自作ラムネ製作記
ラムネと出逢ったのは、ある寒い日の事だった──
基本材料
・重曹 何かとシュワシュワ目立つ花形役者
・クエン酸 これが無ければ始まらない、酸味を加える二枚目
・粉糖 甘い言葉で食者を惑わすプレイボーイ
・片栗粉 土台を固める文字通り、縁の下の力持ち
・水 あ、ああ、うん。いたね。
10/6
材料が全て揃う。さあ、戦争の始まりだ!
私は調べた分量どおりに材料を混ぜ合わせ、神聖なる粉──裸夢音──の製作に取り掛かった。
「重曹(小1)、クエン酸(小1)、粉糖(片栗粉入り・大1)……」
大いなる野望達成の高揚感からか、何度も材料を反芻してしまう。
そして私は、神の領域に一歩踏み入った。
「水ゥ(微量)!!」
吹き上がる気泡、立ち込める酸気。
「完成、なのか……?」
誰にでもなく、私は問うた。
実にあっけないものだった。製作は一瞬で終わってしまったのだ。後は乾燥させるだけ、そう古文書には記してある。
「ふむ」
一つ頷いて、私は型が無い事に気がついた。そしてそのまま放置した。
──数時間後。
「遅い!」
ラムネはいまだ乾燥していなかった。それどころかべた付く。
「失敗、なのか……」
私は一口、それを口に含んだ。
「──!!」
襲ったのは、痛烈な酸味。そして、炭酸。
ラムネ特有の酸味に見え隠れする甘味や、粉っぽさはどこにも無かった。
私は失敗したのだ。
ここに罪の証として、生み出してしまった物体の近影を残す。
10/7
同じ轍を踏まないよう、今日は調合を変えてみた。
「重曹(小1)、クエン酸(小半)、粉糖(大1)、片栗粉……」
これで、理論的には神聖なる粉──裸夢音──が完成するはずだ。
後は、「水……!」混ぜる!
直接重曹に水が落ちなかったので、弾けはしなかった。
「クッ……!」
粘りが強い。さすがは片栗粉だ。なんのこれしき。
私は成功を信じ、混ぜ続けた。しかし圧倒的に水が足りていないのが明らかだったので、途中で追加した。
──数時間後。
「やはりべとついている……」
水の入れすぎだ。これは明日にでも改善できる。
「問題はべとついているのに粉っぽいというところだな」
味のバランスは絶妙と言えよう。もう少し酸味が強いほうが個人的には好みだが、これでも昨日と比べれば十分だ。
少し片栗粉を入れすぎたらしい。神の味に一歩、近づいた。
10/8
本日も作成したが、相変わらず水分量が多い。明日は変えてみようと思う。
味は究極に近づいた。
変わりばえのしない写真を載せても仕方がないので、今日は載せない。
10/9
今日こそは。
「重曹(小1)、クエン酸(極小3)、そして水一滴」
文献をあさり、作成手順を少々変えてみた。
これらを混ぜ合わせると、ぼろぼろとした粉状の物になる。
「粉糖(大1)」
水が足りない。さらにもう一滴。様子を見ながら追加するのが理想のようだ。
そう、これだ。これこそが神聖なる粉──裸夢音──だ!
ついに、ついに私は成し遂げたのだ。裸夢音──いや、ラムネと名づけよう──ラムネを造りえたのだ!
瞬間を閉じ込める魔箱──夏目良──の弾倉、フィルムケースの蓋を使い、整形を施した。
これが、これこそが神聖なる粉、ラムネだ!
味は、ここ数日で調整を行った。クエン酸をほんの少し少なくする事が重要だ。
そしてその比率は重曹:粉糖=1:4である事がわかった。
なお、わかっているとは思うが、乾燥は自然乾燥が好ましい。電子を当てる方法を取ると重曹が反応し、膨れ上がるからだ。
文献によれば一日放置が望ましいらしいが、私はこのまま食べるのもオススメである。
何事も作りたてが一番だからだ。
なお、粉糖を片栗粉とブドウ糖に置き換える事もできる。その場合、裸夢音が氷属性を纏うようだ。
ブドウ糖はなまくらでは切れない物質のため、粉末を入手するのが好ましい。
この実験結果が何かの足しになれば嬉しい。
続報があれば、私も続きを記すだろう。
ラムネにより、あなたの心が豊かにならんことを祈る。