開きましたとはいかない。
ドラス・ビーの肩に、巨大な蟲が張りついている。ロト・ハーヴェルが、ミスラとポナトットにそうしたように、一人一人を本に綴じる。明らかに、その作業が一番難航していた。
「ドラス飛んで!!」
ムナクとベノが任務を達成したのはその時だった。黒い穴から流れ込んでくる冷たい風。だがミスラはテンネの口にした言葉の意味が理解できない。
――アナタだけでもいって、早く!!――
おかしい、なにもかも勘定が合わない。ドラスがすぐにミスラに寄って、自分とくるようにうながす。その意味が分からない。自分が行って、他のみんなが残るならそれはどういうことだ。
雨は降る。雨はまだ降り積もる。
「大丈夫すぐに合流します、ミスラ君!大丈夫だから……」
その声を雨が掻き消す。聞こえない。なにいってるか分からない。
ミスラはなんだか無性に腹が立ち、煮えたぎる臓腑の煮汁を吹きこぼすがごとく天に向かって叫び倒す。
「うっせぇぇっぇえええええええええええええええええええ!!!!!」
その声に呼応するように、地から湧きでた火柱が、魔物の雨を焼いていく。信じられないことに、あれほど騒々しかった空模様に、晴れ間ができた。
「ミスラー、生きてるかー?」
「え…ろ、ローキス!!!」
悠然と、土煙の中から、今しがた巨大な火柱をぶち上げた戦士が姿を現す。
ローキス・マルス。大雑把な戦闘ならザクロ団中、頭2・3抜けてNO1の人間戦車。
悠然としすぎて、この状況下であくびをかます、その心強さ。
「よしよし。お前を殺して帰ったら私がザクロに殺される」
「ローキス…ってことはみんなも無事か!!」
「あー生きてるよ、しかしなんだこの状況は……」
なるほど無理もない。30何人だかよくわかんないくらいの美女少女が、素っ裸で汁まみれなわけだから。ヒスカがヒョコヒョコやってきてハイタッチ、足はいつの間にやら治ったようだ。
「あーとりあえず、そっち、むこーな。壁に穴があいてるから、そこからなら地表にいけるし雨風もしのげる」
「皆聞いたね!?走って!!」
全員ダッシュ。
ずーっと抱きしめていたコカが、ローキスにありがとーをいい、調子が狂ったのか、少し照れた軍神は鼻をかきながら2撃目の力を溜める。緩やかに緩やかに。そういえば彼女がカサをさしているところなど、ミスラは見たことがない。
・・・・・・。
壁の横穴は意外に広かったが、魔物の津波は止まらない。しんがりではムナク・ジャジャが阿修羅のごとく、流れ込んでくる魔物の群れを吹き飛ばしている。
「ムリだよテンネ、こっち落盤してら」
「そう、ありがとうねドラス」
一団の先頭ではテンネが深く考え込んでいる。こんな師匠を見るのは初めてなのか、弟子のクロルはどこかそわそわ。ミスラはミスラで、悠長な沈黙に我慢ならない。
「またあの雨の中を抜けていくしかないってことですか?」
「いいえミスラ君。まだ何個か手はうってあるのよ」
「え?」
「条件が定められた時点で全ての可能性は収束するのねミスラ君。どんなに頭のいい人だって、無から有を生み出すことはできないの。だから私のような人間は、そこら中に種と仕掛けを隠しておくのよ、条件を増やすために」
「どういうこと?」
「丁度いい例がここにいますね。シェロ、お願いします」
「はいはーい」
相も変わらずテンションの高い奇術師が前にでる。
「手札その1ですね。彼女は空間魔法の心得があります。もう一回見てますね。詠唱に少し時間がかかるからさっきは使えませんでしたけど、ミスラ君はそれでモナさん達と合流してもらいます」
「宝剣ですね…?」
「そう、クリステスラが入力装置ならメルズヘルズは出力装置、性格は真逆だけど相性はいいのよねあの子達…ああ違うまた脱線したね」
軍師はコリコリとほほを掻きながら壁やら床やらを探りだす。もちろんミスラにその意味は分からない。
「手札その2。この遺跡は私が造ったといったら、ミスラ君は信じる?」
「はい?」
「人間が年月に無力だとは限らないのね。アナタ達から見たら、手品のように思えるかもしれないけれど、準備する時間は本当に腐るほどあったの。私の桂馬は横に飛べるのよ」
テンネの細い手首が土壁の中に飲まれていく。それはまごうことなきイリュージョン。壁が両横にズルズル開いて、中から見覚えのある姿がでてきた。
「おやぁ?こんな所でなにをやっとるのですかなミスラ殿?」
「ゾ…ゾゾルド?」
ミスラは見逃さなかったが、テンネは確かにビクッてなった。予期していなかったようだ。
・・・・・・。
「わ、わ、わ、こここ、これはすごい!すごいです!!」
素っ裸な娘達の群れの中で、逆に違和感がある着衣の学者、ガニメロが走り回る。マユーが後を追っかける。
扉の先は別世界だった。
先鋭化された魔法文明の所産。四角く切り抜かれた通路の壁は、僅かな凸凹も存在しないほど滑らかで、金属質のコーティングが施されている。
そこを抜けると円筒状の広い空間にでて、見たこともない真四角の術式が、空中にいくつも散乱していた。
「私達は大丈夫だといったでしょうミスラ君?」
「ええと、これは…」
「それでもローキスが着てくれなかったら少し危なかったですけどね…やだもう、ミスラ君がテクニシャンだから……」
「いやいやいや…」
もはやミスラは、ローキス・マルスのことを知り合いのように話すテンネを不思議に思ったりはしなかった。分からないことは後でまとめて聞けばいい、一つ確実なのは、彼女が少年少女に向ける愛は何の打算もない真摯なものだということ。
冷静に考えれば、さっき初めて会ったばっかりで、何のつながりもあるはずがない人なのだ。それがいまや、生まれてからずっと自分を見守り続けてくれた、そんな人に感じられる。
「さあ正念場ですね。シェロ、すぐにミスラ君を遺跡に送る準備を。他の皆は装備を整えて、武器や防具はそっちの部屋の奥にいっぱい封印してあるから……」
一息ついている暇はない。外では今なお魔物の雨が降り続き、モナやエルサは最も降雨が集中する場所で戦っているはずなのだから。
「じゃあお願いしますシェロソピさん」
「はいはいまかせてー、なんだか妙に素直な子になったね、飲尿狂いのミスラ君。うりうり」
「あ…あの時はちょっとおかしくなってて……」
ちなみにミスラは最低限の腰巻を巻いた姿である。羞恥心も取戻しつつある今、自分がなぎ倒すように犯してきた美女少女のことを考えると滅入る。ひたすら滅入る。
「ミ…ミスラさん」
「キルソロ…」
シェロソピがミスラの周囲に光の陣を展開していく中、おずおずと行方をくらませていた悪魔っ娘が姿を現す。キルソロとドルキデ。いつも中心にしゃしゃりでるゾゾルドは、なにやらテンネと会談中だった。
「どうした?泣きそうな顔して」
「あ、あの…私……その…」
この娘達とであったのもつい数日前。そんな短期間で少女達の全てを理解したとは到底思わないが、それにしても様子がおかしいことくらいはミスラにも分かる。なんとなくその理由も。
「私ら、ミスラ様の役に立とうと思っていろいろ準備してたんですケドー」
「うん」
「この通りなんの収穫もなくてお手上げデス」
「そっか、でもがんばってくれたんだろキルソロ」
ミスラは短めにそろえられたキルソロの頭に手を置く。卵からでてきたヒナみたいに震えているのが分かる。
「ちがうの……」
「ん?」
「そんなんじゃないの私…私……」
こらえていた最後の線がふつりと切れる。零れ落ちた涙はさえぎるものもなく地面へ。
「私逃げてきたんです……私、私…怖くないって思ってたのに…絶対ミスラさんを守るんだって思ってたのに……相手がドラディエラ様だって思ったら…何にも考えられなくなって……」
「キル……」
「ミスラ様、三貴神ドラディエラはキルソロの信仰対象だったデス。魔族特有の精神的な呪縛は解けても、コレばっかりはそう簡単に抜けるものじゃないんで」
「そっか……」
泣きじゃくるキルソロは、左右に頭を振りながら、必死で自らの言葉を探しているように見える。ドルキデはこういう時、意外なまでに頼もしい。友を労わるその眼には、妹を支える姉のような心強さと、自分達だけで解決できなかったことへの申し訳なさが汲みとれる。
そんなこと気に病むことはないのに。どうにもこの3人娘は、自分達の背が伸びていて当然だと考えるフシがある。そういう態度は、迷惑の台風みたいなミスラからしてみれば、ほほえましくもありうらやましい。
「おいでキルソロ」
「ミスラ…さん?」
「キルが心配してるようなことなんて何も起きないよ。だからキルが自分を責める必要なんてどこにもない」
「ミスラさん…」
細い体躯が、ミスラの腕の中に納まる。こんな時になんだが、不思議と穏やかな気持ちになる。これから先の未来、こんな少女を悲しませる結果が起こりえるなど、ミスラには思えなかった。
「ドルキデもおいで」
「ミスラ様ー……」
ドルキデも、張っていた力が抜けたようにミスラにもたれかかる。なんてことはない、この少女も不安だったのだ。よく見ればちょっと泣いているし。
「ミスラくーん、用意できたよー」
「あ、はい。お願いしますシェロソピさん」
ものわかりのいい2人の悪魔っ子は、未練を残しつつもきりりと立ち振る舞う。もう少し駄々をこねてくれてもいいのに、そう思いながらミスラは、戦場に向かった。
・・・・・・。
「り…竜じゃないかアレ!?」
「トロピア!!全段発射じゃ祭壇に落とすな!!!」
怒涛の勢いで積もり続ける肉の雨。落ちてきた魔物は自重で潰れ、トドメとばかりに追加の魔物が踏みつぶす。
あたりはすでに魔物の海。うねり波うち、僅かに残った陸地を飲み込まんとしている。
ザクロ団並びに百合騎士団にとって幸運だったのは、遺跡の守護土偶がなんだか魔物の雨を攻撃しだしたこと。少女達には本当にありがたい雨避けである。
「塔の根っこだ!倒そうとしてるぞ!!!」
「おのれザコが……!!」
モナメテオが、右腕で封印を解きながらもう片腕で印を結ぶ。か弱い腕に浮かび上がる血管。血色の呪文が白い肌を焼き尽くし、見る間に奇妙な鼓動を宿す。
現れいでたるは見るからに賢そうな赤い犬、14匹。
わんわかわんわか、拍子抜けするほどかわいい声でがなりながら急滑降、魔物の肉を縦横無尽に引きちぎる。
「ゆくぞエルサ!!」
「応!!」
モナメテオは犬を放った腕を交差、封印を解く腕を変えると、自由になった右手で素早く術式を描きだす。刹那の閃光。巨大な雷撃がエルフ騎士のエルサを襲う。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
エルサの剣は自身の数倍もある雷撃を湛えたまま、魔物の海を文字通り集約されたエネルギーで蒸発させる。むせ返るような血の煙。その中で、黄金の髪は美しさを損なわない。
「あ〜ん、弾切れー!!!」
「チッ!私もだ…おいヨフネ!!って、なんで寝てるんだお前は…!!!」
「ふにゃーん?…なんですのーん?」
ものすごい勢いで、現代風にいうなら開発人がヤケを起こしたシューティングゲームみたいに敵の雨を叩き落してきたトロピア・ストランテWITHモグラ戦車であったが、物理的にリタイア。
要所要所で味方をサポートしていたティコネットも同様である。
役立たず1号2号発生。と、思いきや、殿堂入りのシャマニはどうでもいいとして、シラカワ・ヨフネが先にくたばっている。
元々戦闘には向いてない上、ここのところ彼女には珍しく起きっ放し、鼓膜をつんざく爆裂音など重たいまぶたの前ではへたくそな子守唄に過ぎない。
「起きろヨフネ!弾だ!!弾の予備だ!!!夢にしまってあるだろ!!おーきーろーー!!!」
「ヨフネちゃーん!!」
「あふん…なんやのぉー…」
完全に寝ぼけ眼の放浪歌人。彼女の夢は現実の品物をしまいこめる便利なアイテムボックスであり、当然弾薬予備も積んであるのだ。が、和装の袖口からポロっと落ちたのは、よりにもよって爆発2秒前の時限式爆弾である。
「バ…バ…、バカぁっぁあああぁぁ!!!!!!!!」
「きゃーーんっ!!!!!!」
「ふぇーん…?」
ちゅどーん
……そんな馬鹿げた爆発を背に、ザラク・ニーは人生最大のピンチを迎えていた。
ステゴロのタイマンならザクロ団NO1。ムラのあるカリンザや、大雑把なローキス・マルスに比べれば安定感もあり、常に高いレベルで結果をたたきだすその冷静さは、普段の彼女のおちゃらけた側面を見ている者に驚きをもたらす。
生粋のバトルマシン。
そんな彼女が、汗がほほを伝う感覚を戦闘中に感じたのは久しぶりのことだった。普段なら要らない情報は自動的にシャットアウトできるというのに、緊張しているのだ。
「名乗れるなら聞いてやるネ化け物…」
「ガウ…ガウガウ……」
「なるほど、似合ってないけどいい名ネ…」
彼女が対峙しているのは通称黄金ハンドと呼ばれる伝説の魔物で、強い武道家の腕ばっかり食べるとか何とかその筋ではわりと有名な存在である。多分。
彼女の師匠スジの、たしか兄嫁の弟とかその辺が被害にあっていて、ザラクとしてみても因縁浅からぬ魔物。まさかこんなところで闘うハメになるとは、まったく運命というものは分からない。
「最初から全力でいくネ!!!」
少女の足が地面を蹴る。爆音と共に立ち上る砂煙。不規則に刻みつけられていく足跡はなるほど、常人が目で追うにはあまりにも早すぎる。
「ガウ……ガウガウ……ガウー!!!」
何たることか、確実に虚を着いたと思われたザラクのステップは完全に見切られ、黄金ハンドは絶妙なタイミングでカウンターのチョッピングライトをぶちかます。すでにコブシを打ちだしていたザラクにそれを回避する手段などない、ないのだが――
「承知の上ネ!!」
なんと彼女はステップの時に打ちだしておいた己の魔法をその身に受け、強引に身体をねじったのだ。そう、彼女は元魔法使い。ずーっと前に書いてある。
今度は全ての力をカウンターにかけていた黄金ハンドが体勢を立ち直せない。必殺の間合いである。
「くたばるがいいネ化け物!奥義地獄極楽悶絶阿羅漢無敵撃滅羅刹破壊ショーウ!!」
そんな名前じゃなければもっと早く撃てるのに、武道家少女の最終奥義は散っていった全ての武道家達の思いを乗せて魔物の後頭部に突き刺さる――とみせかけて
「わぁぁっぁぁああああああっっっ!!!!!!!!!」
運悪くワープしてきたミスラのはなっぱしらをへし折ったのである。
・・・・・・。
「ミスラ!!」
「ミスラ!」
「ミスラっ!」
「ミスラちゃん!!」
「ミスラ…」
「ふぇー?」
「あらら」
「ミ…ミスラ君」
「ミスラさん!」
「ミスラ!!!」
「痛ってぇ……」
モナ、ティコ、ヨフネ、シャマニ、ミルチア、エルエン
エルサ、ザラク、トロピア、ナキリコ
10人の美女少女が一斉に手を止めて声をあげる。正直どんだけ畳み掛けても速攻でぶち殺されるわかき消されるわで気が滅入っていた魔物の雨は、スキありとばかりに塔の頂点に殺到、ズゴズゴと遺跡をぶち抜いていく。
「あ、こ、こら皆!手を止めるな!!」
エルフ騎士はわずかに高鳴る胸を押さえて体勢を立て直す。一同すぐに頭の切り替え、それがまあ、できる娘とできない娘。
「うぁ…!やば…」
できない方のミルチアは変身が解けて素っ裸。元々とっくに限界は越えていて、最初の爆発から得た推進力だけで無理矢理飛んでいたからヘナヘナである。当然のように襲い掛かる魔物の質量、ぎゅうぎゅう詰め、避ける場所などありゃしない。そんな塊を
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
ミスラが渾身の力でもって蹴り上げる。もう千切っては投げ千切っては投げ。明らかにザクロ団メンバーの全力よりは劣っているが彼なりにがんばっている。
「無事かミルチア!?」
「ミ……ミスラ…」
こんな状況ではあるのだが、なんなのだろうか、どうでもよくなったのだろうか。ミルチアの心に打算が充満、自分の力で立つことくらいはできるのに、ミスラの腕の中にしなだれ込んで、かわいく見える角度でミスラを見つめる。
すぐ横に魔物が突っこんできているのに、ちょっとくらいならおっぱいを触られてもいいかなとかなんとか、うながすように切なげな吐息を吹きかけるのだが、なんとミスラは恥ずかしそうに目をそらすのである。
「わ…悪い、その…いろいろ…オレもその、頭おかしくなってて…」
「え?…へ?」
ミルチアが事態を飲み込めないのも無理はない。彼女は終始テンションのおかしいミスラしか見ていないので、彼女の中ではミスラという人間は頭のおかしいものだという方向で固まりつつあったのだ。
おっぱいが無力。
その事実は、もしかしたらこれまでの戦闘で一番のダメージだったかもしれない。
「戻ったかのかミスラ!?」
「あ、ああティコ!!この通りだ」
背中越しの再開。もちろんその意味は、ティコネットにとって今のミスラが7日ぶりだということ。彼女はほんのわずかな確認で十分に満足し、すぐさま己の使命を果たしに戻る。
トロピアとザラクが飛んできて、とりあえずミスラに抱きついたり殴ったり。
エルサは遠くで微笑んだだけだが、明らかに活力をとり戻し、動きに力がみなぎっている。
「ミルチア…、すまないついでにもう少しだけ迷惑かける。ふんばってくれ」
「ぅえ?…ぁっ、…うん」
少しはなれたところでモジモジするエルエンにミルチアを預け、ミスラは雨を縫って祭壇へ。
その力強さ。ドーピングまみれでウハウハと浮ついた感じでなく、弱くとも、己の力を120パーセント出し切って困難に立ち向かう男の子らしさ。
初めて見るそんなミスラに、騎士2人は同時にため息を吐く。
「はふ…ぅ」
「あぅ…」
ミルチアのこうむった精神的ダメージはあっというまに回復。
客観的に見れば、ミスラの全力など超獣化ミルチアの寝返りで吹き飛ぶだろうに、恋する乙女の乙女フィルター通してみれば、ミスラの完璧超人できあがり。超うっとり。
ミルチアはもう、潤みに潤んだ股間をミスラに悟られなかったか気になって気になってもう、両手で頭を押さえながらうぁぁぁぁぁあああああああああってやりたくて仕方なかった。ていうか先にエルエンがやった。魔物が降ってきとるというに。
・・・・・・。
「ミスラ…そうか、テンネ殿は上手くやってくれたか」
「モナ…心配かけた」
「もう大丈夫なのじゃな?」
「これ以上どうやって迷惑かけるんだよ」
「ふふん、よしミスラ、生き残るぞ。ワシもいくつか思いだしたことがある。全ては茶番、なればこそこんなところでくたばっとるヒマなぞないのじゃ」
「ああ…オレも少しだけわかったことがあるよ、少しだけ」
モナメテオが諸手を振上げると、コレまで厳重に絡まりあっていた光の封印がヒラヒラとほつれていく。空間に光が溢れ、巨大な門が姿を現す。光は、門の向こう側から溢れている。これぞ遺跡の本体。
ミスラは手を振って喜ぶヨフネと、しずしずと頭をさげるナキリコに応え、うじうじと背中を向けて俯いている少女の前へ。そしていきなり抱きつく。
「きゃぅ!!」
「よし、もう勝手にでてくなよクリス」
「…あぅ…、…ぁぅ、…あ…ぅぐ」
「ん?」
「あるじ…!!!…ふぁ…ぅぅ」
少しバタついて、急に大人しくなり、うかがうように覗き見て、どっと泣きだす。
「あるじ……あるじ…ぃ……ふぇ…」
彼女のなりに、今は泣いてなんかいる場合でなく、ここで泣いたらミスラにまた迷惑がかかると思っているのだが止まらない。下唇を噛締めて変な顔になり、そんな顔を見せはすまいと主人の胸に顔を埋める。
「クリス、オレはホラ、無事だから」
「…ふぇぇ…あゅ…あぎゅ、あゆじ…ぅぅぅぅ」
「お前はなにも悪いことしてないから」
「だって…だって…!わた、私のせいで…ひぐ、あるじが死にそうになって…ふぇ」
「大丈夫だから」
「私のせいで…私のせいでみんなが…、私なんかがいるからみんなが…魔族に狙われて!!私が…!!」
それ以上は言わせなかった。
「お前がいるから今のみんながあるんだ。お前に自分を卑下されたら、オレがどうしていいかわかんないよ」
クリスの涙が止まった。キスされたことがわからなかったらしい、信じられないのか、ビックリしたのか。
「悪いのは全部魔族さ、だからぶっ倒してやろうぜ」
「……して」
「ん?」
「もう一回して…あるじ」
「ば…バカ!!みんなが見てるだろ!!」
それはもう、じろじろにやにや。
「アチャー、こりゃまたお熱いですねー」
まあ確かに、女商人が余計な口を挟まなければそのままおっぱじめかねない勢いだったので、彼女の行動は正解だろう。モナメテオはシャマニにのっかり、アゴをしゃくってミスラをうながす。
「頼むぞミスラよ、できれば手早くの」
「ああ」
「あのー、アタシも着いてっていいですかね?」
「あーゆけゆけ、勝手にせよ、ここに残られても邪魔なだけじゃ」
門が開く。
クリスはもう泣かないぞといわんばかりに、ローブの袖口でぎゅぅぎゅぅと目をこする。
もちろん彼女も門の中へ臨むつもりである。当然のこと、もともと彼女がいなければなにもできないのがミスラなのだ。
そんな改まっての感謝もこめて、本当にさりげなくほほにキスをしたら、初めてされたみたいに飛び上がって目を見開き、あっという間に真っ赤になる。ミスラはそんな彼女をほほえましく思う。
光が漏れる。
門の向こうには、桜が舞い散っていた。
・・・・・・。
黄金猫商会の面々は少々忙しかった。
7層文明第7層、遺跡自体が地下に収まっているダンジョンだからといって、窮屈でせまっくるしいモノを想像してはいけない。
卑しくもそこは文明の跡地が積もったものであるからして、面積でいえば相当なもの。容積でいえばそれはもう、地面の中に小さな大陸が埋まっているようなものなのだ。
そんな空洞を、魔物肉が満たしていく。そこら中でできる滝、渦、波。厄介なのは、それらの肉が一応ミスラ達のいる遺跡を目指しているということ。完全に宝剣を視野に捕らえているのである。
クロガネ・テンネは魔物を打倒するための作戦を商会メンバーに説明。弟子のクロルは先刻の認識を180度ひっくり返されて混乱していた。
確かに慌てふためく師匠など見たことはない、だが、にもかかわらず、このあまりの用意周到さはなんだ。
彼女からしてみれば、その作戦は機転だとか発想の転換だとかで人を唸らせるものでは絶対なく、あらかじめ定められた、計画書どおりの予定の実行、そのものであった。
フェアじゃない、弟子がこの時師匠に学んだのは、あらかじめ仕組まれた勝負を仕掛けられる者の感じる恐怖。憤り。
こんな人間を相手にしたら、そもそも闘おうという気力すら起きまい。勝てるわけないのだから。
「今から我々は第7層と6層の境界を破壊します。それに成功すれば今降ってきているモンスターの8割は私達の遥か下方に落下してゆくことになります。本当はもっと早くに準備しておくべきだったのだけれどね、気持ちよすぎて…コホン」
文明の境界を支えているのは魔力を宿した基礎工事。その魔力さえシャットアウトすれば後は今いるモンスターの重みで勝手に崩壊が始まります。魔力の元栓は8つ。今から地図を配布しますから8班に分かれて……
クロルは気が狂いそうになる。
彼女の知る限り、テンネは偶然黄金猫商会に入り、黄金猫商会は偶然7層文明を目指し、そこにたまたま宝剣クリステスラが現れて、それに乗じた魔族の長が攻撃を仕掛けてきたのだ。そのはずなのだ。
「どうしましたクロル?師匠…ボクもうなにがなんだかわかりません、見たいな顔して」
「師匠…ボクもうなにがなんだかわかりません」
8つの班は素早く展開、班などといってみても、半分以上は一人である。
特にポナトット、つい先日まで狂気に身をやつしていた少女におつかいをまかせるなど、この師匠はいったい何を考えているのか。
「師匠…ヒントだけでもくださいって顔してるわね」
「師匠…ヒントだけでもください」
崩落が始まったら、自分の命は自分で守ること。ではお願いしますね皆さん。GO。
「こんなインチキが許されるなら、ボクら軍師は必要ないじゃないですか。ずるいですよこんなの、実は全部事前にそろえてあるからです、なんて……」
「あらあら」
「こんなの暴力です。絶対負けないじゃないですか」
「ふふふ…それは違うわねクロル」
「ふぇ?」
「私はね、この文明の数だけ失敗を繰返したの。文明が費やした年月だけ、敗北を重ねたのよ」
「師匠…?」
「だから1回くらいインチキしてもね?」
そういって、師匠は弟子の頭を撫でる。
・・・・・・。
「ようこそいらっしゃいましたミスラ様クリステスラ様」
「ようこそいらっしゃいましたー」
出迎えたのは、清楚な制服に身を包んだメイド達。
扉の向こうの空間は、全てが、全てが少しずつおかしかった。
灼熱の太陽光、触れれば砕けそうな、潤みのない砂。熱くもなく冷たくもなく、風もないのに麗らかな桜の花びらが舞い踊る。石畳はなぜか水を吸ったばかりのようで、その道は遠くにそびえる宮殿へ続く。
「はー、こりゃまた、金儲けとは無縁なところで……」
無数のメイドたちは、見事なまでにシャマニのことを相手にしていないのだが、女商人にとってそんなことはまったくお構いなし。その足取りはまったく警戒というものを知らなくて、この女の本質が、ミスラにはまた一段と分からなくなる。
ただ無警戒なのはミスラも同じ。本来なら名乗ってもいない人間に自分の名前を様づけで呼ばれたら、せめて緩んだ気持ちを引き締めるくらいのことはしてもいいのだが、なんというか、芸がない。
「ウチの娘達の方が、アクが強かったでしょう?」
前を歩いていたシャマニは、ミスラの心を読んだように振り返る。ミスラの腕にしがみついていたクリスがにわかに警戒、そういえば、今のところ彼女の所有権はシャマニのものということで話が進んでいるのだ。
「シャマニ、クリス貰ってもいいか?」
「はいー?あーあー、いいですよ別に。嬢ちゃんもそっちのほうがうれしいでしょ」
シャマニは振り返りもせず、足元の砂をビンに詰めようとしてメイドをあたふたさせている。なんだか規則違反らしい。
クリスは少しビックリしたようで、シャマニに対する考え方を改めているようだった。悪いヤツじゃないだろう?そうした眼をクリスに送ると、見透かされたことを恥じるように少し俯く。
あの黄金猫商会を束ねていたのだ。つまらない人間なわけがない。
してみるとこのシャマニという商人、自らの責任でぶっ潰れそうになっていた手間のかかる少女に、つきあってやることでその心の重圧を和らげてやったわけであるが、はたしてクリスにそのことが理解できているかどうか。
「こちらです」
メイドの中の、おそらく一番偉いであろう女性がお辞儀をし、宮殿の一角にある小部屋を示した。
なかはそう、5M四方の正方形、そのほとんどを柔らかなベッドが占めている。
「メル」
クリスがつぶやく。
ベッドの中央に、ものすごく険悪な顔をした少女が一人、わずかばかりの布キレを纏いながら、あぐらをかいている。炎のような赤い髪を、暴力的にミツアミにし、何をイライラしているのか終始足先をユラユラユラユラ。本を片手でめくりながら、千切るように髪の毛をいじくり倒す。
ペッ
と、初めミスラは何が起こったのかよく分からなかったのだが、少女は唾を吐いたのである。ベッドの上に。当たり前のように。
「どういう子なの……クリス?」
「……イジワル」
赤い少女は、クリスの言葉をかき消すように、読みかけの本を投げ捨てる。
けたたましい音をたてて、置いてあった水がめが割れた。
・・・・・・。
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